ネタ帳   作:三和

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北条悟史のカケラ紀行1

僕が目覚めてから既に半年程の時が経つ。

……今僕は出遅れた時間を取り戻そうと必死だ。

皆は確かに僕を待ってくれているのは伝わってくる。

でも……

 

「よう!俺は前原圭一だ!宜しくな!」

 

僕が目覚め病状が快方に向かい詩音以外の皆が来るようになった時僕は唖然とした。あれだけ衰弱していた沙都子は元気になっているし、毎朝僕に顔を見せに来る詩音はちゃんと園崎詩音として分校に通えるようになったと言う。そして一番の変化は……彼だ。

 

僕が眠る前には居なかった彼を中心に皆の笑顔が絶えなかった。

……あの頃は皆何処か陰を背負っていたのに……今は何もかも吹っ切れたのかのように笑っている。

 

彼の事は嫌いじゃない。彼は戸惑う僕に積極的に話しかけてくれたし身体も気遣ってくれた。……でも複雑にはなる。

……別に彼の立ち位置に僕がいたなんて自惚れるつもりは無い。でも僕には分かった。

 

……たとえこのまま皆の元に戻っても眠る前と何も変わっていない僕は胸を張って皆の仲間だなんて言えないって。

 

最後までいてくれた詩音はさっき帰ってしまった。最近一人になるとこんな事ばかり考えてしまう。

 

「……僕はどうすれば良いんだろう…?」

 

もうさすがに身体のリハビリも佳境に入っている。始めた頃は早く元の生活に戻ろうと必死で余計な事を考えてる暇も無かった……でも……

 

「……元の生活って……何だ…?」

 

沙都子はあの家を出て今は梨花ちゃんと一緒に生活しているという。……村の大人たちと和解しているし時々詩音の助けもあって生活はあの頃よりずっと充実しているらしい。……それに沙都子も言動こそまだまだ子供っぽいけど無理に背伸びをしていたあの頃の僕よりずっとしっかりして見えた。

 

「……帰りたくない…。」

 

もうここには僕の居場所なんか無い気がした。……やっぱりあの時思ったように僕は村を出ていくべきだったんだ。

 

「……今なら……」

 

当初僕には異常な程監視が付いていた。……当時は反感を持ったけど、今なら分かる。あの時の僕にはそれくらい当然だったと。

 

……そして今なら誰も居ない。

 

「……この村を出よう。そうだ。それがいい。」

 

僕は掛け布団を退けるとベッドから降り……

 

「……ノック…?」

 

気のせいじゃない。確かに聞こえた……もう面会時間はとっくに過ぎている。……いや。それよりも……

 

「……もしかして今のを聞かれた……!?」

 

僕は急いでベッドに戻ると何食わぬ顔で告げた。

 

「…ど、どうぞ…」

 

「…失礼しますです。」

 

……聞き覚えのある声だ。この声は確か……

 

「…羽入…?どうしたの?こんな時間に……」

 

入って来たのは古手羽入だった。確か梨花ちゃんの親戚の子とか聞いたけど……

 

「もちろん、お見舞いなのです。……ちょっと時間は遅いですけど、ね。」

 

……彼女は何故か巫女服を来ていた。脇の部分だけ袖が存在しない妙な巫女服だ。

 

「…元気が無いみたいですね。どうかしたのですか?」

 

「……なんでもないよ。」

 

……こんな話彼女には出来ない。

 

「…不安なのですね、悟史。皆の元に戻るのは怖いですか?」

 

「…そうだね、うん。怖いよ……」

 

バレてるなら仕方ない……そう心の中で言い訳しつつ僕は喋ってしまった。

 

「怖いんだ。僕は変わらないのに皆は僕が眠ってる間に変わってしまったんだ……」

 

「…でもきっと皆は悟史を受け入れてくれます。」

 

「…そうだろうね。だけど、駄目なんだ。僕の方が疎外感を感じてしまうから……」

 

失った時間は取り戻せない。僕は何より大事なものを無くしてしまった……

 

「進んだ時間は戻せません。でも、もし……皆が乗り越えて来た時間を貴方も過ごせるとしたらどうですか…?」

 

そんな事出来るわけは無い。でも、もし叶うなら……

 

「僕は皆が見たものと同じものを見てみたい……」

 

「…その言葉に偽りはありませんか…?」

 

さっきから彼女は何を聞いているのだろう…?

 

「…そうだね、うん。僕は皆と同じ時間を過ごしたい。」

 

「……分かりました。では、行きましょう。」

 

彼女が差し伸べる手を僕は戸惑いながら取った。

 

「…え!?」

 

「これは今夜一晩だけの夢です。でも、貴方にとっては長く、辛い時間になるでしょう。今一度問います。貴方は皆が乗り越えて来た辛い惨劇に挑む勇気はありますか?」

 

僕の目の前には見慣れた病室では無く闇が広がっていた……

 

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