それ行け我らのカツウォヌス!   作:なちょす

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回遊、突き進むは魚道

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 身を焼くほどの太陽光が空から注ぎ、耳には沢山の水が満ち引きする音が流れてくる。あれからどれだけの時間が経ったのだろう。たまにはこうして大きな大の字を描き、太陽の下で過ごすのも悪くないのかもしれない。

 

 状況が状況で無ければ、だが。

 

 横にいるのは目を回した子供に、胸のあたりまで砂に埋もれた大男。そしてビチビチと跳ね回る巨大な魚。何だこれ⋯なん⋯本当に何だこれ⋯⋯。

 

「うぅ〜ん⋯⋯」

 

「────。─────。」

 

 カツウォヌスが暴れ回ってからすぐ、俺達は1つの島へと突撃した。無論、『彼の意思(御心のままに)』だ。大量の水が浮いている、さながら巨大な水溜まりの中へと突っ込んだ俺達は、水を得た魚の様な⋯と言うか魚の思うがままの行動に振り回され、気づいたら激流に押されながら空へと放り出されていた。原因は恐らく最後に見たあれだろう。呼吸困難の中薄らと目を開けた時には、カツウォヌスは何かにぶつかっていたのだ。

 

 例えるならそう⋯⋯巨大な水龍。手足の無い長い群青色の身体。その身体を取り巻く激流とも言える渦潮。神々しささえ感じられるその龍に、同じく神々しい我らがカツウォヌス様はなんの躊躇いも無くぶつかって行ったのだ。

 

 そりゃキレるわ。

 そりゃ間欠泉みたいな水圧でぶっ飛ばされもするわ。

 

 だからこそ、どこだか分からない場所に放り出された俺達はこうして倒れているしかないのだ。

 ありがとう、カツウォヌス。

 次やったら怒るぞ、カツウォヌス。

 取り敢えずこうしちゃいられん。まずは1人ずつ起こさなくては。

 

「おい。いつまで目を回してんだ」

 

「うぅ〜ん⋯後5分⋯⋯」

 

「寝てるだけかいッ!」

 

 クッソ、なんて奴だ。こんな状況でもそんな無防備な姿で寝れる辺り、逆に羨ましくなってくらぁ。

 どこから湧いて出たか分からない黄色い雲みたいな塊が子供を乗せてフワフワと漂い出すし。何だこれ。触ろうとしても俺の手は空を切るばかりで一向に掴めやしないし、ましてや人が乗れるなんざ思えない。何だこれ。

 

 そして何でコイツは尻尾を俺の手に巻き付けてくるnあぁ畜生、もふもふじゃないか⋯⋯。

 

「────。───。」

 

「⋯⋯ごめん、忘れてたよ。せーのっ!!」

 

「はっはっはっはっは!!まさか地面に刺さるとは思わなかった!助かったぞ、通りすがりの者よ!」

 

「ぷぇっ!砂が口に!!」

 

「おぉ、すまない。む⋯?先程の少年では無いか」

 

「先程の少年ですよ。取り敢えず砂を払って下さい」

 

「うむ」

 

 しかしデカい人だ⋯⋯さっきは空の上だったから何となくしか分からなかったが、本当に俺の頭がこの人の胸のあたりまでしか無い。もっと言えば、身に付けている鷲装束のお陰で更にデカく見える。

 

「改めて礼を言わせて貰おう。我はネツァワルピリ。誇り高き『翼の一族』の王である。」

 

「はぁ⋯⋯王ですか」

 

「王である」

 

 余程大事な事らしく、同じ言葉を2度告げられた。まさかそんなわけないと思った考えが事実だったとは、この世界は何が起きるか分からんもんだなぁ⋯⋯。

 

「はっはっは!少年よ、もうアンチラ殿に心を許して貰えたのか!」

 

「アンチラ⋯?」

 

「そこで気持ち良さそうに寝ている少女の事だ」

 

 何と!このガk⋯子供がまさかの女の子だったとは!『ボク』って言うから男の子かと思っていたが⋯小僧とか言わなくて良かった。確かにそう言われれば格好や雰囲気が何処と無く年端もいかない少女の様だ。てことは何だ、俺はそんな少女のマジ蹴りを食らって流れ星になりかけたのか。良く生きてたな、俺。偉いぞ、俺。

 

 しかし⋯ネツァワルピリの言う事は果たして正しい事だろうか。俺には、心を許したと言うより眠る為の手頃な止まり木があったから掴んだとしか思えない。だって猿っぽいし⋯⋯。

 

「所で、まだ名前を聴いていなかったな」

 

「あーっと⋯俺は、その⋯⋯」

 

「ホントですってボス!!」

 

「しつこいねぇ⋯夢でも見たんじゃないのかい?」

 

 俺が自己紹介をしようとした時、遠くからこちらへ歩いてくる集団が見えた。一見ゴロツキや海賊にしか見えない男達に、『ボス』と呼ばれるTHE女頭領みたいな格好と口調の1人の女。出来ることなら関わりたく無いが───。

 

「ん?アンタ達、こんな所で何してんだい?」

 

 そうもいきませんよね。知ってます。

 

「えっと⋯⋯」

 

「ここは俺達のシマだ!返答次第じゃ、多少痛い目を⋯あだっ!?」

 

「変に威嚇してんじゃないよ。アタシらの印象が悪くなっちまうじゃないか」

 

「す、すんません⋯」

 

「あっはは⋯いえ、大丈夫です、はい。怪しいのは確かなんで」

 

 鷲男に雲の上で眠る少女。その中央に立つ男。いつの間にかビチビチと跳ね回っていたカツウォヌスは姿を消していたが、誰が見たって今の俺達が普通の集団に見えるわけが無い。

 

「じ、実は船がトラブルを起こしまして⋯目が覚めたらここに流れ着いてたんですよ」

 

「はっはっは!船と言うより魚むぐっ!!」

 

「ワルピリッ!!」

 

「ん〜?まぁ別にいいけど、今は早めに帰った方が良い。ここいらも最近物騒だからね」

 

「と、言うと?」

 

「ちょっとばかし厄介な奴が暴れ回ってるのさ。少し前にお節介な騎空団の連中と協力して大元は叩いた筈なんだけどね⋯⋯」

 

「はぁ⋯」

 

 女頭領は、参ったと言うような身振りをするがとんでもない。彼女の目は、今すぐにでも戦いに身を投じんとする戦士の目をしていたのだ。

 

 騎空団と呼ばれる存在は聞いた事が無い。だが団と言うからにはそこそこの人手が居るのだろう。こんな奇天烈パーティーとは比べ物にならない様な凄腕の戦士や施設、暖かい食事に囲まれた生活だろうな⋯⋯腹減った⋯。

 

「自己紹介がまだだったね。アタシはシグ。このユディスティラ島で漁をしている、ドゥルガ漁団の頭領さ」

 

「あぁ、ご丁寧にありがとうございます。えっと⋯俺も自己紹介をしたいのは山々なんですが⋯⋯」

 

 そこで俺は初めて口にした。自分が分かる範囲での事だが、それが今の俺の全てなのだから勘弁して欲しい。

 先ずは記憶が無い事。性格に言えば、空に落ちる前迄の記憶が一切無い。何故ワルピリ(長いから略す)やアンチラが俺の傍に居たのか。何故カツウォヌスが首飾りから現れるのか。俺は誰なのか。

 

 何一つ分かりはしない。

 

 分かるのはカツウォヌスが青い何かに突撃した事と、そいつの怒りを買って今こうして心優しい漁師さん達に囲まれている事だ。

 

「思い出せないって事は名前が無いって事かい」

 

「そういう事っすね⋯⋯」

 

「ならば───ライド、はどうであろう」

 

 唐突にワルピリはそう口にした。

 

「⋯⋯何が?」

 

「少年の名だ。何時までも少年と呼ばれては、君ももどかしいであろう」

 

「ライド⋯ライドか⋯⋯」

 

「あっはは!良いじゃないか!お仲間が付けてくれた名前だ、良く似合ってるよライド」

 

 ライド。

 ワルピリが俺に与えてくれた名前⋯不思議と、胸の中にストンと落ちた。鷲丸とか色んな名前を付けられたらどうしようかと思ったが、そんな心配はいらなかったみたいだ。

 何より優しげに微笑むワルピリの顔を見ては、何も言えない。

 

 その時、大きなサイレン音と爆発音が響き渡った。

 

「アルバコアが出たぞぉぉぉおおおッ!!」

 

「ボ、ボス!」

 

「とうとう出やがったね⋯アンタ達は村に戻りな!此処からならそう遠くは無い!!」

 

「あの⋯アルバコアって?」

 

「最近ここいらを荒らしてる⋯バケモンだよ」

 

 シグさんがそう口にしたのと同時に、傍に切り立っていた岩肌が轟音と共に弾け飛んだ。背中に担いだ槍でワルピリが全て砕き落としたが、姿を現したソイツは、依然突き進む事を止めようとはしなかった。

 

「ライドッ!!」

 

 既の所でワルピリに抱き抱えられた俺はそのまま何とか突進を避けることが出来た⋯⋯が、砂煙の晴れる前に再び突撃してきたアルバコアは、遂にその正体を現した。

 

「はぁっ!!」

 

 掛け声と共にワルピリがアルバコアにぶつかり、砂煙が風圧で払われた。

 

 銀地の身体に黒い背中。そこには橙色にも似た色の唐草模様が描かれている。

 風を受けた帆船の帆のようにピント張りつめた鰭。

 カツウォヌスと同じ赤い瞳。

 カツウォヌスと同じ鋭い牙。

 カツウォヌスと同じ臭い。

 

「丁度こういう奴だよ⋯!!」

 

 

 つまり───

 

 

「⋯⋯魚かーい」

 

 

 カツウォヌスの倍はあろうかという巨大な魚が、姿を現したのである。

 

「はっはっはっはっ!!何とも活きの良い魚であるな!!」

 

「嘘、だろ⋯?アルバコアを真正面から止めちまうなんて⋯⋯」

 

 荒くれた皆さんが驚くのも無理は無い。と言うか俺も驚いているさ。だってワルピリさん、素手だもの。槍を横に突き刺したと思ったら、何の躊躇も無く両手で押さえてるんだもの。

 もしかしなくてもこの人⋯すっごく強い人だ。豪快で快活で強くて王様。ステータス振りすぎじゃありませんかね?

 

「アンタ!あんまり1人で無茶するんじゃないっ!ソイツは普通の魚とは違うんだ!」

 

「はっはっは!もっともっと攻めてくるが良い!力比べといこうではないか!!」

 

「────ッ!!」

 

「ははは⋯⋯聞いちゃいねぇっす」

 

「全く⋯!」

 

 その時、きゅうっと小さな音がした。ワルピリは言わずもがな、恐らく他の人達も聞こえてはいないのだろう。何なら俺も忘れていたぐらいだよ。ここにもう1人居たって事。

 

「シグさん」

 

「何だい!」

 

「アルバコアって⋯食えるんですかね?」

 

「はぁ⋯?」

 

「いやぁ、腹減っちゃって⋯丁度3人で食えそうなのが目の前に居ますし」

 

「いや⋯食えるかどうかは試した事無いけど⋯⋯食えるんじゃないかい⋯?」

 

「なら⋯食うしかないっすね」

 

 こちらの気持ちを察したのかどうかは知らないが、腕に巻き付いているもふもふが徐々に腕から離れていった。果たしてどこから聴いていたのか分からないが、働かざる者食うべからずだ。俺は何とかして料理をするし、ワルピリは奴を抑えてくれている。後は仕留めるのみ。

 

 そうだろ?寝坊助さん。

 

 

「頼んだ───アンチラぁッ!!」

 

 

 頭の上に乗っかる小さな足。日照り差す砂浜の上を、影が滑って行った。

 全ては飯の為に。

 

「頼まれたよ、ライドッ!」

 

 名前を呼んだ。

 名前を呼ばれた。

 本当に、どっから狸寝入りして聴いてたんだか⋯⋯けど、今はそんなアイツが頼もしいぐらいに思えた。

 

「ネツァワルピリさん、肩をお借りしますっ!」

 

「おぉ、アンチラ殿も目覚めたか!随分と張り切っているな!」

 

「ご飯───ごほんっ!降りかかる災いは祓うのが、ボクの役目なので!」

 

 俺の頭からワルピリの肩に飛び乗ったアンチラは、そのままビチビチと動くアルバコアの背中を駆け上がり空高く飛び上がった。

 

「ドカーンとやっちゃうよ!天上天下!如意自在!行っけぇー!『如意金箍棒(にょいきんこぼう)』ッ!!」

 

 彼女がそう叫ぶと、手にした棒状の杖がその距離を物凄い速度で伸ばしていく。獲物が長ければ長ければ長い程、振った際に先端の速度とそこに加わる力は早く、大きくなる。3~4m程の棒を振り回せばそれだけでも強烈なものだろう。だが彼女は自らの身体を回転させることにより、更に遠心力まで加えたのだ。オマケにしては暴力的すぎる火力と空を切り裂く音。

 

 もうお分かり頂けただろう。

 

「───────ッ⋯⋯!」

 

 そんなものを側面からまともに喰らった魚が、無事では済まない事に。

 アルバコアは湾曲を描き、傍にあった崖へと吹き飛ばされていった。

 

「よし!一件落着!」

 

「えっぐ⋯⋯」

 

「は⋯はは⋯⋯本当にアルバコアをやっちまった⋯」

 

 ポカーンとした皆様、お気持ちは察します。

 ですがここは1つ手を貸して頂きましょう。

 

 ⋯⋯捌くかぁ⋯。

 

 

 

 

 この後2時間掛けて、滅茶苦茶アルバパーティーした。




メンバー構成

ライド:主人公。命名、ネツァワルピリ。魚介類に愛されし男。

シグ:デカい。女頭領。デカい(確信)。

アルバコア:ビンチョウマグロの英名。マグロとしては小型の部類で全世界の熱帯・温帯海域に生息する。正面から見た際に目立つ長い胸鰭を鬢=もみ上げに見立てた事から名前が付いた。鮪節やビントロ、シーチキンとして有名。
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