用務員の仕事は本来、学校の見回りが主であり、書類を大量に捌くことでは無い。…見回りと言っても、別に不審者がいないか見るわけでも無い…そもそも滅多に来ないしな…
少なくとも昼間あいつがやっていた時は外部から不審者がやって来た事は無いようだ…まあどうせ本当に来た場合、一介の用務員に出番は無いが…制圧出来ない事も無いが、普通は契約してる民間警備会社か、警察に連絡するのが普通だろう……話がズレてしまったが、学校を見回る理由は…
「学校内の備品の点検…?」
「そうだ…壊れている物があったら後で修理を依頼出来るようにメモしたりだな、後は、自分で修理出来るものならその場でしてしまうわけだ…最も、今の私は回れないがな…」
あいつは一般生徒の知り合いは結構多い…特に女子生徒に人気があった様だ…あいつは迷惑していた様だがな…別人だと気付かれかねない以上、会うわけにはいかない…そうでなくても私は休みを取っている事になっているから、授業の始まってしまった今、用務員室からも迂闊に出られないのだが…
「それ、私がやっても良いかしら?」
「ん…まあ良いんじゃないか?…生徒に聞かれたら臨時の用務員と答えろよ?」
「分かったわ。」
「一応地図を渡しておく…本当に良いのか?…全部回ったら結構かかるらしいが…」
「良いのよ。どうせ暇だし…それより悪いわね…この地図見る限り、どうも今日はもう書類手伝えなさそうね…」
「良いさ、これだって仕事だからな。」
「そう。じゃあ行って来るわ「オフィーリア」何?」
「気を付けろよ?右手はまだ万全じゃないんだろ?」
オフィーリアの右手は発見され、グレイフィアの手によって届けられたが、曰く…
『発見時は泥だらけの上、その…虫が集っていまして…一応洗いはしましたが…』
……オフィーリアも戦士だからな…多少嫌そうな顔はしたものの、それ程気にする事無く腕の修復作業に入った…結果としてくっつきはしたものの、時間がたったせいなのか、それとも不純物が混じったせいか、今もあまり動きが良くないらしい…
「大丈夫よ。ただ、学校内を見て回るだけでしょ?それじゃ、行ってくるわね。」
「ああ、行ってらっしゃい。」
「行ってきます…ふふ。何か良いわね、こういうの。」
オフィーリアが部屋を出て行った。書類に目を落とし、止めていたペンを動かす…
…携帯の着信音で我に返る…誰だ…?…ん?
「オフィーリア?…もしもし?」
『ごめんなさい、忙しいのに…』
「別に構わない…何かあったか?」
少なくともこいつはこっちが忙しいのを知ってて雑談目的で電話する様な奴じゃないだろう…
『それがね…どうも女子更衣室に覗きが出たらしくて…』
「外部の人間か?」
『それが…どうもここの生徒みたいで…どうする?既に女子が追ってるみたいだけど、私も追った方が良い?生徒じゃ下手に警察呼んだらさすがに不味いでしょ…?』
まさか…
「二人組の男子生徒か?」
『いや、男子に決まってるでしょ。人数は確かに二人みたいだけど…』
多分、あいつらだな…
「すまない、私の言う通りにして貰えるか?」
『良いわよ?何をしたら良いの?』
「その二人を現在追ってる女子より先に追いついて制圧しろ。」
『えっ…?』
「大きな怪我さえ負わせず、学校の物さえ壊さなきゃ何をやっても良い…あっ、後多分その二人撮影もしてるな…カメラやカメラになるものは二度と復元出来ないように完全に粉砕しろ。」
『えっ…ちょ…本当に良いの…?』
「そいつら恐らく常習犯だ…どういうわけかこの学校では覗きと盗撮では退学にならんしな、反省を促す為にも徹底的にやってくれ。」
『まあ…そういう事なら…取り敢えず怪我させないのと、学校の物を壊さなきゃ何をやっても良いのね?』
「ああ…というか、どうせもう追ってるんだろう?」
こいつが一々私の指示なんか仰ぐとは思えない。…ん?
「そう言えばお前男性恐怖症だったよな?大丈夫なのか?」
『あら…訂正してなかったわね…私、もうある程度克服してるわよ?少なくとも向かい合って会話したり、軽いボディタッチ程度なら問題無し。…そう言えば貴女の記憶には無いの?…私、二度目にあの子と会った時は男連れだったのよ?』
「そうだったのか…それなら任せるが…気を付けろよ?記憶にある限りそいつらそれなりに人間離れした動きをするらしいからな…」
『冗談…では無さそうね…分かった、気を付けるわ。』
「制圧し終わったら、追って来た女子に引き渡すんだぞ?じゃあな。」
電話が切れる…あの二人ごときにオフィーリアが遅れを取るとは思えないが、万が一という事もあるからな…