…手痛い一撃は貰ったがお陰で目は覚めた…
「ッ!…アンタ…中々えげつない手を使うやないかい…!」
「いやいや…食らったのは本当に俺のヘマだよ?でもさ、ただやられるのは俺は我慢ならないんだ…まっ、俺も足斬られた事だし、お相子って事で。」
奴が大腿部の横に刺さった短刀を抜き、投げ捨てる…さて…
「お前さ、忘れてないか?ここは…」
俺は懐から短刀を取り出し、立ち上がる…あの事務所での殺しの時、何となく一本持ち帰っていたんだが…役に立ったな…
「俺の間合いだ!」
奴の喉笛を掻っ切る…この距離なら足が斬られてようが関係無い…ここでこいつを確実に殺る!
「ッ!…アンタ…本当に怖いわ…まるで獣みたいや…」
奴が刀を地面に落とし、短刀を持つ俺の手首を掴んで止める…くそっ!動かん!
「もう動かせんみたいやな。どうやらアンタは基本、打ち合いには向いてない様やな。」
「…いや、ご推察の通り…俺はこう、土壇場になるとどうしても踏ん張りが利かない。」
だから大抵は出会い頭にいきなり殺る…刀を抜かせず…幕末の頃の俺はそうだった…まあ、大半は殺れるんだけど…一定数いるんだよな…思わぬ反撃をする奴が…所謂…本物の連中が。あ~あ…こいつは…どうだったんだろうな…この結果は明らかに緩み切ってた俺のせいだ…相手が強いと楽しくなっちゃって…暗殺だって事、完全に忘れて手の内見せまくるのはあの頃と全然変わらないけど。
「何のつもりや!?」
左足を振り上げ、奴の横っ面に足を叩き込んだ…地面に倒れ込んだ奴の顔面を蹴り飛ばす。
「ヴェッ!?」
思いの外飛んでった奴の上に乗り、喉に短刀を当てた。
「まぁ…少しは楽しめたよ、お前の曲芸。最期に聞いてやる…名は?」
「…先ずはアンタの方から名乗んのが筋やろ。」
「それは失礼…だが、俺は化生の類でね、生憎と人の名を持ち合わせて無いんだよ…俺はただの…人を殺す鬼だ。」
「何やそれ…ならこっちも答える義理は無いわ「ただ…」ん?」
「七夜、と呼ばれた事はあった…地獄でこの名を出せば少しは良い酒が飲めるんじゃないか?」
「…アンタの名、知っとるわ。…人斬り抜刀斎に次いでよう聞いた名…まあアンタの武器は短刀やさかい、あまり興味は無かったけどな…アンタに習って通り名だけ教えたる…ワイは張…刀狩の張や。」
「そうか…じゃあ、逝け。」
短刀を横に引…
「もう止めるでござる。」
「…無粋だぜ、緋村。」
その手を緋村に上から押さえられる。
「既に勝負はついているでござる。」
「チッ…興が冷めた…離せよ、殺しやしねぇ。」
「本当でござるな?」
「ああ。」
緋村が手を離す…俺は張の首に手を掛けた。
「七夜!何を!?」
「慌てんな…気絶させただけだよ。」
張の意識が無くなった所で、這うようにして身体から下りる…少々、血を流し過ぎた…
「緋村…後、頼む。」
俺は地面に寝転がり目を閉じた。