「では、私はこれで失礼しますわね。」
「やはり泊まって行かないのか?」
「…店の留守を預かる人間が必要でしょう?」
「……」
奴が入院して以来、彼女はずっと店で寝泊まりしている…まあ何かあってもエーデルフェルト家は店のすぐ傍なんだが…と言うか、ここの宿泊費は彼女が払っているんだから泊まらないと無意味だと思うのだが…まあ良いか…
「では、送って「それは辞退致しますわ。イリヤスフィールとリンに付いていてあげて下さいまし」しかし…」
ホテルから店まではそれなりに距離が…
「自衛の出来無い女に見えまして?」
「…いや…そうだな、君相手ならこの気遣いはかえって失礼か。」
「そういう事ですわ。では失礼します。」
ルヴィアが部屋を出て行った。
「ふー…もう…」
それとほとんど同時にイリヤが寝室から出て来た。
「…大変だったみたいだな…」
「もうホントに…半端に元気だから中々寝てくれな…あれ?ルヴィアは?」
「ちょうど今帰った所だが「何してるのシロウ!送ってあげないと駄目じゃない!」…そう言われてもだな、本人が断ったんだが…」
「万が一って事があるでしょ!?早く追いかけて!」
「分かった!分かったから押さないでくれ!」
私はイリヤに部屋から追い出されてしまった…
それから私はホテルを出た所で何とかルヴィアに追い付いた…
「成程、イリヤスフィールが…」
「そういう事だ…とにかくこのまま帰っても部屋に入れて貰えなさそうなのでね…」
まあその時は普通に自宅に帰るだけなのだが…
「…そういう事でしたら、店までエスコートをお願い致しますわ。」
「うむ。無事に送り届けると約束しよう。」
さすがに何事も無いとは思うがな…寧ろ私としては部屋に残して来た凛とイリヤの方が心配だ…
「そういえば気になっていたのだが…」
「何でしょう?」
「オーギュストさんを見掛けないのだが…」
「…暇を出しましたわ。」
「そうなのか…」
オーギュスト・ローラン…エーデルフェルト家の執事にして全てを取り仕切る人物…私は彼に紅茶の入れ方の作法等、色々な事を習った…ルヴィアが日本に来たのなら挨拶をしようと思っていたのだが、何故か今日まで会う事は無かった…
ルヴィアの性格的に何時も共にいると思っていたし、彼がエーデルフェルト家の執事を辞める事など死ぬまで有り得ないとすら思っていたのだが…
「…戦場で負傷したのですわ。それも、私を庇って…当初はそれでも私の為に働いてくれていたのですが…いよいよ身体がまともに動かなくなって来たそうで…」
「そうか…」
藤ねえと言い、オーギュストさんと言い…残酷とも言える時の流れを意識せざるを得ないな…
「そんな顔しないで下さいませ。私はオーギュストとは今も連絡を取り合っていますから…そうですわね、番号を教えますから今度連絡してみると良いでしょう。」
そう言ってメモ帳にペンを走らせ、千切り、渡して来る。
「ありがとう。」
「あ…シェロ、ここで結構ですわ。」
気付けば既に店の近くに来ていた。
「ではまた明日…いや…今日は本当に助かったよ。」
荷物持ちだけなら未だしも、支払いまでさせてしまったからな…
「お気になさらず…リンの為ですから…では、失礼します。」