奮い立てテキサス・ブロンコ   作:遊人

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強襲、悪意を込めて の巻

合宿3日目

 

山の中には変わらずの絶叫が響き渡っていた

 

「補習組、動き止まってるぞ」

 

 

中でも補習組はギリギリまで睡眠時間を削り補習の時間を捻出しているためかなりの疲労度が見てとれた

 

 

「オッス……ッ!!」

 

 

 

「すみませんちょっと………眠くて………。」

 

「昨日の補習が…………」

 

 

 

「当たり前だ、お前らの課題は期末テストで露呈した立ち回りの脆弱さ。ヒーローの現場は常に臨機応変に考えて動かなくてはいけない。

 

それが出来なければ命を落とすだけだぞ。

 

なぜ今キツい思いをしているのか、その意味を考えて動け。

 

麗日、青山。お前らもだ赤点こそ免れたがギリギリだったぞ。」

 

 

「ギリギリ!」

 

 

「心外☆」

 

「他の奴らにも言える事だかダラダラやるなよ。

 

何をするにも常に"原点"を意識しとけ

 

向上ってのはそういうもんだ、何のために汗かいて何のためにこうしてグチグチ言われるか常に頭に置いておけ。」

 

 

相澤の言葉にそれぞれの頭に沸き上がるイメージ

 

それはヒーローを志した純粋な気持ち、それが新たなエネルギーを生み出し訓練に再び熱を帯びさせる

 

 

そしてそれは……

 

 

「それ、もう一本!」

 

「ヌオオオオオオオオッ!!」バッ

 

バシャッ

 

「グオオッ!?」バンッ

 

何度も滝にのまれ岩肌に体を叩きつけられているこの男も同じだった

 

 

 

 

「ねこねこねこ。でも訓練ばっかじゃストレス溜まっちゃうでしょ? だから今夜はクラス対抗の肝試しをするからそのつもりでいてね。これぞまさにアメとムチってね!」

 

 

必死になって訓練に励む生徒に行き渡る一筋の光がピクシーボブによりもたらされた

 

 

「イベントらしいことも一応やってくれるんだな。」

 

「ふふふ、対抗ってのが気に入ったよ。」

 

「うち怖いのとか無理なんだけど……。」

 

 

「闇の狂宴。」

 

 

 

その言葉をきっかけに疲れた体に再び鞭打ち訓練に集中する一同

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして時間が経過して訓練は終わり、食事も取り、後片付けも終わり、一同は広場に集合してい。

 

理由はというと……、

 

 

 

「お腹も膨れたし、洗い物も終わった。後は……」

 

「肝を試す時間だー!!」

 

 

 

芦戸が嬉しそうにそう叫んだ。

 

 

 

だが、そこは雄英……そんなに甘くはなかった。

 

 

 

「あー……その前に大変心苦しいのだが、補習連中は……今から俺と補習授業だ」

 

「ウソだろ!?」

 

 

そういい終わるや補習組はあっという間に相澤の捕縛布により拘束され

 

 

「すまんな。日中の訓練が思ったより疎かになってしまったので、こっちを削る」

 

 

 

「うわぁぁ堪忍してくれぇぇぇ!!試させてくれぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

引きずられて宿舎へ向けての夜道へ消えていった

 

 

「……という訳でさっきの補習組と訓練でダウンしちゃった金髪くんとその介抱でガールフレンドのB組の子は不参加ね。」

 

「ぐううぅ、なんて甘酸っぱい!うらやましいわ!私にも何かあったときに隣で支えてくれる人が欲しいィィ!」

 

ピクシーボブ、いや土川流子の魂の嘆きが夜の森に響く

 

 

「……ごほん。驚かす側はB組でもうスタンバってるわ。

 

A組は二人一組で3分おきに出発、ルートの真ん中に名前の書いたお札があるからそれを持ってくること!

 

 

脅かす側は相手に直接攻撃しなければ何でもOK!個性を使って、個人の創意工夫を凝らして驚かせちゃおう!」

 

「多くの人を失禁させた組が勝利となる!!」

 

「辞めてください…汚い」

 

 

びっくりする系が苦手と公言する耳郎は既にゲンナリしていた

 

 

そして運命のペア決めくじ引き

 

 

(あれ?補習組とテリーくん引いたら奇数だから……。)

 

結果は

 

 

「一人余る……!」

 

 

「ま、まぁクジ引きだから……必ず誰かこうなる運命だから……」

 

 

 

尾白がなんとかフォローするが最後かつ一人で歩く羽目になったのは緑谷だった

 

 

「それじゃ、あちきは中間地点で待ってるねー。」

 

 

何かあったときにの為に、とラグドールはひと足先に森に入っていった

 

 

 

 

こうして始まった肝試しだが5組目の麗日・蛙吹組がスタートした辺りから異変が起きる

 

 

 

「……………なにこの こげ臭いの。」

 

 

「黒煙……!?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

同時刻

 

 

 

「さぁ開戦だ」

 

 

林間合宿と同じ敷地の森

 

闇夜に紛れるように黒いローブを身に纏い自身の個性で森の木々を焼き黒煙を発生させる荼毘

 

 

 

「地に落とせ、敵連合"開闢行動隊"」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

舞い上がった煙から三人組が現れた。

 

 

「あら、よかったじゃない。

 

占い通りお目当ての子いるわよ。」

 

 

「ほ、本当だ。なんとも胡散臭いとは思っていたがこうも当たっているとなんか恐くなってくるな。」

 

 

「ハッハッハ!何でもいいじゃねぇか!やることたぁ決まってんだからな!!」ズオオオ

 

バサッ

 

全員が黒いローブを羽織り姿がわからないが一人が待ちきれないのか鬱陶しいとばかりにローブを脱ぎ捨てた

 

「あぁんせっかちねぇ!」バサッ

 

 

「お、おい!まだ名乗ってないじゃないか!

 

ええい……っ!!」バサッ

 

その後を追うように二人もローブを脱ぎ捨てる

 

一人はトカゲのような緑の鱗に紫髪の男、何処となくステインに似た格好をしており彼の思想に感化された者と思われる

 

そしてもう一人は口調こそ女性だが見た目はゴリゴリの大柄な男性

 

赤髪に夜なのにサングラスをかけた奇抜さが目をひく

 

そして

 

 

「ッ!!」

 

「あんたはッ!!」

 

 

「ぬううううッ!!」

 

 

最初にローブを脱いだ男の姿を見たプッシーキャッツの三人の顔に激しい怒りが浮かび上がる

 

 

「何で………安全を期した筈じゃあ……………何でヴィランがいるんだよぉ!!」

 

 

「シャアアアアッ!ようやく暴れられるぜええええ!」

 

峰田の悲鳴をかき消すように叫ぶ大柄の男

 

 

 

 

「しかもお目当てのガキまでいるぜ!緑髪のお前!

 

お前と金髪の外人は率先して殺せとお達しだ!じっくりいたぶってやるから血を見せろ!」

 

 

「「「「ッ!!」」」」

 

 

 

まさかの敵側からの言葉に戦慄が走る

 

「待てい!生徒達には指一本触れさせぬわ!」

 

「それに私達もあんたのこと探してたんだよ!」

 

「洸汰の両親で私達の盟友、"ウォーターホース"の仇ッ取らせてもらうわよ!!」

 

 

「「「血狂いマスキュラーッ!!」」」

 

 

(こ、こいつがッ洸汰くんの両親を!!)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「飴とムチっつったじゃん!飴はぁ!!」

 

 

 

補習組は連れられて暗い夜道を相澤に連れられて歩かされていた。

 

 

「サルミアッキでもいい!飴をください先生!!」

 

 

 

「サルミアッキ美味いだろ。」

 

 

 

施設に着き、補習場のドアを開けると

 

 

 

「あれぇ?おかしいなぁ!優秀なはずのA組から赤点が5人も?!B組は僕だけなのに?!」

 

 

 

既に席について待っている物間がいた

 

 

 

「どういうメンタルしてんだお前!!!」

 

 

 

自身も同じく補習を受ける身にも関わらず物間は壮大に笑っている。

 

 

 

「昨日も同じ煽りしてたぞ。」

 

 

 

「心境を知りたい………」

 

 

 

「ブラド、今回は演習を入れたいんだが」

 

 

 

「俺も思っていたぜ。言われるまでもなく。」

 

 

 

その時全員にテレパシーでの通信が入った。

 

 

 

『皆!』

 

 

 

「マンダレイのテレパス。」

 

 

 

「私これ好き!ビクってするぅ!」

 

 

 

「でも交信出来るわけじゃないからちょっと困るよなぁ」

 

 

 

「静かに。」

 

 

 

相澤先生が注意を入れる。

 

 

 

『ヴィラン3名襲来!他にも潜んでいる可能性アリ!動けるものは直ちに施設へ!!接敵しても決して交戦せず撤退を!!』

 

「は……?なんでヴィランが……!?」

 

 

 

「ブラド!ここ頼んだ!!俺は生徒の保護に出る!」

 

 

 

すぐに相澤は走り出す。外に出ると森から黒煙がものすごい勢いで沸き上がる光景が飛び込んでくる

 

「考えたくもないが…… 」

 

 

 

「心配が先だったかイレイザー?」

 

 

 

その言葉と共に真横から青い炎が相澤に襲いかかった

 

 

「出てこないでくれプロヒーロー。用があるのはお前らじゃない。」

 

 

 

「………そう言われておめおめと引き下がっては生徒達に会わせる顔がないものでなぁ」

 

相澤は二階の鉄柵に捕縛布を巻き付け炎を回避した

 

 

「やっぱ、プロだなぁ…。」

 

そしてそこから個性を発動したまま捕縛布を荼毘に巻き付け

 

ドガッ

 

グシャッ

 

流れるような打撃のコンビネーションから一気に荼毘の体を拘束したまま地に伏せさせた

 

 

「目的・人数・配置を言え。」

 

「なんで?」

 

 

 

ゴキッ

 

 

「こうなるからだよ。」

 

 

 

全くの躊躇いも見せず相澤は荼毘の左腕を折る

 

「次は右腕だ。合理的にいこう。」

 

 

淡々と告げる相澤に

 

 

「それはちょっと止めて欲しいなぁ。」

 

(新手ッ!?)

 

声の主は白い仮面にシルクハット、トレンチコートの男

 

 

 

「付き合いこそ浅いが今は一応仲間なんでね。そんなに痛め付けられると胸がいたくなっちゃうよ。」

 

 

「なら、お前がおとなしく喋ってもらおうか。大事なお仲間がこれ以上傷つきたくないのならな。」グググ

 

 

語気を強めながら力を込めていき脅しで終わらないことを示す相澤に

 

「ふふふ。」ヒュン

 

男は山なりに何かを相澤に投げつける

 

 

「ッ!!」ギッ

 

 

「そうだよな、得たいの知れない何かが投げられれば見ちゃうよな。それも個性を使って。

 

ところがぎっちょん、それこそが狙いだったのでした!」

 

BON

 

 

 

『魔雲天ドロップッ!!』

 

 

空中から現れた巨体がそのまま落下し迫ってくる

 

 

「ちぃっ!!」

 

たまらず相澤は拘束を外し後ろへ回避する

 

 

ズズズズンッ!!

 

 

そのあまりの威力に周囲には地鳴りが発生

 

 

 

「グフフフ、良く避けたな。」

 

(ちぃっ、離しちまった!それよりも加勢に来たこいつらの対象も考えにゃ……。)

 

 

目の前に現れた巨漢から視線を外さずに頭をフル回転させる相澤

 

「すごい揺れがしたぞ!大丈夫か!?イレイザー!!」

 

建物からは戦局を確認しにブラドが出て来るが

 

 

「ッ、来るなブラド!!まだ敵がいる!」

 

 

「なにっ!?」

 

 

 

フアァッ

 

相澤の忠告にブラドキングはすぐさま周囲に注意を巡らせるが既に至近距離に明らかに不自然なターバンが宙に浮いて漂っていた

 

 

クイッ クイッ クイッ

 

やがてそれはひとりでに折れ曲がり形を成し

 

「いかんなぁ、プロヒーローともあろうものが……。

 

悪魔の忍び寄る足音を聞き逃すようではなぁ!」

 

ギュルギュルギュル

 

『キバ地獄!!』

 

突然現れた生首がブラドの肩にキバをたて襲いかかった

 

ガブゥッ

 

「ぐわあああああっ!!」

 

 

「ブラドッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「これで大丈夫そうだな。それじゃぁ俺はここら辺で本来の目的に向かうとするよ。」

 

「ああ、抜かるなよコンプレス。」

 

 

荼毘に言われるやトレンチコートの男・Mr.コンプレスはすぐさま森の中へと消えていった

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おっと、飼い猫ちゃん達が出る幕じゃないわよ。これを見なさい。」

 

 

「ッ洸汰!!」

 

 

 

なんと既に敵の手中に洸汰は落ちていた

 

 

特に外傷などは見当たらないがロープでぐるぐる巻きで拘束され恐怖で声すら出せない状態だった

 

 

「卑怯、なんて言わないわよね。だって私達はヴィランだものこれくらいは常套手段よ。」

 

 

 

「安心しろ。手荒な真似は一切していない、リーダーからは別に何人殺しても構わないとは言われているが俺個人としてはいたずらに殺めるのは趣味ではない。」

 

ジロッ

 

「ッ!!」

 

トカゲ男、スピナーは緑谷に視線を向ける

 

 

「俺は見たいのだ!あのステイン様の意志を挫いた者が本当に資格あるものなのか!本当は自ら対角線に立ち矛を交えたかったが……。」

 

 

 

 

「うじうじ言うなよ!あの占い師が俺のほうがいいって言ったんだから俺の獲物だ!俺も味わいたいんだよ!天下に名を轟かすスーパールーキータッグ、その片割れの実力をよぉ!」

 

 

「……、僕が勝ったら洸汰くんを離せ。」

 

「だ、ダメよ!まだ学生の貴方を戦わせる訳にはいかないわ!」

 

 

既にスイッチが入った緑谷をマンダレイは止めるが

 

 

「これは僕が売られた喧嘩です。僕が戦ってる間はひとまずあいつらを止めておけます。」

 

「だけどッ!!」

 

 

「それに、僕は洸汰くんに見せなきゃいけないんです。力をひけらかすだけじゃない、本当の『ヒーロー』を。」

 

 

「……わかった。プロヒーロー虎が許可する。」

 

「ちょっと虎ッ!!」

 

 

まさかの発言にピクシーボブとマンダレイが声をあげるが

 

 

「少年の言う通りこの場は既にあいつらに掌握されている、打開するには少年の手を借りる他ないだろう。

それに…こんな決意を固めた眼で見られれば賭けて見るほかないだろう。」

 

 

 

「話しはまとまったか?早く殺ろうぜぇ!」

 

「まだ答えを聞いていないぞ、僕が勝ったら洸汰くんを解放しろ。」

 

「うふふ、それはどうなるかしら「マグネ。」うん?」

 

 

「いいだろう。このスピナー、ヴィランとしてではなく一人の男として、魂を賭け約束しよう。

 

お前が勝てばこの子供は解放する。」

 

 

「ちょっとスピナー!?」

 

 

まさかの合意発言に今度はマグネが声をあげる

 

 

「奴が真のヒーローを見せてくれるなら俺としてはもう十分だ、それに俺たちの役目も果たしているだろう。

 

ならばこれくらいは大丈夫だろう。」

 

 

「……まったくそんな熱い目をしていたら断れないわ。いいわよ、それで!」

 

 

 

「なんか外野がヤイヤイ言ってるが戦うのは決定なんだろ!ならこいつの出番だ!」

 

マスキュラーが地面に何かを投げるとそれは着地と同時に開き一気にリングへと姿を帰る

 

「シャア、始まりだ!リングに上がれ小僧!ぶっ潰してやる!」

 

 

「……僕は小僧じゃない!ヒーロー『デク』、頑張れって感じの『デク』だ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

宿舎内

 

 

「………何か外が騒がしいデスネ。」

 

 

日中のカメハメの特訓によりダウンしてしまったテリーの介抱の為に肝試しを欠席していたポニーはテリーと二人で宿舎の一室にいた

 

「……………。」

 

疲れからかテリーは泥のように眠り安らかな寝息をたてていたが

 

 

ズズズズッ!!

 

グラグラグラッ

 

 

 

「What ?ナ、ナニがオキテルノ!?」

 

 

外から大きな地鳴りが響き合わせて宿舎も揺れる

 

 

 

「………………ッ!!」カッ

 

 

 

 

 

 




目覚めよ、ヒーロー!

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