俺はペンを動かす手を止めた…
「ん~?悪い、聞いて無かったわ…もっかい言ってくれ…」
「…聞いてなかったの?今日、叢雲が帰って来るって言ったの。」
俺が顔を向けた先でここ数日臨時の秘書艦を務める加賀が溜息を吐く。
「そうか…今日だったか…」
「…貴方…」
呆れ顔を向けないでくれ…忘れてたんだから仕方無いだろう…
「…長期遠征だから仕方無いとは思うけど…もう少し気を使ってあげて。」
「…悪か「私じゃなくてあの子に言って」……ああ。」
俺はペンを動かしながら彼女の事を考える…
……駆逐艦叢雲は俺が提督になると決まった日、最初に配属された艦娘で、本来の秘書艦で、そして…
「そろそろあの子に返事するのよ?」
「……」
……俺に想いを寄せてくれている女性である…
「…ここがお前の入る鎮守府だ。」
「……ここがねぇ…」
艦娘の無線傍受がバレ、独房にぶち込まれほとんど拷問紛いの尋問を受けた後、そのまま更に一ヶ月以上幽閉された俺に待っていたのは…海軍の提督の肩書きだった…
「言うまでも無いが…当分の間お前はこちらの監視下に置かれる…定期的にこちらに報告を出せ…外出も基本的に禁止する…」
「…分かってますよ。」
「呉々も忘れるな…」
そうして男は車に乗り帰って行った…
俺は改めて配属された鎮守府を見た。
「…廃墟じゃねぇかよ…」
その鎮守府はボロボロ…窓ガラスは全て割れ、建物その物は一応残っているが壁は所々焼け焦げた跡が…
「…行くか…」
俺は地面に置いていたボストンバッグを掴むと肩に掛けた…
「……」
鎮守府の中を歩く…中は外から見るよりずっと生々しい痕跡が残っていた…壁にこびりつくオイルらしき跡、それから赤黒い染みは…
「…チッ…」
精神衛生上良くないと思い、それ以上は何も考えない事にした…
「…何もねぇな… 」
一つ一つ部屋を覗いて行くが…使える物は大体運び出されたらしく何も残っちゃいない…しばらくの間は本土から最低限の物資は回される事になっているがどの程度期待して良い物やら…向こうは俺を人手不足故に雇っただけで期待してないのがありありと分かる態度だったしな…一応、最低限電気と水は使えるようになってはいるようだが…
渡された見取り図を頼りに一通り見終わり執務室のドアの前に立つ…?
「…誰かいるのか…?」
執務室からは確かに人の気配が有った…現状、建造も不可能なここには後日、物資と共に何人かの艦娘が配属される事が確定しているが当然まだ誰もいるわけは無い…深海棲艦の襲撃により壊滅したこの鎮守府は引き払われ…今日まで機能停止していたらしい…誰もいるわけは無いのだが…
「……」
意を決してドアをノックする…しばらくして…
「……誰?」
声が返って来た…女性…いや、どちらかと言えば少女の声…なら、艦娘か?
「…新しくこの鎮守府に配属された提督だよ…お前はここに配属される艦娘か?入っても構わないか?」
「……好きにしなさい…私にアンタを止める権限は無いわ…」
そう声が帰って来た。…ふむ、入っても良いのか…
「…なら、入らせてもらうぞ?」
俺はドアノブを捻りドアを開け中に入った…
「……」
がらんとした部屋の中唯一置かれた執務机と椅子…その内、机の方に腰掛ける銀色の長い髪をした少女がいた。
俺は彼女に声をかける…
「今日からここに着任する事になった宮田だ…お前は艦娘か?名前は?」
俺は海軍側から与えられた名前を名乗った…捕まった際に以前の身分は取り上げられてしまっている…
「…叢雲よ…艦娘…元、ね…」
「元ってのはどういう意味だ?」
「…言葉通りよ…私、解体が決定してるの…最後にここを見ておきたかったから…来ただけ…」
それが叢雲との出会いだった…