「七夜?」
「あん?何だ緋村?」
「何故拙者に着いて来る?」
「んなもん暇だからに決まってんだろうが。」
斎藤も今の所動く気が無さそうだしな。
だから今は亡き逆刃刀の作者新井赤空の息子とやらに会いに行く緋村にくっついて来た訳だ…葵屋で寝てると小娘が煩いからな…
「拙者はただ、逆刃刀を打ってもらうだけでござるが…」
「このご時世に刀を打つ物好きがいるかねぇ…」
一悶着あるのは目に見えてる。それにしても…
「…逆刃刀があの新井赤空の作だとはな。」
「知っているのでござるか?」
「直接の面識はねぇ。だが、幕末の頃の刀工の中ではかなり有名だろ。…最も奴の打つ刀は殺傷力を追求し過ぎたが故に癖が強く使い手を選ぶ所か、普通に道場剣法を修めた人間には当然扱えず有名な剣士は誰も手を出して無い事から刀工としては全く成功はしてないとも聞くがな。」
俺も以前新井赤空作の一振をたまたま見る機会があったが…剣士では無い俺でも分かった。あれを十全に振るえる者がいるとすればそれは相当な狂人だろう。
「…何だって相手どころか、持ち主すら危険に晒す刀を打っていた人間が逆刃刀なんて物を打ったんだ?」
「…拙者も詳しい事情は聞いておらぬ。拙者はただ託されただけでござる。」
「…人切り包丁を作っていた人間が人斬り抜刀斎に不殺を説いたのか?それはまた滑稽「違う」あん?」
「拙者がこの信念を口にしたら赤空殿がこの刀を渡してきたでござる。」
「…へぇ。…ん?あの村か?」
「…そう。ここに赤空殿の息子が住んでいるとか…」
「…お断りします。」
俺は煙管を咥え、吐いた煙を見詰めながら二人の会話を聞く。
……新井赤空の息子、新井青空は刀を打つ気は無いそうだ。妥当だな。廃刀令の中、好き好んで刀を打ちたいなんて奴は相当な大馬鹿者だろうさ。……新井青空の女がこちらを所在なさげに見るが俺は知らん。俺は単なるおまけだ。…と言うかこっちは何故か懐いて来るこいつらの息子をあしらうのに忙しい。何度払い除けても寄ってきやがって。
「にゃにゃや。」
「…七夜だ。何の用なんだ、お前は?」
「にゃにゃや、にゃにゃや。」
「…用もないのに人の名前を連呼するな。」
いっそ灸代わりに煙管の中身でも落としてやろうかと思ったが…さすがに俺もそこまで外道にはなれん。だが鬱陶しくてかなわん。仕方ねぇか…。
「…おい緋村、打ちたくない奴に無理強いしても仕方ねぇだろうが。」
「しかし…」
「帰ろうぜ。最悪別の刀を使えば良い。」
勝手に来といてなんかもしれんが…。来るんじゃなかったぜ。何でこんな所まで来て子供のお守りなんぞせにゃならんのだ…。