目を開くと自分の部屋の天井でないことに気付く。
だが、この天井に見覚えがあった。
ベッドから起き上がるとここが何処か予想通りであることを確認する。
"ベルベット・ルーム"
夢と現実の狭間に存在するこの部屋は来る客人によってその姿を変える。自分の場合獄中の囚人、とのことになっている。(理由はあまり説明したくない)
開かれた扉の先には青の制服に身を包んだ少女が立っていた。彼女の名前はラヴェンツァ。自分の旅を手伝ってくれた愛おしい存在だ。自分が居ることに気付いた彼女は、スカートのすそを掴み一礼して言った。
「ようこそ、ベルベット・ルームへ。お久しぶりです、マイトリックスター。いかがお過ごしでしょうか」
「久しぶり、ラヴェンツァ。俺は元気でやってるよ。竜司達とたまに会ったりしているし、モルガナも家族に気に入られている。心配はしないでくれ」
自分の言葉にラヴェンツァは嬉しそうに微笑むが、すぐにその表情は暗くなってしまう。
「どうかしたのか?」
「実は……主に習い、貴方の今後を占ってみたのです」
そう言って彼女は奥の机に目をやる。その上にはタロットカードが置かれており、1枚だけ表になったカードがあった。
カードに描かれていたのは"塔"正位置の意味は確か……
「"崩壊"の意味を表しています」
「…………」
「貴方方のお陰で、世界は悪神の支配を回避することができました。しかし、今回は更に強力な力が貴方の目の前に立ちはだかるようです。私の手助けも届かないほどに……」
不安がる彼女の手を取り、俺は言った。
「大丈夫だ、ラヴェンツァ。この先、どんなことが起きようとも、俺は必ず乗り越えて見せる。だから、安心して欲しい」
「……えぇ。信じていますよ、マイトリックスター。貴方の旅のご無事を祈っています」
そう言ってラヴェンツァは俺の手を放す。それと同時に彼女の姿は無数の蝶となり、飛び出す。
次に目を開くとそこにはいつもの自分の部屋の天井が見えた。
2016年某日某所。1人の青年が商店街を歩いていた。
彼の名前は
去年一年色々あって東京の知り合いの所に預けられた。そこで"心の怪盗団"なるものを結成し、多くの汚い大人たちの心を盗み、懐心させていった。
最後の大仕事を終わらせ、仲間との別れを惜しみつつ、この町に戻ってきたのだ。暫く人の目が気になっていたが、2年前と比べると全然違う。それは自身の成長だけではない。もう一つ理由があった。
『あそこのコロッケは本当に美味いな~トウヤ!ワガハイの好物の中でも上位に入るぞ!!』
自分のバックから1匹の猫が顔を出していった。
彼は"心の怪盗団"の一員であるモルガナだ。自分に着いてきて両親に随分と驚かれたが、持ち前の可愛さで二人をオトし、家族の一員となった。今でもバックの中に入って学校等ついてきているが、何故か他の人にバレない。今回もお使いで寄った惣菜屋のカニクリームコロッケをちゃっかりしっけいして(代金はちゃんと置いてきた)ご満悦しているようだ。
「やるなら言ってからにして欲しいな、モルガナ。気付いてなかったら、俺万引き犯になってたぞ」
『お前さんがそんなヘマするような男ではないだろう。それに怪盗を辞めても観察眼はこれからも使えるスキルだ。鍛えておいてもソンはないだろう』
「そうだな。釈放されたとはいえ、まだ公安の眼もあるようだ」
スマホの内カメラで背後を映す。そこには電柱の陰に隠れている1人の男が見える。彼が公安の者か確信は持てないが、気を付けるに越したことはない。モルガナに目線を送り、足を速める。後ろの気配もついてきているようだ。
「どうだ、モルガナ」
『まだ来てるぜ。このまま家に戻るか?』
「家の手伝いもある。自宅を知られるのは癪だが、行くしかない」
『仕方ねぇな』
今後の作戦を決め、2人は自宅に急いだ。家に着くと見たことのない靴があることに気付く。
『ハハウエのお客人か?』
「いや。今日は友達も来ないと言ってたはず……」
よく家に友人を招く母だが、そういう時は必ず連絡を入れるはずだ。連絡のない来客はまずない。いつもと違う家の様子に気を配りながらリビングに向かう1人と1匹。パレスに居る時のように様子を伺うと、そこには一番会いたくなかった人物がソファーに座っていた。
「やぁ!会いたかったぞ、我が弟♡」
「……帰ってたのか、兄さん」
『なぁトウヤ、こいつは「お~、この子が話に聞いていたモルガナか~。うん、可愛い」
足元から現れたモルガナを兄と呼ばれた男は抱きかかえ、撫でまわす。大の動物好きのこの男にかかればモルガナもすぐにノドを鳴らす。その光景を横目に、遠矢は母に頼まれていた物を渡す。
「あいつが帰って来るから頼んだのか、母さん」
「そうしなきゃ遠矢ちゃん、話きいてくれないもの」
「……ジイちゃんのところ行く」
「おいおい遠矢。せっかく家族全員そろうんだ。一緒に」
自分の肩に置かれた手を払いのけ、遠矢は兄を睨む。
「何が家族だ!一昨年の事件だって真っ先に疑った癖に今更家族なんで言うな!!」
「それは……」
「……もう、いい。これ以上愚兄と一緒に居たら余計な事言いたくなる」
置いてあったバックを担ぎ上げ、遠矢はリビングを出て行く。飛び乗ったモルガナは自分の頭を叩きながら言う。
『オイ、トウヤ!ちゃんと説明しろ!アニウエと仲が悪いのか?』
「まぁな。……一番裏切られたくなかった人だったから」
『トウヤ……』
悲しそうに空を見上げる遠矢にモルガナはかける言葉もなかった。彼の家族の溝は自分が思った以上に深いらしい。
そう思うモルガナが心配しすぎたせいか、それとも遠矢本人が警戒を怠ったせいか、次の瞬間、何者かに背後を取られてしまう。
「(しまっ!)」
『トウヤをはなフギャっ!』
後ろの相手に噛み付こうとしたモルガナは無理やりバッグの中に入れられてしまう。公安に捕まっていた時に多少薬に耐性が付いていたが、強力な催眠薬を使われたのか徐々に瞼が落ちていく。
「(俺としたことが……。明日は竜司と遊ぶ約束があるのに)」
遠のく意識に耐えながら、少しでも自分をこんな目に合わせた相手の情報を得ようとしたが、難しいようだ。
「(こんなことになるのなら、あんな喧嘩なんかしないで、素直に兄さんと話でもすればよかったな)」
後悔してももう遅い。と思ったのを最後に遠矢は意識を手放した。
『いつも君には悪い思いをさせてすまない』
電話の相手である女性は申し訳なさそうな表情をしているだろう。
毎度のことながら、上に立つ彼女の命令を無視してまで何故自分を利用しようとするのか分からない。
「気にしてないっすよ、美鶴さん。と、言うより俺の方こそこんなにノしちゃって大丈夫なんですか?」
後ろに転がってる黒服共の山に目を移す。こーいう勝手な奴らが居るから自分は彼女の組織に入りたくないのだ。
『私は君の気持を第一に考えている。それを無視してまで手に入れようとする彼らは処刑されて当然だ』
「そう言ってもらえるなら、俺も楽ですわ。今度こいつらノした詫びに菓子折り持って行きますね」
『むしろこちら側がそうするべきだ。君がそうする理由などないのに』
困惑するのも仕方ない。相手からすれば自分は迷惑をかけた側の人間だ。被害者の方が謝りに行くのは不思議でならないのだろう。
俺は少し笑い、電話越しの戦友に言う。
「俺も俺で皆に心配させまくったし、
『……』
彼女は黙ってしまう。やはり話すべきではなかったか?そう思っていたらその後すぐに彼女は言った。
『相変わらず、優しいな
「よしてくださいよ、美鶴さん。俺はアイツの代理なんて到底無理ですよ。そのリーダーって称号はあいつに一番なんですから」
そう言って空を見上げる。都会のネオンで見えないが、上で輝いている星々に思いをはせる。きっとアイツもこの空を見ていることだろう。
『では後日、他のメンバーも集めて会わないか?私も山岸も今出払っていてね。仕事がひと段落したらになるのだが』
「いいですね、それ!特捜隊の皆には俺からなげときます」
『頼んだ。S.E.E.Sのメンバーには私から伝えておこう。日時は追って連絡する』
そう言って彼女は電話を切った。通話終了画面を見ながら俺は心躍らせる。S.E.E.SのメンバーとはP-1グランプリ以来の再会だ。あの時空の狭間の迷宮での出来事を思い出し時、メンバーが減って驚いたが、他の人達は元気でやっている。
彼らにもあの馬鹿の事を知らせなきゃ後々怒られるだろう。
「今から待ち遠しいな」
暗がりを映す窓に向かって言う。一瞬だが金目の自分がその言葉に返事するように頷いた気がした。
……—-ゥ
何か柔らかいものが顔に触れた。
……—-ォウ
モルガナの猫パンチより優しいその感触に遠矢は癒されていた。
フォウ!
「いたっ!」
先ほどより強めにやられたため強制的に目覚める。起き上がるとそこはどこかの施設の廊下だった。
「(ここは一体どこなんだ?それに勝手に着替えられてるし……)」
自分が見慣れない白の制服に変わっているのに表情は出さないが驚く。どうやら自分は何者かによって誘拐されたようだ。
「フォ~ウ」
「?(なんだ?この鳴き声)」
自分を起こしたであろう声の主を捜す。と同時に後ろに居た別の人物が声を掛けてきた。振り返って見ると眼鏡をかけた少女であった。
「目が覚めましたか?」
「あ、あぁ。君は……」
「名乗るほどの者ではありません」
「え?!」
「いえ、名前はあるのですが、あまり名乗る機会がなかった為にこう、印象的な自己紹介が出来ないというか……」
そう言って少女は再び首を傾げた。すると自分の頭が重くなるのを感じる。
「そう言えば、この子は?」
ウサギのような動物だ。鳴き声からして自分を起こしたのはこの子だろう。
「こちらのリスっぽい方はフォウ。カルデアを自由に散歩する特権動物です」
「(リスの仲間なのか。てっきりウサギの仲間かと思った)」
少女の説明に遠矢は頭に乗ったフォウを放してやる。フォウと鳴き声を上げて彼はそのまま行ってしまった。
「また何処かへ行ってしまいました。あのように特に法則性も無く散歩しています」
「気まぐれなんだな(モルガナと同類だな、あれ)」
「私以外にはあまり近寄らないんですが、貴方は気に入られたようです。おめでとうございます。カルデア二人目のフォウさんお世話係の誕生です」
「あ、ありがとう?」
話の意図が読み取れず、困惑する遠矢。実に聞きづらいのだが、思い切って聞いてみた。
「所で、ここはどこなんだ?」
「ここは人理継続保障機関『フィニス・カルデア』です」
「カルデア…?日本ではないのか?」
「はい。あの、貴方はマスター候補として呼ばれたのではないのですか?」
少女の問いかけに遠矢は頷き、今まで自分に起こったことを話す。全てを聞き終わり、彼女は顔を真っ青にして言った。
「そ、そんな……。これじゃぁ我々が訴えられても仕方ありません。先輩、申し訳ございません」
「君が謝ることは無いよ。ちゃんとした大人がきちんとした対応をしてくれればいいんだから」
「先輩は大人ですね……」
「マシュ。ここに居たのか」
そう言って現れたのは1人の男だ。緑のスーツを着て緑のシルクハットを被った少し怪しい気配を感じる。
「レフ教授!」
「(教授?ここの人間なのか?だがどうしてかこの人から
「話は聞いたよ。実にすまない事をした」
そう言って男は自分の前に手を差し伸べる。握手を求められているようだ。その手を取って遠矢は言った。
「初めまして。天花寺遠矢と言います」
「私はレフ・ライノール。このカルデアの技術者の一員だ。君を連れてきた者は叱るべき処罰をあたえよう。申し訳ないが日本への帰国はもう少し待ってもらってもいいかね?」
「どうしてですか?」
「今から極秘のプロジェクトが開始するのでね。そのごたごたでヘリをすぐに出せないんだ。重ね重ね申し訳ない」
「別に構いませんよ。帰れるのなら俺は大丈夫です」
「ありがとう。マシュ、テンゲイジ君を他の客人の居る部屋へ案内してくれ。彼の荷物や着替えもそこにあるだろう。桐条グループの人間にはもう話は付けている」
「分かりました」
少女に指示を出してレフは遠矢に一礼すると先程来た道を戻って行った。彼女は自分と向き合い話を進める。
「ではテンゲンジ先輩、部屋へ案内します」
「よろしく。それに名前が呼びづらいなら、下の名前で呼んでいいぞ」
「す、すみません。読み間違えてしまって」
「いいよ、よく間違われるし。君の名前は?」
「マシュ・キリエライトと言います。短い間ですが、よろしくお願いします。遠矢先輩」
優しく微笑みながら少女―マシュはそう答える。
部屋までマシュとの話を楽しんだ
「まさか"トリックスター"がここに現れるとは……」
「我々の計画に狂いが生じるだろうか?」
「いや、彼が我らに気付くはずがない」
「心の鎧が魔術の世界で通じるわけがなかろう」
「計画はこのまま進める」
「すべては我が王の為」
「ここがカルデアに協力してくださる方々の居る部屋です」
案内された大部屋の扉の前。あの時モルガナは自分のカバンの中に押し込められていた。それを考えると彼はここに居るはずだ。
「ありがとう、マシュ。助かった」
「いえ。元々は私たちの不手際が原因。先輩が気になさることはありません」
「それでも感謝している。君に会えてよかった」
そう言ってマシュの手をとる。彼女は照れながらこう言いだした。
「も、もし、また会えることがありましたら、先輩とお話してもよろしいでしょうか?」
「構わない。正直不安だから、今も一緒にいて欲しいぐらいだ」
「すみません。私はプロジェクトの一員ですので、そろそろ行かないと」
「そうか。それじゃあ仕方ない。また後で会おう」
「はい。また会いましょう、先輩」
そう言ってマシュは行ってしまった。彼女を見送り、遠矢は覚悟を決めて中に入る。
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
『ヤメローーーーーーー!ツメが取れるーーーーーーーーーー!』
「サイフォンさん!落ち着いてください!ネコさんが離せません!」
…………カオス空間が広がっているように感じた。中華服の男が涙目でクリーム色の髪の女性に追いかけられている。モルガナは何故か男の背中に張り付いた状態である。あの叫び声からして服に爪を引っ掻けてしまったのだろう。男の前に立ち動きを止める。
「どけ!童子」
「落ち着いてください。モルガナはむやみに人を襲わない子です」
「お前が飼い主か!何故鞄の中に猫を入れている?!普通入れないだろう!百歩譲って猫が入って来るなら仕方ないが人を襲わないように躾けるだろ!」
そう言って男は遠矢に掴みかかる。よく見ると所々に引っ搔き傷がある。自分が来るまでに攻防があったのだろう。モルガナを解放した青年が男に向かって言う。
「自分がそないな目におうたのは勝手に寝床のカバン開けたからやろ。この子かて主人がおらん上訳の分からんところに来たんや、パニックになってもおかしゅうないやろ」
「うっ……!」
「ちゃーんとご主人と再会したんや。もう暴れたらあかんよ」
モルガナの頭を撫で、青年は遠矢に返す。彼に感謝の言葉を伝えるとこう返ってきた。
「えぇよ。こうゆうの自分慣れとるさかい。君が桐条さんが言うとった子やろ?本人居るから、呼んだるわ」
「すみません。色々」
「同じ日本人なんや。手ぇ貸すのは当たり前やろ。オレは勝呂龍二。自分はなんちゅーなん?」
「天花寺遠矢です」
遠矢の言葉に青年―勝呂は少し驚いた表情をする。
「どうしたんですか」
「あぁ……すまんのん。知り合いに名前が似とったんや。苗字で1人、名前で1人」
「名前はよくありますが、この苗字で似ている人が居るなんて珍しいですね」
「せやな。案外世間は狭いもんかもしれへん。ほな、まっとき。すぐ連れて来るさかい」
そう言って勝呂は奥で纏まっているグループの中へ行ってしまった。彼を見送り一息入れると今まで黙っていたモルガナが口を開いた。
『今のあいつ、ペルソナに似た気配がしたぞ』
「お前も感じたんだな。ここに来る前にも1人あった」
『あいつだけじゃない。ここに居る奴らの殆どから普通の奴らと違う気配を感じる。厄介な場所に来ちまったぜ、全く』
「でも、悪い人だらけではなさそうだ」
勝呂もそうだが、先程会ったマシュも見た感じ良い人だった。ここに居る全ての人間が悪人ではないことを信じたいのが本音である。辺りを観察していると勝呂が1人の女性を連れて来る。
「天花寺君、彼女が桐条さんや」
「桐条美鶴だ。今回の件は本当に申し訳ない」
そう言って頭を下げる美鶴。桐条グループのトップがこんな一般の高校生に頭を下げるなんて、なんだかこちらの方が悪く思ってしまう。
「頭を上げてください。その様子だと貴女が命令して連れて来たというわけではないみたいですし、ちゃんとした謝罪もしてくれたし、家に帰れれば俺は大丈夫ですよ」
「そう言ってもらえるのは助かる。後日、改めて謝罪に行かせてもらうよ」
『お前、お人好しすぎないか?』
ジト目で言ってきたモルガナに遠矢は2人に聞こえないように耳打ちする。
「ここで話すと色々と厄介だ。それに……桐条グループが着た時の両親の対応が見てみたい」
『トウヤ、今すごい悪い顔してるぞ』
彼に言われ遠矢は咳払いをする。思わずジョーカーとしての顔をしていたようだ。この顔は一般人に向けるのは忍びない。
「あの、聞いていいんでしたら、ここがどんな事をする施設か教えてもらえませんでしょうか?極秘とかでしたら無理に聞きませんけど」
「そら気になるわなぁ。無理矢理とは言え、マスター候補生として呼ばれたんやし、知る権利はあるやろ」
「レフ教授にも了承は得ている。我々の知る限り君に教えよう」
そう言いだし、美鶴はこのカルデアについて説明を始める。にわかに信じられない内容であったが、要するにここは世界の平和を守る国連の極秘施設ということだ。
「君がここに連れて来られたのは、ここでの戦う力を持っているという事だ。当初の予定では私の友人がここに来るはずだったのだが、何分彼は大きな組織に入るのを嫌っていてね、見事にフラれてしまったよ」
「そうだったんですか……」
『トウヤと同じ力……。まさか、"トリックスター"の素養のある者なのか?』
「分からない。桐条さんの表情を見る限り話の人物は多くの修羅場を潜っているはずだ」
モルガナの言葉にそう返す。美鶴が一目置いている人は一体どんな人なのだろう。会ってみたいな。そう思った次の瞬間、部屋の電気が突然落ちる。
「停電?!」
「一体どうし」
近くにいた男の言葉が言い終わる前に部屋の中が閃光に包まれる。そのすぐあとに大きな爆発音と風が自分達を襲った。
『ふにゃぁぁぁぁぁ!』
「爆発?!(この感じからして、すぐ近くか?)」
サードアイで周囲を確認すると多くの人たちがあの爆風でひっくり返ったり、大怪我をした者も見える。美鶴と勝呂は無事なのか?心配していると爆風で飛ばされたモルガナの声が聞こえた。
『トウヤ!無事か?!』
「モルガナ!桐条さん達は?!」
『男の方はわからんが、女の方は怪我している!出来るかどうかわからんが、やるしかない。来てくれ……!ゾロっ!』
モルガナの叫びに答え、青い炎と同時に現れた彼のペルソナが美鶴を回復する。その様子を見ながら遠矢は言った。
「すごいな、モルガナ。現実世界でもペルソナが出せるなんて」
『ラヴェンツァ様と色々特訓したからな!……だが、今のワガハイでは止血するのがやっとだ。すまない、トウヤ』
「いや、十分助かる。勝呂さんは?」
辺りを再度確認する遠矢。一緒に居たはずの彼が居ないのはおかしい。まさか先程の爆発でもうやられてしまったのだろうか?
「あの坊さんなら、ものすごい剣幕で出て行ったぞ」
「それ、本当ですか?!」
自分の疑問に答えたのはモルガナとひと悶着あったあの中華服の男だ。彼は美鶴の手当てをしながら言葉を続ける。
「外の爆発であった所に職員として入った友人がいるんだと。魔術協会の女と一緒に出て行った」
「どちらの方に行きましたか?」
「出て右の方だ。プロジェクトに参加する奴は全員そっちに居るはずだ。ミス桐条はこっちにまかせてお前も行け」
「俺なんかが行っていいんですか?」
「お前なら、何とかしてくれる気がする。あの使い魔ととっとと行け!」
「分かりました。桐条さんと他の人をお願いします!」
彼にここをまかせ、モルガナと共に部屋を出る。外は所々爆発で破壊されていた。
『こいつはひでぇ。よほど多くの爆弾が仕込まれていたんだな』
「マシュは大丈夫なのだろうか?」
『お前が会った職員の女の子か。巻き込まれてなければいいと思うが、これを見る限り無事とは言い切れないな……』
走っていると目の前に大きな扉が見えてきた。扉が開くとそこはもう火の海になっていた。
『不味いぞ、トウヤ!ここは危険だ!引き返すぞ!』
「待ってくれ!ここに誰かいる!」
サードアイで見ると、確かに誰かがここに居るように感じた。逃げ遅れた者だと思い、遠矢は危険を省みず奥へ進む。
『待てッ!ったく!本当に無茶ばっかする野郎だぜ!!』
悪態をつきながらモルガナも後を追う。
—隔壁閉鎖まで あと 40秒
中央区画に残っている職員は速やかに—
緊急時のアナウンスが部屋中に響く。40秒で閉鎖か。少し厳しいな。
—システム レイシフト 最終段階へ移行します。
座標 西暦2004年 1月30日 日本 冬木—
『なんだ、このアナウンス』
「様子がおかしい。戻るぞ、モルガ、な」
アナウンスの様子から戻ろうとする遠矢の目の前に見えたのは傷だらけのマシュだった。どうやら逃げ遅れたのは彼女だったらしい。……だが。
「(この傷じゃ、モルガナが居てももう……)」
「……はい。ご理解がはやくて、たすかります。だから、遠矢さんも、早く」
「いや、もう間に合わない」
遠矢の言う通り、閉鎖のアナウンスが流れた。もう自分達も出られないようだ。
『トウヤ!あれ!』
「!モニュメントが赤くなっていく……!」
中央に置いてあったモニュメントが徐々に赤く染まっていく。それはまるで燃え滾るマグマのようだった。
「これは、一体……!」
—近未来 百年までの地球において
人類の痕跡は 発見 できません
人類の生存は 確認 できません
人類の未来は 保障 できません—
「カルデアスが……真っ赤になっちゃいました……」
「カルデアス?(あのモニュメントのことか?)」
赤くなったそれを見上げる遠矢。アナウンスはまだも続く。
—コフィン内のマスターのバイタル基準値に達していません
レイシフト定員に達していません
該当マスターを検索中・・・・発見しました
適応番号48 天花寺遠矢をマスターとして 再設定 します。—
『なにぃ!トウヤをどうする気だ!』
モルガナの叫びなど無視してアナウンスは自分達を置いてくように設定を進めていく。
「……あの……せん、ぱい」
周りが光に包まれていく中、意識をなんとかもってマシュは遠矢に願う。
「手を、握ってもらって、いいですか?」
「……あぁ。勿論だ」
少女の願いを聞き、弱弱しく握られた手を強く握り返す。
—全行程
ファーストオーダー 実証を 開始 します。—
アナウンス終了と同時にまるでパレスに入った時のような感覚に襲われたのだった。
これが、反逆の怪盗が世界を再度挑む物語の序章。
彼の運命は動き出したのだ。
to be contined