「む…」
「何だ?どうした爺さん?」
爺さんが突然声を出す…どう見ても意味無く声が出たとかじゃねぇ…俺…いや…俺の後ろの壁を睨み付けている…壁の向こうは…外だな…
「……来るぞ。」
「何が?」
「…奴らじゃよ。」
「…俺は今の所何も感じねぇな…お前は?」
俺は横に控える叢雲に声をかける…この部屋には他に椅子あるし、座ってて良いって言ってんのに横にずっと立ってやがる…はっきり言って鬱陶しい事この上ない。
「…私も特に何も感じないわ。」
「経験の問題じゃな、儂は何度も何度も奴らの襲撃を味わった…じゃから近付けば分かる…」
そう言って茶を飲み、湯呑みを机の上に置…ん?
「叢雲、どうした?」
「湯呑みが空みたいだから。」
そう言って叢雲が部屋の中にある、やかんの元まで歩いて行く。
「ほう?さすがじゃのう?」
「…こんなのより深海棲艦が近付くと分かるっていう方がすごいと思うわ…」
「こんなのは誰でも分かるからのぅ…」
誰でもか…少なくとも俺は今現在何も感じ…っ!?
「おい爺さん!?」
「言ったじゃろう?必ず分かると…」
突如感じた悪寒…それと同時に身体が凍り付いた様に動かなくなった…何だ!?何が起きたってんだ!?
「ほれ、しっかりせんか。」
何時の間に横に立っていた爺さんが肩を叩く…その瞬間俺は椅子から転げ落ちた…身体は動く…俺は床に手を着き、ゆっくり力を入れ、立ち上がった。
「爺さん…こいつは「先ずは落ち着かんか。ゆっくり深呼吸せい」あっ、ああ…」
爺さんの言う通り、鼻から息を吸い、口から吐く…身体の麻痺は消えても僅かに残っていた強ばりが息を吐く事に溶けて行く…
「大丈夫か?」
「ああ…それで爺さん「落ち着いたなら次は自分の秘書艦の事を確認せい」叢雲?おい!」
爺さんが指を指す方を見ると、床に座り込み、自分の身体を抱く様にして震える叢雲がいた。
「おい!大丈夫か!?」
「……」
俺が声をかけてもまるで聞こえていないかの様に反応をしない。
「…恐く、長く前線から離れた影響で今彼女は人間とほとんど変わらない状態になっているんじゃろう「んな事はどうだって良い!何なんだよこいつは!?」じゃから落ち着けと言っておろう。これは人間なら誰しも感じる感情じゃよ。」
「感情…だと?」
「誰しも感じる原始的な物じゃ。恐怖じゃよ。」
「単に怖ぇと思っただけでこんな風になるって言うのかよ!?」
「今儂らは奴らからの殺気を浴びせられておる…恐く計器類はまだ反応しない範囲からじゃのう。」
「そんな遠くから殺気を浴びせられてだけでこんな風になるってのか!?」
「本来人間にどうこう出来る相手じゃないからのう。…生物であるなら何であれ、格上から睨みつけられればこうなる。」
「何であんたは平気なんだよ…!?」
「…慣れじゃよ。長年奴らと対峙しておれば自然に慣れる。」
舌打ちを零した…この爺さん何度も関わってたせいで危機感てもんがねぇ!?
「爺さんこの船に武装は「無い」あ?」
「無い。この船には奴らに対抗出来る武装は何一つ積んでおらん。」
「ふざけんじゃねぇぞ!?」
俺は何時の間にか気絶していた叢雲を床に寝かせると、部屋を飛び出した。
甲板に出れば爺さんの部下がいた。
「おいあんた!」
「おや?何でしょう?」
その声を聞いて違和感を抱く…女?
「これから深海棲艦が襲撃「ええ。分かってますよ」何!?」
分かってるだと!?
「爺さんはこの船に武装は何も積んでねぇって言ってやがった「ええ。この船に武装は何もありません」何でだよ!?」
「何でと言われましてもね…我々は派閥からも完全に弾かれてましてね…要するに役職こそあり、ある程度の発言権もありますけど…実質、軍人じゃないも同然の扱いを受けてましてね…まぁそもそもこの船自体軍の物でなく、あの方個人の持ち物みたいな物でして…」
その女の肩を思わず掴んだ。
「んな事はどうだって良いんだよ!何で武装を積んでねぇのかって聞いてんだよ!」
「乱暴な方ですね。…まぁ言ってしまえば我々は武装する事自体を許されてません。海に出るのを許されてはいますけどね。」
「馬鹿な!?」
今は民間の船でさえ武装してるんだぞ!?
「あの、そろそろ離して貰えません?」
「チッ!分か…ん?」
その女の肩から手を離そうとして気付く…この女の顔に見覚えが…!
「お前…」
「今度は何でしょう?…それにしても、元民間の方と聞いてはいましたが…私、一応階級上は貴方より上…ちょっと!?」
俺はその女が被る軍帽の鍔を掴むとそのまま上に持ち上げ、女から帽子を奪った。
「お前、艦娘だな?名前は…そうだ、確か…巡洋戦艦の赤城…」
「…あ…あはは…バレちゃいました…」
これでも主要な艦娘の顔と名前は完全に暗記したつもりだったんだがな…まさかここまでやらないと気付かないなんてな…俺は逆恨みだと分かっていても目の前で軍服を着て苦笑を浮かべた女を睨みつけずにいられなかった。