風に靡く銀色の髪の後ろ姿…絵になるな…
「…加賀さんに言われて来たの…?」
「…そうだ…不服か?」
「…別に…アンタなら…結局来てくれたと…思うから…」
「…なぁ?何でそんなに俺が良いんだ…?」
「…さあ?…私にも分からないわ…気が付いたら…好きになってた…不思議ね?他の鎮守府の子にも聞いた事有るけど自分の司令官と恋仲になるのは珍しい事じゃないらしいわよ?でも私が好きになったのは…アンタだけ…何故かしらね…?」
「…その答えを俺は持ってねぇな…でもな、お前が嘗ての提督を好きにならなかったのは正しかったと思うぜ?」
「…え…?」
「不思議に思った事は無いか?何で軍人でもない俺がいきなり提督なんて大層な肩書きを持っているのか?」
「…そうね…気にした事はあるわ…教えてくれるの…?」
「…俺はそもそも海軍にある理由でとっ捕まった人間だよ。」
「…へー…何したの?」
「……艦娘、及び海軍の無線傍受。」
「…はっ?…何でそこから提督になる事に繋がるの?」
「当たり前だが…そんな事で捕まった所で精々しばらく牢屋にぶち込まれて終わりだ…こんなご時世だ…通常よりも更に短い周期で叩き出されるだろうよ…下手すりゃ厳重注意だけで終わる…」
「…もう分かるよな?俺はな、飼い殺しにされてるんだよ…ある事実を知っちまったお陰でな…」
「何を…知ったの…?」
「…今回はお預けにしておこう…そこら辺で聞き耳を立ててんのがいるからな…」
「っ…誰!?」
叢雲のその声で走ってその場を離れる影が見えた…ありゃあ…
「…青葉だな…」
「……大丈夫なの?」
「問題無い…アイツに今回の一件を新聞にする度胸はねぇ…仮に奴が何処ぞの害悪に報告した所で俺の立場は変わんねぇし。」
「…そう…」
「…部屋に戻ろうぜ…お前薄着だからな…風邪引いちまうぞ…」
俺は上着を脱ぐと叢雲の肩に掛けた。
「…アンタ…こんな紳士的な事出来たのね…驚いたわ…」
「要らねぇなら返せ「嫌よ。」そうかい…なら、帰…いや、ちょっと先行ってろ…」
「…どうしたの…何これ…」
俺はポケットからカセットテープを出すと叢雲に渡した。
「良いからそれ持って部屋戻ってろ。」
「…分かったわよ…」
叢雲が鎮守府に戻って行くのを見届けると俺はもう一人に声を掛けた。
「…こいつがそんなに欲しいか、加賀…」
「…やっぱり貴方、あの時の記録を持っていたのね…あの子に渡したのもそれ?」
別のポケットから出したもう一つのカセットテープを加賀が見詰める…やれやれ…
「俺の身を守る唯一の方法だからな…と言うか…盗聴器を仕掛けたのはお前だろ?何で音声データを持ってないんだ?」
「あの時、結局盗聴器の回収は出来なかったし、肝心の受信機すら訳あって失われたわ…今、あの時何があったのか知ってるのは貴方の持つそれだけ…渡してくれるわね?」
「…誰に渡すつもりだ?…いや、言わなくていい。どっちみち俺はこいつをお前に渡すつもりは無い。」
「…何故かしら?」
「…お前の雇い主を信用出来ないからな。」
「…私の事は信じてくれるのね?」
「さあな。」
「…渡して…私だって当時の関係者よ…知る権利は「ねぇだろ。お前はあの日あの場に居なかった。関係者であっても当事者じゃねぇ。…アレを聞く権利があるのは叢雲だけだ…本来なら俺だって聞いちゃいけなかった。」……」
俺はカセットテープの中のテープを纏めて指で摘んで引き出した。
「何やってるの!?」
「…こいつは処分させて貰う…これでもう…あの時の事を伝える証拠を持ってるのは叢雲だけだ…後はアイツと話しな。」
俺はカセットテープをポケットに仕舞った。
「…雇い主に伝えろ…ありのままをな…これで俺の身がやばくなろうともう知った事か…そろそろ俺もうんざりなんだよ…これからは俺の勝手にさせて貰う。」
俺は鎮守府に向かって歩き始めた。