キリト君が発した質問…僕はそれに答える事が出来無かった。彼も別に答えを求めた訳じゃないらしく、その後は黙ってしまった。見事胚珠を手に入れ、こっちに戻って来るコペル君が僕らの様子が可笑しいのに気付いたのだろう、何かあったのかと聞いて来たが、僕もキリト君も別に何も無いと答えた。
コペル君も自分が聞いて良い事だとは思わなかったのだろう、それ以上何も聞いて来なかった。
その後は特に問題は起こらなかった。…強いて問題があるとすれば、肝心の花付きが全然現れなかった事だろうか…途中から三人共一言も喋らず、黙々とリトルネペントを狩り続けていた。
「それじゃあ僕が先で良いんだね?」
「ああ…と言うか、早く行って来てくれ…」
「…うん、そうして貰えると助かるよ……正直、僕も早く休みたいし…」
「…ごめん、そうだよね…分かった、行って来るから…」
コペル君が家の中に入って行く…ふぅ。
「…キリト君。」
「…ん?」
「…ベータテストの時もクエストってこんな感じだったのかい?」
「…少なくとも、このクエストに関しては倍は時間かかってるよ…ベータテストの時も時間かかったけど…多分ここまでじゃなかった…」
「そうかい…」
頭を上げ、上に目を向けて見る…既に空は夜を通り越して、明るくなり始めていた…本当に夜が明けてしまった…
「…改めて確認するけど、胚珠を渡すだけで良いんだね?」
「…中に入ったら向こうが勝手に受け取りに来るからな…その時に渡せば良い、そしたらその場でアニールブレードを渡してくれる筈だ……ベータテスト時から変更されて無ければだけど。」
「…そうか。」
取り敢えず行ってみるしか無い訳か…そんな事を考えてるとコペル君が戻って来た。
「……終わったよ。」
「…そうか。じゃあ「あの、ちょっと良いかな?」何だい?」
「…二人が出て来た後で良いんだ…時間、貰えないかな…?」
コペル君にそう聞かれ、僕はキリト君の方を見た…彼は溜息をつきながら、答えた。
「…ま、俺は良いよ…あんたはどうするんだ?」
彼がそう話を振って来て少し考える…うん。
「…僕も構わない…取り敢えず行って来るよ。」
「……ありがとう。」
「ありがとうございます剣士様!これで娘も…少し待っていて下さいね?」
先程も出会った女性が僕から胚珠を受け取り部屋の奥に消えて行く…一人になり、僕は改めてさっきキリト君が投げかけた言葉を思い浮かべる…
「…僕は…どうするのが良いんだろうか。」
そもそも僕は別に善人じゃない…法を犯した事はもちろん無いけど、それなりに色々やって来ている…元々、バレなきゃ何をやっても構わないんじゃないか、と言う考えが良く頭を過ぎる…そういう意味ではこの世界は性に合うのかもしれない……現実に戻った所で今更何をする訳でも無いし。何せ、僕の願いは今ではたった一つ…それはもう叶わない。
…なら、いっそここで…
「すみません!お待たせしました!」
そこで女性が戻って来て我に返る…僕は今何を考えていた…?
「…あの…?何処か具合でも…?」
「…いえ…何でもありません。」
「……本当ですか?」
心配そうに僕を見ている彼女を見て、思ってしまう…彼女は本当にNPC…命を持たないAIなのだろうか、と。少なくとも目の前にいる彼女は人間とそう変わらない様に僕には見えた。
「…大丈夫です…いえ、強いて言うなら少し疲れただけです…」
気付くと僕はそんな事を口にしていた…やっぱりどうしても僕には彼女が生きている人間では無いなんて信じられなかった…
「そうですか…すみません、私の「気にしないで下さい。助けたいと思ったのは僕の意志ですので」…でも…」
「大丈夫ですから…さ、早く娘さんの所に…」
こんな事を言うのは柄じゃないし、似合ってはいないのは分かってる…でも、僕はこれがゲームのクエストだから彼女の頼みを受けようと思った訳じゃない…彼女の力になりたいと思った…それだけは確かな事実だったんだ…
「…本当にありがとうございます…大したお礼も出来ませんが、せめてこれを受け取って下さい。」
彼女が手に持つそれを僕に差し出す…僕はそれを掴んだ。形の無いデータの塊とは思えないずしりとした重さをこの手に確かに感じ取る…
「…ありがとうございます…では、僕はこれで…」
「はい。こちらこそ、本当にありがとうございました。」
彼女に背を向け、僕は目の前のドアを開けた。