「…私は両親を亡くしてるんです…」
セシリアの話はかなり重い一言から始まった…改めて勝手な事を言った自分に嫌気が差す…いっその事耳を塞ぎたくなったけど…それは、出来ない。セシリアは多分それ相応の覚悟を持ってここにいるから。私は聞かないといけない。
「幼少期の記憶では二人は仲が良かったと記憶しています…ですが女尊男卑の風潮が蔓延してその関係性は目に見えて変わってしまいました…私の父は婿養子だったんです…そのせいか、母の顔色を伺う姿ばかり見せられる様になりました…私はそんな父が我慢なりませんでした…!どうしてもっと強く出れないのか、と。」
「……」
私にはセシリアの気持ちは分からない。今世はそもそも両親がいないし…どうしてるのかは知らない。千冬は話してくれないし、私が自分の事を自覚した時にはもういなかった。前世の両親は覚えてる限りでは良過ぎる位仲が良かった様に思う…
「それ以来、私は男性を見下す様になりました。…でも…あるんです…私にはその力強い腕に抱きとめられ、大きな手に頭を撫でられた記憶が…そして両親二人が楽しそうに話す姿も…あれは幻だったのでしょうか…?」
「あの日から私は、その腕に抱かれた事も頭を撫でられた事もありません。母は父をどう思っていたのか…当初情けない父を同じく見下しているのだと思っていました…でも変じゃありませんか…二人は同じ列車に乗り死んだんです…随分前から二人は一緒に食事をする事すら無くなっていたのに…!」
「…真意はもう聞けません。それに…」
「…それに?」
「…二人が亡くなってから私が相続した遺産を狙って親戚が私に媚を売ったり力尽くで私から財産を奪い取ろうとし始めたのです…私は両親の死を心の片隅に追いやり戦いました…」
「…代表候補生になったのは地位の確立の為?」
国の代表…まで行かなくても代表候補生にまでなればそれなりに国から便宜を図って貰え…無いかもしれないけど…確かに有象無象が寄ってくるのは牽制出来ると思う…
「そうです…私はその為に生きて来ました。それもこれも家を守る為。…でも分からなくなったんです…私は負けてしまいました…それもろくにISに触れた事の無い筈の素人、しかも男性に…そしていくら同性とはいえ、同じく素人の筈の貴女にまで…」
「…セシリア…」
「…先程、一夏さんの所に行きました…その時には聞けなかった事を聞いても良いですか…?」
「…何かな?」
「私は…私のやって来た事は一体何だったんでしょう?私の努力は全て無駄だったのでしょうか…?」
「…ごめんね…私には答えられないや…」
……セシリアの努力は無駄なんかじゃない。現に血の滲む様な努力をしたからこそ、決して広き門とは言い難いIS選手としての代表候補生の肩書きを手に入れた。…でも彼女は一夏と私に負けた事を重く受け止めてる。彼女のやって来た軌跡を知らない私が一般論でそんな事口に出来るわけない…。
「そうですか「でもね」えっ?」
「強かったよ、セシリアは…一夏もそう言ってくれたんじゃない?」
「……」
「…言っておくけどこれは慰めじゃないからね?寧ろ…負け惜しみかな?」
「……試合に負けたのは私ですよ?」
「…あんなの認められるわけないじゃない…僅かでも集中が切れてたら負けてたのは私なんだからね?」
この悔しさはセシリアでも否定はさせない…!あんなの勝利なんかじゃない…!
「負けず嫌いってわけじゃないけどさ、そんな風な顔されたらさすがに怒るよ。セシリアは試合には負けたかもしれないけど実力的には絶対私よりはずっと上だからね?」
せめて私が全盛期の実力ならまともな勝負になった筈…!
「出来れば堂々としてて欲しいな、私はセシリアに私の目標でいて欲しいから。」
「…私は遠距離タイプなのですが…」
「…私は近距離で確かにタイプは違うよ?でもセシリアの努力を続ける所は見習いたいな。」
私にはセシリア程努力した記憶は…多分前世でも今世でも無い…
「そしてそれ以上に、セシリアには対等に、本当に私の友人になって欲しいな。」
「…私で宜しいんですか?」
「セシリアだから…セシリアみたいな真っ直ぐで自信に溢れたその姿に私は憧れる…だから私は貴女に友人になって欲しい。」
私は右手を布団から出す。
「…何ですの?」
「握手。親友になった記念かな?」
セシリアはしばらく私の手を見詰めてた…どれくらい時間が経っただろう?軈て…
「…私は貴女のその優しさに惹かれました…貴女は私を心配してくれた…私で良ければ是非お願いします。」
セシリアが私の右手を掴む…
「…温かいね、セシリアの手。」
「…十秋さんの手は冷た過ぎますわ…風邪のせいですの?」
「う~ん…元々私冷え症の気があって…ごめんね…」
これは前世からの持病の様なものだ…何でこの世界に来てまで出るかな…
「手が冷たい人は心が温かいそうですわ…きっと、貴女の心はまるで太陽の様でしょう…」
「…さすがにそういう褒め方は恥ずかしいんだけど…」
顔が熱い…そんな褒め方された事無いよ…
「…照れなくて良いですわ。貴女はそう言われるのに相応しいと思います。」
「…そんな事無いと思うけどなぁ…」
「…自覚が無いだけですわ…と、もうこんな時間ですか…私は戻りますわね…すみません長々と「違うよ」えっ?」
「…私たちは親友でしょう?それに私は怒ってないよ。こういう時は…」
「…ありがとう、十秋さん。」
そう言って去り際に見せてくれた笑顔に私は思わず見蕩れた…千冬がいなかったら惚れてたかも…私って単に同性に惚れっぽいってわけじゃないよね…?…そもそも千冬に会うまではノーマルだった筈なんだけどなぁ…