……魔法の解釈、間違ってないか心配です。
2019/11/11追記:
誤字報告ありがとうございます。機能の使い方を理解しました。
とても便利な機能です。……というより、多くの人に指摘いただいた事を
今の今まで放置していたことが大変申し訳なく思います。
「お疲れ様。散々な帰郷になったわね」
第501統合戦闘航空団司令部で、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は
部下であり親友でもある坂本の帰還を冗談を交えて労った。
ブリタニアのドーバー海峡に作られたこの基地は欧州最前であり、
ネウロイ相手の出撃には事欠かない。
この程度の緊急出動は日常茶飯事だ。
「全くだ。だが、あの襲撃で宮藤の力量も確認できたからな。悪いことばかりでもなかったよ」
肩をすくめて笑う坂本に、ミーナもつられて笑みを返す。
意識を切り替えるように紅茶で口を湿らせた後、手元に用意された資料に目を落とした。
それは宮藤の経歴書だった。
生まれ、年齢、所属といった内容が羅列されており、固有魔法の項目に目が映る。
「治癒魔法もしくは身体強化、ね」
「ああ。最初はバルクホルンに近い能力かと思ったんだがな」
「違うの? 扶桑軍の調査班が間違えるとは思えないのだけど……」
「いや、そこは合っているのだと思う」
言葉を濁す坂本だが、それは不信感からではなく表現に困っているからなのだろう
苦笑いを浮かべていた。
「身体強化を第三者にも行うことで治癒が発動している、というのが私の見解だった。
そう考えればあいつの身体能力も納得ができる……はずだったんだがな。
先のネウロイの戦闘であいつは海水を操ったんだ」
「海水? 宮藤さんが?」
「ああ。それもネウロイの攻撃を防ぎきるほどの、な。
そっちの報告書を見てくれ。今回の戦闘の報告書だ」
ミーナ達 第501統合戦闘航空団が現場に駆け付けた時にはすでに戦闘は終了していた。
危ういながらもストライカーユニットで空を飛ぶ宮藤を見て驚きはしたが、ネウロイを撃破したウィッチは坂本であると口頭での報告が上がっていたため坂本がほぼ単独で撃破した、というのがミーナの予想だった。
それは宮藤が初戦闘であり、実戦経験がないためでもある。
手に持った紅茶を落とさなかったのは、先に坂本から話を聞いていたからだろう。
報告書にはネウロイの攻撃を巻き上げた海水で防ぎ、
初飛行からシールドで突撃して外殻を剥がすというベテランのウィッチでもそうは見ない、豪快な戦果が記録されていた。思わず坂本へ顔を向ける。
「事実だ。私を始め扶桑海軍の軍人多数が目撃している」
悪ふざけが成功した子供のように、口元に手を当てて笑みを浮かべる坂本に恨めしそうに目を細めるが、ミーナは改めて報告書に目を向ける。
「でも、あり得るのかしら……。固有魔法を複数持つウィッチなんて」
固有魔法を持つウィッチは主に念動系、感知系、攻撃系の3つに分類される。
例えば、坂本は右の魔眼でネウロイのコアの位置を特定することができる感知系であり、
同僚のエーリカ・ハルトマン中尉は大気を操ることができ、これは攻撃系に分類される。
宮藤の治癒魔法・身体強化は念動系だが、水を操ったのならば攻撃系に分類される。
「あり得るのだろう。事実、宮藤が行っているからな。
宮藤の家系は代々治癒魔法を使える一族だ。それも生涯な。
もしかすると治癒魔法は宮藤家系の能力で、水を操る能力は宮藤自身の能力かもしれないな」
暴論かもしれないがそれも一つの論か、と吐露を一つミーナは吐く。
実際は宮藤の固有魔法が治癒魔法であり、扉間が操った水は厳密には魔法ではなく
忍術であり、身体強化は扉間の動きが速すぎるため扶桑軍の調査班が見誤ったからだ。
しかし、調査班の落ち度にするには無理がある真実だった。
「どうだ、面白いだろう?」
「貴女ね……」
ミーナの反応が心底楽しいのだろう。読み終えたミーナに駆け寄った坂本は
報告書を奪い取って目を通し始めた。
普段ならば報告時にここまでの態度を、坂本はとらない。
「困ることはないだろう。初戦であれほど戦えたウィッチが仲間になるんだ。戦力強化は間違いないぞ?」
「それは、そうだけど……」
坂本のお墨付き、というのはミーナからすればこれ以上ない信頼である。
事実ミーナとしてもうれしい限りなのだ。強力なウィッチが配下に加わるというのは。
「では私はこの辺で失礼する。宮藤に入隊について説明をしてやらないといけないからな」
「へ? あ、ちょっと美緒! お願い彼女の事をもう少し詳しく―――」
言うが早く、無情にも閉まる扉。止めようと伸ばした手は宙に浮き、力なく机に着地した。
後には静寂。積もり積もった書類の一部が倒壊し、ミーナの手を覆う。
「宮藤さんの報告書、上にあげるの私なのよ……」
こんな情報、どう纏めろっていうのよ。
素直に宮藤の配属を喜べない理由が書類にある。
親友のマイペース振りに本日何度目かわからないため息が、
基地司令ミーナ中佐の口から洩れるのだった。
口口―――――――――――――――口口
翌日。
改めてストライクウィッチーズの編入挨拶の為、宮藤は会議室の席の前に立っていた。
机が皆同じ方向に並び少女たちが座る光景は教室のようにも見える。
まるで転校してきたみたいだなあ、と宮藤は呑気な考えをしていた。
―――皆、年端もいかぬ娘ばかりか。難儀なものよ。
魔女として力を使えるのは若い少女だけであり、歳を重ねるにつれて衰えていく。
老いてもなお魔力を扱える宮藤の家系が稀有なのだ。
話では聞いていたが、いざ目の当たりにすると物言わぬ嫌悪感が扉間を襲う。
その正体は不甲斐なさ。他の誰でもない、扉間自身に対しての感情だ。
戦場に身を置いていた者の感傷か、と内心で溜息を吐く。
席に座る少女たちを見れば、様々な人種のウィッチがいた。
興味深そうに見つめるリベリアンのウィッチ。
どこか思いつめた表情で目を背けるブリタニアのウィッチ。
親の仇を見るように親指を噛みながら睨むガリアのウィッチ。
『…………』
睨まれている。何故か睨まれている。
金糸のような綺麗な髪が整った顔<<かんばせ>>に映える見目麗しい少女なのだが、表情としぐさが見事なまでに全てを台無しにしている。
なにせ、扉間が軽く引くレベルの眼力で睨みつけているのだから。
「睨まれてますね」
『睨まれているな。……芳佳よ、何をやらかした』
「いつも一緒なんだから解って言ってるよね。扉間さんじゃないの?」
横にいるミーナに聞こえない程度の小声で宮藤は抗議する。
『心当たりが全くない。何故だ……何故睨まれるのだ』
うーん、と首をかしげる祖父と孫だった。
切り替えるように乾いた音が二つ鳴る。ミーナが手を叩いた音だ。
「はい、それでは皆さんそろったところで新人の紹介に入ります。
坂本少佐が扶桑皇国から連れてきてくれた宮藤芳佳さんです」
「宮藤芳佳です!よろしくお願いします!」
勢いよくお辞儀をする宮藤に対しての反応は十色だが、学校のように拍手はされなかった。
501統合戦闘航空団の面々がマイペースの塊であることを知るのは暫く先の事である。
「はい、宮藤さん」
「ミーナ中佐、これは?」
手渡されたのは一つの箱だった。
両手で抱えられる程度の茶色の箱で、宮藤の名前が記載されている。
「書類、階級章、認識票はこの中に入っています。書類は記載し終えたら私の所まで持ってきてください」
「は、はい……」
返事を返した宮藤は、箱の上に置かれた拳銃に目を向けた。
徐に手に取り一通り眺めた後、扉間に小さく声を掛ける。
「使います?」
『要らんな。ネウロイ用ではなく、対人用の護身……というよりは牽制用だろう。手慣れた者ならば有用だろうが、ワシならまず相手の意識を刈り取るな』
「……」
『冗談だ』
冗談には聞こえないんですけど。時折真顔で言う冗談をここで言わなくてもいいのにと、宮藤はため息をついた。しかし、確かに考えれば宮藤が拳銃を相手に向けるより扉間が相手を制圧する方が早い。もし相手が銃を持っていたとしてもそもそも宮藤のシールドは貫通できない為、やっぱり要らないかという結論が宮藤の中で出来上がっていた。
「宮藤さん?」
「大丈夫です。使いませんから」
「でも、何かあったときには必要よ?」
「いえ、倒す方が早いみたいなので」
扉間さんが、という言葉を続きそうになり思わず口に手を当てる。
ミーナが口をぽかんと開けたまま受け取った拳銃を落としかけていた。
目線で辺りを見渡せば、他のウィッチ達が目を丸くして此方を見つめていた。
『……今の言い方だとお前が暴徒を鎮圧するように聞こえるな。まあ、ワシがやったところで評価は変わらんから別に良いだろうが』
「よくないです! えっと、違います! 今のは違うんです!」
自分が口走った言葉がどう捉えられたのか理解した宮藤は弁明に声を荒げるが、それは坂本の笑い声にかき消されるのだった。
「さて、宮藤。施設案内もいいがその前に行くところがある。ついてきてくれ」
「行くって……どこにです?」
一頻り笑った坂本が今だ抗議を続けている宮藤に声を掛ける。
哀愁を漂わせながら、何処か言い難そうにしている。ここ数カ月船の上で坂本と過ごしてきたが、それは珍しい表情だった。
「ああ。――――――博士の、墓だ」
口口―――――――――――――――口口
坂本に案内された宮藤博士の墓はブリタニアの海崖に立てられていた。
簡素な西洋式の石造りで、あまり清掃はされていないようで少しだけ草木が覆っていた。
人里離れた研究所はネウロイの攻撃で既に土台の煉瓦しか残っておらず、
そもそも戦災で行方不明になった宮藤博士は死亡扱いとされている。
つまり、遺体はこの墓の下にはないのだ。
それでも墓が建てられたのは、人々が彼の死を悼んでのことなのだろう。
自分の父親が慕われていたことに、宮藤は少しうれしくなった。
「お父さんが家を出たのが小学校の入学式で、連絡が来たのが10歳の誕生日。それで手紙が届いたのが2ヶ月前かあ。……間が悪いなあ、お父さん」
『昔から少し間が抜けたところがあったからな、お前の父は。親子だからお前もよく似ている』
「えへへ……」
馬鹿にした言い方だが、それが扉間なりの励ましなのだということは直ぐにわかった。
しかし父の死を実感してしまったからだろう、その笑い声には力が無い。
「お父さん、やっぱり死んじゃったんだね」
『ああ。遺体が見つかっていないとはいえ、5年近く生存報告がない以上は亡くなったのだろう』
下手な慰めはかえって傷つける。扉間なりのやさしさだ。
そっか、と返事をして石に指を走らせる。墓を前にして、改めて父の死を理解した。
扉間が以前言ったことがある。墓は死者の為の者ではなく、残されたものが心の区切りをつける為のものなのだと。
『泣きたければ泣け、芳佳。慟哭は心の安定に繋がるからな。親しい者を亡くして泣く事は悪いことではない』
それは扉間を知る者からすれば意外な言葉だったかもしれない。
戦場では仲間の死に嘆く事すらできなかった。弔えるだけ上等なのだ。
しかしそれは扉間の生きた世界の話だ。宮藤が習うには酷すぎる。だからこその言葉だった。
「扉間さん、覚えてる? 10歳の誕生日のときも同じ事言っていたんだよ?」
『む、そうだったか? ……いや、そうだったな。お前とも長い付き合いになったものだ』
右手が宮藤の意思に反して動き、乱暴に頭を撫でた。
普段は危険が迫らない限りは取らない扉間の手だ。
自分の手なのに宮藤にはとても大きく感じられた。
『泣け芳佳。お前は忍びではない。耐え忍ぶ必要は無いのだ』
両手で身体を抱きしめて、宮藤は泣いた。
それはきっと、自分の中にいるもう一人の家族に抱きつきたいが為の抱擁だった。