あれから数日後、俺はまた面会室に向かっている……ただ、今回は事情が少々異なる。
「久しぶりですね、遠野君?」
「どうも…シエルさん。」
刑務所には教誨師と呼ばれる人物が良くやって来る…まあ簡単に言えば宗教家だ…日本は他の宗教に比べて仏教が広く浸透してこそいるが、本気で信奉してる奴はそう多くは無い…が、刑務所、という特殊な場所柄故か、ここでは本気で信者になろうとする者が一定数出て来る
……とはいえ、別に俺は宗教に傾倒しているわけじゃない…ましてや目の前にいるのは教会の関係者、仏教でさえ本気で信じている訳じゃない俺には無縁の相手だ…本来なら。
「昔みたいに先輩…って呼んでくれても良いんですよ?」
「公私は別けるものでしょう?第一、そう呼んでいたのだって学生の頃の話だ。」
「そうですか…」
聖堂教会の始末屋…具体的に言えば人に害成す者…死徒等の化け物、あるいは人には過ぎた力を持ってしまった異端者を神に代わって裁き、狩る者…代行者。それが目の前の女、シエルの肩書きだ。
「で?よりにもよって就寝前に何の用ですか?面会時間はとうに過ぎてますけど?」
俺は後ろを向く…見張りの看守すらいない…高々教誨師にそこまでの権限があるのか?
「遠野君とちょっとお話したくてですね、ちょっと二人きりにさせてもらいました…後、この時間にしたのは他の人に話を聞かれないように、と思いまして。」
「俺は別にそこまでして聞いて欲しい話はありませんけどね…」
教誨師と話すのは大抵の場合、自分がしてしまった事の許しが欲しいから…その罪の重さを少しでも軽くしたいと宗教に救いを求めるのだ…教誨師は話を聞き、神に代わって許しを与え、死後の安寧を約束する……俺はそんなのはごめん被る…ここは長期刑の奴が多く長く一人で苦しんで来た奴が多い…そんな連中が救いを求める事を俺は否定しない。
だが、俺はいらない。これは俺の罪だ…誰にも勝手に終わらせない。俺が、一生背負って行く……許しも、ましてや救いなんて絶対いらない。
「分かってますよ。私が一方的に遠野君と話したいだけです。」
「それは仕事じゃないですね…人払いまでして一体どんな話がしたいんですか?」
「……私はですね、今日は生意気な後輩と昔話をしに来たんですよ。」
「……明日も早いんで房に帰って寝ても良いですか?」
今更他人同然のかつての自分に関する話など聞きたくは無い…大体、明日は平日、朝から作業がある…
「ダメです♪」
「……アンタにそんな事言う権限は無いでしょ?じゃ、俺は帰りますから。」
席を立ち、後ろを向く…ドアに手をかけ「あっ、言っておきますけど一時間は開けて貰えませんよ?」
「チッ…!」
この女…!俺は仕方無く席に戻ってシエルを睨み付けた…見張りはいないがカメラはある…あんまり迂闊な事は出来ない…この女は性格悪いからな、これ以上突っぱねると面倒な事になりそうだ…大人しく話を聞くとするか。