「ん…ここは…?」
重い瞼を開けると妙に薄らとした蛍光灯の明かりが目に入った…知らない天井…何てネタを何処かで見た覚えがあるけど私は残念ながらこの天井を知っている…
「目が覚めたか?マスター。」
声が横から掛けられ、そちらに目を向ける…
「エミヤさん…」
「何があったのかは覚えているか?」
視線を戻し、目を閉じ、頭を巡らせる…うん、大丈夫…私はちゃんと覚えてる…
「ご迷惑をお掛けしました…せっかく休暇でここに来たのに…」
「全くだな。とんだ休暇になってしまったよ。」
即答で返されて…凹みながら言葉を紡ぐ…
「…本当にごめんなさい…」
「冗談だ、マスター…もう君がやらかすのには慣れている…まあ、今回は気を抜いていた事もあって少々肝が冷えたがな…ところで、目は大丈夫か?」
「えと…はい。まだボンヤリとですけど…視力は戻ってるみたいです…」
本当に良かった…このまま視力が戻らなかったらどうしようかと思ったよ…
「さて、事情を聞いても大丈夫か?とはいえ、彼女も君もここの従業員だからな…客でしかない私には言えないとの事なら「いえ、良いんです…話します」そうかね?」
「はい…それに…エミヤさんも無関係、という訳でも無いので…」
「私にも関係がある話だと?」
「はい…と言っても私のせいですけど…」
最悪の展開にはなったし、断られる可能性も増したけど…ここまで来て言わないという選択肢は私には無い。
「と、その前に…武蔵さんはどうなりました…?」
「彼女なら女将が気絶させた。」
「紅ちゃんが?」
あの時武蔵さんは本気では無かっただろうけど…紅ちゃんそんなに強かったの?確かに時々、神霊の人たちが夫婦喧嘩とか初めても仲裁出来る程威厳があるのは知ってたけど…戦っても強かったなんて…
「ちなみに君のガンドは一発も当たっていない。威力は中々だったがな。」
「あはは…やっぱりそうですか…」
まあ、一発目を放った時点で半分意識を持って行かれてたしね…そんな状態じゃ制御も出来る訳無い…そもそも見えなかったし…あれ?威力があったって事は…
「あの…廊下の被害は「一発目以外は私と女将で止めた。それでも一発目で壁に穴が空いた」うわぁ…マジですか…」
紅ちゃんに何て言えば…いや、その前に…
「本当に申し訳ありま「もう良い。二人とも怪我が無くて良かった…それで一体何故争う事になったんだ?二人は仲が良かったと記憶しているが」あー…それなんですけど…」
何か余計に言いづらくなった…でも言わない方が不味いよね…
「…実はあの時、エミヤさんの部屋に行こうとしてたんですよ。」
「私の?」
「はい…まあ、紅ちゃんと一緒にいたって事はまだ部屋には戻ってなかったんですよね…」
「料理の話で盛り上がってな…それで?」
「武蔵さんに止められたんですよ…男性の部屋に行く時間じゃないし…それに…公私は分けるべきだって…」
「そうだな…私でも止めるだろう…だが、それで争うのはやり過ぎだ…相手はサーヴァントだろう?何故日を改める事が出来無かったんだ?」
「だって…何時帰るか分からないじゃないですか…」
「せっかく休暇を取ったんだ…何もそんなに早く帰りはしない…それに、彼女の料理教室も受講した事だしな、この滞在中に終わる事は無いだろうが、キリのいい所までは受けて行くつもりだ…」
エミヤさんが帰らないのは紅ちゃんが理由…そう思った時、私に芽生えた得体の知れない感情…そっか…これが嫉妬なんだ…
「とにかく事情は分かった…今日はこのまま休むと良い…話なら明日にでも改めて「いえ、今お願いします」ん?何故だ?」
「今話したいんです…駄目ですか…?」
「…構わないが…手短にな。」
「大丈夫です…すぐ終わりますから…」
そう、私が一言言うだけ…後は彼次第…私は武蔵さんに言った時のように深呼吸する…
「……ふぅ。じゃあ、言いますね?私は貴方が…エミヤさんが好きなんです。」
遂に言った…言ってしまった…彼は真っ直ぐ私を見詰めている…
「マスター…それは異性として、か?」
「そうです「では、すまないが断らせて貰おう」…何故ですか?」
「何故ね、聞くまでも無「聞かせて下さい…じゃないと納得出来ません…!」落ち着きまえ…当たり前だろう?私は死者で、君は生きているんだから。」
「そんなの関係ありません!貴方は…!貴方は今ここにいるじゃないですか…!こうして私の目の前に…!」
「マスター…そうだとしても私はもう死んでいるんだ…その事実は変わらない。」
「だから釣り合わないって事ですか?なら、私が死ねば貴方はこの気持ちに応えてくれるんですか…?」
「マスター…何を「そうならそうと、言って下さい…私は今この場で命を絶つことだって出来ます」……本気なのか?」
「はい。私はエミヤさんが私を嫌ってないなら、何があろうと絶対に諦めないと決めています。」
「マスター…君は…」
布団から手を伸ばし、私を覗き込む彼の口を押さえる…
「私が嫌いなら…そう、言って下さい…それなら…私は…諦めますから…!」
彼の口から手を離す…
「…マスター…私は君を嫌ってはいない。」
「じゃあ「だが、君の気持ちを受け入れる訳には行かない」どうして!?」
「私は…君を不幸にしか出来無いからだ…!」
「何ですか…それ…何ですかそれ!?不幸?見て下さいよ私を!?私は…貴方に会う前から既に不幸ですよ!?今更これ以上酷い目にあうとでも言うんですか!?」
「そうだ!君はそれ以上に不幸になる!」
「っ!なら!不幸で良いです!私はそれでも!貴方と一緒にいたい!」
「マスター…」
「一度だけで良いです…私の気持ちを受け入れてくれるなら…立香って…呼んで下さい…私の名前を…」
私は目を閉じ、待つ…しばらくして彼の声が私の耳に響いた。
「……本当に…君と言う奴は…立香…これで良いかな?」
「はい…ありがとうございます…嬉しいです…とても…」
「それは良かった…それではもう休みたまえ…」
「あの…エミヤさん…」
「心配しなくても明日いきなり発ったりはしない…明日、君の仕事が終わった後で改めて話そう…」
「はい…」
彼が襖を開けて出て行くのを見送ると私はまた目を閉じた。