「娘を助けて頂き、本当にありがとうございました!」
オーフィスたちが出て行って、三十分程してあいつの母親がやって来た。サーゼクスの事はさすがに知っていた様なので、私が自分の名前を告げるといきなり礼と共に頭を下げられた……やれやれ…今日は朝から精神的に疲れる事ばかりだな…口を開く前に一応頭の中で言う事を整理する…さて…
「…頭を上げてください。私もたまたま通りがかっただけですので…」
「でも…娘の恩人ですから「上げてください。それでは話も出来ません…貴女も詳しい事情をお聞きしたいでしょう?」…はい…お願いします…」
私がそう言うと漸く彼女は頭を上げてくれた…勘弁してくれ…ただでさえ、この世界に来てから敬語もろくに使った事が無いというのに…
「とは言え…申し訳ありませんが、私もこの学園の用務員ではあるとは言え、ここ最近は訳あって休みを取っていまして…彼女が倒れた時の事は知りません…取り敢えず、私は彼女が襲われた時の事しか話せませんが…宜しいですか?……後で彼女を保健室まで運んだ私の同僚を呼びますので…」
私が悪いのは分かっているが、私だけがこんな目に遭うのは何となく癪だ…こうなったらオフィーリアも巻き込んでやる…!
「はい…お願いします…」
さて…先ずはどう話したものかな…?
「…という訳です…」
取り敢えず私とオーフィスの事情は伏せ、私が見たものをありのまま話す事にした……まあさすがに相手がナイフを出して来た事や、私が刺された事は省いたが…それに…
「それで…昨夜の事ですが…」
「テレサさんの家に泊めてもらったそうで…」
これに関しては当然除く訳には行かなかった…ふぅ…参ったな…
「…一応助ける事こそ出来たものの、彼女は怯え切っていまして…聞けば家に帰っても誰もいないとの事で…」
「最近は仕事が忙しくて…」
「あー…いえ、責めてる訳ではありません…まあ、それで私から半ば強引に泊まって行く様、提案したんです…家は近くとはいえ、彼女を一人にするのは不味いと感じましたので…最も、彼女の制服が汚れていた上に、破れていたという事情もありまして…そう言えば…今朝、彼女は私が貸した服を着て家に戻った筈ですが…」
「すみません…今朝は私も家を出るのが早くて…」
「…成程…ところで…」
「はい?」
「こちらこそ申し訳ありませんでした…本当は真っ先に貴女にこの話を伝えるべきでした…」
今度は私が頭を下げる…やれやれ…人に頭を下げられるのは落ち着かないのに自分が下げる事に全く抵抗は感じないものだな…まあ、全く悪いと思ってない訳でもないが、な…
「そんな…娘の事ですから自分から私に伝えないで欲しいと言ったんでしょう?あの子は何時も私に気を遣いますから…」
……子どもが親に"気を遣う"のは多くの場合、親に心配をかけたくないから、というよりも言った所で何も出来無い…若しくはしてくれないから…というひねくれた言葉が何故か浮かんで来たが、この場で口に出したりはしない。
「それだけではありません…今朝、私は彼女に体調を聞きました……もっと良く確認すべきでした…まさか倒れるとは…思ってもいませんでした…本当に申し訳ありません…」
沈黙が続く……そろそろ誰か何か言ってくれ…首が痛くなって来たぞ…悪いと思ってない訳でもないが、これはさすがに辛い…
「…頭を上げてください…テレサさんのせいではありません…寧ろ貴女は娘を助けてくれたのですから…」
「分かりました…私から話せるのはこれくらいです…後はオフィーリア…あー…今回彼女を保健室まで運んだ私の同僚をお呼びしましょう…少し待っていてください。」
私は理事長室を出ると携帯を取り出し、現在用務員室にいる筈のオフィーリアに電話をかけた…数回呼び出し音が聞こえた後、声が聞こえて来た。
『…もしもし?…何よ、今忙しいんだけど?』
「今、あいつの母親が理事長室に来てるんだが…」
『……それで?』
「お前に話して欲しいんだ、あいつを運んだ時の事をな…」
『…あんたにも電話で話した筈だけど?』
「実際に運んだお前が話した方が伝わりが良いだろう?」
『…ふぅ…仕方無いわね…今から向かうから、先方には少し待つ様に言って。』
「ああ。分かった…」
私は切れた電話を仕舞うと理事長室に戻った。