「以上で全体ミーティングを終了する。各自仕事に戻ってくれ」
「「「お疲れ様です!」」」
お偉いさん方とのミーティングを終えた悠司は
ゲッソリしていた。
「やっぱ堅苦しい話聞くのはめんどくさい…」
特に誰と話している訳ではなくその言葉は空気に消えていく。悠司は時折独り言を出すのだがそれは癖であって特に深い意味は無い。
悠司はパスパレの練習しているフロアに向かおうとエレベーターを待っていると後ろから声をかけられる。
「それ、社長が聞いてたらやんわり怒られるよ」
「わっ…驚かすなよ、
突然話しかけてきたのはうちの事務所で楽器の整備や管理を行う機材担当の
「悠司はこれからパスパレ?」
「まぁな。そういう俊一郎は?」
「パスパレの練習が終わったあとの楽器メンテ。
今日はちゃんとメンテナンスしないといけない日なんだよ」
二人とも行先は同じなようで、到着したエレベーターに乗ってスポーツルームに向かう。二人の間には他愛も無い雑談が繰り広げられていてそれは近況報告だったり、仕事の話だったりする。ちなみに俊一郎はパスパレの機材オタク、大和麻弥の幼馴染でそのツテで事務所にアルバイトとして採用されたらしい。今では社員同様の扱いをされているが本人は気にしていないとか。
「そっか。じゃあ麻弥さんと実質デートってわけだ?」
「俺と麻弥はそんな関係じゃないっての。…つかいつまで「さん」付けなんだよ。いつも思ってるけどさ。同級生じゃん」
「同級生ではあるけどそれ以前にマネージャーと芸能人の関係だからな」
「それは千聖の受け売りか?」
「それもあるが関係性は事実だ。それに今更呼び方変えるのも変だろ」
「ははっ、それもそうだな…っと、着いたみたいだな」
エレベーターはいつの間にかスポーツルームに到着していた。
エレベーターを降り、スポーツルームの前に置いてある椅子に腰をかける。悠司はいつもそこでパスパレの練習が終わるのを待っている。
ただ待ってるのではなくたまには書類を作ったり
千聖のスケジュールを組んだりと仕事をしながら待っているのだ。
数十分して、部屋の中から女子の声で「ありがとうございました」と元気な声が聞こえてくる。これは練習が終わった合図で暫くすると中からパスパレのメンバーが出てくる。各々汗を拭いていたりドリンクを飲んでいたりとまさに練習後、という風景だった。
「お疲れ様です、みなさん」
「悠司もよ。ちゃんとミーティングしてきた?」
「勿論ですよ。自分だけの話じゃないので」
千聖が声をかけると痛い所を突かれる。先程「めんどくさい」の台詞を聞いていた俊一郎はニヤニヤと笑っていた。
そんな千聖と悠司の様子を見てか彩を初めとするパスパレメンバーが悠司の周囲に集まっていた。
それを確認してか悠司が再び口を開く。
「みなさんの耳に入れておいて欲しいのですが、今日のミーティングでパスパレのライブをする事が決まりました。」
「ライブ!本当に!?」
悠司の言葉に即座に彩が食いつく。それに次いで他のメンバーも声を上げる。
「いいねー!るん♪ってしてきた♪」
「ジブン、ライブするのが久々で少し緊張します…」
「マヤさんはたくさん練習していました!だからダイジョウブです!」
燃える日菜に少し自信なさげの麻弥。それを慰めるイヴと如何にもパスパレらしいといった風景がそこにある。
「詳しい日時等はまだこれからなのですが…決定した事だけ伝えておこうかと」
「うん!ありがとう悠司君!」
「悠司…ちゃんと仕事してるのね」
「千聖さんはマネージャーを何だと思ってるんです?」
彩からの感謝も千聖の毒が混じった言葉によって皮肉へと変わる。別に言われても何とも思わない悠司の鋼メンタルが発動。数年千聖の専属マネージャーとして働いていると、千聖から毒舌を受けることもある。それに慣れた悠司の心は鋼に変わっているのだ。
「あ、あと今日は機材メンテナンスらしいので楽器は事務所に置いていってくださいね」
先程俊一郎から聞いた話をそのまま伝える。楽器は全て専用のケースに入れられ一箇所に留められていた。
「俊さん、機材メンテナンス手伝います!」
「今日は機材室でやるから行こうか」
俊さんというのは麻弥が俊一郎を呼ぶ時の渾名で流石幼馴染といった会話が広げられていた。麻弥と俊一郎はそのまま機材室へと向かう。
「あ、私アルバイトがあるから先に上がるね!おつかれさま!」
「イヴちゃん、一緒に帰ろ?」
「はい!もちろんです!」
彩、日菜、イヴが荷物を持って帰っていく。その後ろ姿を見て悠司は「お疲れ様でした」と一礼。相手が見ていなくてもここまでするのが悠司なのだ。
「私たちも帰りましょうか」
「そうですね」
千聖も既に荷物をまとめてあったそうでその荷物を悠司が持つ。そして三人に少し遅れる形で事務所を後にする。
「ところで…明日の歓迎会はどうするのかしら?あの子達、行く気満々よ?」
「まぁ予定は空いてますし…」
「悠司」
「はい、何でしょう?」
「二人きり」
「…はいはい」
「はいは1回でいいのよ」
「は〜い」
「覇気は付けなさい」
コントのようなやりとりで悠司のマネージャーモードからフラットな話し方に変わる。
「歓迎会…というかただの食事会だよな」
「まぁそれもあるわね。寧ろそっちの方が気が楽でいいんじゃない?」
「まぁそうかもな。じゃあ行こうかな…断っても申し訳ないし」
「ふふっ、そう言うと思ったわ。彩ちゃんたちにも伝えておくわね♪」
「千聖さん、楽しみなのか?」
「それなりに…ね♪」
行くと決めてから千聖の機嫌が少し良くなった事に疑問を思いつつも駐車場で車に乗り込む。帰りは千聖を家まで送り届ける事がマネージャーとしての義務なのだ。
「そういえば悠司。今に始まった事じゃないのだけれど…どうして二人きりの時もさん付けなのかしら?」
「それ、今日俊一郎にも言われた。そんなにおかしい事か?」
「何というか…距離を感じるのよね。別に呼び捨てで良いわよ?」
「それは俺がもう少し偉くなったらかな」
「じゃあ可能性はゼロね」
「酷いこと言うな…」
たまに出る千聖の毒舌を受けながらも運転をする悠司。これが仕事終わりの車中風景なのだ。時にはどうでもいい雑談をしたり、次の仕事の確認をしたりと言葉は砕けていても悠司と千聖が言う「マネージャーと芸能人の関係」が成り立っているのだ。
この日は雑談がメインで千聖の家に着くまで話をしていた。車を玄関の前に停め千聖を降ろす。
「それじゃあまた明日。迎えに来るから」
「えぇ。それじゃあお疲れ様」
「お疲れ様」
悠司は再び運転席に戻り今度は自宅に向かって車を走らせる。
千聖は車が見えなくなるまで行く先を見つめていた。
「呼び捨ては芸能人とマネージャーの関係なんて関係ないのにそれをわかってくれないのよねぇ…どうしたらわかってくれるのかしら」
実は千聖は「距離を感じる」と言ったがそんなのは関係なくただ呼び捨てで呼んで欲しかっただけだったのだ。
「いつかは''千聖"って呼んでもらうんだから…♪」
フラグっぽい何かを立てた。
千聖さん可愛いけど書くとなると難しいなぁ…
次回もよろしくお願いしまーす!
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