「そう言えば今思い出したんだが…」
「あ?何だ、突然?」
私は珍しく奴と二人きりで飲んでいたが、ふと気付いた事があり、口元まで運んでいたグラスを一度テーブルに置いた。
「以前、イリヤの学校をどうするかという話になっただろう?」
「……んー…ああ、あったな、そんなの…」
奴はしばらく首を捻っていたがやがて思い出したらしく軽く指でテーブルを叩いた……そう言えば奴はあの頃、ルヴィアとの事でストレスを感じていたらしく相当飲んでいたからな…今でこそ和解したようで…前向きに検討はしている様だが…
「とはいえ俺何か言ったか?…実を言うと酔っ払っていてあんま覚えてないんだがよ…」
「…昼夜問わずかなりの量を飲んでいたからな…今思えば良く倒れなかったものだ…」
「そりゃあな…今でこそ歳も歳だからアレだが…部隊にいた頃や傭兵時代はあの倍は飲んでいたからよ…当然だが、ルヴィアの痴態を見せられるより…現地で死体の山を見る方がキツかったからな…」
「……」
私ももちろん同じ物を見た…どうやっても救えない命に絶望した…最も死ぬ直前まで正義の味方を貫いたアーチャーの味わった絶望とは到底比べ物にならんだろうが…
「まっ、そんな話はいいわな…で、結局何が聞きたい?」
「……答えてくれるのか?」
「あのなぁ…お前、俺の経歴大体知ってんだろうが。他の奴がいるならまだしも、この場にお前しかいないのに今更何を隠す事があんだよ?」
「…確かに。ではまず君の本当の出身が何処なのかを「そっちは却下だ。」……」
部隊にいた頃から頑なに話さなかったから気になっていたのだがな…結局答えないのか…言っている事が矛盾している…
「……分かった、言ってみな、それ以外は答えてやるよ。」
「なら、本題だ、君はあの時、定時制高校や通信制高校の説明をしただろう?」
「…したのか?覚えてねぇが…」
「…その時、君はそれを調べた理由として日本に戻った際の最終学歴が中卒だったからだと言った。…ただ、私はそれより前だったと思うが…君から聞いた話では…確か、君は中学卒業後に高校へ行く、行かないという話で父親と喧嘩しその晩家出し、親戚を頼り日本各地を転々とし、やがて海外へ渡り、部隊に入り、その後除隊し、傭兵になったと。」
「…それで?」
「…君は顔を変え、経歴を捨てた筈だろう…?なら、学歴はそもそも存在しない事になるんじゃないのか?」
私がそう言うと奴はグラスの酒を飲み干し、グラスを置くと頭を掻き毟り始めた…
「…余計な事言っちまったぜ…」
「…で、どういう事なんだ?」
「…失踪宣告制度については知ってっか?」
「…簡単に言えば長期間行方不明だった者を死亡したと認定する法律の事だろう?」
「そうだ。俺の場合、十年以上行方不明だったからな…法律上はとっくに死亡扱いになってたんだよ。んで、俺は死んだ自分の戸籍情報を元に新たに身分を用意して貰ったんだ…その方が矛盾を少なく出来るからな。」
「…一つ聞きたいのだが…」
「何だよ?」
「君は身内に自分が生きている事を知られたくないようだが…それではさすがにバレるのでは無いかね?」
「…どうかねぇ…つかな?」
「ん?」
「言ってなかったが…常連客の中にいるんだよ…俺の兄貴がな…」
「……本当かね?」
「ああ。」
「……バレていないのか?」
「知らね。向こうは何も言わないし、仮にこれから先向こうが気付いたとしても白を切るつもりだ…俺は大量殺人犯だぞ?…部隊にいた時や傭兵だった時の話ならまだしもな…俺はテロリストだったんだ…言えるわけねぇ…このまま墓場まで持って行くつもりだ…」
「それで良いのかね?」
「……余計な事を言ったら……殺す。」
私は両手を上げた…彼なら相打ち覚悟なら私を殺せてしまうからな…全く…儘ならないものだな…