仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~   作:コッコリリン

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カオステラー戦。尚、当作品のカオステラーはオリジナルにて、原作には登場しません。ご了承ください。つって、この作品の流れ自体が割とオリジナルなんで今更感ありますけど。

そして個人的には仮面ライダー史上最も異色な主人公ライダーのパワーアップフォーム解禁。どうすればかっこよくなれるか、文字に起こすのは大変でしたゾ(疲労)


第12話 Chaosの悪意

「フェアリー・ゴッドマザー!」

 

 決着はついたことで、シンデレラが駆け出す。意識を失っている彼女を、シンデレラがそっと抱き起した。

 

≪ガッチョーン≫

 

≪ガッシューン≫

 

 その横で、エグゼイドが変身を解除する。粒子となってエグゼイドのスーツが消失し、永夢の姿に戻る。レヴォルたちもコネクトを解き、元の姿へと戻った。

 

 戦闘態勢を解いた永夢は、フェアリー・ゴッドマザーの傍に跪く。そして手首を取り、脈拍を取ると、小さく安堵のため息をついた。

 

「大丈夫。気を失っているだけだよ」

 

「……よかった」

 

 思わず涙ぐむシンデレラ。シンデレラにとって、彼女は最初に救いの手を伸ばしてきてくれた大切な恩人。その彼女が敵となって襲ってきたのはショックだったが、それでも失うことは彼女にとって耐えがたいことだった。

 

「けどよ、また目ぇ覚まして襲ってきたらどうするよ?」

 

「わからないが……この戦いのショックで元に戻ることを祈るしかないな」

 

 気絶している以上、確認のしようがない。ティムの疑問にパーンはそう答えざるをえなかった。

 

「……ちょっと待って、カオステラーは!?」

 

 と、ここでエレナが大事なことを思い出す。フェアリー・ゴッドマザーが何故このようなことになったのか。その原因となる存在を探し、玉座を見上げた。

 

「っ! いない!?」

 

 が、先ほどまでそこにいたはずの王妃が、煙のように忽然と姿を消していた。レヴォルが玉座まで駆け寄るも、玉座の裏にも、他の物陰を探ってみても、どこにもいない。

 

「さっきまでここにいたはずなのに……」

 

「戦いに紛れて逃げ出したか……」

 

 迂闊だった、とパーンが悔し気に呟いた。しかし、あの状況では王妃に注目することはできなかった。誰も責めることはできない。

 

「追いかけましょう! まだ遠くには行っていないはず!」

 

 永夢がそう言って立ち上がる。カオステラーを逃がしては、またさらなる犠牲者が出かねない。永夢の意見に異を唱える者は誰もいなかった。

 

「でも……フェアリー・ゴッドマザーが……」

 

 シンデレラとて、カオステラーの真意を知るために探しに行きたいところだが、このままフェアリー・ゴッドマザーをそのままにしていっていいものなのかと迷う。永夢も、気絶した彼女を放置するのは気が引けた。

 

 やがてパーンが、フェアリー・ゴッドマザーの腕を取った。

 

「……私が背負おう。敵と遭遇したら、安全な位置へ下がらせる」

 

 言って、パーンがフェアリー・ゴッドマザーを背中に負う。驚くほど軽いのは、妖精という種族ゆえか。何にせよ、これならば走るのに問題ないと、パーンは思考する。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「さぁ、急ごう!」

 

 シンデレラがパーンに礼を言ってから、一行は走り出す。その後ろ、ヘカテーも彼らについて行く。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「おい、大丈夫かルイーサ?」

 

 が、息を荒くする彼女を、ティムが立ち止まって振り返る。先ほどよりも顔色が悪く見え、慌てて彼女に駆け寄った。

 

「だ、大丈夫よ、これくらい……」

 

 いつもなら、彼の手を払いのけて悪態をつく程の彼女が、その声の刺々しさが鳴りを潜めている。それだけで、彼女の容態が悪いことにティムは気付く。

 

「……すまねぇ、カオステラーをぶっ飛ばしたら、すぐに町に行くからな」

 

 毒なら後でいくらでも聞いてやる。そう心の中で詫びながら、ヘカテーを背負うティム。

 

 抵抗することなく、ティムの背中におぶさるヘカテー。心の内では彼のことを罵倒しつつも、やがて走り出した彼の背中から温もりを感じつつ、今だけは身に甘んじておこうと抵抗する意欲を失っていった。

 

 

 

 

 

 カオステラーを捜索するために走り、一行は中庭に出る。城の正面出入り口から玉座の間へ向かうための中間地点でもあるこの場所は、王城の庭というだけあって、生垣や花壇、中央の噴水と、とても豪華な造りの景観が訪れる者全ての目を、花の色と葉の緑で楽しませてくれる場所。広さも申し分なく、町の一区画ならば入る程はあるのではないかと思われるほど。

 

「くっ、どこに行ったんだ……!?」

 

「城のどこかだとは思うけれど……」

 

 ただし、今の永夢たちにそんな景観を楽しむ余裕はない。月の明かりと窓から漏れ出る明かりが中庭を照らし、視界は良好。しかし目当ての存在の姿が見えない。

 

 既にもう城を出ているのか……そう嫌な予感が一行を襲うも、アリシアが声を上げた。

 

「ちょっと待って!」

 

 言って、アリシアは手元の感知計を見る。針は一点を指し、そこから動かない。その針が指す位置は、アリシアたちが出てきた中庭へ続く扇状に広がる長い階段。それが示す事実は、一つだけ。

 

「感知計の反応……間違いない、カオステラーは近くにいる!」

 

 

 

「当然じゃない。逃げも隠れもするわけないわ」

 

 

 

 アリシアの声に応えるように、中庭に声が響いた。聞き覚えのある、冷たい声。

 

「っ! どこだ!?」

 

「レヴォル君、あそこ!」

 

 永夢が見上げる先、階段の真上を指さす。窓から外へ出るためのバルコニーが設けられており、そこからでも中庭を一望できるようになっている。

 

 そこに、王妃はいた。風で煌めく水色の髪を手で抑えながら、永夢たちを見下ろしている。

 

 その美貌に似合わない、嫌らしい笑顔を浮かべながら。

 

「……お姫様と同じ顔でそれされると、どうも戸惑っちまうな」

 

 普段のシンデレラを知るティムからすれば、彼女があそこまで他人を見下すような笑顔を浮かべるのは想像つかなかった分、王妃のあの顔には嫌な気分が纏わりつく。そう感じつつ、気分が悪いヘカテーを離れた位置で下ろし、安全な場所まで下がらせた。

 

 パーンもまた同様。これより始まるのは、この世界を賭けた戦い。意識のないフェアリー・ゴッドマザーを巻き込むわけにはいかなかった。

 

「カオステラー! お前の悪事もこれまでだ!」

 

「もうあなたを守る人たちはいないよ! これ以上大勢の人たちを苦しめるのはやめて!」

 

 レヴォルとエレナが、王妃に向かって叫ぶ。事実、彼女を守る存在は最早誰もいない。兵士すらも退けられ、ヴィランとなった王も消え、洗脳したフェアリー・ゴッドマザーも永夢たちが救助した。残すは諸悪の根源、カオステラーである彼女のみ。

 

 しかし、それでも彼女は笑みを崩さない。手すりに手をつき、嘲笑い、見下ろしている。

 

 その視線の先にいるのは、ただ一人。

 

「フフフ……あなたの周りの人間は、随分威勢がいいのねぇ?」

 

「っ……!」

 

 王妃に言われ、シンデレラは一瞬たじろぐ。しかし、それでも逃げずにキッと睨み返した。

 

「あ、あなたは……何なんですか……!?」

 

 精一杯の虚勢。小動物のように震える彼女を、王妃は笑う。否、嗤う。

 

「アッハハハハ! 何なんですか? ですって! 今さらそれを聞く?」

 

 しばらくの間笑い続ける王妃。やがて笑いが止まると、表情は一変した。

 

「……あなたなら、もうわかっているでしょう? あなたの運命を拾った人間を……ねぇ?」

 

 その顔は、怒り。表情こそ無に近くとも、冷たく見下ろし、シンデレラを見つめるその目に湛えた物は、憤怒。

 

 肩を大きく震わせるシンデレラ。それでも、彼女は否定の意を込め、頭を振った。

 

「そんなの……ありえない……だって、あなたは……!」

 

「そうよねぇ? ありえないって、あなたならそう思うわよねぇ? ……けど、私は現にこうしてここにいる。ここに立っている。ここであなたと話している……それでも、嘘だと言う?」

 

「っ……」

 

 シンデレラの言わんとしていることを全て否定する王妃。追い詰められるかのように、顔から色を失くしていくシンデレラ。

 

 それが楽しい、まさに愉悦だと、王妃の顔が歪んでいく。歪で、なんとも邪悪な顔。

 

「いいわ。なら、少しだけ教えて差し上げましょう。そこにいる方々も気になっているでしょうから、ねぇ?」

 

 王妃の正体。自らそれに繋がるヒントを与えようと、本人自らが言う。永夢たちも気になってはいたが、シンデレラがここまで恐れる相手とは誰なのか……それを聞いてもいいものか、疑問にすら思えてならない。

 

「そうね……私が持っていた運命の書に書かれていることを一つ、述べてあげます」

 

 物思いに耽るように、王妃はスッと瞳を閉じる。そして、歌うように、ある事実を口に出した。

 

 

 

「……『舞踏会へ向かう前、シンデレラに留守番と屋敷の掃除を命じておく』」

 

 

 

「……どういう、意味だ?」

 

 意図が伝わらなかった永夢は、首を傾げる。シンデレラに掃除をするように……まるで身内に対して言うかのよう。

 

(……え?)

 

 身内……この単語を自ら引き出した永夢は、あることに気付く。それは、アリシアが監修した劇……シンデレラに留守番を命じ、掃除をしておくようにと言い放った人間がいた。

 

 その人物が誰か、永夢は考え……思い出した。

 

「まさか……お前は……!?」

 

「アッハッハッハッハッハッハッハァァ!!」

 

 永夢より先に、該当する人物がいたことに気付いたレヴォルたち。それを見て、王妃は高らかに、悪意を込め、愉悦を込め、笑い声をあげた。

 

 中庭に響く、耳障りな笑い声。一通り笑い終えた王妃は、笑みを隠さずに高らかに告げた。

 

 

 

「そうよ!! 私はシンデレラの義母!! その子を虐め倒し、舞踏会へ行くのを邪魔し、そして最後は国外追放される運命にある“シンデレラの継母”という役割を担っていた女よ!!」

 

 

 

~ 第12話 Chaosの悪意 ~

 

 

 

 継母。シンデレラにおける重要人物に位置する存在であり、シンデレラの父親の再婚相手。二人の姉妹を連れ、三人で主人公であるシンデレラを虐げ、やがてはその報いとして親子共々罰を受ける運命にある人物。この結末には諸説あるものの、大体は『誰かに意地悪をすると報いが来る』という戒めの意を込めて、この結末にする話が多い。

 

 その継母が、カオステラー。その事実を前にして、驚愕に揺れる一同。

 

「まさか彼女の継母がカオステラーでしたか……もしやとは思ってましたが」

 

「え、シェインさん知ってたんですか?」

 

 その中で、あまり驚いていない様子のシェインにアリシアが疑問を投げかけた。

 

「いえ、知ってたわけではありません。しかし、彼女の運命を考えれば、あながち妥当ではないかとも思ったんですよね」

 

「彼女の結末は色々あるが、大体は国外追放、悪い場合は処刑される運命にある。そういった人物がカオステラーとなるのも、不思議ではないな」

 

 パーンも同じことを考えていた。カオステラーとなる存在は、大体の人間は不幸な結末を覆したくて、運命を捻じ曲げようと考える。今回の場合もそうなのだろう。

 

「ええ、その通り。私は近い将来、シンデレラによって報いを下される。その後の一生は悲惨の一言で、私の人生は実質、国外追放で終わったも同然なのよ」

 

 歌うように、王妃、否、継母は語る。その視線の先にいるシンデレラは、継母を見てさらに瞳が大きく揺らいでいる。

 

 それは、恐怖。信じられない物を見たとばかりに、彼女は怯えていた。

 

「お義母、様……」

 

「ホント、忌々しい。こんな小娘一人に、私があんな思いをするなんて、まっぴらごめんだわ……」

 

 憎たらしい存在が怯えている。そのことが継母の加虐心という火に油を注ぐこととなる。

 

「だから……ねぇ? シンデレラ」

 

 そして、新たな事実を彼女に突きつけた。

 

「私、あなたを殺そうとしたわよね?」

 

「あ……」

 

 継母が何を言い出すか、シンデレラにわかってしまった。わかってしまったからこそ、彼女は止めたかった。

 

「や、やめて……ください! それ以上は……!」

 

 ニタリと嗤う。邪悪な笑みは、シンデレラに。それを知らない、無知なる者たち……永夢たちに。それぞれ向けて、継母は語る。

 

「その子を殺してしまえば、私は追放されることはない。そう考えて、私はナイフを、シンデレラに突き立てようとした……けど、ね?」

 

「やめて……お義母様……!」

 

 

 

 

「まさか逆に殺されるなんて、思わないじゃない?」

 

 

 

 

「なっ……!?」

 

 シンデレラが、殺しかけた。継母が語る言葉が、永夢たちの間で動揺を走らせる。

 

 子供たちに懐かれ、自分よりも他人を心配するような、そんな心の優しいシンデレラが人殺し……その事実を真っ先に、永夢が否定する。

 

「嘘だ!! エラちゃんは、そんなことする子じゃない!!」

 

 が、継母は笑みを崩さず、永夢に返した。

 

「あらあら? その子のことを知らない人間が、何をほざいているの? ……まぁ、その子の今の様子を見たら、一目瞭然でしょ?」

 

「え?」

 

 振り返る。そこにいたのは、激しく動揺し、蹲り、耳を塞ぐシンデレラの姿。

 

「違う……違う……私は、私はそんなつもりじゃ……!」

 

「エラちゃん!?」

 

 永夢が彼女の肩を揺さぶる。それでも、彼女は反応しなかった。

 

(そんな……まさか……)

 

 信じたくない永夢。尚も継母の言葉を心の内で否定しようとした。

 

 が……永夢は思い出す。

 

 この世界へ迷い込む直後、永夢は夢を見た。誰かが虐げられている光景。煌びやかな空間で人々が踊る光景。それを悔し気に見ていた女性たちの光景。

 

 

 

 そして……少女に、シンデレラに、ナイフを突き立てられようとしている光景。

 

 

 

「……何で……」

 

 あの夢が、実際にあったことだとしたら。しかしそれが事実ならば、ナイフを突き立てられたのはシンデレラのはず。

 

 その疑問に答えるように、継母は続けた。

 

「私はねぇ。確かに殺そうとしたのよ……けどね? その子が逃げちゃってね。追いかける私に反撃して、階段から突き落としたのよ」

 

「違う! 違う!! 私は、私はそんなつもりじゃ……!!」

 

 否定、拒絶。シンデレラの叫びが、絶望が、嘆きが木霊する。それを最高の音色と思わんばかりに、恍惚に顔を歪める継母。

 

「最初、私は死にかけたわ……けど、私は生きたかった。そして憎かった。その子が、その子さえいなければ、私は幸せを掴めたんだと……けど、その子には私たちにない美貌や若さがあるのも、また覆しようのない事実だった」

 

 顔を手で覆い、嘆きを表現する継母。まるで三文芝居を見ているかのような、異様な光景だった。

 

「だから私は願った。血に塗れながらも、こんな運命を強いる世界を怨みながら……私は願ったわ」

 

 

 

『シンデレラの美貌を、私の手に』

 

 

 

「……なるほど、それであなたは今その姿になっているというわけですね」

 

「彼女に成りすまして、彼女が辿るべき運命を自分が乗っ取ったってわけね!!」

 

 シェインとアリシアが、彼女の行った所業、この世界の真実を突きつける。そして憤りを覚える。シンデレラのしたことが事実か否か関係なく、自分が幸せになるためにシンデレラの物語全てを奪い取った。そして己の意のままに、国を操っていた。

 

 王と、フェアリー・ゴッドマザーを洗脳して。

 

「何が悪いの? 全てはその子が招いたことじゃない。私を殺そうとした挙句、その場から逃げ出したんだから……その場で、自分の運命を放棄しちゃったってことも含めて、全てシンデレラが原因でしょ? 違う?」

 

 運命を落とし、それを拾い上げた……その言葉の意味を、永夢たちは理解する。確かに、原因はシンデレラにあるように見える。大切な役割を投げ出した挙句、その役割を継母に取られ、そして今の結果を招いた。

 

「それがあなたの罪。私の命を奪いかけたどころか、運命すらも投げ出した、大きな罪……あなたは、世界にとって許されないことをした」

 

 それが、シンデレラの真実にして彼女の罪。

 

「あなたは、世界を敵に回したのよ」

 

 はっきりと、断言する。最早、取り返しのつかないことをしたと言っても過言ではないと。シンデレラが耳を塞いだとて、その事実は覆らない。逃げられない。

 

 シンデレラが歩む道の先にあるのは、深く、暗い絶望のみ。

 

 

 

「……そんなの、関係ない」

 

 

 

 それでも、永夢は言う。

 

 

 

「エラちゃんは……彼女は、誰かの笑顔のために頑張れる女の子なんだ」

 

 

 

 彼女の過去を、永夢は知らなかった

 

 

 

「人を労わる優しさを、知っているんだ」

 

 

 

 彼女が犯した罪を、永夢は詳しく知らなかった

 

 

 

「例えエラちゃんが世界を敵に回したとしても」

 

 

 

 それでも、永夢は彼女の未来のために寄り添うと決めていた。

 

 

 

「何度だって、僕は彼女の手を取ってみせる」

 

 

 

 だからこそ、

 

 

 

「これ以上……彼女に涙を、流させない!!」

 

 

 

 彼女の未来を絶望に染めないために、永夢は戦う!

 

 

 

「……真偽がどうあれ、僕たちのやるべきことは変わらない、か」

 

「だな……ま、誰が悪い、何が悪いなんて、今考えるだけ野暮だ」

 

 レヴォルとティムが栞を手に取る。

 

「あなたの言ってることがホントだとしても、シンデレラちゃんを虐めるなんて、絶対許さない!」

 

「そうよね。大体悪いのは、殺そうとしたあっちだし!」

 

「自業自得って奴です。ま、真実かどうかはまだわかりませんが」

 

 エレナとアリシア、シェインもまた栞を取り出す。

 

「……未来を担うのは、彼女のような若い者だ。どんな理由であれ、そんな彼女の人生を滅茶苦茶にしていい謂れはない」

 

 パーンも静かに栞を握りしめる。

 

「みな、さん……」

 

 全員、シンデレラの前に立つ。

 

彼女を守るために。

 

そしてこれ以上、悪意に晒されないために。

 

 全員、真っ直ぐ睨む。その先にいる諸悪の根源、カオステラー。混沌の導き手。

 

「……忌々しい」

 

 継母は、尚もシンデレラを守ろうと立つ彼らが気に食わない。泣くしか能のない小娘を守ろうと、一人前に騎士気取りの彼らが。

 

「いいわ……それならば……」

 

 ならば、彼女がとるべき手は一つ。

 

「誰がこの世界の指導者たる存在か」

 

 忌々しい連中を虐げ、甚振り、そして永遠の闇へと追放するため、

 

 

 

「その身をもって……味わいなさい!!!」

 

 

 

 自ら、動く。

 

 

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 

 

 バルコニーの上で甲高い絶叫を上げる継母。やがてその身を、暗黒の渦が包み込む。渦は城の屋根を超え、天高くまで伸び、風は吹き荒び空を漂う雲を霧散させていく。

 

 数秒の後、渦は消え去る。そこにいたのは、煌びやかなドレスを纏っていたシンデレラの姿を模した継母の姿は消えていた。

 

 

 

『フッフッフッフッフ……アッハッハッハッハ……!』

 

 

 

 暗い、暗い闇を形にした丈の長いドレス。澄んだ空色の髪は、深い海の底のような暗い青。顔の右半分はシンデレラの面影を、もう左半分は暗い面に大きく白い目と三日月状に吊り上がった口元という歪なピエロの如く。背中に生えた6枚の大きな黒い翼は、さながら堕天使のよう。

 

 何より特徴的なのは、右肩の付け根から生えるもう一本の細い腕。計三本の腕の先には、それぞれ水晶のように輝く大剣、大盾、長杖が握られていた。

 

「あれが、カオステラーの姿……」

 

 初めて見る、常人には理解し難い異様なカオステラーの姿に、永夢は一瞬唖然とする。が、真っ直ぐ向けられる敵意を前に、気を引き締め直した。

 

 ふわり、カオステラーがバルコニーから浮かび上がる。そしてゆっくりと、永夢たちの目の前に降り立った。

 

 カオステラーとなった彼女の身長が、1m程伸びている。さらに宙に浮かんでいるのもあって、より巨大さが増しているようだった。

 

『さぁ……泣き喚きなさい。罪深き子と、罪と知って尚抗う愚かな人たち。そして……』

 

 何人もの声が重なっているかのような不気味な声。暗く、淀んだ黒い瞳が妖しく光り、右半分の顔の口元が歪み笑う。

 

 

 

『ガラスの靴のように、粉々に砕け散るがいい!!』

 

 

 

 カオステラーが、得物と翼を広げる。中庭に舞い散る、黒い羽根。彼女から放たれる圧迫感が、永夢たちを絶望の海へ突き落さんと襲いかかる。

 

「皆さん、行きましょう!!」

 

≪MIGHTY ACTIOM X!!≫

 

≪GEKITOTSU ROBOTS!!≫

 

 永夢は右手にマイティアクションXガシャット、左手にゲキトツロボッツガシャットを持ち、同時にスイッチを押した。そして、

 

「「コネクト!!」」

 

「大・大・大変身!!」

 

≪ガシャット!≫

 

≪ガシャット!≫

 

 レヴォルたちは一斉に栞を書に、永夢はガシャットを交互にゲーマドライバーのそれぞれのスロットに。

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!!≫

 

≪マイティマイティアクション・X!!≫

 

≪アガッチャ!≫

 

≪ゲ・キ・ト・ツ・ロボッツ!!≫

 

 同じタイミングでコネクト、変身が完了。

 

 運命を変えるため。シンデレラのため。

 

 カオステラーとの決戦が、今始まった。

 

 

 

 

「おりゃあああああああああああ!!」

 

 先手を取ったのは、エグゼイド・ロボットアクションゲーマーレベル3。飛び上がり、左腕のゲキトツスマッシャーを真っ直ぐ、カオステラーの顔面目掛けて叩きつけんと振りかぶる。

 

 ゲキトツスマッシャーの強烈なパンチは、寸分違わずカオステラーの顔面へと吸い込まれるように迫る

 

『アハッ!』

 

 直前、掲げられた盾によってその攻撃は遮られた。

 

「なにっ!?」

 

 甲高い音をたて、ゲキトツスマッシャーの超威力の一撃による衝撃が、盾を中心に広がる。空気が振動し、草花が揺れる。

 

 が、それだけ。盾は微動だにせず、カオステラーも動じている様子はない。ゲキトツスマッシャーの直撃を防がれたことで、驚愕するエグゼイド。

 

 一瞬の硬直。しかし、カオステラーにはそれで十分。

 

『ハッ!』

 

「ぐぁぁっ!!」

 

 右手に持つ剣が高速で振られ、エグゼイドを切りつける。切られた胴体から火花が散り、衝撃によってエグゼイドは吹き飛ばされた。

 

「エム!?」

 

「うおおおおおお!!」

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 エグゼイドの攻撃が通じない。その事実を前にレヴォルが僅かながらショックを受けている間、レヴォルの両脇をすり抜ける形でティムとパーンが得物を振りかぶってカオステラーへ駆け出す。

 

『無駄よ』

 

 それを嘲笑いながら、カオステラーはもう一本の腕に握られた杖を振るう。煌めく光がカオステラーの前に集まっていくかと思うと、それが形となり、先端の鋭利な氷柱となる。それも一本二本どころではない。十本もの氷柱が真っ直ぐ、ティムとパーンに狙いを定め、

 

『行け!』

 

 矢の如く風を切って飛んでいく。

 

「うぉぉぉっ!?」

 

「ぐぅっ!」

 

 盾を構え、氷柱を防ぐ二人。そのまま前進しようにも、一本一本の威力が強すぎて前へ進むのを阻まれる。しかも完全に防ぎきれず、身体の至るところに裂傷ができていく。

 

「これならばどうです!!」

 

 だが、これを好機と捉えたシェインが、いまだティムとパーンを攻撃し続けているカオステラーの横から身を低くしたまま迫り、鬼による蹴りを放つ。寸分違わず、蹴りはカオステラーの脇腹へと命中する……

 

 筈だった。

 

『おっと?』

 

「ちぃっ!」

 

 一瞬で後ろへ下がり、シェインの一撃を回避したカオステラー。蹴りは空しく何もない場所を蹴るに留まり、シェインは思わず舌打ちする。

 

『悪い子ね。お仕置きしてあげる!!』

 

 剣を振るい、シェインを狙うカオステラー。疾風の如き一撃がシェインを襲うも、鬼の動体視力を活かして袈裟懸けによる一撃を紙一重で回避。続けざまに振るわれる剣撃をも姿勢を低く保ちながら全て避け、連続バク転で距離を離した。

 

『逃がさないわよ!』

 

 それを逃すまいと、カオステラーは六枚の翼を広げる。無数の羽根が宙を舞う中、大きく羽ばたく。すると、翼から抜けた羽根一枚一枚が弾丸となって、シェインを襲う!

 

「くぅっ!?」

 

 羽根による弾幕。さすがに防ぎようがないと判断したシェインは、それでも尚回避を試みる。身体を左右に動かし、残像を残しながら先端が鋭利な矢となった羽根を回避し続け、どうにか致命傷を受ける箇所の回避は成功した。

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

 しかし、全ては無理だった。ティムとパーン同様、シェインの身体の至る箇所から血が流れ出て、ジリジリとした痛みがシェインを蝕む。

 

『トドメよ!』

 

「させない!!」

 

 動きを止めたシェインを杖による魔法で狙おうとするカオステラーに、アリシアが大砲の一撃を見舞う。それを盾を持って防いだカオステラーは、ギロリと右半分の顔でアリシアを睨んだ。

 

『小賢しいわね……あなたから死になさい!!』

 

 シェインから変更、杖をアリシアへ向けると、カオステラーの眼前に巨大な魔法陣が展開、中心から極太の青いビームが発射された。

 

「やっばっ!?」

 

 咄嗟に回避。アリシアが横へ転がり、ビームは目標を失いつつも威力を落とさず地面を削りながら通過。中庭の美麗な景観の一部を破壊した。

 

「てぇぇぇい!!」

 

 魔法なら魔法で対抗。そう考えたのか、エレナが魔法陣を展開、そこから闇の力を放ち、カオステラーを狙い撃った。が、黒い翼を大きく振るったことで発生した風により、エレナの攻撃はかき消された。

 

「きゃあっ!?」

 

 それに伴い、突風がエレナを襲う。いきなり強い力で吹き付ける風に抗うこともできず、エレナはもんどりうってフッ飛ばされた。

 

「くっ……負けるものか!」

 

「おおおおおっ!!」

 

 レヴォルも負けじと、剣を振るう。その隣、体勢を立て直したエグゼイドも追随する形で、レヴォルと共に駆ける。

 

 レヴォルの剣がカオステラーの顔を、エグゼイドのゲキトツスマッシャーのパンチが胴体を狙う。が、剣には剣で防がれ、パンチは盾で防がれる。

 

「せぇっ! はぁっ!!」

 

「ふんっ! おりゃあっ!!」

 

それでも諦めず、何度も攻撃を繰り出す。片手剣による素早い連続斬り、パンチと時にキックも交えて複雑さを加えた連撃。並の相手ならば防ぎきれない、二人の連携攻撃。

 

『アハハハハ!! ヒャハハハハハハハ!!』

 

 それすらも、カオステラーは高笑いしながら防いでいく。剣と盾、そして杖をも使い、軽々と剣を、拳を弾く。

 

「「はぁぁぁぁっ!!」」

 

 最後、レヴォルの刺突、エグゼイドのストレートパンチがカオステラーの胴体へ突き出される。が、それすらも盾によって難なく防御されてしまう。

 

『無駄よ無駄ぁぁぁぁっ!!』

 

「うわぁっ!?」

 

「ぐあっ!」

 

 盾で弾き返された二人は、剣による薙ぎを食らう。互いに何とか防ぐも、あまりの強力さに吹き飛ばされてしまう。

 

『大人しく……潰れてしまいなさい!!』

 

 カオステラーが杖を高く掲げる。カオステラーの前に光が凝縮されるように集まっていき、やがてその光はカオステラーの身の丈程の水晶の壁となった。

 

 カオステラーが杖をエグゼイドたちへ向ける。すると壁は滑り出すような滑らかな動きで、エグゼイドたちへ迫る。

 

「クソッ!」

 

 壁を自身たちに叩きつける算段だと判断すると、エグゼイドがゲキトツスマッシャーを目前まで迫る壁目掛けて振りかぶる。

 

「おりゃあああああっ!!」

 

中心部分を思い切り殴りつけると、周囲の大気が大きく震える。壁に大きな罅が入るも、勢いが止まらない。尚もエグゼイドたちを潰さんと、飢えた怪物が大口を開けているかのように突き進もうとする。

 

「ぐうううううううっ!!」

 

 負けじとエグゼイドもゲキトツスマッシャーにさらに力を込める。互いに均衡する拳と壁。やがて勝敗を喫したのは、

 

「だりゃあああああっ!!」

 

 エグゼイドの拳が、ガラス細工を砕くかのように壁をぶち抜いた。破壊された壁は四方八方に飛び散り、四散する。破片が周囲に降り注ぎ、月明かりに照らされてダイヤモンドダストのように煌めき、落ちていく。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

 だが、エグゼイドもすでに満身創痍。たまらず膝をつき、ゲキトツスマッシャーで身を支えるのが精一杯。レヴォルたちも同様、立っているのがやっとの状態だった。

 

「クッ……強い……!」

 

「さすがカオステラー……実力は折り紙付きですか……」

 

 剣を杖のようにして立つレヴォル。隣でシェインが頬の血を拭い取りながら、忌々しそうに呟いた。

 

『当然でしょう? 私はこの世界の支配者。何者も私の前に屈し、崇め奉る存在よ』

 

 力の差は歴然。そう確信したカオステラーは、翼を広げながら高らかに語り出す。

 

『それに……あなたたちは一人を相手にしていると思っているかもしれないけれど、実はそうじゃないの』

 

「何……?」

 

 息を整えながら、パーンが言う。カオステラーは尚も愉快そうに続けた。

 

『私の身体は、言うなれば一つの家。家には当然、家族がいる。そして家族は助け合うもの。家族の一人が右を向いていれば、もう一人の家族が左を向いてる。そうして私たちは、家に迫る脅威を排除しているのよ』

 

 カオステラーの語る意味がわからない。最初、エグゼイドたちはそう思っていた。

 

 が、その意味を最初に理解したパーンは、驚愕し、困惑する。

 

「まさか……その身体の中には……!?」

 

 身体が家。家には家族。家族は助け合う……それらが意味するものは一つ。

 

 

 

『そう……私の身体の中には、娘たちの魂が入っているのよ!』

 

 

 

 高らかに告げるカオステラー。シンデレラの継母である彼女自身が生んだ、二人の娘。その娘たちの魂すらも、カオステラーは自身の一部としていた。

 

「なんて、ことを……」

 

「正気の沙汰じゃねぇぜ……血を分けた家族を取り込むたぁ」

 

 信じられないと、エレナが慄く。ティムもまた、槍を握る手に自然と力が入り、軋んだ音をたてた。

 

『そう? 娘たちは今じゃ喜んでいるわよ。私の中で、共に幸せを分かち合うために……そう、シンデレラ。あなたが得る筈だった幸せを、ね?』

 

 フフフと笑いながら、シンデレラへ視線を向けるカオステラー。戦いから離れた場所で、シンデレラは身を震わせ、瞳を揺らす。

 

「お、義母様……お義姉様たちも……そんな……」

 

 家族すらも己の力にしてしまう、自身の義母の恐ろしさを垣間見たシンデレラ。何故、どうして……疑問が浮かぶ。

 

 しかしそれも、すぐに結論が出た。

 

(全部……私の、せい……?)

 

 家族として愛したかった義母を害したから。その恐れから逃げ出したから。役割に相応しくないと決めつけてしまったから。

 

 全ては……己が招いた事なのかと。

 

『シンデレラ。お前は事あるごとに私を嘲笑っていたわね?』

 

 スッと、杖を掲げる。

 

『掃除をしている間も。虐げられている間も。私に笑いかけている間もずっと……運命の書に記された幸福が待っているあなたには、私たちの姿はさぞ滑稽だったでしょう?』

 

 杖の先端に、光が宿っていく。

 

『だからあなたが憎かった。だからあなたが妬ましかった……だから、あなたのことが大っ嫌いだった!!』

 

 光は強く、そして殺意を滾らせる。全ての元凶を滅ぼすために。

 

『けど……安心なさい? これからは私が、いいえ、私たち(・・・)がこの世界の主役として、君臨していくから』

 

 ニタリ、嗤う。愚かな娘を、虫を駆逐する時の気持ちとなって。

 

『あなたの幸せは……私たちがもらうわ』

 

 杖を、向ける。真っ直ぐ、シンデレラに。光を宿しながら。

 

 そして、

 

 

 

『だから……死になさい』

 

 

 

 杖の先から光弾が、射出される。

 

 シンデレラを、消すために。

 

「シンデレラちゃん!!」

 

「避けろおおおおおおお!!」

 

 エレナとレヴォルが叫ぶ。庇おうにも間に合わない。シンデレラは、硬直していて避ける余裕がない。

 

 否、避けようという気すら起きていなかった。

 

(ああ、これが……)

 

 死を前にし、全てがスローモーションに映る。迫る光は、彼女の罪に対する罰なのか。その痛みが、彼女に対する戒めなのか。

 

(私の……傲慢が招いた結果……)

 

 何がいけなかったのだろうか。最初から、継母たちと憎しみ合うことしかできなかったのか。運命の書は、それすら許されないのか。

 

 そう思うシンデレラ自身が、愚かだったからなのだろうか。

 

 尽きぬ疑問。しかし訪れる死を前に、半ばシンデレラは諦めていた。

 

 これが罰ならば、いっそ、もう、

 

 

 

 甘んじて、受け入れるしかない。

 

 

 

 

≪高速化!≫

 

≪鋼鉄化!≫

 

「おおおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 

 シンデレラに、痛みが襲う寸前……不思議な声と、聞き慣れた声がし、そして、

 

 

 

 

「うあああああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 

 爆発が轟き、悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

「……え……」

 

 シンデレラに、怪我はない。生きている。現実味がなく、ただ呆然と、立ち込める煙の中から現れた、目の前の光景を見つめる。

 

 彼女に怪我がない原因……彼女の間に割って入った存在が、その身を一瞬だけ鋼の如く輝きを放っていたかと思うと、元の色へと戻っていった。

 

≪ガッシューン≫

 

 気の抜ける声と共に赤とピンクの粒子を散らしながら、ドサリと片膝を着く彼……宝生永夢。

 

「エムゥ!!」

 

「エムさん!!」

 

「お、おい、お医者さん!?」

 

 シンデレラを庇うため、エナジーアイテムを使ってまで仁王立ちとなり、攻撃を受け止めた永夢。度重なるダメージによって変身を強制解除された彼を、レヴォルたちが案じて名を叫ぶ。

 

「エ……エムさん……!」

 

「はぁ……はぁ……グゥッ!」

 

 永夢の純白の白衣は煤で汚れ、裾は所々破れて見る影もない。顔も傷だらけで、頭からは血が滴り落ちていく。

 

 誰が見ても、満身創痍だとわかる永夢の状態。しかし、そんな状態にも関わらず、

 

「大丈夫、だった? エラちゃん?」

 

 フワリと、シンデレラに笑いかける。こんな怪我、どうってことないということを同時に示すように。

 

「エムさん……どうして……!」

 

 何故そこまで庇うのか。何故そこまで助けようとするのか……そんな価値なんて、自分にはないと、シンデレラは言いたかった。

 

 だが……言えなかった。

 

『……まさか庇うなんて思わなかったわ』

 

 いまだ嗤うことをやめないカオステラーへと向けた顔には、先ほどの笑顔はない。戦意を失くしていない、戦士の顔。何が何でも、全てを守らんとするヒーローの顔。

 

 それを見てしまったシンデレラには、何も言えなかった。

 

『愚かね……ホント愚か! そんな子助けたって何にもならないっていうのに! 本当にバカだわぁ!! アッハッハッハッハッハッハッハ!!』

 

 愉快すぎて笑いが止められない。カオステラーは笑い続ける。弱小な存在が立ち向かうのも、憎たらしい小娘が泣いて絶望するのも……尚も抗おうとする人間も。

 

 笑う。嗤う。悪意が空間を支配する。耳障りな笑い声が響き渡る。

 

 

 

「笑うな」

 

 

 

 それを、永夢は一蹴する。

 

『……は?』

 

 一瞬、カオステラーはキョトンとする。尚も、永夢は言う。

 

「笑うな」

 

 着いていた膝に力を入れて、永夢は立つ。倒れてもおかしくない怪我をしてなお、永夢は立ち上がる。

 

「エラちゃんの本当の幸せを知らない癖に……笑うな」

 

 一歩、足を踏み出す。

 

「どれだけ拒絶されても、どれだけ虐げられても……エラちゃんは、諦めなかった」

 

 さらに一歩。

 

「逃げなかった」

 

 もう一歩。

 

「アンタと……家族になるために、必死に向き合おうとしたんだ」

 

 また一歩。

 

「本当なら距離を取ってもおかしくない程の仕打ちを受けたのに……彼女は、それをしなかった」

 

 一歩。

 

「自分の運命を……切り開こうとしたんだ」

 

 一歩……立ち止まる。

 

「決められた運命には無い、親と子を繋ぐ絆を……彼女は、繋ごうとしたんだ」

 

 拳を、爪が食い込むほど握りしめ……そして、

 

 

 

「そんな彼女の思いを……願いを!! 笑うなよ!!」

 

 

 

 シンデレラの幸せを、気持ちを知る永夢にとって、カオステラーの言葉一つ一つが許せない。

 

 ただ本当の家族を得たかっただけで。本当の意味で幸せになりたかっただけで。

 

 何故ここまで彼女が苦しまなければいけない。何故ここまで彼女が追い詰められなければいけない。

 

 誰よりも幸せになるべき心を持っているはずの彼女が、何故ここまで悲しみを背負わなければいけない。

 

 永夢は……心が滾るのを、感じていた。

 

「エムさん……」

 

 シンデレラは、傷つき、倒れそうになりながらも、何度でも寄り添うために立ち上がろうとする永夢の言葉が、一筋の光のように心の内の暗く、淀んだものが浄化されていくかのように胸が熱くなるのを感じる。瞳から零れる熱い雫を、拭う事すら忘れて、口を手で覆った

 

「エム……」

 

 彼の心からの叫びを、レヴォルたちもただただ聞いていた。純粋なまでの、心からの激昂。そして、どこか苦し気にも聞こえる彼の叫び。何も言えず、ただ永夢の名を呟くだけしかできない。

 

『家族? ……ハッ!』

 

 そんな永夢の叫びを、鼻で笑うカオステラー。ただただ鬱陶しいとばかりに。

 

『私と家族になりたいとか、冗談でしょう? 私は御免よ、そんなもの』

 

 憎い相手と家族になる。それのなんと悍ましいことか。カオステラーは、心の底から思っている言葉を投げつけた。

 

『その子の運命は、最早無いも同然!! どんな小さな幸せだって、私が踏みにじってやるわ!!』

 

「……だったら」

 

 カオステラーの邪悪な思惑を、永夢は静かに聞き……そして、告げる。

 

「止めてみせる」

 

 言って、懐からある物を取り出す。それは、一つのガシャットだった。

 

「あれは……ガシャット?」

 

 だが、レヴォルはそのガシャットがいつもの物と全く違う物だと気付く。形状は、いつも永夢が使っているガシャットよりも分厚い、二枚分もある厚さ。さらに左右が薄緑とオレンジというように色が分かれていた。

 

 見ただけでわかる。あれは、

 

 

 

≪MIGHTY BROTHERS XX!!≫

 

 

 

 特別なガシャットなのだと。

 

 

 

「カオステラー……お前の好きにはさせない」

 

 ガシャットを起動させ、派手なサウンドと共に背後に二つの色違いのXXの文字が躍るように回転するタイトルロゴと大量のチョコブロック、そして緑とオレンジのゲームエリアを出現させながら、永夢は真っ直ぐ、カオステラーを見据えた。

 

 

 

「エラの運命は……俺が変える!!」

 

 

 

 ガシャットを突き出し、大きく右腕を振るう。そして、

 

「変身!!」

 

 ガシャットを半回転。左手に持ち替え、ゲーマドライバーへ。

 

≪ダブル・ガシャット!≫

 

 見た目通り、二つ分のスロットに挿入されたガシャット。そしてすぐさま、レバーを開いた。

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!≫

 

 

 

≪マイティブラザーズ! 二人で一人! マイティブラザーズ! 二人でビクトリー! X!!≫

 

 

 

 ハイテンションな歌と共に、回転しながら出現するセレクトパネル。いつもなら正面のエグゼイドを押すところ、今回は右に腕を突き出し、パネルを選択。選ばれたパネルと永夢が一つなり、姿が変わった。

 

「え……?」

 

「あ、あれって……」

 

 何に変身するのか見守っていたレヴォルたち。だが、現れたのは悪い意味で予想外のものだった。

 

 ずんぐりとした三頭身。太い手足。その姿は、最初にエグゼイドを見た時の姿、レベル1の姿と同様だったからだ。

 

 ただ、あの時と違う箇所が幾つもある。まず髪型が違う。次に髪の色、目の色ともに左右が薄緑とオレンジで色分けされている。そして、胸のプロテクターの形状も違う。右胸には色とりどりの四角いボタンが正方形の形で配列され、その周りを円形でオレンジ、黄、青のボタンが囲っている。左胸のゲージも一本から三本に増えている。後はゲーマドライバーがすでに開いている点くらいだろうか。

 

『……何なのそれは? ふざけているのかしら?』

 

 その姿を初めて見たカオステラーは、静かに怒りを込めて言い放つ。何をするかと思えば、ずんぐりむっくりとした姿となったエグゼイドに、期待外れとばかりに苛立ちが募っていく。

 

「ふざけているかどうかは……!」

 

 それでもエグゼイドは意に返さない。レバーに手を掛けながら、挑発する。

 

「こいつを見てから言いやがれ!!」

 

≪ガッチョーン≫

 

 レバーを閉じ、ハイフラッシュインジケータを隠す。すると、ゲーマドライバーから電子音が鳴りだす。

 

「だ~~~~~~~~~~~い……」

 

 短い腕をぐるぐると回し出すエグゼイド。その姿は滑稽で、場違いすぎて……しかしそれは、

 

「変身!!」

 

 エグゼイドが新たな姿となるサインであった

 

≪ガッチャーン! ダブル・アーップ!!≫

 

 アクチュエーションレバーが、開かれる。オレンジと緑で構成されたパネルがゲーマドライバーから飛び出してエグゼイドと重なっていき、変身が開始された。

 

 

 

≪俺がお前で! お前が俺で! WE ARE!≫

 

 

 

 エグゼイドの姿が、オレンジと緑の光の帯に包まれていく。そして、

 

 

 

≪マイティ! MIGHTY! ブラザーズ! HEY! XX(ダブル・エーックス)!!≫

 

 

 

 光が消え、その姿が露わとなった。

 

 

 

「な……なぁっ!?」

 

「こ、これは……どういう……!?」

 

 その場にいる誰もが、目を疑った。

 

 光が消え、そこに立っていたのはエグゼイド。しかし、一人(・・)だけではなかった。

 

 オレンジ色の髪と瞳をしたエグゼイド、そして薄緑の髪と瞳をしたエグゼイド。二人のエグゼイドが、左右それぞれの肩にエグゼイドの顔を模したアーマーを装着し、その顔を組み合わせた状態のまま肩を並べ、立っていた。

 

 その姿は、まるで兄弟。色違い、対照的な瓜二つ。まるで鏡に映したエグゼイドが立っているかのようだった。

 

「こ、こりゃいってぇぇぇっ!?」

 

「えええええええええええええ!? エムさんが二人になっちゃった!! どゆこと!? どゆことぉぉぉぉ!?」

 

「お、おチビぃ!! お前思いっきり突き飛ばしやがったなぁ!?」

 

「いやいやいや……さすがに、これは、言葉が出ませんね……」

 

「なるほど、だからマイティブラザーズ、か。よくできているね」

 

「この状況で冷静に分析できるパーン先生、流石です! 私は只今絶賛頭の中がこんがらがってますよ!!」

 

 あまりにも異様な光景に、味方であるはずの再編の魔女一行も流石に困惑し、戸惑いのあまりその場が混乱の坩堝となる。

 

「え、エム……君は……?」

 

 エグゼイドが二人となったことで、レヴォルも同様に混乱する。どちらが本物なのか、否、どちらも本物なのかと、声をかけるのを躊躇った。

 

 だが、エグゼイドは彼らの様子を余所に変身完了時のポーズを解く。そして、カオステラーを、二人分の鋭い視線で睨みつけた。

 

『な……何なの、あなたたちは……!?』

 

 カオステラーもまた、唐突に二人に分離したエグゼイドを見て、困惑の声を上げる。それに答えたのは、オレンジ色の仮面ライダーエグゼイド・ダブルアクションゲーマーXXR。

 

「へへ、知りたけりゃ教えてやるよ!」

 

(え……?)

 

 オレンジのエグゼイドから聞こえてくる声が、永夢のものと違うことにレヴォルは気付いた。

 

「俺たちは!」

 

「二人で一人の!」

 

「「仮面ライダーだ!!」」

 

 何も言わずとも、互いに合わせる。それこそが、永夢の、そして相棒である彼との絆の強さを表していた。

 

 薄緑のエグゼイド、仮面ライダーエグゼイド・ダブルアクションゲーマーXXLが、隣に立つ相棒に声をかけた。

 

「行くよ、パラド!」

 

「ああ! ここに来て初めてのゲームだ! 心が躍るなぁ!!」

 

 拳を叩いて気合を入れるオレンジのエグゼイド。中身はマイティブラザーズXXガシャットによって永夢から一時的に分離したパラド。パラドが分離したことで、いつもの口調に戻った永夢は、パラドと共にカオステラーに対して決まりのポーズを向けた。

 

「行くぞカオステラー!!」

 

「「超強力プレイで、クリアしてやるぜ!!」」

 

 二人で一人の仮面ライダーが、駆け出す。心が繋がる二人の目的は同じ、一人の少女の笑顔のために。

 

 

 

 

 

 時計の針が12時を指すまで、残り15分。

 




次回、物語の終わりへ。

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