彼とはそれなりに長い付き合いだ…腹の中は読み切れないが、決して根っからの悪人ではないと思っていたのだが…
「…お久しぶりです、ゼストさん。」
「ああ…久しぶりだな。」
「すみません、こんな所に呼び出して…」
「構わん。君のお陰で、俺は今もこうして生きているのだからな…恩人の頼みだ、俺に出来る事は何でもしよう…」
「買い被らないでください…私に出来るのはただ…貴方にこうして少しでも永く、生き長らえさせる事だけです…本来、多少かじってはいるものの…医療については専門外なんですから…」
「…あの男の話を出すのはあまり気が進まないが、君にはこの方が効くか…スカリエッティの奴も太鼓判を押していたぞ、真っ当な医者としてもやって行ける素質が有るとな。」
「…ふぅ…私にとってはこの世界で唯一と言っても良い友人…加えて、並のレベルでは無い超が付くほどの天才からの賛辞です…嬉しくないと言ったら、もちろん嘘にはなりますが…」
「唯一、か…彼女たちは違うのか?」
「…さて、どうでしょうか…あまり時間が有りません…先ずは、貴方の身体を調べさせて貰えますか?」
「ああ、頼む。 」
「…相変わらず無茶をしてる様ですね…まともな場所を探すのが難しい程、貴方の身体はボロボロだ。」
「すまぬな…こうでもしないと、な…」
「…まぁ、今の貴方にとっては唯一の生き甲斐でしょうからね……やはり強いですか、シグナムさんは?」
「ああ。次で最後にはなるだろうが、それでも確実に…奴にはフルドライブで挑む事になるだろうな。」
「成程…では一つだけ忠告を…」
「何かね?」
「次にフルドライブを使えるのは恐らく一度のみ…加えて、使えても短時間のみでしょう…それ以上は貴方が死にます。」
「そう、か…」
「キリの良い所で負けを認めて投降してください…大丈夫です、皆さんも悪い様にはしないでしょうから。」
「そうしたい所だが、な…」
「貴方が死ねばアギトやルーテシアが悲しみます…ご自愛ください。…まぁ、それでもそう長くは生きられないでしょうが…」
「君の薬による延命も、ここらが限界か…」
「悔しいですが、ね…やはり、私は医者には向いてない様で「そんな事は無い、君は私をこうして救ってくれたんだぞ」…ですが…」
「そう自分を責めるな…さて、時間が無いんだろう?一体私に何をさせたいんだ?」
「ええ、そうですね…では一つだけ…ジェイル・スカリエッティ…私は彼を逮捕する気は有りません。彼を逃がす為に協力をして頂きたいのです…」
「…君には私やレジアスを救って貰った借りが有る…しかし、本気か?」
「レジアス中将については完全についで…たまたま間に合っただけなので、別に貸したつもりはないんですがね…彼は既に六課の保護下に入っています…当分は守られますが、ジェイルは違います…評議会の連中の始末にこそ成功しましたが、彼を狙う者は確実に他にも管理局内に存在する…彼を、死なせない自信が無いんですよ。」
「…だから、奴を逃がす…と。何故だ?何故あの男の為にそこまでする?」
「…貴方には分からないかも知れませんが、先も言った通り…彼は私にとって唯一の友人で、ただ一人の私の理解者なんですよ…死なせたくは無い。何より、彼にもその死を悼む人間は居る…」
「…君にとっての奴は、俺にとってのレジアスと同じと言う訳か…納得は出来んが、理解はした。」
「すみません…無理なお願いを…」
「…元々今は奴の側だ、やるのはそう難しい話じゃないだろう…で、俺はどうすれば良い?」
「それについてですが、プランは既に私の頭の中に有ります…全てを予測出来るとまでは言いませんが、恐らく出来る筈です…」
「…ふむ、それは分かったが…それでは質問の答えになってない…俺はどうすれば良いんだ?」
「貴方が他所に漏らすとは思えませんが…万が一の事が有ります…全ては当日になってからと言う事で。」
「…おい、待て…奴がいつ動くか聞いているのか?」
「…いえ、彼とはもうずっと連絡を取っていませんから…ですが、彼の考える事ならある程度は分かります…近い内に事は起きるでしょう…現状貴方には私からの指示ですぐ動ける様、心構えだけしておいて貰えればそれで良いです。」
「……」
「…フッ…強いな、やはり本気で行くしかな…むっ?」
あの日、シグナムと決着を着ける為…フルドライブをしようとした際に届いた念話…
『ゼストさん!今何処ですか!?…いや、何処でも良い…とにかく早くジェイルの所へ!彼が死ぬ!』
…仕方が無い、か…
「…すまんな、シグナム…どうやら時間切れの様だ…後でまた会おう…」
「っ!逃がすか!」
「…それで貴方はあの日…ジェイル・スカリエッティを逃がす為、一時的にその場を離れたんですね?」
「ああ…シグナムには悪い事をしたが、な…スカリエッティは厄介な犯罪者では有るが、俺と親友の命の恩人からの頼みだ…俺に聞いてやらない理由は無かった…まぁレジアスも呆れていたが、本気で怒る気にはなれなかった様だ…ま、仮に奴が自首して来る所まで見越していたのだとしたら…それはそれで大したものでは有るがな…」
「…分かりました…さて、こちらの聞きたい事は全部です…ありがとうごさいま「彼の話はこちらにも届いている…本当に彼が、例の事件の犯人なのか?」…分かりません…しかし、現場で彼の姿が発見されたのは確かです…」
「…本当に?」
「あの日…現場で彼を見付けたのは私の友人ですから…私より以前からの付き合いの様ですし、何かの間違いの可能性は低いと思います…」
「…逮捕するのか?」
「…現状は重要参考人扱いに留めますが、それでも…ジェイル・スカリエッティは消息を経っていた間の数ヶ月間については未だに口を噤んでいます…本人から聞けない以上、それを知る別の人間に話を聞く必要は有ります。」
「……」
「ゼストさん…仮に彼がどう思っていても、私にとって彼は今でも仲間です…ですが、私は執務官です。尤も、今は取り敢えず話を聞きたいだけです…あまり手荒な真似をするつもりは有りません…幸い、彼はあの場で唯一出くわした私の友人にも…ほとんど攻撃をせずに逃走していますしね…」
「…そう、か…そうだな…」
「…ゼストさん?」
「何だ?」
「彼に罪を背負わせたくなかったなら、何故この話を私に?何より、貴方の方にも罪状が追加される事になりますが…」
「…彼は言っていた…もし、自分の仲間が話を聞きに来たら…その時は全てを話して構わないと…尤も、話は聞いたが俺は関わっていないと言う事にしてくれと…フッ…とは言え、俺に恩人にだけ罪を背負わせるなんて事は出来んからな…」
「ゼストさん…」
「彼に会ったら伝えてくれ。俺は…"ここ"で君を待つ、と…そして、歳は離れているが俺は…君を友だと思っていると。」
「…はい!分かりました!ありがとうございました!」
「…ふむ。」
彼について…実は俺が知っている事は少ない…何度か顔を合わせ、会話はしても自分の事はろくに話さない男だったからな…とは言え、スカリエッティを友人だと言う割には奴との共通点は俺の見る限り少なかった…未だに彼が、奴のどんな部分に惹かれたのかは分からない…
「…幸い、時間は有る。」
医者の話では…俺の身体はもう戦闘こそ出来無いが、人並み程度には生きられる程には回復しているらしい…あの日…シグナムとの最後の戦いで、フルドライブを使わなかった事が功を奏したのだろうか…
「やはり、君は医者に向いている…」
今は犯罪者とは言え、俺にも色々昔の伝手は有る…友として、何より先達として…導いてやれる事も有るだろう…
「…早まるなよ?無事に、戻って来てくれ…」