目が覚めてしまったとは言え、今はまだ深夜…部屋の外に勝手に出るのは当然許可されてない…夜が明けたら多分こっちに来てからも欠かざす朝にランニングしてるだろう一夏の所に行ってもいい(私は基本、一緒には走らない…まだまだスタミナ不足を感じてるし、これを機に本格的に参加しても良いかも)
あ…でも…同室だし、箒もやってたりするかな…そうなると私は邪魔になるかな…ま、そもそもまだまだ時間あるからなぁ…
チラッとベッドの方に目をやる…ついさっき漸く書類を片付けた刀奈は寝てしまった…私の事を気にして起きてようとする刀奈に寝る様勧めたのは私とは言え、退屈とは感じる…ここは学園の寮なので本格的に時間潰せる様な娯楽は基本、持ち込みは許されてない。
…と言っても生徒手帳見る限り、あまり校則できっちり禁止されてる訳じゃないみたいだから、最低限据え置きのゲーム機は禁止と言う辺りが妥当かな…多分簪はお気に入りの作品のDVDBOX持ち込んでるだろうし…
ゲーム機に関しては仮に持って来てる人がいたらそれはそれである意味尊敬するけど。かなりの電力使うから、間違い無く怒られ…いや、そんな物じゃ済まないかも…ま、そんな事は良いか…
「…あんまり時間経ってないな。」
下らない事考えてる間に時間が進んだりしないかと思ったけど、思った以上に時間は進まない…
「…千冬。」
さっきまで千冬の事を考えてたせいか、ぽつりと彼女の名前が口をついて出た。
「…何か意味があるの…?」
どうして私は千冬の妹になったの…?死んだ筈の私がこうしてまた千冬に会えてるだけマシと言えばマシなのだろう…でも、あの頃より距離の近くなってる今ははっきり言って生殺しに等しい…千冬は別に暴力を振るってる訳じゃない…寧ろ妹としての私に愛情を注いでくれている…そしてそれは過剰なスキンシップとして表れる…
「っ…!」
その度に私は自分を抑えなければいけなくなる…アレは同意のサインとかじゃない…千冬にとってはあくまで姉妹としての愛情表現なのだ…千冬は私とそんな関係になる事を望んでない。
「っ…!…ふ…!…千冬…!」
私はこの気持ちを表に出す事は絶対に出来無い…!今の私は何があろうと千冬の前では妹として振る舞わなければならないのだ…!
「いっそ拒絶してくれていたら…!」
そんなもしもを口にしてしまう…そんな事は有り得ないのだ…私が彼女の妹として生を受けた時点で…家族に執着してる千冬は何があろうと私を捨てる事は無い。
……どうしても耐えられないと言うなら私の方から彼女を遠ざけるしか無かったのだ…でも一緒にいる事を選んだのは私…親がいなくなった時、何とか金を稼ぐ事の出来た千冬と違い、私はただの子供だった…千冬にとっては私は守らなければならない存在で…いなくなったら…多分壊れるのは千冬の方…そう思ったらどうしても離れられなかった…後々、辛くなると分かっていても。
初めは良かったのだ…バイタリティに溢れる千冬は多少無理をしても先ず、倒れたりはしない…ただ、家事だけは何があってもやらせてはいけない…私と一夏は必死だった…私は知識があるから何とか…ならなかった…子供の体格である私には出来る事には当然限りがあり、最初の内は失敗もした(そうでなくても、今思えば前世のあの頃から多少そそっかしい方だったのかも知れないけど…)
とにかく私は必死だったのだ…千冬と本気で向き合う暇なんて無かった…当時から千冬のスキンシップは過剰な方ではあったけど、何時もそうな訳じゃない…家にいない事の方がずっと多かったのだ…
……だから、どんな手を使ったのか生活に余裕の出始めた頃、あの頃は私にとっては毎日が幸せであり、不幸だった…
「っ!」
何時の間にか頬を流れる物に気付き、洗面所に向かい蛇口を捻る…流れる水を手の中に貯め、顔にかける。
「…ハァ…」
何度かそうした後、水を止め、近くにあったタオルで顔を拭き取る…一応涙は止まった様だ…
「……」
タオルを洗濯機の蓋を開け、放り込む…あ。
「…後始末しておかないと。」
洗面所に飛び散った水滴を布巾で拭き取る…全く…何を夜中にやってるんだろうね私は…
「十秋ちゃん?」
後ろから声をかけられ、ビクッとする…
「刀奈さん?ごめんなさい、起こしちゃいました?」
振り向くと刀奈が立っていた…ま、他にいる訳無いけど。
「それは良いけど…どうかしたの?」
「……何でもないです。」
「…本当に?」
「ええ。」
「……そう、分かったわ。」
そう言って刀奈は私に背を向ける…ふぅ。
「十秋ちゃん?」
「…っ!…何ですか?」
「…いえ、良いわ。」
そう言って部屋に戻って行く…
「……」
刀奈はかなり勘の鋭い方だ…間違い無く私の様子が可笑しいのは気付いた筈…でも何も聞かないのは私から言ってくれるのを待っているのだろう…
「…ごめんね。」
だが、どれ程待ってくれようと言えないのだ…前世の記憶がある上、同性で今は姉になっている千冬の事を姉と言う気持ちを遥かに超えて愛しているとは…言えな…ん?
「千冬が好きな事に関しては別に言っても良い様な…」
何となくだけど、箒以上に受け入れが早そうな…いや、逆の意味で様子を見た方が良いかも…
「取り敢えず保留、かな…」
私は部屋に戻った。