「どうぞ…お口に合うと良いのですが…」
「…」
さて、本来の自室では無く…すっかり自分の城と化した反省部屋…入り口だけを見るなら独房にしか見えないのに、実際は元々宛てがわれた部屋より遥かに良い設備の有る部屋で私はセシリアが机の上に置いた"差し入れ"を見てどうやって断れば良いのかと必死で頭を巡らせていた…
スターゲイジーパイ…イワシをジャガイモや卵と共にパイ生地に包んで焼いた、所謂フィッシュパイの一種だ(Wikipedia参照)
……現実逃避をしていたら以前たまたまネットで拾った知識を引っ張り出していた…フィッシュパイ自体は日本でも普通に食べられ無い事も無い料理だ…ただ、料理に関して数々の不名誉な逸話を残すイギリス発祥の郷土料理であるコイツはそもそも見た目からして一般的なフィッシュパイとは異なる…コイツの特徴はパイから突き出すイワシの頭だ…魚の頭部を突き出して星空を見上げているように見えることが料理名の由来らしいが…正直この異様な見た目は食欲の減衰効果は抜群だ…
「…あの…召し上がっては頂けませんの…?」
「……頂こう。」
断りたいが…基本せっかく作って貰った物を一度も口をつけること無く残すというのは大変失礼であると私は思っている…見た目はともかく、味は普通のフィッシュパイと何ら変わらない筈だ…問題は無い……シェフがセシリアで無ければな…
実は何度か食わされた事があるから分かるのだが…セシリアの料理はとにかく不味いのだ…その酷さたるやあの面倒見の良い一夏ですら匙を投げる程なのだ…千冬と良い勝負だな…さて…行くか…!
私は皿に乗せられたパイの一切れを口に運んだ…?
「…セシリア、調味料は何を入れた?」
「…もちろんお砂糖ですわ。」
こいつ、パイ=必ず甘くする物だと思ってるのか?…胸焼けがして来たぞ…
「…この手のパイはもうちょっと塩っぱ目でも良いだろう…というか砂糖が多過ぎだ…」
パイ生地は尋常でなく甘い…これだけ砂糖の量が多いと焼いた時に焦げ付いて炭に変わりかねないが…ギリギリの量の調整に成功してしまったらしい…というか先程から違和感が止まらない…見た目は悪くないのに、一口口に入れると襲ってくる不快を通り越して吐き気のする強い甘味のせいで今も頭の中を混乱が包んでいる…
「…あの、褒める所はありませんの…?」
「…焼き加減は見事だった…」
……他に褒める所が思い浮かばんな…どうするか…いや、不味いなら不味いとはっきり言ってやるのもコイツの為か…