束のやる事を黙って見てようと思ったわけじゃない。だけど、あの日から束は私の所にも千冬の所にも姿を見せる事は無かった……束が私の所に久々に顔を見せにやって来た時にはもう世界が変わってしまった後の事だった。
先ず最初は各国の政府から国民への白騎士に関する情報開示。
開発者は篠ノ之束である事、アレはパワードスーツであり、名称はインフィニット・ストラトス。その情報の後、束がある事を約束した事を伝えた。
インフィニット・ストラトス……通称ISにはコアと呼ばれる物があり、それは篠ノ之束にしか作る事は出来ない。そのコアを自分の要求を飲むなら各国に配布する……但し作り、配布するのは限られた数のみである事、そしてその後は二度とコアを作る事は無い、と。
この話に、先進国の多くは飛び付いたのだ。アレほどの性能を持つパワードスーツなら利用価値は大いにある。
ここまでならほとんどの人たちにはそれほど影響は無かったかもしれない…ただ、ISには束にもどうする事も出来なかったという致命的な欠陥があった……このたった一つの欠点が世界を変えてしまった。
インフィニット・ストラトス…ISは女性にしか起動する事が出来なかった。
「それで…千冬?本当に良いの?」
「ああ。今まではバイトをいくら掛け持ちしても正直ギリギリだったからな、こっちの方が稼げる可能性はある。」
「そっか。」
「お前はどうするんだ?」
「私は…止めておく。千冬ほどの腕は無いから。」
「お前なら相当良い所までいけると思うんだがな…」
「それはどう考えても無理でしょ。千冬がいるんだし。」
「何だ、その言い方だと私が優勝するのは確定か?」
「当然。千冬に勝てる人なんていないと思うよ…だって千冬は世界で初めてISを纏って戦ったんだから……それで思い出したけど、本当に大丈夫なの?」
「ん?何がだ?」
「またISを纏って戦ったら誰かは千冬の正体には気付くんじゃない?」
「…それなら特に問題は無いな。」
「何で?」
「今回私は基本的に空中戦を一切しない。制空権は全てくれてやる。」
「…束の話だと本来空中を制してこそのISだよね?それで勝てるの?」
「その束の見立てだが、どうせほとんどの奴が満足に使いこなせないだろうとの事だ…今回は私もあいつの意見に同意だ…やる事は一つ。制空権をくれてやるとは言ったが、簡単には上を取らせない…全て開始早々に斬り捨てる。これなら私はろくに動く必要がないからな。」
明らかに言ってる事は無茶苦茶…でも…
「普通の人なら無理そうだけど千冬なら出来そうだね…」
「……だから一々人を化け物扱いしないで欲しいんだが「ごっ、ごめん…!そんなつもりじゃ…!」冗談だ、お前がそんな風に思っていないのは分かっている。」
「それはそれとして、だ…お前が出ないのは本当に残念だな、お前となら良い勝負が出来そうだからな。」
「買い被り過ぎだよ。単純に反応の話なら一夏君の方がすごいんじゃない?」
「お前はその一夏を試合では完封してるだろうに。」
「経験の問題だよ。だから私は千冬には勝てない。試合ならまだしも…実戦では絶対に。」
剣術で千冬には勝てない…これから先どうやっても差は埋まらないと思う。多分、同じ武器を選んだ時点でもう駄目なんだと不思議と思う。私が千冬と同じ篠ノ之流を習う事を選んだ時点で…きっと勝つ事は不可能だったんだと思う。
「試合には一夏君と応援に行くから。」
「ああ。」
ISが各国で作られるようになった後(コアは束しか作れないけどIS自体は一応、ある程度の水準の技術者なら作れるんだとか)先ず最初に決まったのは軍事利用をしない事…まあ建前に決まってるけどね。そしてISを纏っての実戦形式の試合をする大会…モンド・グロッソをする事が決まる…これに千冬は出る事にしたのだ。こうして千冬が活躍する様になる事に誇らしく思う反面、不安材料も私の中にある。
ISが女性にしか起動出来ない事が分かった事で多くの国で女尊男卑の風潮が蔓延していた…日本もその国の一つ。
私は男尊女卑の気質がある日本の状況を良いと思っていた訳では無いけど、今の多くの女性たちの態度も目に余る。大体、束はそんな事の為にISを作った訳じゃない。
「どうしたんだ?」
「ごめん、何でもない。」
……まあでも、こうして千冬が晴れ舞台に上る事になったのは素直に嬉しいけどね。こんな世の中でもそれだけは良い事だと思えるかな。