「おいおい、マジかよ…。」
「火の中を突っ切って来るなんて…!」
スタジアムのどよめきが止まらない
それは安寧な世界で羽ばたく時を待つ生徒のみならず
「おいおい…緑谷といい翔野といいお前のクラスはどーなってんだ!?」
「俺が知りたいくらいだ!」
数の差こそあれど修羅場を見てきたプロヒーロー達も同様だった
「…なんだよ、あんまり驚いてねぇな。」
「お前も緑谷と同じ様なタイプだからな…まさか本当にやって来るとは思わなかったが。」
轟は先の鉄哲との戦いを観戦して一つのシュミレーションをしていた
中・遠距離系の個性を軸に戦いを組み立てる自分に対して近接戦闘最強が挑んだ場合まずは接近することは必須
ならどうするか、緑谷と戦った後ならわかる
自損覚悟の特攻
しかしあまりにもリスキーすぎるため思い過ごしと思考の隅に追いやったが
それがこの結果である
「っと、戦いに目を戻せば!
…この状況どっちが有利なんだイレイザー?」
「状況としては有利に見えるのは轟の胸ぐらを掴んでいる翔野だ、あいつの近接格闘のスキルそこらのプロヒーロー達を凌駕するほどずば抜けている。
だが目に見えてわかるくらいに火傷を負っているあれでベストコンディションの時と同じように動けるとは思えない。
対して轟は距離こそ不向きだがここまでほぼノーダメージで来ている
両者、次の一手が重要だな…。」
ーーーーーーーーーーーー
「さあ、いくぜ!」グアッ
「…そうはいくか!!」ガシッ
ピキキキッ
「あ~~~っと!?
翔野が殴りかかろうと左手を振り上げた刹那、轟が右手を掴み凍らせていく!」
「構うものか!!」
バキャ
「ぐがっ!」
渾身の左ストレートが轟に入るも、
「ってぇ…けど、捕らえたぞ。」
「……。」ピキキキッ
「おおっと、轟!翔野の右手を氷柱で固定した!
まさに肉を切らせて骨を断つ、こいつはヤベェぜ!」
「右手の肘から先が完全に捕らえられている、これは流石に…。」
「翔野くん、行動不の」
解説の二人と同じく審判を務めるミッドナイトもまたこれは勝負ありと判断しコールを告げようとしたとき
「バカなこといってんじゃねぇ!!」ググググ…ッ
ピシピシピシッ
怒号と何かに亀裂が入る音がスタジアムに響く
「ま、まさかっ!止めなさい翔野くん!!そんなことしたらあなたの腕が!」
「構うものか!!」バキバキバキッ
バゴォォォン!
「お、お前…何を…っ!!」
テリーのとった行動はおよそ轟は考える範囲には収まることができないものだった
「今度は無理やり引っこ抜いたぞ…!」
「腕が…あれで戦えるのか…?」
力技で強引に氷柱から腕を抜き出したテリーだがその代償は少なくなく右腕の皮膚は所々が剥がれ血に染まっていた
その様相に周囲が絶句するもテリーは関係ないとばかりに笑顔で轟に向き直る
「ヘイ、轟…!
俺の覚悟を…なめてもらっちゃ困るぜ。
勝利の為ならこんなものなんともない!!」ボタタッ
「っ!?」ゾクッ
痛ましい姿になりながらも笑顔で軽口を言い放つテリーの執念に気圧されたのか轟は無意識に足がすくんでいた
「怯むな焦凍!来るぞ!!」
エンデヴァーの渇に思考が呼び戻された轟だったが
「ヌオおおおっ!」ガシッ
すぐそこまで迫っていたテリーが今度は無事な左手で轟の髪をわしづかみにし
「ガアアアアッ!」
血濡れた右手を振り上げる
(どうするッ!?右か?左か?いやそもそもあんな状態の拳で殴れるのか!?)
咄嗟の出来事に轟の思考が一拍混乱する
カッ
鋭い痛みと共に目蓋の裏に火花が散った
(な、なにが…?)
ダラァ~ッ
次の瞬間轟は自身の顔が何か温かい者に包まれていることを認知した
そしてそのすぐ後に視界が赤く染まる
「し、翔野のカミソリエルボーが炸裂ぅぅぅ!
轟の額がかっ切られた!」
「焦凍ォォォ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
視界が赤に染まる
未だに思考回路はまとまらない
ガシッ
…誰だ?今は頭を整理するのに忙しいんだ。
バキャ
鼻っ柱が熱くなる、同時に息苦しさも感じる
なんか周囲が騒がしい
「………ッ、……だ!」
耳に入ってくるのは憎たらしい
そして視界にいるのは…
ああ、そうだ。
俺は今、
迫ってくる相手はヤケにスローモーションに映る
でももう遅い、体は既に満足に動きそうもない
これで終わり…ッ?
ーNo.1ヒーローになるためには如何なる状況も打開できるよう個性以外の技術も持ち合わせなくてはならん!個性がいくら強かろうとそれだけではヴィランは倒せんぞ!ー
幼き頃の記憶、忌々しくて消し去っていた筈の記憶がなぜ?
ー君の、力じゃないか!!ー
ーーーーーーーーーーーーーーー
テリーが止めの一振を繰り出そうとした瞬間
「な…ッ!!」
ゴッ
「カ、カウンター!!もう終わりかと思われた轟のカウンターがもろに入ったぜ!」
「と、轟くんが普通に殴った…!」
「しかもあの綺麗なフォームはそんなすぐに身につくものじゃない!」
葉隠の言葉に格闘技の心得のある尾白も答える
「…別に不思議なことじゃない、エンデヴァーだって近接格闘でヴィランを制圧することもある。その息子の轟くんにだって教えていても不思議じゃない。」ブツブツ
「デ、デクくん!?落ち着いて!」
「ハアッ……ハアッ……!!」
辛くてキツくて暗い過去の記憶が轟の反撃の一矢となった
しかし
ガシッ
「いいパンチするじゃねぇか轟。次からは
鼻血を流しながらもテリーは嬉しそうに笑い
「フンッ……ヌッ!!」
ゴヅッ
上からヘッドバットを食らわせた
白目を向き膝から轟が崩れ落ちると共にテリーの勝ちを決める声が響いた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ざわざわ…ざわざわ…
「遂に決勝戦だが…。」
「第一試合の少年は果たして戦えるのか?」
周囲が疑念に騒ぎ出すなか既に八百万を下し、決勝進出を果たした爆豪は待ちきれないとばかりにそのままスタジアムに残った
(ピーちくパーちく騒いでんじゃねぇモブどもが!
あいつは必ずここに来る!
そんであいつを倒して俺が一位になる!)
テリーと一度向かい合った爆豪は確信していた
あいつは負けるのは元より、闘わずして負けることが何よりも嫌いだと、故にどれだけボロボロになろうがあいつは必ず自分の前に立つと!
(さあ、来やがれ金髪野郎!)
時を同じく
「……。」ザッザッ
「止まって、テリー!」
戦いの待つスタジアムへと続く道を歩むテリーを後ろから引き留める声がする
「なんだいポニー、もうすぐ決勝戦が始まるんだ。」
「そんなボロボロの体で何を言ってるんデス!リカバリーガールから聞きマシタ!あなたの体は既に立ってるのもやっとな位しか体力が残ってないって!!
これ以上闘えば…どうなるかわからないって!!」
準々決勝では鉄哲の鉄と化した拳でのノーガードの殴り合い
準決勝では全身にやけどを負い右腕は血みどろの重傷
リカバリーガールの個性で回復が間に合っているがそれもテリーの並外れた体力があってこそだった
だかそれでも限界がある、これ以上の負傷はすぐに治療できないし何よりも今後に関わってくる可能性がある
リカバリーガールの説明を聞いてもなお闘いへ向かう歩みを止めぬテリーにポニーは訴えた
「お願いデス、テリー。今すぐリカバリーガールの所へ戻って。決勝戦は棄権しましょう。
もう十分デス、テリーはイバラ達の思いも背負って頑張ってくれマシタ。
だから…ッ!」
ドッ
「……………ごめんよ、ポニー。待っているんだよ、今一番強い奴がスタジアムの中で。」
「テ…テリ……。」ガクッ
食い止めようと説得するポニーへ振り向きざまの当て身で気を失わせたテリーはそのままポニーの体を抱えると
「…すまないがポニーの事を頼まれてくれないか?」
影から見守っていたB組女子達に声をかけた
「あ、あんた!どれだけポニーがあんたの事を心配してるかわかってるのかい!!」
「そうノコ!!」
テリーの行動に取陰と小森が問い詰める
小大と柳と塩崎の三人も言葉にはせずとも目で訴えてくる
が
「みんな!止めな!」
凛とした一声が響いた
「…わかった。B組の委員長として、ポニーの大切な人からの頼みとしてポニーを預かるよ。」
「け、拳藤ッ!?」
「…すまない恩にきる。」
拳藤の一言に納得できないと声を荒げる取陰だが意に返さず拳藤はポニーを抱える
「ただ…ただ一つだけ約束して。
ポニーを泣かせるような結果にはしないで!
この子はとても優しいんだ、そんな子を泣かすような事をするのなら例え地獄の果てでも追いかけて殴りに行くから。」
「……約束しよう。」
テリーの言葉に満足した拳藤はポニーを抱え不満の残る他の女子達を制して引き返して行った
「………いくぜ!」
次回、決勝戦!
どちらがお好きですか?(直感で)
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喧嘩士
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貴公子