人にやれと勧めるつもりは毛頭無い…が、模擬戦ではなくその上…命を賭けての戦いをすると意外に得られる物は多い…一番の利点はそのままの意味になるがそういう経験をしているという事だ…二回目、は無理でも大体三回目以降は元々極端に争い事が苦手でも無い限りは最早作業の様に事を進める事が出来る。
…何度も言うがやれと言うつもりは無い。しないで済めばそれに越したことは無い…実際、意味も無く、他人に殺し合いの相手をさせる奴は単なる異常者でしかない(それに応える奴も異常だ…)この考えは比較的平和だったあっちから、こうして日常的に刃を合わせる事が多いこの世界に転生して、生きて来た今も変わらない…いや、気を抜き過ぎればあっさり死んでも可笑しくない世界に生きているからこそ、尚更そう思ってしまうんだろう…
「どうしたキリト?ボケっとしてたら危ねぇぞ。」
「手は止めて無いだろ?」
シウスの言葉にそう返しながらフェルウォームの胴体を穿った剣をこじりながら抜いた。
……戦いにおいて経験の有無の差はやはりそれなりに大きい。実力的にも相手が格下であるならこうして片手間に片付ける事も出来無くは無い。
「つーか緩みもするさ。お前の姿見たらほとんどの奴が尻尾まいて逃げるしな…」
昨日のテンションがまだ抜けてないのかシウスからはずっと殺気とか闘志みたいのが出っ放しだ…いや…比喩じゃなくて見えるんだよ…こう、何て言うか…禍々しいオーラみたいのが…
「雑魚と戦っても仕方ねぇだろ?」
さっきチラッと聞いたが、シウスの旅の目的は剣の腕を磨く為…要は強くなりたいらしいけど…
「…この辺の連中が今のお前にビビらずに向かって来た所で相手にならないだろ?」
どう見ても全力の数歩手前程度の実力を惜しみなく振るうせいでほとんどモンスターの屠殺場めいて来ている場の惨状を見て溜息を吐く…と言うか…
「お前に聞きたいんだけど…」
「あん…?何…だよ?」
後ろにいたぶよぶよした不定形モンスター…俗に言うスライムと呼ばれる奴をこちらに目を向けたまま剣を突き刺し、その剣を持ち上げ、自分の前の地面に叩き落とした後、引っこ抜いた剣を何度も振り下ろして削りにかかるシウスに呆れながら、俺は気になっていた事を聞く。
「…そこまでの実力持ってて何でこんな所にいるんだよ…てかちょっとは自重しろ…見ろよ、お前に合わせられるのが俺しかいないからあの二人が退屈し始めてるぞ…」
こいつ、今朝日課の鍛錬やってた俺の所に乱入して来た癖にまだ足りないのかと思いつつ、俺たちから離れた所にいるラティたちの所に目をやる。
……そこにはこめかみを押さえて頭痛を堪えるイリアさんと、全く暴れられないせいか普段の明るさが消えてずっと渋い顔のラティがいた…
「良いだろ?仕事無い方が楽だろうが。」
「イリアさんはともかく、ラティにはもうちょい割り振ってやれって…」
生来かどうかはよく分からないが、元々客観的に見てもイカれてると言える程のバトルジャンキーの俺程じゃないが、ラティもそういう気はある方だ…元々、俺の過去の話を聞くだけで身体が動き出す程に刺激に飢えてる奴だからここまでお預けを食らうとどういう形になるかは分からないが暴発するかもしれない…
「つーか、もう一つの質問に答えてないぞ。」
「分かんねぇな…何が言いてぇ?」
「…この辺のモンスターはどう考えてもお前より弱い…要するにお前はもっと強いモンスターが出没する所にいたんだろ?」
「かもな…それで?」
「…何でお前はずっとこんな所を彷徨いてたのかって聞いてるんだ。」
「俺が長くここにいたって何で「俺をホットに案内したのはお前だ…それにお前は町に酒場が無いと断言した…少なくとも一回は既に訪れた事あるのは間違い無いよな?」……で?」
こいつ…
「…答えられないのか?」
「…答える理由はねぇな。どうしても聞きたきゃ…」
シウスはそう言って俺に剣の切っ先を向けた。
「…別にそこまでして聞きたい訳じゃない。嫌なら良いさ…」
「…そうかよ。」
シウスはそう言って剣を背中の鞘に納める…正直、こいつとはあまり何回も戦いたくない…こいつは基本、本気で向かって来るからはっきり言って非常に疲れる…
「ただ…一言言わせてくれ。」
「何だ「お前の求める答えを俺は持ってない」!…そう、か…」
何となく予想はついてる…シウスが強くしたかったのは自分の剣技よりも心なんだと…どちらかと言えば明確な指標があったのでは無く…何かから逃げる様にしてここまで来てしまったのだと…全く。
「俺はお前の悩みに答えは出せないけどな?」
「ん?」
「これからは俺じゃなく、ラティを見ていると良い…多分、それがお前の為になる」
「…成程な。」
「…という訳で自重しろ…先ずはラティの戦いを見るのが一番の近道だ。」
「おう。」