「ねぇ?立香ちゃん…?」
「んー?何ですか?」
私は読んでいた本から顔を上げて武蔵さんの方を見た(ここ、お客さん来ない時ははっきり言って本当に全然来ないからこうして暇潰しするしか無いんだよね…私、他の仕事出来無いし…)
「どうして彼の事を助けたの…?」
あの日…私は彼を連れて紅ちゃんの所へ向かい、彼の事情を話した上でここで雇ってくれるよう頭を下げた。紅ちゃんは最初は渋っていたけど、結局は折れてくれた……彼は今は客室の掃除でもしてるかな…?彼は基本的に仕事が終わった時しか私の所に来ないから、並行世界の自分とはいえ、行動パターンは読みづらい…性別の違いもあるし…
「う~ん…?」
助けた?私が?
「何も知らない彼をいきなり従業員に仕立て上げようとするのって助けた事になるんですかねぇ…?」
「そりゃなるでしょ。少なくとも彼は助けられたと思ってるんじゃない?根は立香ちゃんと同じで真面目そうだし…」
ハア…やれやれ…困った人だね…
「あの…武蔵さん?それなら貴女も同じ立場ですよね?貴女だって私の事を恩人と思ってるべきですよね?何でこうやって一日に何度も絡みに来るんです?…貴女が毎回ここで油売ってる所紅ちゃんに見られたら私が紅ちゃんに申し訳無いんですよ。」
そう、私の事を心配してると言えば聞こえは良いけど、武蔵さんは私の所に来る回数が余りにも多い…どう考えてもサボってるよね…巌窟王さんですらアレで仕事は真面目にやってるみたいなのに。
「え!?立香ちゃんそんな風に思ってたの!?わっ、私は立香ちゃんの事を心配して「私の心配より自分の仕事してくださいよ…クビになりますよ?」う…分かった…でも質問には答えて欲しいな。」
「ん?何でしたっけ「だからどうして彼の事を」う~ん…逆にどんな答えなら武蔵さん満足するんですか?例えば私が彼に一目惚れしたとか言えば良いんですか?」
「え!?まさか…本当にそうなの!?」
「……いや違いますから。別に彼に関して思う所、そんなに無いですから。少なくとも恋愛感情は皆無です。」
まあ、見知らぬ場所に訳も分からず突然飛ばされて、今の所帰る方法も無い彼には同情しなくも無いけど…強いて言うなら…それだけ。
「じゃあ…何で?」
「……」
並行世界の自分だから…じゃあ納得しないのかな、この人は…
「強いて言うなら貴女を助けようとしたのと同じ理由ですよ。」
「え?「いや…私、紅ちゃんに武蔵さんのフォロー今日までずっとしてるんだけど知ってます?」え!?」
「じゃないともう紅ちゃんに追い出されてると思いますよ?」
「ごめん…」
「ハア…だから、まあ…敢えて言葉にするならアレですね、衣食住足りて礼節を知るって奴ですよ…精神的に余裕があるから人の事を構ってられるんです。」
何処かから『嘘つけ!』と声が聞こえた気がした……いや、別に私、自分に余裕が無いのに人助け出来る聖人とかじゃないし…
「とまぁ、分かったら仕事に戻ってくれると助かります…確かに私は、人の手を借りないと生きていくのは難しいかもしれませんけど、何時も必要って訳じゃないです…」
まあ、霊体になってる私を生きているって定義していいのか微妙だけど…身体とのパスは繋がってるみたいだから、そうすると向こうにある身体は心臓は動いてるんだろうから、生きているで良いのかな?……そのお陰か半端に呪いが残ってて不便だけどね…歩けないままだし。寝たきりよりはマシだけど…まあ、今の所魔術は使う必要無いから…このまま使わなくて済むことを祈りたいよ、ガンド一つで咳き込むレベルではあるからね…喀血や吐血するより良いけど。
「う…分かった…戻るよ…何か手伝って欲しい事があったら声掛けて。」
そう言って踵を返し、廊下の奥に消えて行く…ふぅ。全く…一日に何度、私の事を見に来れば気が済むのか…心配してくれるのは有難いけどそろそろうんざりだよ…それに来るなら来るでせめて自分の仕事くらいは終わらせてから来て欲しい…