仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~ 作:コッコリリン
「はぁ、はぁ……つ、疲れた」
「ふぃ~、きゅ、休憩~」
冷たい石の壁にもたれながら、コネクトを解除したレヴォルとエレナはへたり込む。先ほどまで戦っていたヴィランはすでに消え、通路にはレヴォルたち4人しかいないことを把握し、脱力する。
≪ガッチョーン≫
≪ガッシューン≫
「ふぅ……」
永夢もまた、ゲーマドライバーのレバーを戻してガシャットを引き抜き、変身を解除する。レヴォルたち同様、息を荒くして疲労した身体を少しでも休ませようと壁にもたれた。
「皆さん、大丈夫ですか?」
疲弊する彼らを見て、守られていたシンデレラは心配そうに声をかける。そんな彼女を安心させるために、永夢は笑顔を作った。
「大丈夫。エラちゃんこそ、怪我はない?」
「わ、私は平気です。皆さんが守ってくださったおかげです」
言いながら、彼女は持ってきていた手ぬぐいで永夢の汗を拭う。
「あ、ありがとう」
「いえ、今の私にできることがあるのならと思って……あ、お水もありますよ」
「やった! お水ー!」
「すまない、助かった」
無理を言って同行を願い出たというのに何もしない訳にはいかないと、予めシンデレラは持ってきていた水の入った皮袋を取り出す。疲弊し、喉の渇きを感じていたレヴォルたちにとって、何よりもありがたかった。
喉の渇きを癒し、一息つく。そうして少し余裕ができたところ、永夢ははぐれてしまったティムたちのことを心配する。
「……ティム君たち、無事だといいんだけど……それから、ヘカテーちゃんも」
「うん……私も心配だなぁ」
ティムたちの安否も気になるが、それ以上に永夢は逃げ出したティムの妹、ヘカテーのことも気になっていた。エレナもそれに同意する。
ヴィランに襲われる前、彼女はどうも体調がよくない様子だった。一ドクターとして、病人かもしれない彼女を放っておくわけにはいかない。
「一刻も早く、ここから出る道を探らないと」
「そうだな。またヴィランに襲われないうちに」
小休止をとった4人は腰を上げる。ティムたちとも合流しなければいけないし、またいつ襲われるかわからない以上、長居することはできなかった。
ひとまず、松明の明かりがある場所を目印にして歩き出す。やはり、行けども行けども、松明があっても薄暗い石造りの通路のみの景色でしかなく、同じところをぐるぐる回っているのではないかと錯覚し始めてきた。
「……ん?」
「レヴォル?」
と、レヴォルが前方に何かを発見し、通路の先を指さした。
「あそこ。何だか壁が違う気がするんだ」
指さした先に、松明の明かりでうっすら見える通路の向こう側から、今まで変化の無かった壁に違和感があった。罠の可能性も考慮し、慎重に歩みを進めて行く。
やがて、レヴォルが見つけた物の正体が明らかとなる。
「これ……扉?」
鉄枠が付けられた木の扉。扉の両側にある松明で存在を主張しているそれは、この地下通路で見つけた
「鍵は……かかっていないようだな」
レヴォルがゆっくりと扉の取っ手を押すと、軋みながら僅かに扉が開く。取っ手を掴んだまま、レヴォルは永夢たちへ振り返る。
中に何があるかわからない。全員戦える準備がいいか、目だけで問うレヴォル。永夢とエレナが頷くと、レヴォルは扉をゆっくりと開いていく。
開いた扉の隙間から僅かに顔を入れ、中を覗き込む。レヴォルの視界に飛び込んできたのは、天上に吊るされたランプの弱々しい明かり。そして古い鉄格子のような物。
「ここは……檻?」
ヴィランや兵士の姿を確認することなく、レヴォルは滑り込むように中に入る。永夢、エレナ、シンデレラと続いた。
部屋に入ってすぐ、目の前に立ち塞がる鉄格子が目に入る。ランプの明かりに照らされ、中の様子が確認できた。大勢の人間が入れる程の広さを持つ中には十数人、長い藁のような粗末な寝具で雑魚寝をしており、寝息や時々うめき声が聞こえてくる。
「もしかして、これって……」
地下にある檻。そして中で眠る人々。これらから導き出される答えは、レヴォルたちの中では一つだけだった。
「町の、人たち……」
永夢たちが答えを導き出す前に、シンデレラが愕然と呟いた。町で捕えられた人々がどのような仕打ちを受けているのか考えなかったわけではないが、ここまで最悪な環境下に置かれていたとは思っていなかった。
「う……だ、誰だ……兵士か?」
鉄格子の近くで横になっていた男が、永夢たちの姿に気付いた。永夢が駆け寄り、鉄格子越しに話しかける。
「違います。僕たちは、あなたたちを助けに来ました」
「た、助け……助けが来たのか……!?」
永夢たちが救助に来たことを知ると、男の弱々しい声に力が宿る。その声は檻の中に響き、横になっていた人々が次々と起き上がる。
「や、やっと、やっと助かるのか、俺たち……」
「うぅ、早く、ここから出して……」
想像以上に悲惨な目に合わされてきたようだった。ほとんどの人が憔悴しており、中にはやつれている者もいる。健康状態は詳しく診なければわからないが、今はともかくこの閉鎖された空間から救い出すのが先決だった。
「待っていてください、今開けますから! ……えっと鍵は……」
部屋の周りを見回すも、それらしい物は見当たらない。壁や床を探っても鍵は見当たらない。こういう場所には鍵を持っているはずの見張りの兵士がいるはずなのだが、そういった人物はここに来る途中にいなかった。
となれば、方法は一つだけ。
「……仕方ない。皆、下がっていてくれ」
鍵がないと判断したレヴォルが、栞を取り出す。永夢たちは鉄格子から離れ、それを見ていた牢屋の中にいる人たちも部屋の奥へと下がる。
栞を空白の書に挟み、光を放つと共に姿を変える。見上げる程の巨体に、屈強な鎧を身に纏った大男。『サムエル記』と呼ばれる物語の登場人物『ゴリアテ』とコネクトしたレヴォルは、その巨体に見合った大きな手で鉄格子の扉部分を掴む。そして、
「ふんっ!!」
バギンッ! という金属が折れるような音と共に、力強く引っ張られた鉄格子の扉が引きちぎられたかのように外れた。
「うぉっ!?」
中にいた数名が音と光景に驚く中、レヴォルは鉄格子を壁に立てかけてからコネクトを解除した。
「ふぅ」
「……便利だね、コネクトって」
力技で開放したレヴォルに、永夢は苦笑しながら呟いた。
あらゆる人物に変身し、力を行使することができる未知の能力、コネクト。もしこれを知り合いの自称神に見せたら、『私の才能を刺激したぁ!!』と叫んで狂喜乱舞していたかもしれない。
閑話休題。
ともあれ、彼らを捕えていた檻は破壊され、檻はその役目を果たすことはできなくなった。町の人々は牢屋の中にいる理由がなくなったことで、牢屋から外へ出ていく。
「やった、やった! やっと帰れるわ!」
「ああ、こんな理不尽な目に合うのはもうごめんだぜ!」
謂れのない罪を着せられ、無理矢理連れて来られた挙句に、こんな牢屋に放り込まれてはたまったものではない。全員が出られたことによる喜びに包まれている中、レヴォルが声を上げた。
「皆さん、これから僕たちが出口まで誘導します!」
「みんな、離れずについて来てね!」
牢屋から出られたとしても、今はまだ城の中。いつヴィランか、いまだ遭遇していないが兵士と出くわして襲われないとも限らない。レヴォルとエレナが先導し、町の人々を連れて部屋を出る。暗い中を歩いていくことに対する不安もあるが、牢屋から出られたということによるものか、心なし足取りが軽い。
「あれ、エラちゃん?」
ふと、永夢はシンデレラが部屋の隅の方へ移動し、頭巾を深く被って町の人たちから顔を背けるようにして立っているのに気付く。歩み寄り、顔を覗き込んで声をかけた。
「どうしたの?」
「いえ……その……私……」
シンデレラの不安の入り混じった、絞り出すような声に永夢は思い出す。
ここにいた人たちを閉じ込めていたのは、この国の王妃だ。そしてその王妃は、シンデレラの姿に化けている。すなわち、ここにいるシンデレラが本物だということを知らない町の人たちから怒りを向けられるのを、彼女は恐れていた。
永夢は、今はそっとしておいてあげようと考え、一歩下がろうとした。
「あの……」
と、その時、永夢とエラの後ろから声がかけられ、永夢は振り返った。そこにいたのは、20代後半の年齢と思われる一組の男女。他の人たち同様、少しやつれてはいるが、しっかりと立っている。
その二人が、永夢とエラを……正確には、エラをまじまじと見つめている。やがて、女性の方が口を開いた。
「……もしかして、シンデレラ様……?」
「っ!?」
ビクリと、肩を大きく震わせるシンデレラ。永夢もまた、彼らが王妃だと思って彼女を責め立てるのではないかと緊張する。
「あ、あの、わ、私、は……!」
声と、頭巾を握る手が震える。何を言われるのか、どう責められるのか。シンデレラの頭に恐れと焦りが蔓延し始める。
「ち、違うんです! 彼女は……!」
パニックに陥りかけている彼女を見て、永夢も仲裁に入る。次に彼らから飛び出してくるのは、糾弾か、罵倒か……そう覚悟していたシンデレラと永夢の耳に飛び込んで来たのは、
「あぁ……やっぱり、今の王妃様はシンデレラ様ではなかったのですね」
安堵を含んだ、暖かな声だった。
「え……」
「へ?」
予想外の言葉に、声にならないシンデレラと、間抜けな声が出る永夢。シンデレラは、改めて二人の顔を見るため、伏せていた顔を上げた。
「あ……おじさまと、おばさま……?」
意外な人たちを前にして、シンデレラは目を見開く。彼女の反応からして、知り合いの様子だった。
「エラちゃん、知り合い?」
永夢の問いに、シンデレラは静かに頷く。
「パン屋の……あの子たちの、ご両親です」
「え、この人たちが!?」
あの子たち……即ち、永夢がお世話になったパン屋に住まう兄妹の父親と母親。理不尽な理由で連れ去られた、永夢たちが探していた二人だった。
「はい。町で小さなパン屋を営んでいる者です……それで、あの、子供たちは……」
軽く自己紹介をしてから、父親が永夢とシンデレラに問う。心配そうな顔つきから、自分たちの子供が無事なのかどうか、ここに幽閉されている間にも気が気でなかったのかもしれない。
気を取り直した永夢は、二人を安心させるように笑顔で答える。
「大丈夫です。二人とも、あなたたちご両親が帰って来るのを心待ちにしてますよ」
「ほ、本当ですか!? よかった……」
永夢の笑顔とはっきりとした答えから、嘘ではないと確信した二人は、心の底から安堵のため息をついた。
しかし、シンデレラはそれ以上に二人が言っていた言葉が気になっていた。
「あ、あの……私のこと、王妃じゃないって、信じてくださるのですか?」
今、偽のシンデレラが王妃として国に圧制を敷いている。そのことで多くの人間から冤罪なのに怨まれることを恐れていたシンデレラは、おずおずと聞いた。
対し、母親が穏やかな笑顔でそんな彼女の手を取った。
「ここに連れてきたのが王妃様だと知った時も、私たちは昔から優しくて、思いやりのあるあなたがこんなことをする筈がないって、ずっと信じていましたよ」
「先ほどの姿を見て、確信しました。やはり、今この国を苦しめているのは、シンデレラ様の名を騙る人間なのだと」
本当の悪人が、こうして危険を冒してまで町の人たちを解放しに来るわけがない。小さい頃のシンデレラを見てきた彼らだからこそ、本物の彼女なのだと気付いていた。
暖かい彼らの言葉に衝撃を受け、そして目頭が熱くなる。パン屋でも老婆が彼女を信じてくれたように、ここでも自分のことを信じてくれる人たちがいた事実を、彼女は強く噛み締めた。
「ありがとう、ございます……」
「いえ、礼を言うのはこちらです。おかげで、あの子たちに生きて会えそうです」
冷たい牢屋の前だというのに、目の前に広がる暖かな光景。永夢は、優しい気持ちになりながら眺めていた。
しかし、そんな光景を前にして同時に湧き上がる疑念。以前呟いた、彼女の小さな、しかし悲しみに満ち溢れた一言。
(幸せになる資格なんてないって……どういうことなんだろう……)
あんなにも優しい人々に囲まれ、そして幸せになる運命を辿る彼女。そんな彼女から出てきたあの言葉が、永夢にはどうしても引っかかる。
故に、今目の前にいるシンデレラの微笑みが、心の底からの物ではないと、永夢には思えてならなかった。
~ 第10話 Princessの懺悔 ~
「ここから先にある階段を昇れば、城の裏山に出ます。そこから町へ」
「あ、ありがとうございます! 本当に助かりました!」
「兄ちゃんたちは命の恩人だ!」
地下通路の先、レヴォルたちが入って来た侵入口付近まで誘導し、レヴォルが指し示した先へ町人たちは口々に礼を言ってから進んでいく。
「じゃあ、また町で会いましょう」
「はい。あの子たちに宜しく伝えておいてください」
最後、兄妹の両親が頭を深く下げて一礼してから階段を上っていくのを見届け、全員脱出できたことを確認した。ここに来るまでにヴィランと遭遇することなく、無事に脱出させることができたことに、レヴォルは安堵のため息をつく。
「よかった、これで目的の一つは無事に達成することができたな」
「みんな無事でよかったねー」
最初に牢屋に囚われているのを見た時はどうしようかと焦ったが、残す問題はカオステラーを倒すだけとなった。今のところ順調に事が進んでいる。
だが、永夢はシンデレラの顔をチラと見る。じっと、町人が脱出した階段の先を見つめて動かない。その瞳は、どこか憂いを帯びているように見えた。
「……エラちゃん」
永夢がシンデレラの名を呼ぶ。少し間を置いてから、シンデレラが口を開く。
「……少し、あの子たちが羨ましいです」
「え?」
脈略のない話。永夢は小さく声を上げた。
「親に愛されて、親であるあの人たちも子供たちを愛していて……家族なんだなって、誰から見てもわかるような人たちで……」
「……エラちゃんの家は、そうじゃないの?」
永夢の質問に、シンデレラは首を振る。瞳を閉じて、ただ悲し気に。
「お母様が死んで、お父様が再婚されて、新しいお義母様とお姉様たちが来て……お父様もいなくなってしまってから、お義母様たちに私は虐められていました」
自身の運命の書にも書かれていた、義理の母と姉たちから受ける理不尽な扱い。彼女たちが家に来る前から覚悟していた、己の境遇。
幸せな家族を見る度に懐かしくなって、羨ましくなって。どうして自分ばかりこんな目に合うのか、運命を呪ったこともあって。
しかし、それでも。
「でも、私は……愛することを、諦めたくなかったんです」
「愛すること?」
「……お義母様たちを……本当の家族として、愛したかった」
何度酷い仕打ちを受けても、彼女たちを怨むことはなかった。残された家族だからと、シンデレラは何度も向き合おうとしてきた。
「あの子たち……あの兄妹のように、ただお義母様たちと、本当の家族のようになりたかったんです」
そんなシンデレラを突き放し、彼女たちはシンデレラをいじめ続けた。何度も、何度も。
「けど……運命の書には、お義母様たちを国外へ追放することになっていて、分かり合えないことがわかってて……それでも、私は……」
運命の書の導きは絶対と言ってもいい。それを変えることは許されない……この世界に生きる人々には、それがわかっていた。
「私は……お義母様たちと、本当の意味で向き合いたかった」
そうだとしても、運命の書に抗おうとした。分かり合えない者たちと、分かり合おうとした。
「けど……もう、それも出来なくなってしまいました」
だからだろうか。運命の書を勝手に変えようとした、シンデレラに対する罰なのか、己は罪を犯してしまった。
「元々、私は王子様の結婚相手として、相応しくなかったんです。恋愛なんてしたこともないのに、好きかどうかもわからない方と結婚だなんて……不安でしか、なかった」
所詮、自分は運命を変えるような力なんて持っていなかった。誰かを好きになったこともない小娘が、高貴な相手と結婚する運命にある“シンデレラ”という配役になったということですら、疑問を持っていた。
「そんな私が……高望みしてしまった結果が、今なんです」
左手が、右腕を強く掴む。自らを責めるよう、自分にできる罰のようにして。
「だから、私は……」
運命を変えるどころか、国を滅茶苦茶にする切っ掛けにすらなった自分自身。何もできない、することすら許されない。
だからこそ、シンデレラは己を戒め、口にする。
「『幸せになる資格なんてない』……かな?」
「……え?」
が、それは叶わず、代わりに永夢が言わんとしていたことを言われ、思わず彼の顔を見た。
永夢はというと、茶化すでもなく、責めるでもなく……真っ直ぐ、彼女の心を透かすように、シンデレラを見つめていた。
「ごめん、前に君が目が覚めた後に呟いていたのを聞いてたんだ。どういう意味なのか、ずっと考えてたんだけど、そういうことだったんだね」
「……」
シンデレラから、罪の内容までは語られていない。しかし、彼女の重石となっている罪がなんであれ、彼女に伝えなければいけないことが永夢にはあった。
「エラちゃん……君は、義理のお母さんと仲良くなろうと、向き合おうとしてたんだよね?」
「……」
永夢の問いかけに、シンデレラは小さく頷いた。
「僕は……知り合いに、実の親とも分かり合おうともしなかった人がいる。いや、その人は今でも分かり合うつもりが無いんだ」
「……」
「誰だって、向き合おうとするのは恐いんだよ。それが例え義理だとしても、親が相手なら尚更だ」
「で、でも……私は、結局運命の書の通り、お義母様と……」
向き合おうとして、向き合えなかった。だから、シンデレラは自らの力不足を嘆いていた。
「それでも、君は運命に立ち向かった。変えるために、頑張ったんだ」
それでも永夢は彼女がしようとしたことを、咎める気にはならない。予め敷かれたレールを歩くことを拒み、拒絶する相手の手を取ろうと必死に手を伸ばしていた彼女を、誰が責められようか。
「君が犯した罪は、何なのかわからない。けど僕はそれが何であれ、やるべきことは変わらないよ」
「エムさんが……やるべきこと?」
二コリと、シンデレラに笑顔を向ける。彼女が目覚めた時に見せてくれた、あの時と同じ笑顔だった。
「君の本当の笑顔を、取り戻す。例えどれだけ君が幸せになる資格がないって言っても、僕が何度だって、誰かの幸せのために頑張れる君が幸せになれるようにね!」
深い闇の中にいるシンデレラ。その闇から救い出すため、永夢は彼女に手を伸ばし続けるだろう。
(ああ……どうして)
シンデレラは心の中で頭を振る。自分は救われる価値なんてない。守られるような存在でもない。そう口にして、彼の言葉を真っ向から否定したかった。
(どうして……あなたはそんなに暖かいの……?)
だが、それはできなかった。例え何度否定し続けても、彼は手を伸ばすことをやめないだろう。救われるべきだと、幸せになるべきだと、何度も彼は言い続ける。
それがシンデレラには眩しくて、悲しくて……どうしようもなく、彼が愛おしい。
遠ざけたくとも遠ざけられない。されど己の運命の中には彼はおらず、手を伸ばしても届かない。そんな彼女の心を知ってか知らずか、近くで寄り添おうとする彼。
(あなたが……私の……)
だからこそ願いたくなる。しかし、願ったところで叶わない。それがわかっているからこそ、願うと余計に辛くなる。それに、未だ罪で穢れた自分を許すことはできそうにない。
しかし、今だけ。今この時だけは。
「……ありがとう、ございます……エムさん」
彼の言葉に、甘えたいと思った。
「……?」
「エレナ?」
二人を少し離れた位置で見守っていたエレナとレヴォル。塞ぎ込みがちなシンデレラを諭すように励ます永夢は、彼女にとっての光のようで。同時に、彼女を絶対に助けるという彼の気概を改めて感じる光景だった。
そんな二人を……正確には永夢を見つめるエレナ。その目は、どこか困惑に彩られている。
「……え? 何、レヴォル」
「あ、いや。何か考え込んでるようにも見えたから」
「う、ううん! 何でもないよ! 気にしないで!」
取り繕うように返すエレナ。そして再び、永夢を見る。
優しく笑い、シンデレラに語り掛ける永夢。しかし、エレナには一瞬だけ、彼の顔から優しさ以外の物を感じ取った。
(エムさん、なんか一瞬だけ恐い顔になってたような……気のせい、かな?)
彼が一瞬、知り合いの下りを語っていた時に表情に変化があった……ような気がした。
時刻は、深夜23時。後一時間もすれば、日付が変わる頃。
「ティム! シェインちゃん! パーンさんにアリシアちゃん!」
城の廊下、地下へと続く扉の近くで、ティムたちを見つけたエレナが大きく手を振って駆け寄る。何とか無事に合流できたことに喜ぶ彼女に、アリシアがしーっ! と人差し指を口の前に当てた。
「エレナちゃん、大声上げたらまずいでしょ! ここ一応敵地なんだから!」
「あ……ご、ごめんなさい」
「いや、別に構わないでしょう。何故だかさっきから敵さんの姿が一向に見当たりませんし」
注意するアリシアにシェインが周辺を警戒しつつ言う。エレナの声が響いていたにも関わらず、人っ子一人出てこない。地下にいたヴィラン以外、奇襲らしい奇襲もない。城の中は不気味な程静かで、ある意味では暗かった地下通路よりも気味が悪い。
「パーンさん、捕らわれていた町の人たちはみんな救助しました。今は町へ戻っているはずです」
「そうか……みんな無事だったんだな」
「やったわね! これで目的の一つは達成ってことよね!」
レヴォルがパーンに町人を救い出したことを話し、アリシアがテンションを上げて喜ぶ。しかし、喜んでもいられない。一行にはまだ、懸念事項が残っていた。
「……しかし、ここまで静かだとすると、もしかしたら……」
「はい……多分、そうだと思います」
ここまで互いを探すために城の中を歩き回って、兵士が一人もいないのはどう考えてもおかしい。パーンが顎に手を添え、考える。レヴォルも、彼が言わんとしていることがわかっていた。
「あ、そういえばヘカテーちゃんもいるんだ!」
「っ……」
そんな中、エレナが彼らから遠巻きに見る位置に立っていたヘカテーに気付く。気付かれたことにヘカテーは顔を顰めたが、すぐにそっぽ向いた。
「今、彼女を単独行動させたら危険だと判断したからね。渋々ながら、同行してもらったんだよ」
「……勘違いしないで欲しいんだけど、別にアンタたちに気を許したわけじゃないから」
パーンが説明し、補足ついでに悪態をつくヘカテー。そんな彼女に、永夢が歩み寄って軽く姿勢を低くした。
「よろしく、僕は宝生永夢。君はヘカテーちゃん、だったよね?」
「っ!」
笑顔で挨拶する永夢を見て、ヘカテーの脳裏に浮かぶ先ほどの光景。危ないところを救われ、本来なら言うべき言葉があった……のだが、その言葉を言うのに抵抗があり、気持ちと裏腹にヘカテーはキッと彼を睨む。
「気安く呼んでんじゃないわよ! あとちょっと屈むな!」
「いっ!?」
ゴツンという鈍い音を鳴らしながら思い切り右足を蹴られた永夢は、小さく叫んで蹴られた足を抑えながら片足でぴょんぴょん飛び跳ねた。
「お、おいルイーサ!」
「るっさいわね、気を許したわけじゃないって言ってるでしょ!?」
「エ、エムさん大丈夫ですか?」
「あ、あはは、大丈夫大丈夫。これくらい慣れてるから」
悪びれもせずに窘めるティムにそっぽ向くヘカテー。永夢を心配そうに労わるシンデレラに、永夢は引きつった笑みを返した。研修医になりたての頃から、やんちゃな子供には手を焼かされてきたため、慣れているという言葉は嘘ではなかった。
「そ、それよりヘカテーちゃんの容態が気になるんだけど……」
「そんなの平気よ。さっさとやるべきこと終わらして、この城から出るわよ」
取り付くしまもないとはこのことか。軽く診察したいところだったが、今の彼女は虫の居所が悪いらしく、永夢の診察を拒んだ。永夢としては放っておくわけにもいかないが、確かにここでは落ち着いて診ることはできない。それなら、手っ取り早く事態を収束させてからしかるべき場所で診てあげた方がよさそうだった。
「……それで、カオステラーの居所は……」
レヴォルがパーンに問う。パーンは頷き、廊下の先へ目をやった。
「ああ。恐らく、玉座の近くにいる。王妃に反抗する意思を持っている人物からの情報だが、今はこれを信じるしかないだろう」
「感知計が反応を示しているわ。多分、この先よ」
「へぇ、お城の中にも親切な人がいたんだね!」
「……そんな呑気に言えるおチビが羨ましいぜ」
呑気な会話をしているが、この想区を混乱に陥れている存在はもうすぐそこ。歩き出した一行の緊張感も、自然と高まっていく。
しばらく廊下を歩き続けていたが、やはり兵士は出てこない。パーンは、己の考えが当たっている可能性がより現実味を帯びてきたことを感じていた。
やがて、アリシアの感知計がある一室を指した。
「……ここ、ね」
見上げた先には、立派な扉が聳え立っているように一行の行く手を阻んでいる。様々な装飾が施された、派手ではあるもののいやらしさがない、気品溢れる扉。
しかし、この先から扉に似合わない黒い感情……悪意、殺意、それらが一緒くたになって、扉越しから永夢たちに纏わりつくかのように伝わってくる。
「……みんな、覚悟はいいな?」
レヴォルが全員に問う。全員栞を手に持ち、永夢はガシャットをいつでも起動できるようにしておく。戦えないシンデレラとヘカテーは、一行の最後尾で成り行きを見守っている。
「……行くぞ!」
叫び、レヴォルが扉の取っ手を掴み、力を入れる。両開きの扉は重々しい音をたて、レヴォルたちを迎え入れた。
「お待ちしてましたわ、反逆者の皆さん?」
大勢の武装した兵士と、黒い感情の主の声と共に。
ん〜、展開に無理がある気がしますが今回こんな感じで。永夢さんだったらこう言う、レヴォル君だったらこうする……そんなこと考えてたらなかなか進まず。それでも楽しめていただけてら幸いです。
次回は戦闘のオンパレード。さぁどこまでエグゼイドの躍動感溢れる戦闘スタイルを描写できるか。自信ねぇぞ私!!(自虐)