FGO×ペルソナ   作:蒼風火影

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3章:特異点/聖杯戦争

 

 カルデアからのショッキングな報告に一同は驚きを隠せなかったが、モルガナの提案で互いの今までの情報を交換し、整理することとなった。安全が確認できた陸橋の下、クー・フーリンのルーン魔術による結界も張り終わり、きちんと情報の整理が出来る環境が整った。

「じゃぁ、ロマニ。きちんとした報告をお願い」

『分かったよ、オルガ』

 そう言って優しそうな男性職員―ロマニ・アーキマンがカルデアで起こったことをすべて話してくれた。

 実はマシュと一緒に居たあの場所には他のマスター候補達も一緒に居たのだ。コフィン内のマスター候補達はあの爆発によって生死を彷徨っている。美鶴の独断の指示でその人達をコールドスリープの状態にし、何時でも助けられるようにしたそうだ。そのやり方にはオルガマリーも賛同してくれたが、指示したのが魔術師ではなく、民間のオーナーだったことが気に食わなかったようだ。

 そして、このことを外部に報告しようとしたところ、通信が何処にも届かなかったことを遠矢達は知らされる。これも敵の策略のようで、今先程会った山野と呼ばれた技術者と美鶴の部下の山岸が通信系統を治しているそうだ。勝呂もその手伝いをしていたらしく、この通信はその時直ったものだそうだ。

「でも、勝呂さん。それならどうしてこのまま話を聞いているんですか?忙しいはずなのに」

 通信画面内に居る彼に遠矢は質問すると、こう答えが返って来た。

『山野に「代わりに話聞け」って言われたん。あいつもなんやかんやで君らの心配してんねん。絶対顔には出さへんけど』

「信頼してるんですね」

『中坊からの腐れ縁やしのぉ。仕事でもよう相方(バディ)組んどるし、なんやかんや仲えぇんやわ』

 なんだか自分と竜司の関係のようだと遠矢は思った。自分のこの状況も大変だが、彼や他の怪盗団の安否が心配になる。それを感じたのか、クー・フーリンが自分の頭を撫でて言う。

「大丈夫だろうよ。お前の仲間なんだ、そう簡単にくたばらねぇよ」

「クー・フーリン……。ありがとう」

『じゃあ、そろそろ僕らも聞きたい事があるんだけど。いいかな、遠矢君』

 ロマニの言葉に遠矢の目付きが鋭くなる。きっと自分のこれまでの事を聞かれるのは予想できた。覚悟を決めて美鶴の言葉を待つ。

『君は……ペルソナ使いなんだな。そこにいる、モルガナ君と同じ』

「えぇ。そして元"心の怪盗団 ザ・ファントム"のリーダー、コードネーム:ジョーカーは俺の事です」

「心の、怪盗団?」

 驚くオルガマリー達とは違い、首を傾げるマシュにモルガナは胸を張って答えた。

「ワガハイ達は世の中に居る汚い大人を改心させる怪盗団なのだ!前までニュースで話題になったんだが、知らないのか?」

「すみません、あまりそういう話題に興味がなかったので……。でも、すごいです!人々を改心させることが出来るなんて!」

『だがそれは、一歩間違えたら、人を廃人化させることにもなる。資料でしか見ていないが、君達は私が思っていたほど危険な集団ではなさそうだ』

「そう思っていただけるなら、こちらもいい関係が築けそうです」

 そう言って遠矢は美鶴と向き合る。すると突然時が止まるような感覚に襲われる。この感じは見覚えがあった。

 

   【女帝:桐条美鶴とコープを結んだ Lv.1】

   【"女帝"のアルカナを持つサーヴァントと縁が結びやすくなった】

   【『マスターの号令』を覚えた】

 

 どうやら以前と違うコープを手に入れたようだ。今回も多くのコープを結べばこれからの役に立ちそうだ。そう考えていると心配そうな表情でロマニは言う。

『と、遠矢君?どうしたんだい、そんな怖い顔して……』

「すみません、怖かったですか?(また、顔に出てたんだな……)」

『いや、多分それが怪盗としての顔なんだなって。君のことはまた後で詳しく聞かせてもらうとして、次の話題に行ってもいいかい?』

「はい、構いません」

 遠矢の返答を聞いてロマニは話を次にする。自分の話題になると思い、クー・フーリンは口を開いた。

「オレ達の聖杯戦争の事だな、優男」

『や、優男?!そんなに僕、ナヨナヨしてるかな……』

「そういう所よ、ロマニ!貴方がいるとこっちは真剣な話をしてるのに気が抜けるのよ!」

 オルガマリーの言葉にロマニはそんなぁ~。と言って涙目になる。少しの談笑で場の空気が和んだところで本題に移る。

「オレ達の聖杯戦争は狂っちまった。ある日突然街は火の海となり、人々は消えた。オレらの本来のマスター達もな」

「それで人の気配がしなかったのか」

「聖杯戦争を再開したのはセイバーだ。(やっこ)さん、水を得た魚のように暴れ出してね。アーチャー、ライダー、ランサー、アサシン、バーサーカーの順に倒して行った。あいつに倒された奴はさっきみてぇな汚染された状態に何でかなっちまう」

「成程。だからあのような姿だったのか。我々の知る"シャドウ"に近い物か」

「多分それに近い物だろうな。それにそのセイバーって奴、相当の手練れみたいだ」

 イザナギの言葉に共感し、そう言ったモルガナは考え込む。元の時代に戻るには戦いは避けられないようだ。

「ランサーはさっき倒した。イザナギとモナの話を聞く限り、アサシン、ライダーは撃破済み。バーサーカーはこちらが手を出さなければ襲ってくることは無い」

「では、アーチャーとセイバーを倒せば、この聖杯戦争はおわるんですね!」

 マシュの言葉に頷き、クー・フーリンは言葉を続けた。

「セイバーの居場所はもう分かっている。でだ、オレと取引しねぇか?」

「取引ですって?」

「オレはセイバーを倒したい。お前さんらはこの特異点とやらを調査したい。互いに利害は一致している。手を組まねぇか?」

 ニタリと笑う彼にオルガマリーは考えるが、自分の答えはもう決まっている。パレスで敵のペルソナと交渉するように遠矢は言った。

「それだけじゃ、足りない」

「な、なに言ってるのよ?!」

「……ほぅ。ジョーカー、アンタはこれ以上何を求めるつもりか?」

「これ以降も仲間として、力を貸してほしい」

 遠矢の言葉にロマニやオルガマリーは驚く。しかし、口出しできない雰囲気の為、黙るしかなかった。沈黙を破るように言葉を続ける。

「今の自分はアルセーヌすら出せない、ただの高校生だ。イザナギとの契約もある人の手助けによって出来たことだ」

「……………」

 遠矢の言葉にイザナギは何も言わなかった。ラヴェンツァとどんな関係なのかここで聞くつもりも問いただすつもりもない。イザナギを横目に彼は目の前の男に手を差し伸べる。

「また前のように力を貸してほしい、クー・フーリン」

「…プハハッ!オマエにこうも熱烈な告白をされるとは思わなかったぜ、ジョーカー!」

 声を上げて笑うクー・フーリン。その姿に呆気に取られている遠矢とモルガナ、イザナギ以外のメンバー。笑いも収まり、彼は遠矢の方を見て言った。

「良いだろう!我が名はクー・フーリン。共にもう一度世界を盗ろうじゃねぇか!」

 自分の手を強く握るクー・フーリン。それと同時に一枚のカードが目の前に現れた。

 表には杖を持ったいかにも魔術師のような人物が、裏には塔のアルカナが描かれていた。これで契約は完了したのだろうか?不安に思っていると美鶴がこう言った。

『多分、契約はなされたのだろう。私の友人であるペルソナ使いもカードから召喚していた。だから、大丈夫だ』

「ほんと、意味が分からないわ、貴方達」

 皆に聞こえないようにオルガマリーは呟く。魔術の世界では『ペルソナ』は悪魔召喚と同じカテゴリーに入っている。彼女はそういう術式を使う人間は信用ならない人間なのだ。心配そうに声を掛けるロマニに彼女は怒鳴るように言った。

「貴方には関係ないのよ、ロマニ!私達はこのまま作戦を続行するわ!貴方も持ち場に戻りなさい!!」

『待って!オルガ!……怒らせちゃった』

「仕方ないだろ、Dr.ロマニ。大切な人を亡くした後なんだ。そっとした方がいいだろう」

 オルガマリーの背中を見てイザナギは言った。彼の生前なのか、それともペルソナとしての経験なのか今の彼女と同じような思いをしたのだろう。彼の言葉に少し重みを感じた。

『遠矢君』

 オルガマリーを追いかけようと通信を切ろうとした遠矢をロマニは止める。

「なんですか?」

『無事に3人で帰ってきてほしい。オルガとマシュもだけど、僕は君だって失うのは嫌なんだ』

「ロマニさん……。必ず、3人で帰ってきます。だから、サポートの方はお願いします」

 遠矢の言葉に彼は嬉しそうに笑って言った。

『あぁ、勿論だとも!戻ってきたら、是非僕の所においでよ!美味しいお饅頭用意して待ってるから!!』

 

 

   【星:ロマニ・アーキマンとコープを結んだ Lv.1】

   【"星"のアルカナを持つサーヴァントと縁が結びやすくなった】

   【『ロマニ・レーダー』を覚えた】

 

 ロマニとコープを結んだお陰で、エネミーのクラスがより分かりやすくなった。これで少しは戦いやすくなっただろう。

 また後程通信すると言って通信を切り、一行は先行していったオルガマリーを追いかけたのだった。

 

 

「…………」

 勝呂に預けていたボイスレコーダーの内容を聞いた山野は黙り込んでしまった。自分が思っていたよりきな臭くなって来た。裏切り者は美鶴達のような外部から来た見学者という線を考えていたが、どうやら身内の犯行の可能性も強くなってきた。自分の知る限り、そんなことをする奴はいないはず……。

 思考の海にどっぷりとつかっているのを引き戻すように後ろから突然抱きしめられる。こんなことをするのは今彼女しかいない。

「……頼んでいたことは出来たのか?アサシン」

「モチのロンよ、エミャ。思った以上の収穫ですぜ」

 暗がりから現れたのは遠矢と同じ年ごろな少女だ。黒い着物を身に纏い、怪しい雰囲気を醸し出す彼女から慣れたように調べもののメモを奪う。ピエロのようにニタニタと笑う少女に彼は言った。

「お前にしちゃぁ上々だ。あのガキ以外に、桐条の2人もペルソナ使いだったとはな」

「敵が警戒心Maxだったら、あの部屋は確実に木端微塵に爆破されてたよ。だが、それをしなかったってことは」

「相手はペルソナ使いを不安視していない。下手すりゃ甘く見てる」

「That's right.さっすが、エミャ♡」

 パチパチと小ばかにするように拍手する少女。彼女のこの行動はいつものことなので、無視して話を進める。

「お前から見て、ペルソナ使い(あいつら)は強いのか?」

「それは、うち個人?それとも、上含めて(・・・・)?」

「……どちらでも構わない」

 山野の意味ありげな質問に彼女は少し考えてから答えた。

「基本はノータッチ。あーいうのというより"ワイルド"って呼ばれる使い手には上とは違う物に好かれてるから、どちらかと言うと、天敵に近いかな?ま、あくまでうちから見たら、だけど」

「天敵、か……」

 こいつが天敵と表現するとは珍しい。という事は、その"ワイルド"と呼ばれる者は敵に回ると厄介なのだろう

「あのマスター候補が"ワイルド"、なのか?」

 遠矢のプロフィールを見ながら、また考え出す山野。まだまだ情報が足りない。あのマスター候補のことも知る必要があるようだ。

 そう結論付け、彼は元の仕事に戻るのであった。

 

 セイバーが居るであろう大聖杯のある場所へ一行は進んでいく。荒れた道を進む中、遠矢は思い出したように言った。

「聖杯か……。メメントスの中に有ったのとは、別物なのだろうか?」

「多分な。あれは人々の認知によって作られた物だ。この聖杯戦争などで使われる魔術の聖杯とは比べ物にならんだろう。ま、どっちもヤバいもんであることは確かだがな」

「良く知ってるな、キャスター」

「ある程度の知識は聖杯から送られてくる。英霊の特権って奴さね」

 そう言ってクー・フーリンは自身の額を軽く叩く。彼の言う事が正しければ、自分達の知る聖杯と同じように危ない物だという事だ。

「…………」

「どうしたんだ、マシュ殿。顔色が優れないようだが」

 元気のないマシュを見て、思わず声を掛けるイザナギ。顔を上げて彼女は慌てたように言う。

「い、いえ!なんでもありません!」

「何か悩んでいるのか?(オレ)でよければ相談に乗ろう」

「ワガハイもだ!遠慮せずに言ってくれ!」

「フォウ!」

 モルガナもフォウも心配するなと言わんばかりに言った。そんな彼らに安心してか、不安そうにマシュは言った。

「実は……"宝具"が出せないんです」

「なんだ、そんなことか」

「そんなこと、ですって?!貴方、どういうことか分かって言ってるの!?」

 イザナギの発言にイラつきながらオルガマリーは言った。モルガナも宝具と言うものにいまいちピンとこないようだ。そんな彼らや遠矢にクー・フーリンは説明してくれた。

 『宝具』とは英霊1人1人が持つ大技のことらしい。その英霊が生前なしえた物事、更に逸話などが主にその宝具となるそうだ。

「自分達に分かりやすく言うと、アリスの『死んでくれる?』やヨシツネの『八艘跳び』みたいな物か」

「それで分かるのジョーカーだけだと思うぜ」

「成程。理解した」

「分かるのかよ?!」

「お前やっぱセンセイ入ってるだろ?!ってか、センセイそのものだろ!?」

 イザナギの言葉にモルガナとクー・フーリンはツッこむ。すると彼は何食わぬ顔でこう言いだした。

「そういえば、言ってなかったな。(オレ)は主の身体を借りて現界しているんだ。元々思考も同一化しているし、彼の知識も大方把握している。……どうした。みんな黙り込んで」

 爆弾発言とはまさにこのこと。彼の言葉に皆驚き叫ぶ。通信先のロマニは少し声を震わしながら言った。

『っていう事は、君の主はマシュと同じデミ・サーヴァントってことなのかな?でも、マシュとは違って神性も高いし……。君の身体を貸している主って一体何者?!』

「神としての力は転生の繰り返しで失われていたと思ったが……。まぁいい。詳しい説明はまた今度に」

『あまりこのような発言は控えた方がいいんじゃないか、「主の名を言うのは控えてもらおうか、美鶴殿」』

 仮面越しの視線に美鶴は言いかけた言葉を飲み込む。シャドウ本来の殺気なのか。それとも英霊としてのイザナギの殺気なのか分からないが、その場の空気が凍り付くような感じがした。

 フーっと息を吐き、彼は遠矢や皆を見る。その目には先程の殺意はもう消えていた。

「怖がらせてしまって悪かった。主もそうだが(オレ)もこのような大きな組織をすぐに信用できない性分でな。身バレとやらは極力避けたいんだ」

「俺達みたいに目を付けられたくないのか?」

 遠矢の質問に頷き、イザナギは続けた。

「君もそうだと思うが、(オレ)の主は"ワイルド"と呼ばれるペルソナを複数体操れる青年だ。この能力を使える者は少なく、色々な手段を用いられて狙われるこのも多々ある」

『実際、私がストップをかけていても、彼の主―仮に、センセイと呼ばせてもらうが、部下や上層部の人間が能力欲しさに狙っていてね、対応に苦労させられる』

「美鶴さんがあの時言っていたフラれた相手って……」

『天花寺の予想通り、そのセンセイだ』

 美鶴も認める実力者がイザナギの主と思うとあの強さに納得がいった。もっと話を聞きたかったが、彼女はオルガマリーと今後の組織について相談しだしたので、まだしばらくかかるだろうと思い、諦めた。

 そんな彼女らを横目にイザナギはマシュに言った。

(オレ)もペルソナとしては場数は踏んでいても、英霊としてはまだまだ新人だ。正直、宝具と言うものにピンとこない」

「イザナギさんも宝具が出せないのですね」

「そうだ。だが、『出せない』と言うのは違うと思うぞ、マシュ殿。話を聞く限り、宝具と言うものは己の魂を形作る物。形に出来ないのは経験が足りないからではないか?」

「経験、ですか?」

 マシュの問いかけに頷き、イザナギは彼女の盾を触りながら答えた。

「この盾の使い方、戦闘把握、スキルの使い分け。これらの経験が足らないからこそ、宝具が出せないのではないか?もとから英霊であるキャスターはどう思う?」

 話を振られて少し驚いたが、クー・フーリンは少し考えてから答えた。

「確かにイザナギの言う通りだ嬢ちゃん。宝具ってのは英霊誰しも持って居るものだ。そこのネコスケにもな」

「だから、ワガハイは猫じゃねぇ!…ってワガハイにもあるのか?!」

 思わぬ発言にモルガナは驚く。自分がマシュ達と同じよな英霊なんて思う心当たりがない。そう思っているとクー・フーリンは遠矢を指さして言った。

「なんならジョーカーに聞いてみればいい。契約したサーヴァント全員分のカード持ってるはずだからな」

「そうなのか?ジョーカー?」

 モルガナはそう言って遠矢を見あげる。そんな目をされてもこっちはカードの出し方なんて知らない。今までペルソナを出していた仮面も今はないし、どうしようと困っているとイザナギが助け舟を出す。

「カードの出し方は(オレ)が教えよう。手をだせ」

「こう、か?」

 手のひらを上にしてイザナギの目の前に出す。手の甲に触れ、彼は言った。

「集中しろ。己の心を映す鏡を乗せるイメージだ」

眼を閉じ、集中する。そうすると、いつもペルソナを出すあの感覚が甦って来た。

「ペ・ル・ソ・ナ!」

 その掛け声を合図に、自分の足元に魔方陣が展開される。そして、自分達の目の前に何枚かのカードが現れた。

「で、出来た…!」

「これが、先輩の力……」

「数は5、いや、4か。1枚白いのがあるな」

 クー・フーリンの言う通り、1枚裏側が白い愚者のカードがあった。この正体は直感的に分かる。己のペルソナ、アルセーヌだ。カードを見ているモルガナが指をさして聞いてきた。

「この魔術師のアルカナで騎馬に乗ってるカードがワガハイなのか?」

「そうだ。モナのアルカナは魔術師なんだ」

「そんなところまで、一緒なのか」

「?どうした?イザナギ」

「……何でもない」

 モルガナの質問にイザナギはそう答え、そっぽを向いてしまう。どうしたのだろう、と思ったが、そっとしておいてほしいと背中が言っている気がしたので、声を掛けられなかった。空間に浮かぶカードを見てマシュは言った。

「あの、先輩。私のカードはこれですか?」

 彼女が指差した先にあるのは運命のアルカナのカード。その予想通りそれが彼女の物であった。

「"運命"……。私とマスターの出会いはまさにこのカードが示している通りですね」

 そう言ってマシュは微笑んだ。そんな彼女の表情にこちらも思わず照れ笑いをする。

 

   【運命:マシュ・キリエライトとコープを結んだ Lv.1】

   【"運命"のアルカナを持つサーヴァントと縁が結びやすくなった】

   【スキル『誉れ堅き雪花の壁』が使えるようになった】

 

「い、今のは、一体…?」

 今の感覚はマシュにも感じたのだろう。そう思い、遠矢はコープの事を少し話、今のでスキルが使えるようになったのではないかと伝える。すると彼女は嬉しそうに言った。

「これで、もっと先輩のお役に立てますね!私、頑張ります!」

『互いに信頼することによって能力がさらに向上していくのだろう』

「ミス・キリジョウの言う通りよ!2人共、これからもしっかりね!」

 いつの間にか自分達のやり取りを見ていた美鶴とオルガマリーに言われ、マシュは更にやる気を上げる。モルガナの方に目を向けると、彼はクー・フーリンと話しているのが見えた。

「ワガハイにも宝具があるのか……。全く見当がつかないぞ」

「オレは分かるぜ」

「本当か?キャスター!」

「モルガナカー」

 彼の言葉にモルガナはずっこけ、彼らの隣で聞いていたイザナギはほぅ、と呟いた。

「あれが宝具になるのか?!」

空の世界(グラブル)で召喚獣扱いだったんだから、こっちでもそうだろ」

「メタ発言すんじゃねぇ!ってか、団長殿と出会った時、お前まだいなかったはずだろ?!ジョーカーが使いだした感じから見てカネシロパレスの時からのはず!!」

「アルセーヌの奴に聞いたんだよ!ヤメロ!引っ掻くんじゃねぇ!」

 モルガナにポカポカと叩かれるクー・フーリンを見てイザナギの表情が何故か暗くなるように見えた。やはり、聞いた方がいい。そう思い、遠矢は思い切って聞いてみた。

「イザナギ、モナのことが嫌いなのか?」

「そんな事ないぞ、(マスター)。そう見えてしまったのなら、すまない」

「それならいいんだ。ただ、モナの事を見ている時のお前の表情がちょっと気になってな。よければ、話してくれないか?話せば楽になるかもしれないぞ」

「…………」

 しばらく沈黙が続く。はぁーっと溜め息を漏らし、イザナギは自分に飽きられように呟く。

「このような現界のせいか、それとも主の影響を強く受けたのか……」

「イザナギ?」

「独り言だ、聞き流せ。……仲間の事を思い出してな」

「仲間?」

 自分と同じようなペルソナ使いの仲間が居たのか?そう思いながら話の続きを聞く。

「モナと同じ風使いの相棒が居るんだ。アルカナも同じ魔術師で(オレ)の心の支えだったんだ」

「じゃあ、モナと合流した時、驚いた様子だったのは……」

「あいつが、ジライヤが来てくれたのかと思ったからだ」

 何時も何かしら事件があると駆けつけてくれる相棒。心折れそうになった時、彼の言葉があったから立ち上がれた。だが、今は居ない。何時もなら感じられる絆の糸すらも感じられない。それは他の仲間達もだ。

(オレ)は1人では何もできない。今だって不安しかない。ただのちっぽけなペルソナだ」

「そんなことありません!」

 途中から聞いていたマシュが声を上げて言った。驚くイザナギの手を強く握り、彼女は言い続ける。

「イザナギさんはすごい人です。全然ちっぽけではありません!先程の言葉で、私を元気にしてくれたじゃないですか!」

「でも、それは「きっとイザナギさんの仲間の方々も無事ですよ!あなたが信じていればきっと会えます!だから……」

「一緒にがんばろう。進めばきっと手がかりだって見つかるはずだ」

 遠矢の言葉にポカンとした表情をするイザナギ。そして安心したように言った。

「そうだな。(オレ)が信じなければいけなかったな。ありがとう、(マスター)、マシュ殿」

 

   【愚者:ワイルドの使い手とコープを結び、レベルが上がった Lv.2】

   【"愚者"のアルカナを持つサーヴァントと縁が結びやすくなった】

   【イザナギ:スキル『スキル・ワイルド』が使えるようになった】

   【イザナギ:宝具『幾万の真言』が使えるようになった】

 

 いきなりコープのレベルまで上がるとは思わなかった。コープ名にも疑問が残るが、ツッコむときりがないので取り合えず置いておくことにした。オルガマリーに教わった方法で先程のスキルの確認をする。

[スキル・ワイルド:自身に有利クラスの属性を付与する(3ターン)【デメリット】自身HP1000ダウン]

 この説明文に疑問が浮かぶ。何で態々自分の有利クラスの属性を付与するんだろうか?意味が分からんと思っているといつの間にか画面を見ていたオルガマリーがこう言いだした。

「テンゲイジ、分かりやすく教えてあげましょうか?」

「是非お願いします」

「じゃあ、前にサーヴァントには相性があることは覚えてるわよね?」

 彼女の言葉に頷く。ここに来る前に教えてもらったセイバー、ランサー、アーチャーとライダー、キャスター、アサシンの三すくみだ。

「本来であればセイバーはアーチャーに不利なのはわかるわね」

「はい、何度も苦戦しましたから」

 ここに来るまで何度も見て来たことだ。弓兵を相手するイザナギのダメージは大きい。そして、与えるダメージは耐性がある為小さかった。そのことを慣れた手つきでオルガマリーは地面に描いていく。

「イザナギがこのスキルを使うことによって本来あるセイバーの力にランサーの力を一時的に加えるの。アーチャーはランサーに弱い。つまり、セイバーの弱点を補えるってわけ」

「成程……。(ワイルドらしいって言えばらしいな)」

 地面に描かれた説明を見ながら遠矢はそう思った。様々な場面でペルソナを付け替えて戦う"ワイルド"。その力から由来してのこのスキルなのだろう。まだ地面とにらめっこしている自分を見て彼女はこういった。

「ねぇ……どうして貴方は怪盗になったの?」

「どうしてって……」

「ちょっとした疑問よ。答えたくなければいいわ」

 そう言って自分から視線を外すオルガマリー。少し思いつめてから遠矢はこう答えた。

「きっかけは、怒り、でしたね」

 自分を陥れた犯人に対して、自分のことを信じてくれなかった家族に対して、そして何も知らないくせに非難したり、憐れんだりした世間に対して。

 あの時パレスに入ってモルガナと取引し、仲間と共に汚い大人の改心をやれば、この言葉に出来ない感情の塊を忘れることが出来るのではないかと思った。

 初めて改心に成功した時の感覚は今でも忘れられない。自分の中にあったドロドロした感情が消えていく。そんな感じがしたと当時は思っていた。酷く言えば俺なりのストレス解消に人助けをしていた所もあった感じだ。それが何時からか、違う感情になったのは、誰にも言えない。

 でも、これだけは言える。その感情が始める前のドロドロとしたものではないことは確かだ。

「きっかけは何であれ、理不尽な大人の改心なんてすごいじゃない」

「でも、救えなかった人も居た」

 仲間の親友、父親、学校の校長にライバルだった探偵。救える命もあったし、回避できる事件でもある。特に探偵は……

「まだまだ未熟なんですよ、色々と」

 本心を見せないようにオルガマリーに言う。遠矢のそんな態度に彼女の怒りは更に上がる。

「未熟、ですって!?ふざけないで!貴方みたいな人が未熟だったら、私は何なのよ!」

「所長……」

「私は所長なのに、アニムスフィアの家の出なのに、マスターの適正もレイシフトの適正も無い!女だからってバカにされてばっか!!」

 今まで溜まっていた物が一気に出た。と遠矢は思った。自分より少し上、もしくは同じぐらいの歳であのカルデアを任されたんだ。周りの眼は時に言葉の刃より痛く感じるはずだ。なら、自分がすべきことは1つしかない。

「ちょっ?!何、するのよ!?」

「オルガはよく頑張ってるよ。玉には他人に頼ってもいいんだよ。……自分がレフ教授だったらこうします」

 オルガマリーの頭を優しく撫でる。こうすれば少しは楽になるはずだ。だって、自分もこうしてくれた方が嬉しかったから。

「マスター!」

 突然のクー・フーリンの叫びを聞き、遠矢は彼女を抱えて横に飛ぶ。自分達の居た所に矢が刺さる所を見るとあのアーチャーがこちらを狙っているようだ。

「あの信奉者、そろそろイラだって手出してきたな!モナ!」

「おぅ!運転は任せるぞ、ジョーカー!」

 そう言ってモルガナはジャンプすると黒いワンボックスカーへと姿を変える。彼の変身に驚くマシュとオルガマリーの2人を乗せ、モルガナカーは発進した。運転していると心配そうにマシュは言った。

「先輩、車の運転、出来るんですか?!」

「モルガナカーならな。イザナギとクー・フーリンは?」

『屋根の上でアーチャーと戦ってる!指示頼むって!』

 

 

 黒い車を追い続けるアーチャー。あのマスターは色々とマズイ。ふつうの魔術師と違い、『ペルソナ』と呼ばれる使い魔を操る奴だ。自分の本能が叫ぶ。奴を生かしてはならないと。そう思っていると、車の屋根に居るセイバーと目が合った。この距離を狙えるはずはない。買い被るように弓を引くアーチャー。が、矢を放つ前にセイバーの太刀が自分に向かって飛んできた。

 

 イザナギが自分の太刀を蹴ってアーチャーを攻撃した。しかも"スキル・ワイルド"を使って自身にランサー属性付けて。

 ドヤ顔している彼にクー・フーリンは呆れたように言った。

「やっぱお前、センセイそのものだわ。あの刀蹴るのセンセイやってたし」

「褒め言葉として受け取ろう。構えろ、キャスター!まだ奴は倒れていない!」

 砂煙から飛び出した影がこちらに向かってきた。自分の2本の剣を受け止めるイザナギにアーチャーは言った。

「まさか、あのような技で私をおびき出すとは。さすがと言えばいいか」

「あれは仲間との特訓で偶々できた技だがな!」

 彼の剣を弾き飛ばし、懐に入って電撃を喰らわせようとしたが、その剣がブーメランのように自身に向かってきたのを感じ、緊急回避する。剣を手にしながら、アーチャーはイザナギに言った。

「あれを避けるか。やはり、戦い慣れているな」

「あーいうのは一度やられているのでね。(彼女のホーミングの方がよっぽど鬼畜だがな)」

 ナビを担当する後輩のシャドウの方が今よりもっとえげつない攻撃をする。そんなことを思い出したが、クー・フーリンの声ですぐに現実へと引き戻される。

「イザナギ!よけろ!」

 彼の創り出した無数の火球がアーチャーに向かっていくが、全て避けられる。彼が舌打ちをした瞬間、今まで走っていたモルガナカーが突然止まる。

「どうした?!ネコスケ!」

『も、もう、動けねぇ……』

魔力切れ(ガスけつ)か!」

 イザナギの懸念と同時にモルガナカーは元の姿に戻る。その為、上に居た2人は中のマシュ達の上に落ちる形となる。みんなを守ろうと盾を展開するマシュ。そのせいで、2人の腰に盾が勢い良く当たる。痛みに悶えているのをチャンスと見て襲いかかるアーチャー。

「マシュ!スキルを!」

 美鶴とのコープで手に入れた『マスターの号令』によってすぐさまマシュのスキルを発動し、ダメージを軽減する。

「大丈夫か、イザナギ。なんかモロに入ったみたいだが……」

「ぁあ……なんとか、な……」

 太刀を杖にして起き上がるイザナギは少し老人のように見えてしまった。先に復活したクー・フーリンとマシュはアーチャーと互角に戦っていく。

「嬢ちゃん!イザナギ!英霊先輩として、宝具がどういうもんか見せてやる!」

「させるか!」

 宝具発動を阻止しようとアーチャーは動くが、マシュの盾に阻まれた。杖を構え、詠唱を始める。

「我が魔術は炎の檻。茨の如き緑の巨人。因果応報人事の厄を清める社」

「くっ!」

「逃がすかよ!」

 キャスターと距離を取ろうとしたアーチャーに回復したモルガナのスリングショットが決まる。

「倒壊するは ″灼き尽くす炎の檻(ウィッカー・マン)″ !」

 詠唱を終え、現れたのは巨大な木の人形。炎を纏いながら倒れたアーチャーを捕え、檻となっている自身の身体に入れる。そして大きな音を立て、その人形は倒れた。人形は消え、クレーターを作った地面の下に居たアーチャーはもう戦う気力を失い、消滅しかけていた。そんな姿を見て、クー・フーリンはアーチャーに言う。

「勝負あったな、弓兵」

「キャスタークラスとなった君に負けるとは思わなかったよ。こうも彼らが戦闘慣れしているとは……。どうやら私は相手を見下しすぎていたらしい……」

「今回のケンカ、なかったことにしてやるよ、弓兵。あんたとの決着はやっぱりサシの方がいいだろ」

 成り行きで1対4になってしまったのだ。この弓兵とは1対1(サシ)でケンカしたいのが本音だ。多分そんな事が座に記録されているのだろう。クー・フーリンの言葉に驚くアーチャーだが、フッっと笑い、そして言った。

「そう思われているとは思わなかったよ、光の御子。……セイバーはこの奥だ。どうか、彼女を救ってくれ」

 そう言い残しアーチャーは消滅する。先程まで彼が居た場所には白いカードが残されていた。それを拾い、見るマシュ。

「先輩、これは……」

「ショーカーの持って居る奴と同じだ」

 モルガナの言う通りである。白紙になっているアルセーヌと同じ状態なのだが、今回拾った物は白紙の部分がクラス側ではなく、アルカナ側であった。それを見て、イザナギは言った。

「もし、これが力を取り戻したとしても、先程のアーチャーが現れるとは限らなそうだな」

「何故そう言えるんだ?イザナギ」

「勘だ、としか言えない。ペルソナと英霊の関係はまだ分からないことが多すぎる。素直に正気になったあのアーチャーが召喚されるとは思えなくてな。まぁ、今はそのことを深く考えるより、先を急いだほうがよさそうだ」

 イザナギの視線が寺院の奥に向けられる。魔術師でない自分にもわかるくらい、嫌な気配が奥からする。きっとこの先にセイバーが居るはずだ。

「気を引き締めていきましょう、マシュ、テンゲイジ!」

「はい!マシュ・キリエライト、全力で行きます!」

 オルガマリーの激励にマシュは力強く答える。ここに居る全員が覚悟を決めていた。

「よし!行こう!」

 遠矢の言葉を合図に一行は奥へと進んでいった

                      to be contined

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