「いらっしゃ…んん?」
「え?何?」
やって来たお客さんは見知った顔…でも少なくとも"彼"は私の事を知らないみたい…ここが特異点化してる様には何となく私には思えないし、たまたまここに迷い込んだとか?……なら、この旅館の従業員の私としては…
「…すみません、何でもありません。閻魔亭にようこそ!」
取り敢えずは…普通にお客さんとして迎え入れるべきだろう。
「並行世界のお前ちゃまでちか…」
「そっ。別に特別扱いして欲しい訳じゃないけど念の為、ね…」
まさか…並行世界の自分の宿泊受付をする事になるとは…不安が拭えないから丁度やって来た雀さんに一旦受付の仕事を任せてこうして紅ちゃんに報告しに来た。
「向こうはここがどういう場所かは知らないで来てるみたいだけど、正直何があっても可笑しくないからさ…一応気を付けてはおいて。」
「はなちは分かりまちた。」
「それじゃあ私は仕事に戻るね。」
……まあ、この場合何か起きるとしたら原因は確実に私になる気はするけど。
「チュン!丁度戻って来たでチュン!」
「ごめんね、仕事代わって貰って…それで…」
そこにはさっき宿泊受付をした青年が立っていた。
「このお客様が用があるそうでチュン!」
「そう…それでお客様、私に何かご用でしょうか?」
「あ、うん…大した事じゃないんだけど…さっきの反応がどうしても気になって…」
さっきの、と言われて溜息を吐きそうになるのを堪える…
「申し訳ありません、気分を害したのであれば「あっ!違う違う!別に怒ってる訳じゃないから顔上げて」はぁ…でしたら、何でしょうか?」
私が一方的に"彼"を知ってるだけで"彼"は私を知らない…特に琴線に触れる物は無かったと思うけど…
「うん…それがその…」
彼が雀さんと私に視線を彷徨わせる…まあ良いか。
「ごめん、もう少し続けて貰って良い…?」
「チュン!分かったでチュン!」
雀さんにもう一度自分の代わりをお願いして彼に視線を向ける。
「…行きましょうか。」
「え?」
私が彼にそう言うとキョトンとした顔をする…いやいや…二人だけで話したいって意味じゃなかったの…?
「二人だけで話したいのかと思いましたが、私の勘違いでしたでしょうか?」
「あっ!うん!そうだよ。」
「では、こちらです。」
……主語を抜かした私も悪かったとは思うけどもう少し察して欲しいなぁ…
「こちらです。」
「え?ここ…?」
従業員用の休憩室の前に彼を案内した。
「俺、入って良いのかな…?」
「大丈夫ですよ、私と一緒ですし。」
とはいえ一応はノックする…
「誰~?」
……武蔵さんだ。二人の方が良さそうではあるけどこの人ならまあ、良いかな…ある程度事情は分かるだろうし。
「私です。今入っても大丈夫ですか?」
「別に良いよ~」
許可は出たがまだ入る訳にはいかない。以前とんでもない目にあったからね…
「……前みたいに着替え中、とかじゃありませんよね?」
「大丈夫だよ~?もう。別に気にしなくて良いのに~」
気にするよ!いくら同性でもこっちは目のやり場に困るんだからさ!しかも今は男性連れてるし!
「それじゃあ入りましょうか。」
「……本当に大丈夫なの?」
さっきのやり取りは聞こえてたみたいだから不安そう…
「大丈夫ですよ、あの人嘘はつかない方なんで。後、あの人なら事情もある程度分かってくれますし。」
「事情?「貴方はカルデアのマスターでは?」え!?」
彼の驚いた顔を見て少し笑ってしまう…まあ、何処の特異点行ってもまず自分の素性を分かってもらう所から始まるしね…その癖、理解してくれない人が大半だし。そんな事を考えながら私は休憩室の襖を開けた。