数分後、母親はオーフィスに手を引かれて保健室に入って来た。
「ご迷惑をおかけして…あの、何か…?」
恐らく私は今、苦笑いを浮かべているのだろう…何故なら…
「…いえ、実は娘さんからも今朝同じ様な謝罪を受けまして、ね…少なくとも私たちは特に迷惑はしてないのでお気になさらず…」
「はい…」
「ところで…どうします?娘さんをこのまま連れて帰りますか?」
「はい…早く帰って休ませてやりたいので…」
「…ここにいる黒歌の話なんですが…」
「え?」
「当初黒歌がこの子、オーフィスと共に保健室に着いた時、暴れて手が付けられなかったそうなんです…なので敢えて彼女と面識の無かったと思われる保険医に出て行って貰った上で寝かし付けたそうで…」
「……母親の私に対しても暴れる…そう仰りたいんですか?」
「…失礼な事を言っているのは重々承知しています…ですが…一応注意はしておいて下さい。」
「…分かりました。何から何まですみません…」
「さっきも言いましたが、お気になさらず…では、私たちはこれで失礼します。もし、何かありましたらここにご連絡下さい。」
私は携帯の番号を書いた紙を渡し、黒歌とオーフィスを連れ、保健室を出る…やれやれ…やっと一息付ける…私はネクタイを緩めた。
「さて、帰るか「テレサ?元々着て来た服はどうしたにゃ?」…そうか。理事長室に置きっ放しだな…仕方無い、取りに行くか。」
「…どうやら話は済んだようだね。」
「ああ。後は頃合いを見計らって娘を連れて帰るだろう。」
私は自分の服が入った紙袋をサーゼクスから受け取りながら答えた。そうだ…さっきの話を聞いておこうか。
「サーゼクス、ちょっと聞きたいんだが?」
「何かな?」
「…あいつの記憶は消せないのか?」
「…黒歌、君の意見は?」
「…私の仙術でも多分記憶は消せるにゃ…でも…止めておいた方が良いと思うにゃ…」
「…つまり君も同意見、という訳だね…恐らく理由も同じだろう…彼女は危機に見舞われていた…最悪命を奪われるとも感じた事だろう…彼女にとっても多分、これから先一生無い程印象に残った出来事だった筈だ…そうなると無理に消しても完全には消えない可能性が高いんだ…」
「記憶の異常には多分すぐに気付くにゃ…別の何かがあったと偽の記憶を植え付けても…きっと今回の出来事が印象的過ぎて…それにそれだけならまだしも…最悪、悪夢としてずっと苦しむ羽目になるかも…」
「成程な…」
安易に消せば済むと言うものでも無いんだな…
「…テレサ。」
「どうした?」
帰り道、オーフィスが声をかけて来た。
「あの子の家に行きたい。」
「……何故?」
「…心配…だから…」
「…黒歌。」
「…しょうがないにゃ…分かったにゃ。でも今日は駄目にゃ。後日私と一緒に行くにゃ。」
「…分かった。」
ま、あいつは二人には懐いている様だしな…寧ろ良い影響を与えるかもしれんな…