私は彼の部屋から出て廊下に出る…後はエミヤさんと…って…
「あの…巌窟王さん…そこで何してるんですか…?」
壁に背中を預け、目を閉じ、胸の前で腕を組む彼が目に入って来たので声を掛ける。
「クハ、中々面白い話をしていたな。」
「…私としては隠す様な話じゃないですし、良いですけど…盗み聞きはさすがにどうかと思いますよ?」
「…あれだけ騒いでいれば嫌でも聞こえると言うものだ。」
「……」
騒いでいたのは主に私じゃなくて彼だと思うけど…というか…さっきの姿見る限りたまたま聞こえたんじゃなくてこの人あからさまに聞いてたよね?
「まあ良いですけど…それで?私が人理焼却の黒幕の正体を現役のマスターに教えたというこの状況…貴方はどう処理するんですか?」
「……別にどうもせん。俺が請け負ったのはマスターの足止めと始末だけだ…奴にそこまで義理立てする理由も無い…そもそも貴様がやった事に本当に意味があると思っているのか?」
「…あー…やっぱりそうなります?」
何となくそうじゃないかと思ってたけど…やっぱり駄目なのか。
「…並行世界線上の同一人物が同一世界に揃って存在するこの状況は本来有り得ん。奴の言葉を借りるなら剪定事象、という奴だろうよ。」
「私と彼の出会いは無かった事になる…」
「…既に脱落した貴様の記憶には残るかもしれんが、あいつの記憶は残らん…恐らく向こうに帰ったら頭の中から跡形も無く消え去るだろう…無意味だな。」
その言葉に唇を噛み締める…何となく分かっていてはいたけどこうやって言葉に出して言われると…来る物がある…分かってる…だけど…それでも…!
「私は無意味だったとは思いません。」
「何だと?」
「何の為に変に回りくどい言い方をしたと思ってるんですか?」
そう、私は彼に敢えて気付かせた…嘗て魔術王ソロモンに挑んだのが"自分"で有った、と。
「これだけ印象に残る様な言い方をしたんです、残りますよ…伝えたのが"私"だとは思い出せなくても…きっと伝えられた事柄は思い出してくれます。」
「ほう…?根拠は?」
「彼が"藤丸立香"だから。私にとってはそれだけでそう信じる根拠になる…」
「…ク…クハハハハ!」
彼が片手で両目を押さえ、もう片方の手を横に広げ嗤う……うわぁ…
「…その芝居がかった表現止めません?すごく痛い人に見えますよ?」
「クハハ!これが笑わずにいられるか!?そんな事が根拠だとはな!」
私の言った事を無理矢理スルーして彼が嗤う…これがこの人の素?こんな痛い感じの人だったとは…何かものすごくしっくりは来るけど…
「好きなだけ笑って下さいよ。今更そんな事で私、凹みませんし。」
「お前が凹まなかった所でどうすると言うのだ!?所詮は奴次第だ、貴様にはもうどうする事も出来まい!」
「む…別に良いじゃないですか!それぐらいの希望持ったって!私はさっき言った通り恨んでません、"彼"の事も…魔術王ソロモンの事も…でも!悔しくはあるんですよ!?だから…良いじゃないですか、それくらい期待したって。」
「クハハ…ふむ、確かに期待するだけなら貴様の勝手だな。」
「ええ。私は勝手に彼に期待します。」
「…フン、好きにしろ。」