「それで、何のお話でしょう…?」
「そうだな…あんた酒はイケるクチか?」
「えっ?まあ、それなりに呑めますけど…まさか…今からですか…?」
「少しだけだ…どうだ?」
「…まあ…少しだけなら…」
「そうか。ちょっと待っててくれ。」
そう言って席を立つ厳さん…こんな時間から呑むだなんて…お酒は嫌いじゃないけど…
「悪いな…洋酒は無くてよ…」
「…大丈夫ですよ。私、どちらかと言えばこっちの方が好きですし…」
とは言え…厳さんが出して来たのは焼酎…えっ?少しなんだよね…?いや、呑めるけどさ…
「氷だけで良いか?」
「大丈夫ですけど…」
どう考えても本気で呑むつもりだよね…どうしよう…?やっぱり断った方が…
「乾杯。」
厳さんが自分の前にあるコップを持ち、掲げる…仕方無い、か…。
「乾杯。」
私も自分の前に置かれたコップを持ち合わせ、ええええ!?厳さんそのまま一気に飲み干しちゃったんだけど!?私もやらないとダメなの!?
「……」
仕方無く私も口を付け、傾ける…うわぁ…焼酎の銘柄はあんまり知らないけどこれ多分結構度数は高い奴だね…参ったなぁ…
「おっ…本当にイケるクチだな…飲みっぷりも良い。」
「どうも…」
飲めなくは無いから私もそのまま飲み干した…うわ…さすがに一気に飲むと回る…しかもこれどう考えてもキツい奴だし…私今日無事に帰れるかな…?
「にしても…あんた昨日も思ったけど日本語上手いな。日本で暮らしてるのか?」
「いえ…フランスに家族と住んでます。私、ハーフで…父がフランス人で母が日本人なんです。」
「そうか…箸の扱いとかは母親に習ったのか?」
「ええ。…と言うか、そもそも母が作る料理は大半が日本食ですし。」
「そうか…■■さん、あんた日本は好きかい?」
「…好きですよ…母の故郷ですし。」
厳さんが注いでくれた二杯目に口を付けつつ、私は答える…うっ…一杯目を一気飲みしたせいか何か、もう既に少し酔いが回ってる…
「…あんたこの国で暮らす気は無いか?」
「…何れは…そう出来たらな…とは思ってますけど…」
千冬に会うのが楽になるしね…最も振られたらいるのが辛くなるから…生活基盤を移そうとは中々思えないけど…と、そうだった…
「…あの…本題に入って貰えませんか?さっきも言った通り千冬を待たせてますし…」
「…おう。そうだったな…」
そう言って自分のコップに入った二杯目に口を付け傾けて行く…焦れったい…お酒が入ってるせいかちょっとイライラして来る…
「いきなりなんだけどよ、弾…あいつをどう思う?」
「…どう、とは…?」
私からしたら普通に一夏君の友達以外の印象無いんだけど…別に嫌いでは無いけど、昨日までそんなに会話もした事無かったし。
「…男として…どう思う?」
「それは…異性として…恋人として…という意味ですか?」
「…もうちょい先だな…将来の相手としてどう思うよ?」
「…あの…冗談では無いんですか?」
急にそんな事言われても歳も離れてるというか…そもそも私千冬が…
「冗談じゃない。あいつが男として責任を果たせる歳になったら…ああ…返事はまだ先で良い…そもそもまだ弾にも確認してねぇしよ…」
「えっ?弾君にまだ聞いてないんですか?」
「ああ。言っちゃ悪いが…あいつどうも将来まともな相手見つけられる気しなくてな…」
「…何で、私なんですか?」
「あいつの為に本気で怒ってくれたあんたなら…と思ってよ…」
「……」
断るべきだ。弾君の為にも…そう思ったけど私は何故か何も言えなかった…
「…断らないんだな…」
「…えっ?」
「俺が無茶な事を…つーか非常識な事言ってんのも分かる…だが…あんたは何も言わない。」
「……」
弾君の事を恋愛対象として見た事なんて無い…私は千冬が…
「…少しは脈がある、と判断するぜ…?」
「……」
どうして何も言えないの?別に千冬の事を言う必要は無い…ただ一言好きな人が居るって言えば良いだけなのに…その日私は何も言えないまま店を後にした…
「どうしたんだ?元気が無いな…」
「うん…ちょっと、ね…」
家に帰ってから私はソファに座り込んだまま動けなかった…道中千冬や一夏君が色々話しかけてくれたけど私は適当に相槌を打つだけで…そもそも会話の内容も頭に入って来なかった…
「ねぇ…千冬…」
「どうした?」
「私、千冬に言いたい事があるの…」
今、一夏君は夕飯の買い出しに出ている…言うなら今しか…!
「私…私ね…!」
身体が小刻みに震える…怖い…そんな私の肩に千冬の手が乗せられた…
「焦るな…ちゃんと聞いてやるから…」
「千冬…」
顔が熱い…卑怯だよ…そんな風に優しくされたら貴女の事を忘れるなんて出来なくなるじゃない…!
「私…!」
もう良いや…!振られたって…拒絶されたって…良い…!今この場で千冬に伝えたい!
「私…私は千冬の事が好き!友達としてじゃなくて…私は…!」
「■■…」
「好きなの!好きで好きで堪らないの…!…千冬…返事を聞かせて…?」
千冬が目を閉じる…沈黙が…怖い…!早く…早く…教えて…!やがて千冬の目が開いた…
「■■…私は…」
「何!?聞こえないよ!千冬!?」
急に千冬の声が聞こえなくなった…どうして!?
「十秋ちゃん!?どうしたの!?」
代わりに千冬の声じゃない女の子の声が聞こえて来た…誰!?誰だか知らないけど邪魔しないで!千冬の声を…いや…私はこの声を知って…
「ん…ここ…は…」
気が付くと目の前には千冬じゃなくて刀奈がいた…
「良かった…目を覚ましたのね…」
「どうしたんですか…そんなに慌てて…」
私はパジャマ姿の刀奈を見ながら言った…まだ頭がボーッとしてるけど…さっきのが夢だったのは分かる…
「どうかしたのは十秋ちゃんでしょ!?魘される声が聞こえて来たから慌てちゃったじゃない…何か嫌な夢でも見たの?」
「…分かりません…どんな夢を見たのか…思い出せないんです…」
嘘だ…ホントは全部覚えてる…刀奈はしばらく黙って私を見詰めていたがやがて溜息を吐いた
「…そう…まあ良いわ…顔洗って来たら?まだ少し早いけどそろそろいい時間よ?」
「…そう、ですね…そうします…」
私は洗面所じゃなくてそのままパジャマを脱ぐとバスルームに向かった…鏡を見る…目が赤い…私はバルブを捻った…勢い良く迸るお湯を浴び、目を閉じる…
…前世の事を夢に見る事は何度かあった…いつもは短い時間を夢に見るだけだけど今回は本当に長く感じた…私はあの日厳さんに好きな人が居ると言えなかった…弾君が好きな訳じゃない…筈だった…でも何も言えなかった…あの日私は不安だった…本当に私は千冬が好きなのか分からなくなったから…そこへああやって優しくされて…少しとはいえ、酔ってるせいもあったと思う…優しくされて…想いが抑えきれなくなって…私は…あの日…!
「っ!」
私はシャワーを止めた…
「何も言えなかった…!」
でも結局あの日は…あの日は本当は何も言えなかった。どうしても怖くて…!…そして迎えた第二回モンド・グロッソ…あの時私は予感があったのか絶対に言わないといけないと思った…そう、思ったのに…!
「っ…!」
私はまたシャワーのバルブを捻った…どうしても刀奈にこの声を聞かれたくなかったから…辛いよ…この世界の事は私は好きになれない…だって…向こうとのズレは多少あるけど…この世界はあっちとそっくりで…千冬も性格は全然変わらなくて…!
どうして!?どうして!私は千冬の妹なの!?あっちと同じ私じゃ駄目だったの!?…あっちと同じ私…■■…駄目だ!名前も思い出せないよ…!自分の…名前なのに…!
「誰か…助けて…」