奮い立てテキサス・ブロンコ   作:遊人

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それぞれの一歩目 の巻

「フム、まずまずと言ったところかな。」 

 

職場体験初日に始まった手合わせは 

 

「ハアッ……ハアッ……チ、チクショウ……。」

 

瞬く間に決着がついた  

 

二人しか人影の見えないビーチには波の音と地面に仰向けに倒れ伏すテリーの声が響くだけだった

 

翔野テリーに微塵の油断も自惚れもなかった 

先の体育祭で頂点に立ったとはいえ相手はプロ、そう簡単に敵う事が無いことはわかっていた、それでも何か一矢報いる事ぐらいはできる筈だ!!

 

そう意気込み挑んだ結果は散々なものだった

 

自身の全力は容易く受け止められ、そこから流れるような投げ技、芸術的とも言えるグランウンドテクニック、そして確実に相手を追い込む鋭利な打撃の前になす術なく敗れ去ったのだった

 

「さあ、今日はここまでにしよう。明日からはビシバシ鍛えて行くぞ。」 

 

「じ、上等だ!!」

 

こうしてテリーの職場体験が幕を開けた

 

 

 

 

同時刻

 

「固いな、そして意識がチグハグだ。

だからこうなる。」

 

同時刻緑谷もまたグラントリノの前に己の力の無さを見せつけられていた

 

「オールマイトへの憧れや責任感が邪魔になっとる。」

 

「……ッ!!」

 

こちらもまたオールマイトを鍛え上げた歴戦の猛者たるグラントリノの前に赤子の手をひねるが如く抑え込まれていた

 

「そ、それなら僕はどうすれば!?」  

 

「……んなこたぁ自分で考えな。それじゃあ俺は飯買ってくるから掃除よろしく!」

 

こちらもまた波乱の幕開けとなった

  

 

ーーーーーーーーーー

 

職場体験二日目

 

早速ヒーロースーツに着替えたテリーにカメハメ流の特訓が始まった

 

「お主のその若さとテキサスで育まれた情熱あふれるファイトスタイルに儂は無限の可能性が秘められていると確信している。だからこそ儂がここまで積み上げてきた技術の全てを伝授したい!!

しかし、その道は過酷なものになるだろう。

しかもその過酷な試練と並行してヒーローとしてのイロハも会得してもらわねばならん!」

 

「フッ、なかなか盛り沢山じゃねぇか!それくらいの方がやり甲斐があるってもんだぜ!!」

 

カメハメの嘘偽り無い宣告にも臆することなく笑顔でやる気を示すテリー

 

「フォッフォッフォッ、その言葉を待っておった!

では早速始めよう!」  

 

テリーの返事に気を良くしたカメハメは手にしていた鳥居の形をした組木を構えた

 

「さぁ!打ってこい!!」

 

「トアーッ!!」

 

カメハメの言葉に呼応してテリーが殴りかかるも

 

「甘いわ!!」ガンッ

 

「な、なにぃ!?」

 

カメハメは手にした組木の縦棒を操りテリーの拳を挟み込み横棒を薙いでそのまま反撃を開始する 

 

ガシィ 

 

「ぐはぁ!」

 

繰り出されるカウンターをなす術なく食らいテリーは突き飛ばされてしまう

 

「ほれ、いつまで寝ている!まだまだ続けるぞ!」   

 

「こ、こんのおおぉぉ!!」

 

カメハメの言葉に躍起になり渾身のラッシュを見舞うも

 

ガキッガキッガギンッ

 

「ほれほれほれほれ!ワキが甘くなっきたぞ!!」

 

「ブホォ!!」

 

その全てが躱され、いなされ、防がれ更には隙をつかれ反撃をモロに食らってしまう

 

「な、なにクソ!まだまだこれからだ!!」

 

「その意気じゃ!カメハメ特訓木人は始まったばかりだからのう!!」

 

こうして人気の無い海岸には鈍い打撃音がしばらくの間鳴り続く事になった 

 

 

そしてこちらも…

 

「ワン・フォー・オール フルカウル!!」

 

 

 

己の成長すべき方向性を見出した緑谷だったが

 

 

「惜しいな」ドフッ

 

「ウゴっ!?」

 

グラントリノに一撃を与えるには至らず壁に叩きつけられてしまった

 

「くっ……そぉ……!」

 

(今の動き、たった一回の試行でここまで持ってくるとは!

 

こいつは、化けるかもな!!)

 

悔しがる緑谷を一瞥して背を向けたグラントリノの顔は満足そうな笑みが浮かんでいた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「間違っている!!こんな世界は間違っている!!」

 

一人の青年の慟哭がむなしく響く

 

その声は決して民衆の耳に届く事なく溶けて消えていく  

 

個性の発現により台頭した【ヒーロー】という職業は一気に子どもたちの憧れの的になった

 

多分に漏れずこの男もその虜になり憧れを実現すべく順調に齢を重ね私立のヒーロー科に入学する

 

しかしそこで彼は驚愕する

 

曰く、億万長者への近道だ

 

曰く、有名人になって世間を騒がせたい

 

誰もが皆、己の欲望を叶える為に【ヒーロー】になりたいと語る

 

男が描く【ヒーロー】とはまるでかけ離れた姿を描く者達が彼にはひどく醜く映った

 

しかし大人達はそんな彼らの欲望など目にもくれず彼らの持つ個性のみで優劣を着け始めた

 

どれだけ高潔な志を持とうとも大人達は評価しない

 

そんな同級生達やそれを先導する教師達に見切りをつけ男は1年の夏、高校を中退

 

以降彼は【ヒーロー】の根本的価値観の腐敗を世間に訴えかけ是正を呼びかける事に青春を注力する

 

しかし自らの言葉がまるで世間に届かず、ますます歪んでいくヒーローの価値観そしてそれを増長させる世論に彼は己の無力を悟るのであった

 

「なぜ俺の様な考えの者が淘汰されアイツらのような見た目が派手なだけの奴等がもてはやされる!

人を救いたいという信念すらなく己の事しか考えず力を行使するような輩達が!!」

 

 

  

自らの正しきを否定され、自らの描くヒーロー像が汚されていく感覚に嫌気が指した男は

 

「無念だ…、次に生まれるときは強い個性で、それこそ世界を変えるほどの力を!!」バッ 

 

遂に橋の上から身投げしてしまった

  

 

(冷たい……苦しい……。嫌だ!やはり死にたくない!なぜ正しい事を言っている俺が死ななくてはいけないんだ!?)

 

沈み行く最中に押し込んでいた憤怒がその身を焦がし始めた

 

しかしもう遅い、その怒りは誰にも届くことなく川底で消えていく

 

 

…はずだった。  

 

 

「グロロ……力がほしいか?」

 

声が聞こえてくる。

自らが吐き出す泡の音しか聞こえないはずの水中で

 

男が川底に目を向けると

 

「…………。」

 

得体のしれない何かがまるで待ち構えていたかの様に立っていた

光が届かなくなり暗くなった水中でさえもはっきりと浮かぶその双眸ひ弱な青年を写していた

 

ーーーーーーーーーーー

 

「ッ!?」

 

「ステイン様、どうかされましたか?」

 

「……いや、なんでもない。少し眠ってしまったようだ。それよりも武道、明日もまた仕掛けるぞ。」

 

「ハハッ!」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

(あいつらは必ず一つの街で4回以上の犯行を重ねている、目的があるかジンクスなのかは定かではないが。

……この街でやられたのは兄さんだけ。

 

奴らは必ずまたここに来る!!

 

その時は刺し違えてでも、俺の手で始末してみせる!!)

 

職場体験先のプロヒーロー・マニュアルの説明などまるで耳に入らず  

 

飯田天哉の全神経はいつか来る戦いの舞台へと向けて張り詰められていた 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

職場体験三日目−夕方

 

「ハアッ……ハアッ……。」

 

沈みゆく夕日が汗まみれのテリーの体を照らす

 

昼、パトロールを行いヒーローの責務済ませ、そこから日が沈むまでの特訓

 

その締めのスパーリングの真っ只中だった

 

「フゥ……少しは様になってきたな。今日はもうお終いにしよう。」

 

「お、俺はまだ出来ます!!」  

 

「そういう事ではない。

……何か嫌な予感がするのだ。杞憂であればいいが用心するに越したことはない。もしもの時に備えて休むのだ、もどかしいがそれもまた大切なことだテリーマンよ。」

 

カメハメの口調にテリーは納得せざるを得なかった

 

 

 

同時刻

 

 

「……ここまでだな。これ以上俺とばっかり戦ってたら変な癖が付く。」

 

「癖とか以前にまだまだ慣れが足りないです。

もっとお願いします。」  

 

「いや、十分だ。

 

それになんの為にここに来たんだ?

 

フェーズ2に行く、職場体験だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………。」  

 

「またあなたはそんな薄暗い所で新聞なんて読んで、目を悪くしますよ。」   

 

「うるせぇよ黒霧、俺は今とてもイライラしてんだよ!」

 

黒霧の小言に苛立ちを露わにして寝そべっていたソファから飛び起きる死柄木

 

「どのメディアもヒーロー殺しの話題でもちきりだ!

このままアイツらのいいように動かれちゃこっちが同盟の主導権を握れなくなっちまう!」

 

死柄木はその怒りのままに新聞紙を握りしめ塵に変えてしまう 

 

「……おい先生。聞いてんだろ。」

 

「どうしたんだい、死がら「脳無をよこせ!ありったけだ!!」

 

 

「ハッ、信念だとか大層な事を言ってるがやってる事は対して変わんねぇじゃねぇか

気に入らなければ壊す!至ってシンプルな話だ…大暴れ競争だ!アイツらの偉そうにタレてくる能書きなんざひっくるめて叩き潰してやる!!」

 

 

赤い瞳が怒りに揺れる

 

その矛先が向けられたのは……関東、保須市。

 

 

 




次回、積り積もった飯田の想いが……
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