千冬のワガママに閉口したものの、後になって良く考えたら私が大会に出るのは普通に無理である事に気付き、胸を撫で下ろした。
世界規模でやってるモンド・グロッソ…当然それぞれの国から出られるのは国の代表…つまり一人だけ。日本では次の代表は実質千冬で固定されてる為、大会で私たちがぶつかる事はほぼ無い…まあ良く調べたらハーフである私は父の方の国籍、フランス国籍を取得すれば出られる可能性があるんだけど…最悪日本にいられなくなるし、手続きも面倒そうだからやるつもりは無い。
……まあとにかくこの問題はもう終わった、と思っていた私は千冬が持ち込んで来た斜め上の提案で絶望に叩き落とされた。
「…ねぇ千冬?これ、どういう事…?」
「見ての通りだが?」
「いやいやいやいや…」
私は千冬の持ち込んだ書類を突き出し、問題の箇所を指差しながら思わず叫んでいた。
「特別枠にて出場ってどういう事!?」
その言葉に千冬が溜め息を吐いて答える
「だからな、そこに書いてあるだろう?次回の大会で初代優勝者の私が推薦した人物が出るんだ…つまりお前だ。」
「だからさぁ…!」
私は思わず頭を抱え、更に掻き毟る。
「私は千冬程の剣の腕は無いって言ったじゃん!」
「何度も言うがな…仮に私を剣で上回るとしたら、お前をおいて他にいないと思っている…過度の謙遜は止めた方が良いぞ?」
……そうやって評価されてもまるで嬉しくない!……って言うのは当然嘘だ…本当はもう…死ぬ程嬉しい!だけど!
「これはね、剣道の試合の話じゃないんだよ!?ISで戦うんだよ!?私は今まで一度もISに触れた事すら無いんだよ!?」
「私が初めてISを身に纏ったのはあの事件の時、それからは選手に選ばれるまで一度もISに触れてないし、それに私は大会前に散々ISの経験を改めて積んだ。何も別にいきなり経験ゼロの状態で大会に出ろとは言ってない、お前も練習すれば良いだろう?」
「……」
反論材料を尽く潰され私は押し黙る…どうしても出なきゃダメなの…?私が一番分かってる…千冬と試合しても絶対に勝てないって…分かってるのに…!……別にどうでも良い相手なら負けたって良い…でも千冬に負けるのは嫌だ…私は千冬と対等でいたい…だから…戦いたくないのに…!
「……そんなに嫌なのか?」
「え…?」
今まで散々私に出ろと言っていた千冬が突然そんな事を言い出す。
「いや、思った以上に暗い顔をしているんでな…無理強いをしたなら謝ろう。」
「……」
「私としてはただ、お前と一度本気で戦ってみたいと思っていただけなんだが…」
目に見えてオロオロしはじめる千冬に罪悪感が芽生える…子どもの頃から自分を律して誰からも線を引くように距離を置いてワガママを絶対に言わない。弟の一夏君がいたり、色々とやらかす束と良く一緒にいたせいか、自分自身の願いを口にしない千冬が、私にはいつの頃からか悩みの相談をしてくれたり、ワガママを言ってくれるようになったのが嬉しかった。
でも普段からワガママを口にしなかったせいか、時折普通なら悩まない様な事で悩んでいたり、時々私では手に余る頼み事をしてくるのには困ったけど…大抵の事は聞いて来た…私が本気で断ると悲しそうな顔しつつも引っ込める千冬…
改めて考えてみる…私は千冬に負けるのが嫌だから戦わない…千冬は私が強いと信じている…うん、これは私が折れるべきなんだろうね…
「分かった、出るよ。」
「ッ…!…本当か?」
「うん。」
「そうか…出てくれるか…!」
……私が大会に出場する、と言っただけでこんなに喜んでくれるなんて…うん、もうこれからの事は後から考えよう。この笑顔を見れただけで私は満足…後は未来の私に任せることにしようっと。
「では、お前の家族に連絡を「いや、それは待って。」…何故だ?」
次の大会の会場はドイツ…仮に合宿場所もドイツだとして私と千冬に一夏君の三人で向こうに合宿に向かう分には良いんだけど、家族に知らせたら私と同じく日本にいる兄さんはともかく、両親はわざわざフランスからやってきかねないからね…家族の事は嫌いじゃないけど、割と過保護気味だから…大会に来てくれる分には良いけど…私と千冬のサポートするとか言って合宿の時点で仕事ほっぽり出してホテル滞在始めそうだし。
「一応言っておくと、千冬にも干渉して来ると思うよ?」
「……それは…確かにキツイな。」
ウチの家族、子どもの頃から千冬と一夏君の事気遣ってたから…今回も大会の事伝えなかったら、後で鬼のように電話来たし…
「ちなみに小学生の時の運動会の時の事ってもう忘れてる?」
「……」
あー…思い出したみたいだね…
「多分あの時みたいに横断幕作って「黙っておこう」……それが良いよ。」