束に悪意が無い…と言うのは私がそう思いたいだけで、私の単なる願望でしかない。結局何を考えているのかは束本人しか分からない…
問いただそうと思ったりしたけど、束の場合、余りプレッシャーかけると逃げてしまう可能性がある…問題を先送りにはしないけど、結果を出した上で姿を消す。それが束のやり方なのだ…それはもうISの一件で良く分かってる…
「■ちゃん?どうしたの?手が止まってるみたいだけど…」
「!…ごめん、母さん…」
母さんに声をかけられて我に返る…取り敢えず今は目の前の事に集中しよう。私は箸を持つ手を動かした。
「…何を悩んでたのか知らんが、食事の時は集中した方が良いと思うぞ?」
「そうそう。■■さん、そそっかしいから集中してないと何かやらかしそうだし…」
私の両サイドに座る千冬と一夏君がそう言って来る…
「…二人して酷くない?」
「…普段の自分を考えてみれば私たちの言ってる事も正しいと思えないか?」
う…確かに…それ以上反論出来なくなった私は取り敢えず卵焼きを口に運ぶ…あれ?これ…
「それは私が作った物です…あの…口に合わな「ううん、大丈夫。美味しいよ。」……良かった。」
クロエが作った奴だったんだ…細かい所を言えば、ちょっと味が濃すぎる気はしたけど、もちろんそんな事を口に出したりはしない。
「クーちゃんは料理上手だもんね♪」
「……束様…」
「あれ?どうしたの…?」
束にそう言われてクロエが落ち込み始めた…いや、だってねぇ…
「束、お前なぁ…」
「え!?束さん何かした!?」
「…なぁ、クロエ、この際、良い機会だからはっきり言った方が良いと思うぞ。」
「私は…」
「大丈夫だよ、クロエ。束ならちゃんと分かってくれるから。」
「そうでしょうか…?」
まぁ多分今日初めて言う訳じゃないんだろうけど…こうやって他の人がいる中で、改めて伝える分には効果はあると思う。
「うん、大丈夫。」
「…分かりました…束様。」
「え?何?どうしたのクーちゃん?」
「束様…前にも言いましたが、私は料理は不得手です。」
「え!?そんな事「お前は少しは空気を読め」痛っ!?何するのさちーちゃん!」
クロエの発言を否定する束の頭に千冬がチョップを落とす…拳骨じゃないだけ加減してる方だね…全く…千冬がやらなかったら私がやってたよ…まあ私の位置からだと届かないけど。
「…私はいつも束様に、美味しく、栄養のある物を食べてもらいたいと思っています…でも…私には出来ません…」
そこで私は横に座る一夏君をつつく。
『ん?何?』
小声で聞いて来る一夏君に私も小声で返した。
『クロエ、結局料理に関してはどうだった?』
『…大丈夫。多分、一人でゼロからいきなりやろうとしてたから上手く行かなかっただけだよ…教えてくれる人がいたら直ぐにでも上達するよ。覚えも早かったし。』
『そっか…良かった。』
視線を束たちの方へ移せば束が泣きながらクロエを抱き締めている光景が目に入る…そんな束を見ながら私は思う…娘の為にこうやって涙を流せる程優しい束が、悪い事を考える筈が無い、と。