仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~   作:コッコリリン

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第13話。シンデレラの職業は原作のゲームには登場しておりません。完全オリジナルのシンデレラです。ご了承ください。つって、この作品の流れ自体が割と以下略

今回でカオステラーと決着。そんでもって、



物語は終焉を迎える。


第13話 貫け! 悲しみのDestiny!

「「うおおおおおおお!!」」

 

 全力で走り、カオステラーへ迫る永夢とパラド。舌打ちし、カオステラーは杖を振るう。

 

『フン! おかしな術を使ったとしても、私には勝てない!!』

 

 杖から光が迸り、二人目掛けて水晶の塊が降り注ぐ。それは地面へ落ちると爆散し、破片が飛び散る。が、二人に直撃することなく、勢いも殺さずに走り続ける。

 

「はぁっ!」

 

 始めにXXLの永夢が、高く飛び上がって拳を振るう。それを盾で受け止めるカオステラー。

 

『何度やっても同じことよ!』

 

 先ほどと同じ攻撃を繰り返すかのような永夢に、カオステラーは嘲笑いながら切りつけようと剣を振りかぶった。

 

「そうかな!?」

 

 だが、それはパラドことXXRが飛び上がって剣を持つ手を蹴り飛ばしたことで阻止される。軌道が逸れ、剣は永夢に掠りもせずに空を切った。

 

『ちぃっ!』

 

 目障りだと言わんばかりに、今度はパラドを杖で殴り付けようとする。が、永夢が盾を足場にして飛び上がり、カオステラーの顔面を蹴り飛ばす。

 

『ガァッ!?』

 

 攻撃は中断、痛みに呻くカオステラー。地面に着地した永夢とパラドは、構え、再び突撃する。

 

「はっ!」

 

「せやぁっ!」

 

 永夢によるパンチ、パラドによるキックが、カオステラーの胴体に炸裂。そして、それを皮切りに二人の猛攻が始まる。

 

「「おらおらおらおらぁぁっ!!」」

 

『ウッグゥッ……!!』

 

 怯んだところを、二人による連続パンチがカオステラーを追い詰めていく。一発一発は大した威力でなくとも、それが途切れなく続くことで身体に蓄積されていく。カオステラーは、マシンガンの如く繰り出されるパンチの前に、ただただ呻くことしかできず、反撃ができない。

 

「「はぁっ!!」」

 

≪HIT!≫

 

 最後、フィニッシュとして二人同時のハイキックがカオステラーに叩き込まれた。この時、ダブルアクションゲーマー特有の連携強化装置『スマッシュリンカー』が作動。二人同時攻撃が成功した際、数秒間だけ全能力が2倍に上昇する。

 

『ゲバァッ!?』

 

 つまり、二人のハイキックはキャノン砲並と言っても過言ではない。そんな物をモロに受けてしまったカオステラーは、たまらず吹き飛ばされた。

 

『グ、ハァ……おのれぇ……!』

 

 宙で翼を動かし、体勢を立て直したカオステラー。息のあった連携、そして一撃が強力な攻撃。先ほどとは形勢が逆転しかけていることに、カオステラーは内心焦る。

 

「よっしゃ! いい感じだな!」

 

「油断するなパラド。まだ何をするかわからないぞ」

 

「わかってるって! こういうのは、深追いした方が痛い目を見るんだってな!」

 

 楽しそうにボクシングのステップを踏むように揺れるパラドを窘める永夢。明らかにおちょくっているとしか思えない二人に、カオステラーの苛立ちは増々募っていく。

 

『調子に……乗るなぁぁぁぁっ!!』

 

 杖を掲げ、先端から光弾を連続で撃つ。それら全ては、二人のエグゼイドへ真っ直ぐ飛んでいく。

 

「よっ!」

 

「はっ!」

 

 跳び、側転し、それらを難なく回避していく二人。尚も二人を追い詰めんと、カオステラーは光弾を放ち続ける。

 

 いずれは、二人のうちどちらかに命中する。そう思われていた矢先、

 

「はぁっ!!」

 

『ぐぁぁっ!?』

 

 カオステラーの六枚ある翼のうち一枚に穴が開く。激痛に身悶え、耐えきれずに攻撃を中断、光弾による雨は降りやんだ

 

『な、何が……』

 

 振り向き、翼を傷つけた者を探すために視線を巡らせる。そして、犯人はすぐに見つかった。

 

「ふむ、手応えあり、です」

 

 弓を構えた状態で立つ、タチアナへとコネクトしているシェイン。身体にあった傷は消え、五体満足となってカオステラーに狙いを定めている。

 

「お生憎様! こっちには回復手段があるのよ!」

 

 大砲を持ち上げ、砲口をカオステラーへ向ける。そして彼女の背後には、白いコートを羽織ったうさ耳の少女が、ラッパのような杖を手にしていた。

 

 少女こと、『不思議の国のアリス』の登場人物『時計ウサギ』の身体が光る。そして瞬時に、その姿は獰猛な野獣の姿へと変貌した。

 

「ふぅ、予め回復する力を持つヒーラーを栞に宿しておいて正解だったな」

 

 時計ウサギの正体は、ラ・ベットへと再び戻ったパーン。彼の栞は、盾役のディフェンダー、そして回復役のヒーラーの役職を持つヒーローとのコネクトが可能の物だった。

 

「よし、これでまだ戦える!」

 

「絶対に……諦めない!!」

 

 剣を持ち、エグゼイドたちに加勢するため駆け出すレヴォル。エレナもまた、魔導書を開いて魔法陣を展開した。

 

「もうさっきのようにはいかねぇぞ! 覚悟しやがれ!」

 

 ティムも槍を手に、カオステラーへ飛び掛かる。突き出された槍をカオステラーは盾で防ぎ、忌々し気にレヴォルたちを睨みつけた。

 

『おのれ……この雑魚どもがぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 先ほどまでの余裕は失せた。二人のエグゼイドによって調子を狂わされてカオステラーは、もはや加減すらしない。剣と魔法、そして羽根による猛攻を開始。

 

 怒涛の如く繰り出される、カオステラーの猛威。それを恐れず、彼らは突き進む。

 

 

 

 

 

「エムさん……みんな……」

 

 カオステラーに果敢に挑む彼ら。シンデレラはそんな彼らの雄姿を、座り込んだまま見つめている。

 

 自らが招いた事なのに、それでも尚、彼らは味方であろうとする。今は何故か二人となっているエムは、その筆頭だと言ってもいい。

 

 その事実に、嬉しく思う。しかし、それでも尚シンデレラは思う。

 

(本当に……このままでいいの?)

 

 彼らが戦っているのに、何もせずにこうして見守っているしかできないということ。だが、継母を止めたいという気持ちがありながらも、それをする力がないことを痛い程実感せざるを得ないという事実。

 

 だが、何よりも己の罪の象徴でもあるカオステラーと対峙する恐怖が勝る。

 

(やっぱり、恐い……でも)

 

 それでも……彼らのために、何かしたい。なのに、恐くて手が震えてしまう。

 

 己の無力さが腹立たしく、ただ地に着いた手で握り拳を作るしかできなかった。

 

(どうして……私は……)

 

 

 

「シンデレラ」

 

 

 

 自らを責める彼女に、声がかかる。優しさを含んだその声に思わず振り向き、そして目を見開く。

 

「フェアリー・ゴッドマザー!?」

 

 声の主は、彼女の運命の導き手にして恩人、フェアリー・ゴッドマザーだった。先ほどの戦いによる影響か、立つ足はまだふらついている様子だったが、その瞳には先ほどまでは無かった光が宿っているのがシンデレラにはわかる。

 

「もう、身体は……」

 

「ええ……さっきはごめんなさい。操られていたとはいえ、あなたに杖を向けてしまうなんて……」

 

 フェアリー・ゴッドマザーにとっても、シンデレラは大切な人間。なのに、カオステラーに惑わされ、彼女を殺そうとした事実を前に、フェアリー・ゴッドマザーは己の精神力の弱さを痛感し、歯噛みする。

 

「そんな……あなたが無事で、本当によかった。それで十分です」

 

 そんな彼女に、シンデレラは慌てる。フェアリー・ゴッドマザーが元に戻った。その事実だけが、シンデレラにとって何よりも朗報だった。再会できた喜びに、正直浸りたい気持ちもある。だが、今はそんな状況ではないことは、シンデレラが一番よくわかっている。

 

「ありがとう……けど」

 

 フェアリー・ゴッドマザーは、戦いの場へと目を向ける。今、二人のエグゼイドがカオステラーの周りを舞うように跳び、翻弄する隙にレヴォルが切りかかっている。戦いは佳境へと入ろうとしていた。

 

「……シンデレラ。あなたが何を考えているのか、私にはわかります」

 

 彼女の運命が決まった時から、ずっと見守り続けてきたフェアリー・ゴッドマザーだからこそ手に取るようにわかる。

 

シンデレラは、迷っている。己の罪と向き合うことが恐い。しかし、それでも逃げ出したくないという思いが、彼女の心を揺れ動かしていることに。

 

「……」

 

 対し、無言。シンデレラは口を閉ざし、俯く。それを肯定と受け取ったフェアリー・ゴッドマザーは、彼女を悲し気に、そして悔いるように見つめた。

 

「あなたの恐怖は、わかります。誰だって、罪と向かい合うことは恐いんです……けれど」

 

 穏やかに、慈愛に満ちる母の如く優しくそう言って、フェアリー・ゴッドマザーは杖を振るう。

 

「その罪が、本当の()ではないとしたら?」

 

「え……?」

 

 彼女の言う意味がわからず、顔を上げる。その時、杖から零れ落ちるように現れた光の粒子が、シンデレラの周りを周っていく。

 

 

 

 

(あれ……ここって……?)

 

 シンデレラは、視界がぼやけたかと思うと、次に視界がはっきりした時、今自分がいる場所が中庭ではないことに気付く。戦いの音も、今は聞こえない。

 

「ここは……私の、家?」

 

 今いる場所は、シンデレラの生家。資産家でもあった父は大富豪とはいかずとも、恵まれた環境であることには変わりなく、かつては数人のメイドが雇われていた程の広さを持っていた屋敷。父が事故で亡くなった今は、継母が経費削減のために全員解雇させ、家事を全てシンデレラに命じていた。

 

しかし、シンデレラにはわかる。これは、フェアリー・ゴッドマザーが見せている魔法による幻影。過去の記憶。

 

 この家から、全てが始まった。エラという娘が、シンデレラとして歩む運命が。

 

 そして、世界を混沌に陥れることとなる悲劇が。

 

 そして今、シンデレラが立っている場所。二階へ続く階段の踊り場。こここそが、シンデレラにとって忌むべき場所である。

 

『シンデレラ! シンデレラ! どこにいるの!?』

 

 聞き慣れた声。シンデレラを呼ぶ怒りを孕んだ大声は、屋敷中に響く。その声を聞いて、パタパタと軽い足音を鳴らしながら、呼ばれた本人が階段を駆け上がっていく。

 

『は、はい! お義母様!』

 

 シンデレラは慌てながらも、腰のエプロンで手を拭いながら呼んだ人物の前に立つ。派手なドレスに、厚い化粧。それでも隠し切れない皺を深くしながら、中年に差し掛かろうとしている女性こと継母が、シンデレラを睨みつけた。

 

『全く、呼んだらすぐに来なさい! 本当にあなたは愚図でのろまなんだから!』

 

『も、申し訳ありません……』

 

 しょんぼりと俯くシンデレラ。継母は顎ですぐ隣にある裸婦の彫像を指す。豪華な像ではあるが、屋敷の景観に合わない、逆に嫌らしさを醸し出していた。

 

『この彫像、磨いておいてちょうだい。こんな埃塗れになるまで放っておいて、何を考えているの?』

 

『は、はい! 只今!』

 

 慌てて、手に布を持って彫像を磨き始める。継母の気まぐれか苛立ちから、シンデレラに掃除を命じる。いつもの光景であり、毎日の習慣でもあった。

 

 その時も、シンデレラには継母に対する憎しみは無かった。ただただ、彼女のために働いていれば、いつかは分かってくれる筈だと信じて、毎日をすごしていた。

 

 だが……この日は、いつもと違っていた。

 

 継母へ背を向け、像を必死に磨くシンデレラ。いつもならば、それをしばらく眺めた後、満足気にして背を向ける。

 

 だが継母は、シンデレラの背中をじっと見つめた後、懐に手を入れる。ゆっくりと取り出したのは、鞘に収められた果物ナイフ。それを静かに抜き放つと、鋭利な刃が姿を現した。

 

 シンデレラは気付かない。せっせと像を磨き、埃を落としていく。そんな彼女の背中に狙いをすまし、ゆっくりと、継母は果物ナイフを頭上へ掲げていく。

 

 そして、

 

『ふぅ……終わりました、お義母』

 

 様、と続けようとしたシンデレラが振り返った。

 

『え?』

 

 目の前の光景を、最初は理解できずにきょとんとするしかなかったシンデレラ。継母が力いっぱい、ナイフを振り下ろそうとした瞬間、脳が状況を理解し、無意識に横へ跳ぶように避けた。

 

『キャァ!?』

 

 ナイフは空振りし、継母は舌打ちする。そしてギロリと、シンデレラを睨みつけた。

 

『お義母様!? どうして……!?』

 

 訳がわからず、壁に背を付けるシンデレラ。恐怖に怯え、ただただ継母の突然の奇行に恐れる。

 

 継母の顔が歪む。その際、彼女の顔の表面を覆っていた化粧が剥がれ落ち、年によって変色した肌が露わとなる。その形相は、すでに人間というよりも怪人そのものと言えた。

 

『お前だけは……! 許さない!! 許さない!!! こんなの、認めない!!』

 

 継母は、憎んでいた。前日、舞踏会へ赴いた際、周りの男どもは、王子は、娘たちに目も暮れず、美しいドレスを纏ったシンデレラに夢中になっていた。

 

 何故自分たちではない? 何故シンデレラだけがいい思いをする? そんな憎しみが、嫉妬が、シンデレラに対する殺意となって身を動かす。

 

 怯えるシンデレラの前に立ち、再びナイフを振り上げる。シンデレラの心臓を喰らわんと、ナイフが冷たく光る。

 

『ひっ……!』

 

 恐怖に身体が硬直する。しかし、彼女の生存本能が逃げを選択。咄嗟に横へ転がり、ナイフを避けた。

 

『避けるんじゃないよぉ!!』

 

 唾を撒き散らしながら叫ぶ継母。転がった際、足に力が入らなくなったシンデレラは、這う這うの体で継母から離れようとする。

 

『いや! いや!! 誰か! 誰かぁ!!』

 

 階段の傍で、叫ぶしかできないシンデレラ。屋敷の中には、今は誰もいない。例え今、継母の連れ子である義姉がいたとしても、恐らく怯えて逃げ出すか、或いは笑い飛ばすか。

 

 死。迫る絶望を前に、そんな言葉が過る。

 

『さぁ……死になさい!!』

 

 狂気を孕んだ笑顔で、継母がナイフを大きく振り上げた。このままでは、シンデレラの胸にナイフが突き立てられ、それが墓標となるだろう。

 

 最早、逃げ道はない。襲い来る痛みを前に、防衛本能からシンデレラは手で顔を覆わんとした。

 

 だが。

 

『ぅぁっ……!?』

 

 その声と共に、足首が変な方向へ曲がって継母は体勢を崩す。元に戻ろうと両手を振り回してバランスを取ろうとした。

 

 しかしそれも空しく、継母はバランスを崩し……その際、シンデレラの足に躓くような形となり、驚き見つめるシンデレラの上を飛び越え、そして、

 

 

 

 階段から、転がり落ちていった。

 

 

 

『……え?』

 

 継母が、階段を転がり落ちていくのを、ただ呆然と見つめるしかできなったシンデレラ。やがて転げ落ちていった継母は、鈍い音をたてて階段の踊り場でドレスを広げながらうつ伏せに倒れ込んだ。

 

 先ほどまでの騒ぎが嘘のように、静寂がその場を支配する。おもむろに立ち上がり、シンデレラは階段を一段一段、ゆっくりと降りていく。その間も、継母はピクリとも動かない。

 

『お……お義母様?』

 

 返事はない。継母の傍に座り込み、肩をゆする。

 

『お義母様?』

 

 何度ゆすっても、反応は返ってこない。継母も、ピクリとも動こうとしない。

 

『お義母様? お義母様!?』

 

 強く、より大きな声で呼びかける。返事はなく、そして決定的な物は継母の頭から流れ出る。

 

『ひっ!?』

 

 血。継母の頭部から流れ出た真っ赤な液体が、池のように継母を中心に溜まっていく。

 

思わず尻もちを着くシンデレラ。呼吸が荒くなる。目の焦点も合わない。

 

『あ、あぁ……私、私は……!?』

 

 シンデレラの足に残る感触。最後に継母が体勢を崩した時、シンデレラは思い出す。

 

『私が……お義母様を……!』

 

その時、彼女はあまりの衝撃により、冷静さを欠いていた。足に残った感触から、彼女は継母の足に自らの足を引っかけ、階段から転げ落とすよう仕向けた……当時、そう考えていた。故に、シンデレラの脳を一つの考えが埋め尽くしていく。

 

 

 

 愛していた筈の継母を、殺してしまった

 

 

 

 誰も指摘する人間はこの場にはいない。彼女に助言を与える者はいない。混乱に混乱が重なる彼女が取った行動は……

 

 

 

『い……いやああああああああああ!!』

 

 

 

 叫び、その場から転がるようにして逃げ出すことしかできなかった。

 

 

 

 これが、始まりの罪。彼女にとって、全ての元凶となった出来事である。

 

 

 

 

「…………」

 

 その光景を、シンデレラは黙って見ていた。自分の姿を第三者視点として見るということに戸惑いつつ、全ての成り行きをじっと、最初から最後まで見つめていた。

 

「……私、は……」

 

 あの時、パニックになっていた彼女にはわからないことだった。そしてそれは先ほどまで、ずっとそれが真実だと信じて疑わなかった。

 

 しかし、こうして別の角度から見てみれば、真相が明らかとなった。

 

「あれは……事故、だった……?」

 

 足に引っ掛けた落としたわけではなく、継母が足を挫き、たまたまシンデレラの足に当たり……それが切っ掛けで、継母は階段から落ちて行った。

 

 継母に反撃したわけでもなく。本当に、偶然の産物が生みだした悲劇だった。

 

「いいえ、事故じゃありません」

 

 だが、それを真っ向から否定する者がいる。フェアリー・ゴッドマザーが、悲し気に首を振った。

 

「え……じゃあ」

 

「ましてや、あなたのせいでもありません」

 

 言って、フェアリー・ゴッドマザーは瞳を閉じる。手に持つ杖を強く、強く握りしめて。

 

 

 

「原因は他でもない、私……私なんです」

 

 

 

~ 第12話 貫け! 悲しみのDestiny! ~

 

 

 

 原因は自分だと、フェアリー・ゴッドマザーが自供する。最初、意味がわからずにシンデレラは何も言えず、沈黙するしかなかった。

 

「……そ、それって、どういう意味なんですか?」

 

 ようやく口を開いた出てきた言葉。理由を尋ね、フェアリー・ゴッドマザーは迷うことなく答えていく。

 

「あの時、私は全てを見ていました。あなたを見守るために、王子と結ばれるまで、干渉しないよう、姿を消しながら……けど、あなたの継母がナイフをあなたに突き立てようとした時、私は自らを律することができず、思わず魔法を使いました」

 

「……その魔法って……」

 

 小さく、フェアリー・ゴッドマザーは頷いた。

 

「ええ……あの時、足を挫くように仕向けたのは、私です」

 

「っ……!」

 

 驚き、息を呑むシンデレラ。フェアリー・ゴッドマザーは、続けた。

 

「本当は、あなたが逃げる時間を稼ぐ程度に留めておくつもりでした。大きな干渉をするつもりはなく、他に他意なんて無かったんです……けれど」

 

 不幸にも……継母は、階段から落下した。

 

 覆しようのない結果に後悔し、フェアリー・ゴッドマザーの瞳から雫が流れ落ちていく。

 

「その後、気絶から目覚めた継母は、姿をシンデレラへと変えました……私は、彼女が恐ろしい何かに変わったとわかり、止めようとして……後は、あなたが知っている通りです」

 

 責任を取ろうと、カオステラーとなった継母に立ち向かったフェアリー・ゴッドマザー。その結果が、洗脳という形でシンデレラたちを襲うこととなってしまった。

 

「全ては、私が招いた結果です……あなたのせいじゃありません」

 

 これが真相。シンデレラが罪と思っていたこと全ては、彼女の思い込みでしかなかった……フェアリー・ゴッドマザーは、暗にそう告げた。

 

「そん、な……」

 

 罪を犯したわけではない。シンデレラの中には、喜びの二文字は無く、ただ戸惑いと困惑しかなかった。

 

 責めるべきは、目の前の恩人。結果論的に言えば、そういうこととなる。

 

「責めたければ、責めなさい。あなたには、その権利があります。あなたに重い責を背負わせ、絶望へと陥れた元凶は……私なんですから」

 

 言って、フェアリー・ゴッドマザーは深く、頭を下げる。こんなことをしても償いにもならないとわかっていながらも、悲しみに暮れるシンデレラのために今できることは、謝罪しかなかった。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい、シンデレラ……!」

 

 初めて聞いた、フェアリー・ゴッドマザーの震える声。それを聞いて、シンデレラは確信する。

 

 フェアリー・ゴッドマザーもまた同様、ずっと苦しんでいたということに。シンデレラに本当の元凶を教えることもできず、カオステラーの駒となるしかなかった彼女は、シンデレラよりもずっと。

 

 守るための行いが招いた悲劇……それが、この騒動の引き金となったということを、今初めて知った。

 

「フェアリー・ゴッドマザー……」

 

 謝罪するフェアリー・ゴッドマザーを、じっと見つめるシンデレラ。しかし、その胸中にあるものは怒りでも、失望でもない。

 

「……違います。フェアリー・ゴッドマザーのせいなんかじゃありません」

 

 彼女の肩に手を置き、頭を上げさせる。涙で瞳を潤わせるフェアリー・ゴッドマザーは、どういう意味かとシンデレラを見る。

 

「この事態を招いたのは、私です。私が、あの時に逃げ出してしまったから、お義母様がああなってしまった」

 

 あの時、己の所業に恐れ慄き、その場から逃げ出すしかなかったシンデレラ。できることは、たくさんあったはずだった。倒れた継母を手当てするなり、誰かを呼ぶなりできたはずだった。

 

 でもそれすらしなかった。ただ自分が恐かったから、逃げることしか考えていなかった。

 

 その時、彼女は落としてしまった。大切な運命を、その場に。

 

「だから……私は、罪を背負うべきなんです」

 

 元々、シンデレラという役割に疑問を持っていた。運命の書の筋書きに、納得いっていなかった。

 

 だから、こうなってしまったのは全て自分のせいだと、シンデレラは言う。

 

「違います! それは……!」

 

 尚も自分のせいと、シンデレラの言い分を否定するフェアリー・ゴッドマザー。罪を背負う必要はないと、フェアリー・ゴッドマザーは続けようとした。

 

 

 

「だから……私が罪を償っていくのを、手伝っていただけませんか?」

 

 

 

 シンデレラの懇願に、フェアリー・ゴッドマザーはその先を紡ぐことができなかった。

 

「フェアリー・ゴッドマザーが私を守るためにしたことが罪だというのなら、私は私の運命を放棄したことが罪です」

 

 落とした運命(ガラスの靴)を拾い上げたのは王子ではなく、邪悪な意思を持つ継母だった。その結果が、今の状況であるというのならば。

 

「だから私は……罪を償うために、お義母様から運命を取り戻さなくてはいけない」

 

 運命を放棄した罪を、愛すべき家族をあんな風にしてしまった罪を、償わなければいけない。

 

 それが、シンデレラが為すべきことだと、彼女は気付いた。

 

「でも私には、力がない。償うために必要な力が」

 

 今、必死に戦ってくれている人たちのためにも。そして、この世界のためにも。

 

「だから、フェアリー・ゴッドマザー」

 

 そっと、彼女の手を両手で包み込む。暖かく、優しい手。苦しかった時、シンデレラに伸ばしてくれた小さな手。

 

「私に、運命を切り開く力を……勇気を、ください」

 

 その手を、今度はシンデレラが掴んだ。フェアリー・ゴッドマザーと寸分変わらない、小さな手で。

 

「シンデレラ……」

 

「お願いです……エムさんは、私に前を歩く力をくれました」

 

 最初に会った時、ドクターと名乗った彼。それからずっと、シンデレラの暗い心に射す一筋の光となり続けた彼。継母に否定された時、ずっとシンデレラを肯定してくれた彼。

 

「私は……そんな彼の、皆さんの、力になりたい」

 

 強い意志を宿した目。罪から逃れ続けていた彼女には無かった強い光が、彼女に宿る。

 

 そこには、弱々しい灰被りの少女はいない。世界の中心たる主人公(プリンセス)の姿そのものだった。

 

「…………」

 

 フェアリー・ゴッドマザーは思う。ずっと、助けなければいけないと考えていた彼女。放っておいたら壁にぶつかり、迷い続けることになるかもしれないと思い続けていた彼女。

 

 それは、自分の傲慢なのだと、フェアリー・ゴッドマザーは気付いた。

 

(ああ……私は……)

 

 シンデレラは、罪から逃げることをやめた。強い意志で改めて向き合うと決心した。

 

(なら、私ができることは……)

 

 なのに、自分一人がずっと逃げ続けるわけにはいかない。この世界の主役である彼女に、フェアリー・ゴッドマザーができることはただ一つ。

 

「……わかりました」

 

 彼女に力を与えるということが、自分にできる罪滅ぼしなのだとしたら。共に背負っていくと言ってくれた彼女のためになるのだとしたら。

 

「私の魔法で……灰被りの乙女に、祝福を」

 

 杖を振るい、魔法を発動させるフェアリー・ゴッドマザー。シンデレラの身体を覆っていくその魔法の光は、彼女が行使してきた魔法の中でも一番、強い輝きを放っていた。

 

 

 

 

 

「「おりゃあ!!」」

 

≪HIT!≫

 

『うぐぅっ!!』

 

 永夢とパラドのストレートパンチが同時にカオステラーに命中。倍となったダメージを受け、後退り、よろめく。かろうじて宙に浮いている状態ではあるが、翼を一枚射抜かれた以上、これまでのように自由自在に動き回ることはできない。

 

『この、ガキィ!!』

 

「おいおい、さっきの余裕はどこいったんだよ?」

 

 カオステラーの右半分が、怒りで歪む。それを見て、パラドが笑う。

 

「ゲームはこっからだぜ? ほら、来いよ!」

 

 掌を上に向け、クイクイと指を曲げる。シンプルな挑発だが、頭に血が昇ったカオステラーには十分効果が出ていた。

 

『ああああああああああっ!!』

 

「パラド……挑発しすぎだ」

 

「わりぃ」

 

 凄まじい勢いで突進してくるカオステラー。その迫力に、永夢が原因であるパラドに向けて思わず文句を言った。パラドも自覚があったのか反射的に謝る。

 

「エム!」

 

 剣を振り、永夢とパラドに迫る。レヴォルが剣を手に、カオステラーの間に割って入ろうとした。

 

 

 

「はぁっ!」

 

 

 

 その時、気合の込められた声がした。直後、急接近していたカオステラーの翼を、青く光る一筋の線が貫く。

 

『イ、 ギャアアアアアア!?』

 

 苦痛に喘ぎ、地面に落下してのたうち回るカオステラー。翼に空いた大穴は、穴を中心に凍り付き、まるで結晶のように変化した羽根が一枚一枚翼から抜け落ち、地面に当たって砕け散っていく。

 

 何事かと、攻撃の正体を探るべく永夢たちは振り返った。そして、そこに立っていた者を見て、驚愕する。

 

 百合を模したような真っ白なドレス。首元に光るルビーのネックレス。透き通るような空色の髪には、宝石がふんだんにあしらわれたティアラが乗っている。

 

 そしてその手に握られているのは、身の丈半分の長さを持つ、真っ白な陶磁を思わせる弓。両端に水晶の装飾が施され、月明かりを受けて光を放つそれは、武器というよりも一種の芸術品とも言える。

 

 豪奢にして、嫌らしさを感じさせない、完成された美が、足に履かれた水晶の如く煌めくガラスの靴の涼やかな音をたて、踏みしめる。

 

「エラ、ちゃん……?」

 

 先ほどまでのみすぼらしい服を纏った少女は、もういない。

 

 そこに立っていたのは、この世界の主役にして、誰もが羨むプリンセスその人だった。

 

「……私は、ずっと逃げてきました」

 

 フェアリー・ゴッドマザーの魔法によって姿を変え、カオステラーを射抜いたシンデレラ。左手の弓を持つ手に、力が入る。

 

「自分の罪と向き合うのが恐くて……運命を、投げ捨ててしまった」

 

 懺悔が、この場に響き渡る。誰も彼もが、言葉を発さない。唯一カオステラーが、苦し気に息をする音がする。

 

「そしてお義母様……私は、あなたと家族になりたいと思っていたのに、それすらも私は諦めてしまっていました」

 

 右手に、一本の矢を召喚する。鏃もガラスのような水晶で作られたそれを、弓の弦に番えた。

 

「でも……私は、もう逃げません」

 

 キリリ……そう軋む音をたてながら、シンデレラは矢を引き絞る。

 

「お義母様! 私は、皆さんと共に、あなたを止めます!!」

 

 力強く、シンデレラは思いの丈を叫ぶ。倒すのではない、止めるのだと。

 

 

 

「私は……あなたの家族だから!!」

 

 

 

 矢を、放つ。狙うは、機動力の源であるカオステラーの翼。

 

『ギィィィッ!!』

 

 その矢を、カオステラーは盾を持って防御、弾かれた矢は砕け散り、宙に溶けるように消えていった。

 

『ほざくなぁぁぁっ!! この小娘ぇぇぇぇぇぇっ!!』

 

 起き上がり、杖をシンデレラへ向ける。先端を中心に魔法陣が展開、アリシアを狙った時のような極太の光線が、シンデレラを襲う!

 

「「はぁぁっ!!」」

 

 が、宙高く飛び上がってシンデレラとの間に割って入った永夢とパラドが、肩を寄せて立ち塞がる。肩に付けられたエグゼイドの顔半分のパーツが組み合わさり、エグゼイドの顔そのものとなる。

 

 光線バリア発生装置『R-フェイスアンブレイカー』と『L-フェイスアンブレイカー』に、カオステラーのビームがぶつかる。見えない壁が、永夢とパラドの前に展開。ビームはそれでも突き進もうとするも、突き破れないバリアによって勢いを殺され、そして霧散した。

 

『何ぃっ!?』

 

 攻撃が効かないことにカオステラーは愕然とする。永夢は、防御姿勢を解いてシンデレラに振り向いた。

 

「エラちゃん……」

 

 凛とした佇まい。おどおどしていた彼女はそこにはおらず、強い眼で永夢を見つめた。

 

「エムさん……あなたのおかげで、私は……」

 

 礼を言おうと、言葉を紡ぐ。しかし、永夢は頭を振った。

 

「違うよ、エラちゃん。君は、自分で前に進もうとした。君の力だよ」

 

「……それでも、その力をくれたのは、エムさん……皆さんのおかげです」

 

 運命を切り開く力を得たシンデレラ。これはフェアリー・ゴッドマザーの魔法による力ではあるが、全てを諦めてしまった者には得られない力。

 

 諦めずに、向き合おうとする力を得られたのは、周りの人たちの助けがあってこそ。シンデレラは、そう断言できた。

 

「ですけど……それでも、私一人ではお義母様を止めることはできません」

 

 カオステラーの力は強大だ。力を得たシンデレラだが、一人では到底太刀打ちできない。

 

 だからこそ、願う。運命を切り開くために、自身が信じる人たちに。

 

「だから……もう少しだけ、力を貸してください!」

 

 心からの願い。それを無碍にする者はこの場に一人とて存在していなかった。

 

「もちろん!」

 

「俺たちに任せておけって!」

 

 永夢とパラドが、力強くそう返す。直後、周りに散っていたレヴォルたちも、シンデレラの下へ集っていく。

 

「うわぁ、シンデレラちゃんすごく綺麗!」

 

「やっぱりどこの想区でもシンデレラはプリンセスよねぇ。流石だわ!」

 

「やれやれ、やぁっと主役が本腰上げやがったか」

 

「ティム、そんなこと言うもんじゃありませんよ」

 

「はは。しかし、これで役者は揃ったね」

 

 永夢とパラドの横に、レヴォルが立つ。そして、二人へ視線を向けた。

 

「行こう、エム。この悪夢を、終わらせるために!」

 

「うん……エラちゃんの運命を、取り戻す!」

 

 永夢とパラドが拳を、

 

 レヴォルが剣を、

 

 エレナが魔導書を、

 

 ティムが槍を、

 

 アリシアが大砲を、

 

 パーンが斧を、

 

 シェインが手甲を、

 

 そして、シンデレラが弓を構えた。

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 思いは一つ。目の前で人外の叫びを上げる、悪意の権現カオステラー。悪夢を生み出し続ける輩を止めるために。

 

 一斉に、動き出す。

 

「「うおおおおおっ!!」」

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 飛び掛かる永夢とパラド、そしてレヴォル。拳と剣を、チョコブロックを生成して足場にしつつ、縦横無尽に跳び回り、駆け回りながらカオステラー目掛けて振るう。

 

『小賢しい!!』

 

 剣と盾を使い、それらを巧みに捌いていく。剣を剣で弾き、拳を盾で防御する。三人による猛攻も、カオステラーには通用しない。

 

 そう思われるような光景。しかし、今のカオステラーは三人にしか意識が向いていない。

 

「そこっ!」

 

 つまるところ、ある意味隙だらけだった。

 

『ギャッ!』

 

 背中ががら空きのカオステラーに、アリシアが砲弾を叩き込む。爆炎に包まれるカオステラーを、シェインとパーンが飛び掛かる。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

「せいやあああああ!!」

 

 シェインの手甲が、パーンの斧が、一息に振るわれた刃によって左右三枚の翼を一気に両断。翼の付け根から血が噴き出す。

 

『ギアアアアアアアアアアッ!!』

 

 羽根を撒き散らし、カオステラーが仰け反り吼える。宙を浮く手段を失ったカオステラーは、地面に膝を着いた。

 

『うぅぅぅ、何故、何故なの!? さっきまでは、私が優勢だったはずなのに!?』

 

 剣を杖にし、立ち上がるカオステラー。憤怒と苛立ちで燃える右目が、永夢たちを射抜く。

 

 先ほどまでは、確かにカオステラーが圧倒していた。が、今やその逆。徐々にカオステラーが追い込まれて行っているのは誰の目から見ても明確だった。

 

 喚くカオステラーに、永夢とパラドがこの状況になった原因を突きつける。

 

「当然だ。僕たちが、ただやられていたとでも思っていたのか」

 

「お前の攻撃パターンは、もう攻略済みなんだよ!」

 

 確かに、カオステラーの攻撃は全てが強力だった。しかし、それら全てのパターンを読み解き、回避、防ぐタイミングを探り、攻撃をする時に出て来る癖を把握してしまえば、恐るるに足らず。

 

 天才ゲーマーM(永夢とパラド)にとって、それらを見極め、把握することは容易いことだった。

 

『お、おのれぇ……おのれぇぇぇぇっ!!』

 

 だが、またしてもカオステラーは油断する。意識が真っ直ぐ、正面に立つ永夢とレヴォルへ向いているため、周りを注視していなかった。

 

「隙ありだ!!」

 

 そこをティムの槍が、カオステラーへ突き出される。狙うはカオステラーの急所……ではなく、左手。

 

『なにっ!?』

 

 盾を持つ左手を狙われるとは思わず、防御が間に合わない。腕を切られたカオステラーは、盾を持つ力が一瞬緩む。

 

「おらぁっ!!」

 

 そこをすかさず、突き出した槍を横へ薙ぐ。矛先は盾に当たり、金属質の音をたててカオステラーの手から離れ、飛んでいく。これでカオステラーの防御手段は無くなった。

 

「これで!!」

 

 そこに追い打ちをかけるため、エレナが魔導書を掲げた。エレナを中心に、赤い靴が召喚され、洗脳されたフェアリー・ゴッドマザーにしたように、カオステラーに弱体化の呪いを放つ。

 

『い、ぎ、ぐぅぅぅぅ……!?』

 

 身体が重い。剣を支えに立つことすらままならない。五体満足だった時とは違い、今のカオステラーは度重なるダメージによって、エレナの呪いに対抗する術がない。カオステラーは剣を取り落とし、両手を地面に着く。

 

『ま、まだ……まだぁぁぁぁっ!!』

 

 残された右側に生えたもう一本の腕。そこにある杖を高く掲げ、魔法を行使するために光を集めていく。周りを一掃するだけの力が、杖から放たれようとした。

 

「させない!!」

 

 が、それはカオステラーの上空から降り注ぐ水晶の矢の雨によって防がれる。一本一本に魔力が込められたその矢は、カオステラーの身体に刺さるや否や、その形を変えて水晶となる。カオステラーの背中に無数に刺さった矢によって、背中一面を水晶が覆いつくして行った。

 

杖を持つ手の力が維持できず、力が抜けた手から杖が零れ落ちる。持ち主から離れた杖は、集めた光の行き場を失い、霧散していった。

 

『シ……シンデレラあああああああ!!』

 

 それを成した人物。カオステラーが最も忌み嫌い、憎み、蔑んだ少女。煌びやかなドレスを身に纏い、己の象徴とも言えるガラスの靴でしっかり足を地に着けたシンデレラは、自らの願いが込められた一矢を上空へ放ち、水晶の雨となりてカオステラーを縛り付けた。

 

『何故だぁぁぁぁぁぁっ!? 何故!! 私は、この世界を統べる力を手にしたのに!! 家族三人が揃っているのにぃぃぃぃぃぃっ!!!』

 

 理解できない。理解したくない。カオステラーは己の力が絶対だと信じて疑わない。家族の力が退けられるなど、あってはならない。現実を直視したくない、あり得ないと、怒りの咆哮を上げた。

 

「そんなの、わかりきったことだろ?」

 

 カオステラーの咆哮に、答える者が一人。パラドだ。

 

「お前ら家族三人で一人の力が、俺と永夢、二人で一人の力に遠く及ばなかったってことだ」

 

「それだけじゃない。レヴォル君たちの諦めない強さ、そしてエラちゃんの運命を掴み取ろうとする力が、お前を上回ったんだ!」

 

 永夢が、カオステラーへ向け叫ぶ。全てを支配する力ではなく、誰かの為に戦う力の方が強いということを。

 

 決して挫けない思いの強さを。

 

「パラド!」

 

「ああ! 一気に行くぜ!」

 

≪ガッチョーン≫

 

 永夢とパラドは、二人同時にゲーマドライバーのレバーを戻す。すると、

 

≪キメワザ!!≫

 

 キメワザホルダーと違う行程で、必殺技発動準備が開始される。ゲーマドライバーから伝わるエネルギーが、永夢の右足に、パラドの左足へそれぞれ流れ込んでいく。

 

『うあああああああああああああああ!!』

 

 尚も認められないと叫ぶカオステラーが、永夢とパラドへ向けて、水晶で固まってしまった腕を、無理矢理動かして剣を投げつける。回転しながら飛ぶ剣は、そのまま行けば二人を両断してしまうだろう。

 

 無論、そんなことをさせるつもりは、レヴォルにはない。

 

「はぁっ!」

 

 甲高い音をならし、水晶の剣を弾き飛ばす。明後日の方角へ飛んでいった剣に目も暮れず、レヴォルはカオステラーへ走る。

 

「くらえぇぇぇぇっ!!」

 

 闇の力が、レヴォルの剣に凝縮されていく。そのまま、大きく剣を斜め下から振り上げる!

 

『ギッ!?』

 

 剣がカオステラーを切り裂く直前、闇の力を一気に開放。剣から吹き上がった闇は、カオステラーを上空へと打ち上げた。

 

「今だ! エム!!」

 

「いっけー!!」

 

 レヴォルが叫び、エレナが拳を振り上げる。シェインもティムもアリシアもパーンも、永夢とパラドに向けて頷いた。

 

「エムさん!!」

 

 最後、シンデレラが永夢の名を叫ぶ。それだけで、彼女の願いを永夢は聞き届けた。

 

「カオステラー! お前を……攻略する!!」

 

≪ガッチャーン!!≫

 

 二人同時にアクチュエーションレバーを開く。そして、

 

 

 

≪MIGHTY DOUBLE CRITICAL STRIKE!!≫

 

 

 

 必殺技を解放。それぞれの足にエネルギーを纏った永夢とパラドは共に飛び上がった。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

 重力に従い、落下を始めるカオステラーの胴体へ二人の飛び蹴りが同時に命中。そして空中で独楽の如く高速回転蹴り、そして飛び上がっての再びの飛び蹴り、さらには機関銃の如く無数に繰り出される連続蹴り、オマケにもう一つ宙返りと共に蹴り上げるサマーソルトキック。それら全てが挟み込むような形でカオステラーに次々と、怒涛の勢いで炸裂していく。

 

『ギ、ア、ガ、アアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 全てが超ド級の威力のキックの嵐。たまらず悲鳴を上げるカオステラー。だが、まだこれは前座に過ぎない。

 

「「ふっ!」」

 

 地上へ降り立った永夢とパラド、二人が重なりダブルアクションゲーマーの最初の姿であるエグゼイド・ダブルアクションゲーマーレベルXへと戻る。そして、

 

「「おりゃあっ!!」」

 

『グァァッ!?』

 

 飛び上がってジャンピングアッパー。地へ落ちることを許されず、再び天高く舞うカオステラー。

 

「「これでぇぇぇぇっ!!」」

 

 そのカオステラーよりも高くジャンプ、空中で身動きの取れないカオステラーに狙いをすませるエグゼイド。

 

 これより繰り出されるのは、これまで受けてきた攻撃全てを上回る破壊力を持っていると直感で理解するカオステラー。だが逃げられない、動けない、防ぐことすら不可能。

 

 カオステラーが出来ることは、もはや一つのみ。

 

『ひっ……!』

 

 恐怖に慄き、痛みを受け入れることだけだった。

 

 

 

「「フィニッシュだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

 

 

 再びXXRとXXLへとなったエグゼイドの、超高圧エネルギーを纏ったダブルキック。流星を思わせるその跳び蹴りは、真っ直ぐ、カオステラーへと突き刺さる!

 

『いやああああああああああああああああああああああっ!!』

 

≪PERFECT!!≫

 

 超威力のキックをまともに喰らったカオステラーは、悲鳴と共に大爆発。爆炎と爆風を巻き上げる。それを背にし、突き抜けた永夢とパラドは地面を滑りながら華麗に着地。膝を着き、勝利のポーズを決めた。

 

 

 

≪会心の一発!!≫

 

 

 

 そして鳴り響く、一撃が見事に決まった際のサウンド。それが、カオステラーとの戦いの決着の合図となった。

 

「よしっ!!」

 

「やった! やったー!!」

 

 レヴォルが拳を握り、エレナが手を叩きながら飛び跳ねて喜びを全身で表す。

 

「やったわ! にしても見事なまでの連続キックね!!」

 

「ありゃあ、逆にカオステラーが可哀想になるな」

 

 アリシアがダブルアクションゲーマーの繰り出す無数のキックを目の当たりにして興奮し、ティムは「敵には絶対回したくねぇな」と付け足しながら苦笑した。

 

「お見事です」

 

「ああ。素晴らしい連携だった」

 

 シェインとパーンも、手放しで永夢とパラドの息の合ったコンビネーションを称える。

 

「エムさん……」

 

 爆発による光を浴びる永夢を見つめ、シンデレラは彼の名を呟く。そこにあるのは、感謝か、それとも別の感情か。シンデレラは、今はこの熱くなる感情を胸に秘めたまま、ただ彼に向けて小さく言葉を紡いだ。

 

「……ありがとう……」

 

 

 

 

『う、あ、あぁぁぁ……』

 

 激闘を終え、中庭には静寂が戻った。カオステラーは、階段の前でうつ伏せに倒れ込み、息も絶え絶えの満身創痍。翼は全て切られ、周りには羽根が散乱し、暗黒のドレスもすでにボロボロとなっている。肌が見える箇所も傷だらけで、髪もところどころが縮れている。

 

 見るも無残なカオステラーの姿。もはや彼女に戦う力は残されていない。ただただ呻き声を上げるしかできなかった。

 

≪ガッシューン≫

 

 栞を書から取り外してコネクトを解除するレヴォルたちと、マイティブラザーズXXガシャットを同時に抜く永夢とパラド。二人の身体がオレンジと緑の粒子となって、一つに集まっていく。それが一瞬光ったかと思うと、煤が付いた白衣を身に纏った永夢がそこに立っていた。

 

「わ、普通のエムさんだ」

 

「え、何その反応?」

 

 変身を解いたら永夢が二人になっているのかと思っていたエレナの驚愕に、思わずツッコむ永夢。そんな二人を見て、レヴォルは苦笑する。

 

「……うーん」

 

「……ちょっと? アリシアちゃん?」

 

 そしてアリシアはというと、永夢の顔を引っ張ったりこねくり回したりして思案顔になる。一通り終えても、納得のいかない顔つきになった。

 

「……さっぱりわからない。どうやって二人に分裂したのかしら……?」

 

「そうですねぇ。原因究明のためにも、やはりゲーマドライバーとガシャットを分解した方が……」

 

「おいお嬢、ババァ」

 

「シェイン、以前と言っていることが逆だよ」

 

 禄でもないことを言い出すシェインを窘めるティムとパーン。永夢はパラドのことを無暗に明かす訳にもいかず、「いやぁ、何ででしょうねぇ?」と曖昧に誤魔化すしかなかった。

 

「まったく……今それどころじゃないっていう時に……」

 

 確かに、永夢のあの姿はレヴォルとて気にはなる。しかし、今はそういう話はするような空気じゃないことを、レヴォルは目の前に広がる光景を見ながら呆れたように呟いた。

 

 

 

「お義母様……」

 

 シンデレラが倒れ伏すカオステラーに歩み寄る。シンデレラの声に反応したカオステラーは、力無く彼女を見上げた。

 

『……何よ。また私を笑うの?』

 

 カオステラーの形相は恐ろしく、ボロボロとなって戦う力を失って尚、その目に宿る憎しみの火は消えていなかった。

 

 以前のシンデレラならば、その目を見ただけで身を硬直させ、恐怖していたであろう。しかし、今の彼女には、そんな憎しみの目などで立ち止まることはない。

 

「お義母様。信じてくれないでしょうけど、私は一度たりともお義母様を、ましてやお義姉様たちを見下したことなどありません」

 

 カオステラーの前に跪き、語り掛ける。

 

「私は、子供の頃に本当のお母様が死んで、その後にお父様が私に寂しい思いをさせないようにと、お義母様たちを連れて来て……その後、お父様も死んでしまって。血の繋がった家族は、皆いなくなってしまいました」

 

『……』

 

 カオステラーは、シンデレラの独白を黙って聞く。いまだその目には憎悪が宿っていながらも、口を挟むような真似はしなかった。

 

「けど、私は寂しくありませんでした。お義母様とお義姉様たちが、私にとって家族だったから。血が繋がっていなくても、大事な家族に違いなかったから」

 

 父が遺してくれた、大切な家族。例え意地悪をされても、ずっと家族として愛していきたかった、シンデレラの思い。

 

「運命の書には、お互いにどんな感情を抱くかなんて、記されていませんから。だから、きっといつか仲良くなれるって、ずっと思い続けていました……けど、私の思いは、お義母様には届かなかったんですね」

 

 寂しそうに、目を伏せる。思いをもっと伝えていれば。他に何かいい方法があれば。こんなことにはならなかったかもしれない。

 

「結局、私は逃げ出してしまいました。それが、こんな事態を招いてしまった」

 

 後悔してもし切れない。結局、我が身かわいさにシンデレラは運命を投げ出し、そして多くの人々が傷ついた。

 

「でも……もう、私は逃げません」

 

 だからこそ、もうこんな思いをするのも、人が傷つくのもたくさんだった。

 

「これからは、お義母様と向き合い続けます。そしていつか、あなたと私は家族なんだと、胸を張って言えるような運命を掴み取ってみせます!」

 

 失った絆は、また紡ぎなおせばいい。たとえ継母が拒絶しようと、シンデレラはもう迷いはしない。

 

「それが私の、私が掴み取りたかった、本当の幸せだから!」

 

 豪華なドレスも、王子様との結婚でもない。血の繋がらなくとも、愛する家族と共にすごすこと。

 

 それを掴み取るまで、シンデレラはこれからも継母に笑いかけていくことを、決心した。

 

『……ハッ』

 

 シンデレラの思いを聞き、カオステラーは鼻で笑う。ふてぶてしく、それでいて忌々しそうに。

 

『あなたは昔からそう……気立てがよくて、美しさを鼻にかけない、王子に見初められるに相応しい子……だからこそ、私はあなたのことが大っ嫌いなのよ。本当の家族なんて、鳥肌立つわ』

 

 心の底からの言葉。シンデレラにも、それが伝わってくる程の悪態。しかし、シンデレラは微笑み、歯牙にもかけなかった。

 

「ごめんなさい。私、実は頑固なんです」

 

『……チッ!』

 

 家族になるまで、何があっても向き合い続ける。シンデレラの硬い決心に、カオステラーは思い通りにいかないことを悟って舌打ちした。

 

 後ろ向きだった少女は、もういない。そこにいるのは、芯の強い、幸せを掴み取るために尽力するプリンセスの姿がそこにあった。

 

 

 

 

「……」

 

 それを、永夢は何とも言えない表情で見つめる。どこまでも向き合うことを拒否する親と、それでも向き合おうと進み続ける子。血が繋がっていなくとも、そこにはまだ一方通行ではあるが、確かに絆が存在していた。

 

(……僕は……)

 

 決められた運命に抗おうとするシンデレラと、無意識に自身を比べる。湧き上がる暗い感情が表に出てこないよう、己の胸を掴んでシャツを皺が出来る程握りしめる。

 

 暗い気持ちを、圧し潰すかのように。

 

「よし、カオステラーも倒したし、これで再編ができるわね!」

 

「うん!」

 

 元凶であるカオステラーを倒した。これでエレナの再編を妨げる者は誰もいない。この想区の運命を作り直すため、エレナは肩に下げていた大きな本を取り出した。永夢も無理矢理思考を切り替え、事の成り行きを見守る。

 

 再編……滅茶苦茶になった想区の運命を紡ぎ直し、新しく書き換える力。世界そのものの運命を書き換えるという、規模も何も想像もできない力。永夢自身も強い関心があった。

 

(これで、ゲームクリアになるのかな?)

 

『多分、な。あのカオステラーってのがラスボスだったとしたら、そういう扱いになる筈だ』

 

 だがそれ以上に気になることがあった。再編をすることで、永夢たちは元の世界に帰れるのか否か、ということだ。

 

 帰る条件として想定していることが、ゲームをクリアすること。しかし、この世界の独特の空気、ゲームと現実が入り混じったような違和感がまだ解明できていない。

 

 ただ、それは気にはなるものの、まずこの世界を元の正常な状態に戻すことが何よりも大事だ。帰れるのならばそれでよし。帰れないのならば、原因を究明するために今後も動き続けるしかない。

 

「あの、エムさん……」

 

 そう思考する永夢に、シンデレラが声をかける。振り向けば、何か言おうか迷っている様子のシンデレラがそこにいた。

 

「エラちゃん?」

 

「……あ、あの……私……」

 

 頬を赤く染めながらもじもじと、指を組み替え、視線を彷徨わせるシンデレラ。

 

「わ、私……あなたが……」

 

 そして、その言葉を口にしようと……したが、すぐに口を噤んだ。

 

「……色々、本当にありがとうございました……私、今度こそ自分で運命を切り開いてみせます」

 

 微笑み、そう永夢に伝えるシンデレラ。その微笑みが、永夢には何故か寂しく見えたが、それも一瞬。永夢もまた微笑み返す。

 

「うん……君が、お義母さんと仲良くなれることを、祈ってるよ」

 

「……はい」

 

 コクリ、頷くシンデレラは、一歩永夢から離れた。

 

 

 

 それ以上近づいたら、決して叶うことのない思いが、また溢れ出してしまいそうになるから。

 

 

 

「さ、皆! 準備はいい?」

 

 エレナが本を広げ、周りに問う。誰も、何も言わない。それすなわち、準備はOKということだ。

 

「ああ、やってくれ」

 

 これで全て解決する。レヴォルはそう確信しつつ、エレナに先を促した。

 

 エレナは、カオステラーの前で本を、『箱庭の王国』を広げる。その状態で、目を閉じ、意識を集中させた。

 

「……『混沌の渦に飲まれし語り部よ』」

 

 詠唱を紡ぐエレナの黒い髪がざわつく。彼女の身体から、淡い光が溢れ出した。

 

「『我の言の葉によりて』」

 

 一つ一つの言葉に、不思議な力が感じられる。その力は、世界に作用する力。運命を紡ぎ直し、新たな希望を作り出す力。

 

 やがて、詠唱を完成させるため、最後の言葉が紡がれようとした。

 

「『汝の運命を』」

 

 

 

 

『うっ……!?』

 

 

 

 

「……え?」

 

 詠唱が、止まった。

 

 その時、エレナに集っていた力が散っていく。髪も元に戻り、光も消失していった。

 

「エレナ?」

 

 突然どうしたのか。レヴォルが疑問に思い、声をかけようとした。

 

 

 

 

『あ、あ、ああ……』

 

 

 

 

「な、なんか……カオステラーが……」

 

 エレナが、前を指さす。力無く横たわっていたカオステラーが、蹲り、震え、そして、

 

 

 

 

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!???』

 

 

 

 

 絶叫が、空間を震わせた。

 

 これまでの比ではない、耳が劈ける程の甲高い叫び。胸を抑えながら仰け反り、喉を曝け出しながら、カオステラーは叫び続ける。

 

「お義母様!?」

 

 突然の継母の様子に、シンデレラが駆け寄ろうとする。が、カオステラーはのたうち回り、周りを寄せ付けない。

 

『あああああああああっ!! あああああああああ!!!』

 

「な、何だ!? 何が起こっているんだ!?」

 

「一体、どうなっているんだ……!?」

 

 カオステラーの様子が、尋常ではない。レヴォルが慌て、いつも冷静なパーンですらも何がなんだかわからない。

 

「エラちゃん、離れて!」

 

「で、でも……!」

 

 継母を案じるシンデレラを、永夢は離す。その間も、カオステラーは苦痛の悲鳴を上げていた。

 

『く、苦しい!! 胸が、胸がぁぁああああ!! ああああああああああああああ!!』

 

 胸を抑え、叫び続けるカオステラー。この場にいる誰もが、ただただ困惑する。

 

 しかしやがて、変化が現れて来る。

 

 

 

 ジ……ジジ……

 

 

 

「え……何、あれ……!?」

 

 カオステラーの身体を、砂嵐のような灰色の光が耳障りな音と共に走る。それが消えたり現れたりと、断続的に。

 

 初めて見る光景に、エレナが慄き、後ろへ下がる。他の皆も、その場から動くことができない。

 

「そんな……まさか!?」

 

 否、一人動く者がいた。

 

「エム!?」

 

 走り出した永夢を、レヴォルが呼び止めようとする。永夢はそれを聞かず、カオステラーの前で首から下げた聴診器状のアイテム『ゲームスコープ』のイヤーケーブルを耳に挿す。

 

 この光景を、永夢は嫌という程知っている。しかし、認めたくはなかった。

 

 そんなはずがない。そんな訳が……心の内で否定しながら、ゲームスコープのスキャニングライトを悶え苦しむカオステラーへ向け、スイッチを押した。

 

 ゲームスコープから空間にスキャニングモニタが投影される。その光景にレヴォルたちから驚きの声が上がるも、永夢はそれどころではなかった。

 

 モニタ内を動き回る、一つのアイコン。頭が三角形の形になっている、醜い化け物の顔。

 

 それが意味することは、一つ……それは永夢が最も認めたくない、それでいて最悪な事実。

 

 

 

「ゲーム病を発症している……しかも、このウィルスは……!」

 

 

 

『ああああああああああああああああああ!!!』

 

 

 

 永夢がその事実を口走ろうとした瞬間、カオステラーが一際大きな絶叫を上げる。身体を走るノイズがより一層激しくなる。そのノイズが泡立つように蠢き、やがて破裂するかのようにカオステラーの身体から塊となって飛び出して行った。

 

 塊は、最初にカオステラーが立っていたバルコニーの上に降り立つ。そして、塊が変化していき、やがてその全貌が明らかとなった。

 

 

 

『GUUUUU……』

 

 

 

 円錐状の頭頂部。リング状の飾りが付いた頭と、赤い目元に鋭い牙。背中から翼のような物が生え、鍛え上げられた肉体はさながら鎧の如し。

 

 ある者は言う。なんと神々しく、美しい姿なのだと。

 

 人々は言う。なんと悍ましく、恐ろしい姿なのだと。

 

 神々しさと悍ましさという二つの相反する姿を併せ持つ、金と黒の色合いを持つ人型の化け物が、バルコニーの上から永夢たちを見下ろし、唸り声を上げた。

 

「何だ、あの化け物は!?」

 

「あれもカオステラー……なのでしょうか……!?」

 

 それが何なのか、レヴォルたちはわからない。ただわかることは、あの怪物ははっきりとした悪意を持って、レヴォルたちを見ているということだった。

 

「で、でも、カオステラーは目の前に……!」

 

 エレナが倒したはずのカオステラーを指さす。が、その言葉は途中で止まった。

 

『な……何? 何なの、これ……!?』

 

 戸惑いの声を上げたのは、カオステラー本人。己の手を、身体を見て、恐れ、困惑している。

 

 無理もない。何故ならば、身体が時折ノイズを走らせながら透けて見えているのだから。

 

 

 

 彼らは知らない。これが、乗っ取られた(・・・・・・)状態なのだということを。

 

 

 

「カオステラーの、身体が……」

 

「一体、何がどうなって……!?」

 

 エレナが驚き、ティムが理解不能とばかりに呟く。これまでにない異常事態。突如苦しみだしたカオステラー。そのカオステラーから飛び出してきた化け物。そして身体が透けだしたカオステラー。

 

「う、ううっ……!?」

 

 さらに、背後から苦しみの声と何かが倒れる音が、一行の耳に入った。

 

「ル……ルイーサ!?」

 

 ずっと物陰に隠れていたヘカテーが、カオステラー同様に胸を抑えて苦しんでいた。そして、身体に走るノイズもまた同様。

 

 先ほどまでとは明らかに苦しみの度合いが違うヘカテーの身体を、一早く気付いたティムが抱き上げる。

 

「おい、おい! しっかりしろ! ルイーサ!!」

 

 ノイズを走らせるヘカテーに必死に呼びかけるティム。返事はなく、ただ呻き声が聞こえるのみだった。

 

「そんな、ヘカテーちゃんまで……!?」

 

「何なんだ……一体、何が起こっているんだ……!?」

 

 さらなる混乱を呼び寄せ、レヴォルたちは狼狽えるしかなく。

 

 しかし、一人だけ……永夢は、バルコニーの上に立つ化け物を、忘れもしない最大級の敵を睨みつけ、その名を呟く。

 

 

 

「ゲム……デウス……!!」

 

 

 

 ゲムデウス。全バグスターウィルスの頂点に立つ、あるゲームのラスボスとして君臨する神。その強大な力は、永夢たちを幾度となく苦しめてきた。

 

 しかし、それは永夢たちがいた世界の話。ここは異世界。何故、ゲムデウスウィルスがここにいるのか。何故、カオステラーに感染していたのか。理由がわからず、永夢は戸惑う。

 

 

 

 カツ……カツ……カツ……

 

 

 

 異様な状況の中、静かに響く硬い音。規則正しく鳴り響くその音は、中庭に敷かれた石畳の上を歩く音だと、誰もが気付く。

 

 靴音を鳴らす者が何者か、全員が振り返る。その者は、スッと永夢たちの間をすり抜けるように歩き去っていく。

 

「あなたは……」

 

 手を腰の後ろで組みながら背筋を伸ばし、燕尾服に身を包んだ初老の男性。誰もが見惚れる程に真っ直ぐ歩くその者を、パーンとシェイン、アリシアとティムは知っている。

 

「執事の、人……?」

 

 シェインたちに王妃が黒幕であると告げ、玉座の間にいると助言した男性。その彼が、何故ここに……? アリシアが彼の背を見つめながら唖然としながら呟いた。

 

 戸惑う彼らを余所に、場違いなまでに落ち着ている様子の執事はカオステラーの前に立つ。そして、静かに跪いた。

 

『あ……あなた……!』

 

 カオステラーが、執事の姿にようやく気付く。縋るように、透けた手を執事へ伸ばし、彼の服を掴んだ。

 

『わ、私を、助けなさい! この苦しみから、は、早く……あ、あぁ……!』

 

 溺れる者は藁をも掴む。その諺を体現するように、カオステラーは苦しみ足掻きながら、執事に助けを求めた。

 

 執事は、そっとカオステラーの手を取り、ニッコリとした笑顔を浮かべた。

 

「ご安心ください、王妃様。私が今、あなた様を楽にして差し上げましょう」

 

 穏やかな口調でそう言って、ゆっくりと立ち上がる。そして、

 

 

 

「私の一部となってね」

 

 

 

 おもむろに懐から取り出したそれ(・・)を、カオステラーへ向けた。

 

『え、い、一体、何を……!?』

 

 カオステラーの身体が、オレンジの粒子となっていく。その粒子は、掃除機のようにして執事の手元へと吸い込まれて行く。

 

『い、いや、いやああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……!』

 

 やがて悲鳴を上げながらカオステラーの身体は全て粒子となり……完全に、その場から消失した。

 

「お義母様ぁっ!!」

 

 継母が消え、シンデレラが叫ぶ。だが、その声に応える者は、もはやいない。

 

「カオステラーが……吸い込まれた!?」

 

「そんな、あり得ないわよ、こんなこと!?」

 

 レヴォルが驚き、アリシアが否定する。これまでに見たことのない事態が、連続して起こっている。誰も彼もが困惑していた。

 

「何で……あなたが、それを……」

 

 ただ一人、永夢は震える指で執事を……正確には、彼が手に持っているそれ(・・)を指さした。

 

 ブルーメタリックで塗装された、モニターが付けられた機械。赤と緑のボタンが両端に付けられたそのデバイスは、永夢の世界にしか存在しえない、因縁深い物。

 

 その名を、永夢は口にした。

 

 

 

「『バグヴァイザー(ツヴァイ)』を、持っているんですか!?」

 

 

 

 ゲームパッド型の可変装備、ガシャコンバグヴァイザーⅡ。バグスターウィルスの散布、吸収、さらには両端の銃口とチェーンソーで武器にもなるアイテム。それを何故、この世界の人間が手にしているのか。

 

「……やはり、人外の力によってウィルスが抑制されていたか……まだまだゲムデウスウィルスの完成、とまではいかないようだ」

 

 永夢の問いかけを無視し、執事はバグヴァイザーⅡを持ち上げ、モニターを見る。やがて、くつくつと笑い声を上げ始めた。

 

「しかしながら、こうも上手く行くとは思わなかったな……全く、大したものだ」

 

 ゆっくりと階段を一段、また一段と上がっていく。靴音を鳴らしながら歩く執事の姿を見て、レヴォルたちは身構える。このような状況になって尚、余裕の態度を崩そうとしないその姿。それを見て、わからないなりに一つだけ、レヴォルたちは理解した。

 

 この男は、単なる執事ではない、と。

 

「やはり、あなた様方……いや……君たちに頼んで正解だった。私の目論見通りに、彼女を弱らせ、こうして私の手中に収めることができたのだからな」

 

一段、 一段上がっていき、その階段の半ばで立ち止まり……振り返った。

 

「礼を言わせてもらうよ。旅の者たち……いや」

 

 笑みを深くし……永夢へと目を向けた。

 

 

 

 

「エグ……ゼイドぉ……」

 

 

 

 

 ゆっくりと、噛み締めるように、永夢の名を……永夢の仮面ライダーの名を口にした。

 

 永夢のことを、仮面ライダーのことを知っている。その口ぶりを聞き、レヴォルたちは永夢へと顔を向けた。

 

「エム、彼を」

 

 知っているのかと、レヴォルが問おうとした。が、当の永夢は顔面蒼白で、執事を見ていることに気が付いた。

 

「あなたは……いや……お前は……」

 

 永夢は、知っている。その名を呼ぶ人間を。人の名を呼ばず、ゲームのタイトルで呼ぶ者を。

 

 人の命を、商品価値でしか判断しない、そして己の利益のためならば他者の命すら顧みない、恐ろしいまでの利益主義の男を。

 

「お前は……まさか……!!」

 

 

 

 

「クックックックック…………ハァァァッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」

 

 

 

 

 物静かな雰囲気は消え、執事は高笑う。両手を広げ、天を仰ぎながら、笑う。

 

 それを合図とするように、執事の身体にノイズが走る。顔を、身体を、腕を足を、ノイズが増えて、彼の姿を覆い隠していった。

 

 やがてノイズが消え、初老の執事の姿は消える。そして代わりに現れたのは一人の男。グレーのスーツ、赤いネクタイ、彫りの深い顔立ちに、整えられた茶色の髪。

 

 笑顔で顔を歪めるその男。いまだ笑い続けるその男こそ、永夢たちドクターライダーにとって因縁の相手。人の命を弄び、死のゲームを永遠に続くものにしようと画策した、悪魔のような男。

 

 永夢は、男の名を言う。怒りを、戸惑いを含み、心が熱くなるのを感じながら。

 

 

 

 

「檀……正宗……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 時計の針が12時を指すまで、残り5分。

 




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