「さて、エミヤだったか?」
「…当然そっちも聞いてますよね?」
私が言い切ったらまた目を閉じ、不機嫌そうに黙りこくった彼の前を横切ろうとしてそんな声が聞こえて来て動きを止める。
「人の恋愛に興味があるというタイプには見えませんけど…何か言いたい事でも…?」
「…いや…俺からは何も言わん。そっちも好きにするが良い…」
「ええ…じゃあ…行きますね?」
再び車椅子のタイヤ部分に付いているハンドリムに手を掛け、回す…
「…俺は何も言わんが…あの剣士は色々と言うのだろうな。」
手を止める…
「…黙っててって…言ったら承諾してくれます…?」
「…貴様に頼まれずとも俺は何も言わん…だが…いや、良い…行け。」
「何か歯切れ悪いですね…何かあるんですか?」
「……剣士もさっきまでここにいた。」
車椅子から落ちそうになった。
「はぁ!?」
「奴は既にあの男の部屋に向かったぞ。」
「そういう事は!先に!言って!くれませんか!?」
「貴様が聞かなかっただけだろう?…クハ…何が起こるか楽しみだな。」
「悪趣味にも程がありませんかねぇ!?」
「そもそも貴様は何を言っているのだ…」
「はぁ!?「障害も無く手に入る物に何の価値がある?」…私は普通の恋愛したらいけないんですか!?」
「何処が普通だ?相手は生者ですら無い「あの人は今、ここにいるんです!生者か死者か、何て関係ありません」お前がそう思っていても向こうはそう思うまい。」
「それは…そうかもしれません、けど…!だからって諦めなくちゃいけないんですか!?」
「誰がそんな事を言った?」
「はぁ!?だって今「生者か死者か、という理屈は関係無いと言ったな?ならばそんな理屈はねじ伏せてやれ。貴様が横に立てる女だと証明してやれば良い。」…そう、ですね…」
何も言わないと言いつつ…何か助言して来たよこの人…前から思ってたけど結構ツンデレさんだったり?
「ありがとうございます。じゃあ、行って来ますね?」
「早く行け。」
シッシッと手を払われる…私は虫か何かか!?もう…さっさと行こう…武蔵さんが何を言い出すか分からないし…
「立香ちゃん…」
「武蔵さん…すみませんが今構ってる暇無いんです…そこを退いて貰えませんか?」
彼の部屋に行く途中の廊下の真ん中で仁王立ちする武蔵さん…真ん中にいられると車椅子じゃ通れない。
「やだって言ったら?」
「何でですか…そもそもこんな時間にこんな所で何を?」
武蔵さん結構寝るの早いんだよね…普段サボってばかりいるのにそんなに疲れるのかな?
「…立香ちゃんは何処に行くの?」
「質問に質問で返さないで下さいよ…私はエミヤさんに会いに行くんですよ。」
多分、さすがにそろそろ部屋に戻ってる筈…
「こんな時間に何しに?」
「カルデアにいた頃お世話になったんです…会いに行く理由はそれじゃいけないんですか?」
「…いけないかな。時間も遅いし…こんな時間に男性の部屋に行くのは不味いと私は思うよ?それに、公私は分けるべきじゃないかな?君はここの従業員で彼はお客さんなんだよ?」
……正論だけどさぁ…
「普段サボってる武蔵さんがそんな事言います?」
「む…私はサボってるんじゃないよ!君が心配だから「これでも武蔵さんより先に働いてるんですけど」そんなに日数変わらないじゃない!」
…あんまり時間かけたくないんだけど…本当に会いに行く様な時間じゃ無くなるし。
「どうしたら通してくれるんですか?」
「用件を教えてよ、内容によっては通すからさ「武蔵さんが気に食わない理由だったら?」…悪いけど止めるよ。絶対に。」
私は深く息を吸い込み、吐く…それを何度か繰り返した…気持ちが落ち着いた所で口を開く…
「私、あの人が好きなんです…愛してるんです…そこを退いてください…私は…この想いを彼に伝えたい…」
「……ごめんね?やっぱり通せないや。」
そう言って武蔵さんは刀を抜いた。