「そう言えば何でクレアはアンタの事、呼び捨てにゃの?」
「はっ?何だいきなり?」
黒歌の質問により部屋にいる筈の無い者たちが声を上げる。
「そうだな、私も気になっていた。」
「私も。どうして?」
「俺も気になるな、教えてくれよ、テレサ?」
私の部屋に現魔王の一人であるサーゼクス、その眷属にして女王であり妻のグレイフィア、残りは堕天使トップのアザゼル…図らずも悪魔、堕天使…実質二大勢力のトップがいるという状態である……何でこうなったんだ…?
切っ掛けは…今回オフィーリアが私に接触して来た事実を重く受け止めた黒歌がサーゼクスに連絡する、と言い出した…それは別に良い…アイツが何を考えてるか分からないが奴の言葉から推測するに近日中に再び私と接触して来る可能性は高く、それが私一人の場合なら良いが会談の場を襲撃して来る可能性がある…既に注意喚起はしてあるが一応、改めて伝えておいても良いだろう。
……そうだな、黒歌の判断は何も間違って無い…問題は私の事を心配したサーゼクスとグレイフィアの二人が家に来ると言って聞かなかった事、加えて…「あいつが来るなら丁度良い…後々の事考えて俺も直接顔を合わせて話したいと思ってた所だからな…止めても無駄だぜテレサ…これはもうお前一人の問題じゃねぇからな。」…と言ってアザゼルがシェムハザに帰れない報告の電話をかけた事か(あの時電話からはほとんど悲鳴に近い声が響いて来た……私を恨まないでくれることを切に願う…)
という事で、狭いアパートの茶の間の狭いテーブルを囲んで二大勢力のトップが非公式とはいえ、揃う事になったわけだ…ちなみにクレアはミリキャスと一緒に部屋で遊んでいる…あー…胃が痛い…これは本当に気の所為なのか…?と、そこで思考を打ち切る…起こってしまった事はもう仕方無い…先ずは…
「…今、そんな事気にしてどうすると言うんだ…お前らはこれからの事を話し合うためにこんなクソ狭い部屋に集まって来たんだろうが。」
逸れてしまった話の方向性をさっさと元に戻す事…それが私のやるべき事だ…そもそもなぜ私が進行しなきゃならないんだ…私は一応どちらの勢力にも正式には所属していない一介の賞金稼ぎだぞ…戦闘の実力だってこの二人に関しては一応私より上だろうに…
「そうは言ってもだね、議題に上がった以上処理すべき案件だと思うのだよ、私は…ほら、議題を上げた、黒歌はもちろん、グレイフィアとアザゼルが興味津々じゃないか。」
「おいおいサーゼクス…そりゃねぇだろ。お前だって気になってんだろ?俺たちを出汁にすんじゃねえよ…なぁ?アンタもそう思うだろ、グレイフィアさんよ。」
「…本当に馴れ馴れしい方ですね…でも、私も同意見ですわ。」
「ほらテレサ、皆気になってるみたいだからさっさと答えるにゃ。」
……黒歌め…何時か絶対何らかの形で報復してやるからな…!
「…答えてもいいが、別に大した話じゃないんだよ…クレアを引き取る際、私の事を何て呼んだらいいのかとクレア本人に聞かれた。…私は母親なんて柄じゃないし…立場としては姉が良いと言った…そしたらお姉ちゃんと呼ぼうとしたから私が全力で拒否して……何だ、お前ら?」
私がそう言うと四人が冷たい目で私を見て来る…何なんだ…?
「クレアはお姉ちゃんと呼びたがったのに断ったの?」
「テレサ…それは…」
「おいおい…そりゃねぇだろ。」
「テレサ…貴女…」
「……そんな目で見るな…お姉ちゃんなんて呼ばれるのはどうしてもしっくり来なかったんだ…」
どうして私がそんな視線を向けられなければならない…?
「…さっきも言ったが…今そんな話良いだろ?さっさと本題に戻ろう。」
取り敢えず私はこの話を打ち切ろうとしたが、私は結局それからずっと冷たい視線を向けられ続け、いたたまれなくなり…とうとうその場で頭を下げる羽目になった。