「お客ちゃまはちょもちょもここがどういう場ちょか気付いていまちゅか?」
唐突な質問…私の質問に答えて貰って無いけど…焦っても仕方無いし…少し考えてから私は口を開いた。
「…ただの旅館じゃない、とは思ってたけど…」
「ここは迷ひ家なのでち。」
……迷ひ家って言うと、普通山道で迷った旅人の前に現れる屋敷の事だよね…でもあれって確か、誰も居ない家の事じゃなかったっけ…?
「ここは文字通り"迷った"者がやって来る場所なのでち。」
迷った、の部分に何か含みを感じる…
「……私は特に道に迷った、という覚えは無いんだけど…」
最初に気が付いた場所から旅館までほとんど一本道だったし…あ…
「…ここに来るのは、自分に迷いがある時…?」
「その認ちきで構いまちぇん。と言っても…元々滅多にここまで来る人間はいないのでちが。」
「そうなんだ…」
……要するにそれだけ私の悩みの根が深かったって事だね…今まで余計な事は考えない様にしていたつもりだけど…無意識に色々抱えてたのかも…うん、納得。向こうに帰ったらもう少し我が儘を口に出来る様にしてみようかな……皆それを望んでくれてるみたいだし。うん、そうしよっと。
……違う…!そんな簡単な話じゃない…!私は何かを見落としてる…多分とても大きな問題を…もう一度考えてみよう。
今までの旅が自分で思ってるより精神的に影響が出てて、それを気付かないでいたが為に私はここに来てしまった…そしてこうして心と身体を癒して貰った…うん、後はちゃんと元気になってカルデアに帰るだけ……違う!違う!何かが可笑しい!
ここに初めて来た時…私は直前の記憶が無かった…私はここに来る前一体、何をやっていたの…?少なくとも夜、普通にベッドに入ってここに来たとかじゃないのは確かだと思う……じゃあ何を…?特異点修復中ならきっと、私はもっと焦りを感じてると思う…
何でもない日の日中に過労で倒れたとか…?……待って。どうして私は自分が意識を失っている前提で考えてるの…?だって私はこうして…違和感が無くならない……そっか、私自身が答えを出すのを邪魔してるんだね。
多分…"私"はもう答えを出してるんだ…それを敢えて無視してる…そう気付いた時、私はまた悪寒を感じた…寒い…さっきお風呂に入ったのに震えが止まらない…
「お客ちゃま。」
そんな私の身体が暖かい物に包まれる……紅ちゃんだ。私は今、紅ちゃんに抱き締められてる。
「大丈夫でち。アチキは…お客ちゃまを見ちゅてたりちまちぇん…最期までアチキは味方でちから。」
どうしてそこまで…その言葉は口からは出なかった…答えなんて決まってる…彼女が底抜けに優しいからだ…震えが止まる…私は漸く"それ"を口にする勇気が湧いてきた…弱いなぁ私…本当は最初から分かってたのにね…どうしても認識したくなかった…このまま優しい時間が続いて欲しい…一秒でも長く…でもこの子はそれを許してくれなかった。
……恨むつもりは無い。それは厳しさであり、彼女の優しさだから…私が、このままここで無為に過ごすのを…彼女は許してくれない。…息を整える…気持ちも落ち着いて来た。大丈夫、もう言える。
「紅ちゃん、私はもう向こうには帰れないんだね…私はもう…死んでるから。」