看守に促され、部屋に入る…アクリル板の向こうにすっかり見慣れた顔があった…黒く長い髪にカチューシャが特徴の少女、ではなく女性…遠野秋葉…俺の妹だと言い張る女が椅子に座っている…
「兄さん、お久しぶりです。」
「……ああ。」
笑顔で話しかけて来る彼女に気後れしつつ、返事をする…
「調子はどうですか?ちゃんとご飯食べてます?」
「ああ。ちゃんと三食出てるし、食べてるよ…最近はあまり貧血も出ないんだ。」
「そうですか、良かった…それで今日「秋葉、前置きは要らない。時間が無いからさっさと用件を言ってくれ。」…はい…兄さん、屋敷に戻って来て貰えませんか?」
「断る。俺は戻る気は無い。」
「兄さん…」
「今更俺が戻って何か変わるか?遠野家の当主はお前だろう?…学生の時のあの頃とは違うんだ。」
「私たちは…家族なんですよ…?」
「違う。俺たちは他人だ、血だって繋がってない…俺は、遠野の人間じゃない。」
「…なら、他人でも良いです…私は兄さんの事を「お前の気持ちに答えるつもりは無い…もう帰れ。」貴方はここで…一生を過ごすつもりなんですか!?」
「そうだ。俺はここを出ない。」
「……良いでしょう、分かりました…兄さんがそこまで言うなら私にも考えがあります…!」
「遠野家の力はここでは及ばない…何をやっても無駄だよ、秋葉。」
「…今日は帰ります…でも…私は諦め「秋葉」ッ!」
俺は眼鏡を外し、秋葉を睨みつける…口に出せばこの後俺は懲罰を食らうからな、だがこれだけで伝わる筈だ…今この場で俺はお前を確実に殺す事が出来る、と。
「帰れ、もう二度と来るな。」
そう言うと、眼鏡をかける…視界にあった線が見えなくなる…くそっ…!頭痛がする…!
「ッ!すみません…もう面会終了にして下さい…」
俺は後ろを向き、見張りとして立っていた看守に言った。
「…まだ時間は残っているが…」
「体調が悪いんです…」
「……確かに顔色が悪いな…分かった…ではこれで終了としよう…そちらも良いですか?」
「はい…」
「行くぞ、遠野。」
「分かりました。」
俺は席を立ち彼女に背を向けた。
「兄さん!」
足を止める。
「私は…諦めませんから…」
「……じゃあな。」
俺は看守の開けたドアから外に出た。
「大丈夫か?」
「はい…だいぶ良くなって来ました…」
「一応医務室に寄って「いえ、大丈夫です…何時もの頭痛ですから」しかし…」
「本当に大丈夫ですから…」
「分かった…部屋に戻るぞ。」
「はい…」
看守の後につき、部屋まで歩く…遠野秋葉…あいつは大体、月に一度のペースでやって来る…俺を屋敷に連れ戻す為に。……前の俺があの屋敷での生活をどう思っていたかは知らないが、”俺”はあんな生活はごめんだ…同じ籠の中にいるにしてもここの方が断然良い。
あいつは家族だの何だの、俺に言ってくるが、心が動く事は無い…そんな中身の無い説得は響かない。結局あいつは俺をただ、自分の手の届く所に置いておきたい、単に囲っておきたいだけなのだ。そこに俺の意思は介在していない。