「ところで、聞いていい?」
「手を止めるな。朝までに終わらないぞ?…で、何だ?」
「内部告発なら普通にシャルロットちゃんに経営権を持たせる方向に持って行けば良いんじゃないの?」
「…何だ…そんな事か。なら聞くが、デュノアの様な者をスパイとして寄越すような会社を延命する意味はあると思うか?」
「…!あー…。」
デュノアの演技はこう言っては何だが酷いの一言に尽きる…。あんな人間をスパイとして寄越すような会社ならとっとと潰した方が良い。…シャルロット・デュノアという少女に経営の素質があるかは知らないがあれでは誰が乗っても沈む泥船も良い所だ…。
「…実際、シャルロットちゃんの演技が下手なのかどうかは分からないけどね…。」
「本人は元々田舎暮らしだったとの事だからな、多分同年代の男子と絡んだ事もあまり無かったのだろう…。…本人はあれでも本気で演技していた様だし、演技を仕込んだ者に問題があったのかもな…。」
逆に言えばそれだけ経営に余裕が無かったという証左にもなるか。…或いは…
「…わざとかもしれんな…。」
「え?」
「デュノアは相当酷い扱いを受けていたようだからな、上手く行けばIS学園の庇護を受けれると踏んだんじゃないか?…社長か、演技を仕込んだ社員のどちらの考えかは知らんが。」
「…あー…。そういう考えもあるのね…。」
「最も博打も良い所だがな、そもそも滞り無くシャルロットがスパイとして一夏に取り入る事が出来た可能性もある。」
「それは…いやいや…さすがに無いでしょ…?」
それがそうでも無いんだよ、楯無…。
「一夏は昔から自分の危機にとにかく鈍い。誘拐なんて経験をしているにもかかわらず、だ。」
「…確かに平和ボケしてる印象はあるけど…。」
「あいつの善性は誇るべきかもしれんが、それは悪く言えばお人好し…という事だ。少なくとも自分に近付いてきたスパイを本人が仕方なくやっていたと言う言葉を信じてしかも自分とは全く持って関係無いのに助けようと奔走するのは異常だ。ここまで筋金入りだとそう言い切るしか無い…。」
「……」
「あいつの頭の中がどうなってるのか見てみたいよ…。一夏はとにかく人の悪意に鈍感過ぎる…。」
私は何時になったら平穏な生活を送れるのかな…。
「どちらにせよ、デュノアに倒産寸前の会社の経営権など渡せば、一度助けたのを良い事にまた一夏に泣きついて来かねん…。そのために私が知恵を絞るなどごめんだからな。」
一夏を助けるためとはいえISを纏ってしまった時点で真っ当な生活を送れないとは悟っていた…これ以上余計な揉め事を背負い込みたくない……。私は自分の家族の事で精一杯、だ。
「…さて、そろそろ戻れ、楯無。」
「…え!?貴方の仕事は!?」
「お前が私に回して来た分はとうに終わった…さっさと帰れ。私は補習問題の復習と明日の予習をしておきたいんだ。」
「お願い!もうちょっと付き合って!?このままじゃ本当に朝までに終わらなくなるから!」
「だから無駄話してないで手を動かせと言ったものを…。仕方のない奴だ…。」
私は楯無の分の書類の山から半分程を掴むと自分の所に置いた。
「…ほれ、後これだけやってやるからさっさと手を動かせ。」
「やった!ありがとう!お礼に「要らん。グダグダ言ってないでとっとと手を動かせ。」は~い…。」
私は楯無に一度ジト目を向けてから新たな書類に目を通し始めた…