奮い立てテキサス・ブロンコ   作:遊人

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一筋縄ではいかない職場体験!の巻

「飯田君、大丈夫かな。」

 

「ウム……。」

 

ヒーローネームを決める授業があった日の放課後

 

あの授業のあと大急ぎでやってきたセメントス先生に飯田は職員室へと連れていかれたのだった

 

「なんやろ…。真面目な飯田君の事だから問題とかじゃないと思うけど。」

 

「心配デース…。」

 

いつも帰り道を共にしていたテリー達にとっても不穏ななにかを感じていた

 

「……だが、それに気を取られていては飯田に申し訳ない。期限を守らないと帰ってきたあいつにどやされるからな。」

 

暗く沈みかけた空気を変えようと努めて明るい声で話題を変えるテリー

 

体験先を決める期限は明日

百に満たないとはいえ多数の事務所のオファーを吟味し決めるには手に余る

 

ましてアメリカ出身のテリーからしてみればオールマイト以外のヒーローの詳細などよくわかってない

 

そこで緑谷に協力を求めて、更にそこに麗日、ポニーが加わり今に至る

 

「さて、何処にしたものか…。」

 

机の上に置かれたリストを手に取り一瞥していくテリー

 

「す、すごいや。

エンデヴァーやホークス、ミルコにエッジシットまで……。」

 

リストを見て自他共に認めるヒーローオタクである緑谷は垂涎の気持ちで見ていた。

 

「あとは、ウチが行こうと思ってるガンヘッドとか……やっぱりバリバリ武闘派な事務所が多いね!」

 

「ふーむ、何処にするべきか……ん?」

 

並みいる有名ヒーロー達の中でテリーの目に止まったのは

 

「ハワイアンヒーロー、プリンス・カメハメ……。」ボソッ

 

「プ、プリンス・カメハメだって!?」

 

テリーが独り言の様に呟いた言葉に反応したのは緑谷だった

 

「知ってるのかイズク?」

 

「知ってるもなにも、ヒーロー掲示板ではオールマイトと対等に渡り合えるヒーローとして必ず名前が上がるヒーローさ!

ただ如何せん表舞台を本人が嫌うのか公式の記録があんまりなくて半ば都市伝説的な扱いのヒーローだけどね、ただ数々の武闘派ヒーローの尊敬するレジェンドヒーロー達が口を揃えて師と仰ぐ存在であり、その知識と体捌きの巧みさから "格闘技の賢者(マーシャルアーツ・サヴァン)"の異名があるとか……だけどすごい!!

実在したんだ!これはまたノートを買い足さなくちゃ!」

 

「お、OKだ、イズク。ありがとう、大体わかったからそろそろ帰ってきてくれ…。」

 

このままだと延々とヒーロー講談が始まる事を危惧してテリーは話を打ち切った

 

「ここにするんですか、テリー?」

 

「……。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

職場体験当日

 

「コスチュームは持ったな、本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ。」

 

「はーい!」

 

全員が駅に集まりこれから各々が事前に決めたプロヒーローの元へ向かう、みんなが期待や興奮を見せるなか一人、あまりにも静かにしかし凛々しく表情を引き締める者がいた

 

「飯田くん…。

 

本当にどうしようもなくなったら言ってね。」

 

堪らず緑谷は声をかけた

 

普段ならなんら違和感がない事なのだが今回ばかりは事情が違っていた

 

彼の兄、プロヒーローインゲニウムが襲撃される事件が起き一命は取り留めたものの再起不能に追い込まれてしまったのだ

 

凶行を働いたヴィランは自らを"血の伝道師(ブラッド・ミッショネルズ)"と名乗る二人組。

過去彼らの犯行と思われる事件は実に30を越えており、その殆どが素手による近接攻撃で行われていた。そして何よりも注目すべきは彼らに破れたヒーロー達は皆マスクを剥ぎ取られていた

 

その毒牙にかかったインゲニウムのマスクも漏れなく奪われていた

 

この「マスク狩り」と呼ばれる行為はヒーロー達の間でも恐怖を呼び巷では『ヒーロー殺し』と言う異名が出始めていた

 

相手が相手とはいえ自らの兄がそんな目にあった飯田の心中はうかがい知れない、だがせめて支えになればと声をかけたのだが…

 

「ああ、大丈夫だ。心配かけて申し訳ない。

じゃあ、僕はこっちだから。」

 

飯田の表情は逆に不安を感じるほどに穏やかだった

 

「……飯田くん。」

 

「……。」

 

その言葉に、態度にこれ以上言葉を紡げなかった緑谷

そして同じく心配していた麗日とテリー

 

一抹の不安を抱えて彼らもまた別れた

それぞれが思い描く未来を掴む為に…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

電車に揺られ、バスに乗り換え向かった先は…

 

 

 

「もう少し後だったら楽しめたのにな。」

 

視界に広がる大海原にぼやくテリー

 

まだ海開きは先の為、閑散とする砂浜を歩き指定された場所へ向けて歩を進める

 

「…人もいないせいかなんだか涼しいな。

そろそろこの辺りの筈なのだが。」

 

海水浴場の砂浜のほぼ端にやってきた

 

「フイーッ、と」グッグッ

 

するとそこで一人のフードを被った人影がストレッチを行っていた

 

「すみません。ここらで人と待ち合わせをしているのですが、ここらでプリンス・カメハメという御方は…ッ!?」

 

シュオッ

 

ヒュン

 

咄嗟にスウェーバックで反らした鼻先をハイキックが掠めていった

 

「……フム、反応はまずまずできるようじゃの。」

 

「いきなり過激な挨拶だな。プロヒーローの挨拶ってのは毎日こんななのかい?」

 

急な攻撃にファイティングポーズを取りいつでも応戦できる構えを取るテリー

 

「フフフ、それは悪かったのう。

だがダラダラ口で教えるよりこっちの方がワシは性にあうのでな、お主もそうだろ?」

 

バサッ

 

ジーッ

 

フードを外し上着を脱ぎ捨てその素顔が露になる

褐色の肌に立派な髭を蓄え、頭部に特徴的な鶏冠状の突起があり、鍛えぬいた胸板にある巨大な鷲のマークが目を引く

 

「自己紹介が遅れたの、ワシがハワイアンヒーロー、プリンス・カメハメだ。

来てそうそうだが、そこの小屋でコスチュームに着替えてアップを済ませてきなさい。

 

早速一つ揉んでやろう!」

 

「……いいねぇ!話が早くて助かるぜ!爺さん!!」

 

夏の訪れを待たずしてこのビーチに灼熱をも焦がす戦いの幕が切って落とされようとしていた

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

同時刻

 

緑谷出久はオールマイトの師であるグラントリノの元に来ていた

 

「打って来なさいよ。受精卵小僧!」

 

「ッ!?」

 

こちらもまた過酷な試練が幕を開けようとしていた

 




絶好調爺さん二人!乗り越えられるか?
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