仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~   作:コッコリリン

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第14話。サブタイの別名『正宗無双』

この独自設定の嵐にツッコミ入れたい方は心の中にしまっておいてください。お願いします、何でもしますから(何でもするとは言ってない)

さて、それでは第14話、もとい


GAME START



第14話 逆襲のChoronicle

 かつて、永夢がいた世界でとあるゲームが人々の間で大きな話題を呼んだ。

 

 実際に姿を変え、敵と戦い、強力なボスを打ち倒していき、栄光を手にするために競い合うサバイバルゲーム。スリルと興奮、何より自らが変身してプレイするという今までにないゲームに老若男女が夢中になり、思う存分楽しんでいた。

 

 だが……このゲームは“死”を招くゲームであった。

 

 HPが0になり、ゲームオーバーとなった時点で、プレイヤーは消滅。事実上の“死”を迎える。さらに、ゲームをプレイした時点でプレイヤーはバグスターウィルスに感染、常に死の恐怖に怯えることとなる。

 

 人々を楽しませる筈のゲームは、話題という花が人を虫を集めるかのように呼び、そして何も知らない人々を捕食する食虫植物の如く食い荒らしていく。

 

 それだけではない。消滅した人の命は、ゲームのラスボスをクリアすることで復活を遂げることができるという事実を知った者たちが、消滅した家族を、友人を、恋人を救わんと、己もまた戦いに身を投じ……そして同じ道を辿っていく。

 

 まさに“死”が“死”を呼ぶゲーム。そして、このゲームを世界へ広め、やがては世界の命の支配者となって君臨しようと画策した男がいた。

 

 ゲームの開発元の大手ゲーム会社『幻夢コーポレーション』社長、檀正宗。

 

 彼が全ての命を管理するため、そして己の夢のために永遠に続くものにしようとした究極のゲーム。そのゲームの名は……

 

 

 

 

『仮面ライダークロニクル』

 

 

 

 

~ 第14話 逆襲のChronicle ~

 

 

 

 

「クックックックック…………ハァァァッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」

 

 執事の姿が消え、耳障りな音と共に姿を変えた男の高笑いを、レヴォルたちは聞いていた。心底愉快だと言わんばかりの声で笑い続ける男。その笑い声にはある種の狂気が感じられた。

 

 さらに、男が姿を変える際、男の真後ろからノイズと共に巨大な時計が姿を現す。英数字で書かれた時字と、月と、謎のマークが描かれた円系の装飾。二枚の小さな歯車。その時計が何を意味するのか、レヴォルたちにはわからない。だが、男と共に現れた巨大な時計もまた、一際異彩を放っており、そこにあるだけでレヴォルたちを威圧するかの如く存在している。

 

 一体全体、何者なのか。カオステラーを吸収しただけでなく、男の口ぶりからはこの事態を把握しているかのようにも聞こえた。思わず身構え、階段の上に立つ男を油断なく見据える。

 

「檀……正宗……!!」

 

 しかし、彼の名を知る者がいた。彼の名を呟いた永夢が、今まで見たことないような……怒りとも困惑ともつかないような表情で男を見ていた。

 

「エム君。彼のことを知っているのか?」

 

 パーンが永夢に問う。少しの間を空け、永夢は男から視線を外さないまま小さく頷いた。

 

「……檀正宗。かつて僕たちの世界にいた男で……」

 

 一呼吸。目の前にいることが信じられないと、そんな気持ちで続きを話す。

 

「……人の命ですら、商品価値があるかどうかでしか判断しない……僕たちの、敵です」

 

 心優しい永夢の口から語られる、男に対する認識。ここまで共に戦ってきた彼にそこまで言わせるような男、檀正宗。それだけで、レヴォルたちの彼に対する警戒レベルは一気に上昇した。

 

「けど何で……何でお前が、ここに……!?」

 

 説明し、そして正宗に問う永夢。ここにいる筈がない人間が、否、いてはいけない人間が、何故ゆえに姿を現したのか。

 

「お前は……僕たちの目の前で、消滅したはず!!」

 

「え……?」

 

 消滅した……つまり死んだ、ということ。その言葉に耳を疑うレヴォルたち。彼がここにいるということ、即ち一度死んで蘇った人間であるということになる。

 

「……確かに、私は君たちCRのドクターによって敗れ、自らの手で自害した」

 

 それに答えたのは、他ならぬ本人だった。高笑いをやめ、しかしそれでも愉快であることを隠そうともしない口調で、永夢たちに向けて語り出す。

 

「しかし君は、一度も考えることはなかったか? ゲーム会社の社長であるこの私が、いざという時のための手段を持っているのではないか、と」

 

 永夢にそう投げかける正宗。その言葉の意味を少し考え、やがて目を見開いた。

 

「まさか……バックアップ!?」

 

「ばっくあっぷ?」

 

 聞き慣れない言葉に、レヴォルが疑問符を浮かべる。そんな彼に、パーンが説明した。

 

「要は、不測の事態が起こった際のために用意している予備みたいなものだ」

 

「え? 予備? 何の?」

 

 予備という言葉に、エレナが反応する。永夢が話したバックアップは、何に対するバックアップなのか。疑問を呈する彼女に応えるかのように、正宗が説明を続けた。

 

「そう、私は自らの遺伝子データ、及び仮面ライダークロニクルのゲームデータを有事の際に備え、バックアップデータとして取っておいたのだよ。そしてそのデータを、あるゲームを参考にし、私が復活するためのものを準備していたのだ」

 

「ある、ゲームだと……?」

 

「君は知らないかね? 私の息子が、かつて自らが復活するために作り上げたゲームを」

 

 言われ、永夢は思い出す。

 

過去にあった、正宗の息子である黎斗が消滅した後、自らを復活させるために自身のデータをゲームへ遺し、そのゲームを永夢にプレイさせ、一度死んだ仮面ライダーたちから絶望のエネルギーを集めることで復活しようと目論んだ事件。倒せないバグスターに、クリア不可能なゲーム内容。順調に絶望エネルギーを集める黎斗に対し、現実の世界でも大量発生したバグスターにより、世界の終わりが近いと誰もが諦めかけていた事件は、共にゲームに送り込まれた一人の仮面ライダーの特性によって、ゲームそのものが崩壊。永夢たちは見事に黎斗を倒し、世界を救うことに成功した。

 

 何故、その話を正宗は話し出したのか……いや、この会話の流れで、永夢は予想がついた。

 

「私は、会社に残されていたそのゲームデータを元にし、息子同様、私の復活のためのゲームを……それもインターネットを通じ、世界中の人々が私の復活のために働くよう、アプリゲームとして作り上げた……これが、私の言う準備だ」

 

「なん、だって……!?」

 

 あの時のことを思い出す。倒しても倒しても復活するバグスター。世界を埋め尽くす勢いで増殖するバグスターウィルス。それをまた繰り返そうとした正宗に、永夢は怒りの感情がわく。

 

 が、一つ疑問が生じた。彼が言うゲームがあるならば、何故彼が消滅した際、そのゲームは発動しなかったのかと。ネットワークに繋げることができるのならば、すでに誰かがプレイしていてもおかしくない筈だ。

 

「だが……ここで一つ、私ですら予測のつかない大きな問題が起きた」

 

 やれやれとばかりに、正宗は芝居がかった仕草で頭を振った。

 

 

 

 ―――カチリ。時計の針が一分進む。

 

 

 

「私が消滅した時、ゲームが起動する仕組みになっていたのだが……何らかのバグが、突如発生してしまってね。私の人格データ、つまり今ここにいる私が目覚めた時、そこは私が作ったゲームの世界ではなかったのだ」

 

 そして語る。彼が組んだプログラムが、殆ど消去されているということに。

 

「私が復活するためのゲームは、何の因果か、ゲームと全く関係ない世界へと変わってしまった。アプリとして配信するはずのプログラムも機能せず、実質私は別の世界へ放り出されたと判断するしかなかったのだ」

 

 手で顔を覆い、歌劇役者のように芝居がかった大仰しい動きで嘆き悲しむような仕草をする。

 

「何故こうなったのか、幾つか推測を建てた。単なるバグか、或いは私が消滅する瞬間に合わせ、何か大きな力が作用したのか……しかし、考えたところで何も変わらない。私は最初、嘆いたものだ……だが」

 

 顔から手を離す。そして、ニヤリと、口の端を大きく吊り上げて笑った。

 

「この世界を調べるうち、わかったことが幾つもあった。ここは我々が住まう世界で知られる童話をモチーフにした世界。生まれてから死ぬまで、人々の運命がすでに決まった、まるで世界そのものが舞台の筋書き通りに進む束縛された世界なのだと……故に、私は思った」

 

 再び両手を広げる。自らの思惑を、誇示するかのように。

 

「世界を……私が新たな可能性へ導いてやろう、とね」

 

「新たな、可能性……?」

 

 かつて世界を混乱に陥れようとした男の語る可能性。それが禄でもないということが、永夢にはすでにわかりきっていた。

 

「幸いとして、私の手元には予めデータとして保存しておいたバグヴァイザーⅡとガシャット、そしてサンプルとして保管しておいたゲムデウスウィルスがあった。これらを手に、私はこの世界の中心である城へと素性と姿を変え、潜入し、そして王妃へ近づいた……彼女が歯向かう者全てをねじ伏せる力を手に入れるためにね」

 

 その力こそが、カオステラーの力なのだと、レヴォルたちは悟る。

 

「何故、そんなことを! カオステラーの力は、世界を滅ぼす力! そんなものを人間が扱おうとしたら、その身を滅ぼすぞ!?」

 

 レヴォルは知っている。カオステラーによって全てを狂わされ、破滅していった人々を。カオステラー自身もまた、救われたいと願いながらも、決して救われることがなかったことを。

 

 それを、この男は手に入れようと考えている。それは最早、正気の沙汰じゃない。

 

「……実を言うと、私がデータ保存していたゲムデウスウィルスは、この世界の影響か否かは定かでないものの、貧弱な物となってしまっていた。このままでは、せいぜい風邪を引くくらいの力でしか効力がない。つまり、この世界に適用できるように、再び培養する必要があった」

 

「な……」

 

 ゲムデウスウィルスの恐ろしさは、永夢がよく知っている。高い感染力。そして誰もが苦しみ、喋ることすらままならず、呻くことしかできない程の強いウィルスだった。

 

 それを、この男は何と言った? そんな代物を、再び蘇らせようと考えていたというのか。

 

「長かったぞ、ここまで。バグヴァイザーⅡしかない、ほとんど設備が整えられていない世界にて、ゲムデウスをこの世界に馴染むようにするまでは。だが私は、私の理想のためにも、諦めるつもりはなかった……そして、試行錯誤していた時、私はあの力に目を付けた。あの力さえあれば、ゲムデウス本来の力を取り戻せるのではないかと!」

 

 歓喜。拳を握りしめ、希望を見出したとばかりに。

 

「私は隙を見て王妃にウィルスを投与し、彼女に感染させた……ところが、あの力は今のゲムデウスが取り込むのは難しかったらしく、せいぜい彼女の体調を少し悪くする程度でしかなかった。ゲーム病を発生させるには至らなかったのだ……だが、私は諦めなかった。王妃を弱らせてしまえば、恐らくウィルスに抵抗する力が弱まり、やがては発症するのではないかと推測した」

 

 意気揚々と、己の苦労を語る。しかしその苦労は、常人には理解し難いものであった。

 

「ウィルスは本人のストレスによって活性化する。肉体的にダメージを与えるだけでは意味がない。よって、私は王妃周辺の人間関係を洗い出し、一つの事実に気が付いた……この世界は、『シンデレラ』の世界。そして彼女は、主人公であるシンデレラの継母という立場の人間であることに」

 

「……まさか……そんな!?」

 

 そこまで語った正宗の狙いに、永夢が気付く。肉体的、精神的にダメージを与えるための正宗の狙いに。

 

 永夢が言わんとしていることに気付き、笑みを深くする。そしてゆっくりと、一人の人間を指さした。

 

「……彼女のストレスの原因は……君だぁ」

 

「わ……私……?」

 

 突然指され、困惑するシンデレラ。そのまま正宗は続ける。

 

「彼女にとって、シンデレラとは憎しみの対象。そんな人物と相対すれば、彼女のストレスは自ずと上がっていく。故に私は彼女に進言し、シンデレラと対峙するよう仕向けた」

 

「な……!?」

 

 シンデレラを保護したレヴォルたちが、真実を明るみにするために城に乗り込んでくるよう、守りを最小限にして誘い込ませようと仕向けた……つまるところ、この城に潜入させること自体が、正宗による罠だったということになる。

 

「無論、賭けに近かった。君たちが王妃に恐れ、尻込みするという可能性すらあった……しかし、反逆者の情報を耳にした時、私は確信していたよ」

 

 視線を、再び永夢に戻す。笑顔の奥に潜む狂気。そしてその目に宿るのは、

 

 

 

「エグゼイド……悲劇の運命を変えようとする君がいた時点で、ここに来ることがね」

 

 

 

 暗く、深い憎悪だった。

 

 

 

 ―――カチリ。時計の針が、また一分。

 

 

 

「っ……!?」

 

 永夢のことを知るが故に、行動が読まれていた……正宗が語るその事実に、少なからず精神的ショックを永夢は受けた。

 

「最初、君がここにいるというのは正直予想外だった。私の計画もご破算になるのではないかと心配もしていた……だが、君の戦いぶりを見てわかったことが一つある」

 

 フッと鼻で笑う。蔑み、最早敵ではないというように。

 

「今の君は『ハイパームテキ』を持っていない……そうだろう?」

 

「っ……!」

 

 図星。口を閉ざす永夢だったが、それが逆に肯定を受け取られた。

 

「ハイパームテキを持たぬ君など、私の敵ではない。私はそのまま計画を続行し……そして」

 

 音を鳴らし、手に持つバグヴァイザーⅡのモニターを永夢たちに見せつけた。そこには、

 

 

 

『出して! 私をここから出しなさい!! 出せええええええええ!!』

 

 

 

「お義母様……!?」

 

「見事、力を手に入れた」

 

 数字の0と1が無数に蠢く空間の中、カオステラーがモニターを叩きながら喚き、叫んでいる。シンデレラが驚愕し、それを見てから正宗はバグヴァイザーⅡを下ろした。

 

「彼女の身体を、力を乗っ取ったゲムデウスは、見事その身体を完全体とし、こうして世界に具現化した……が、それでも知能レベルはいまだ低く、このままではただの人形でしかない」

 

 上を指さし、バルコニーの上でいまだ永夢たちを唸りながら見つめるゲムデウス。何かアクションを起こすような様子もなく、その場に突っ立っているだけの、まるで遊園地のアトラクションのようだった。

 

「ゲムデウスウィルスの効果も、元いた世界の物とは比べ物にならない程に弱い……しかし、それも時間が解決するだろう。私の理想に一歩、進んだことは疑いようのない事実」

 

 そうして、手を後ろに組んだ。

 

「さて……ここまでが、私がこの世界にいる経緯、そして目的だ。何か質問はあるかね?」

 

 まるで物覚えの悪い生徒に対する教師のような態度。永夢が口を出すよりも、そんな正宗に声を上げる者がいた。

 

「……テメェふざけんな」

 

 俯いていたティムが、低い声で言う。いまだ意識が朦朧としているヘカテーをゆっくり地に寝かせ、ゆっくり立ち上がる。

 

「何が計画だ……何が理想だ……データだウィルスだゲムデウスだ、訳のわかんねぇこと色々くっちゃべりやがって……!」

 

 普段のティムを知るレヴォルたちですら耳にすることが少ない、本気でキレたティムのドスの効いた声。顔を上げ、怒りで顔を歪ませるティムは、真っ直ぐ正宗を睨む。

 

「俺が聞きてぇことは一つだけだ!」

 

 言って、彼は妹を、例えどれだけ憎まれようとも罵られようとも、最愛であることには変わらない妹のヘカテーを指さし、叫んだ。

 

「テメェが!! ルイーサをこんな目に合わせやがったのか!?」

 

 憤怒に塗れ、妹をこんな目に合わせた元凶と思われる男に向け、怒りをぶつけるティム。だが正宗は動じず、何てことの無い態度で返答した。

 

「ああ、そうだ」

 

「っ……テメェ!!」

 

 肯定。当たり前のことを聞くなとばかりの正宗に、ティムが激昂する。

 

「ゲムデウスウィルスは不完全だった……故に、多くの感染データが必要だったのだ」

 

 ああ、と一つ付け足す。

 

「そういう意味では、彼女は私に大きく貢献してくれたな……そうか、君は彼女の身内かぁ」

 

 笑顔をティムへ向けながら、正宗は頭を垂れた。

 

「なら、感謝の言葉を述べないといけないな。君の家族は、私の理想のために大いに役立ってくれた。礼を言わせてもらうよ?」

 

 心からそう思っている。正宗は、自身の計画のためならば人を道具として平気で扱う男だ。それを知るからこそ、永夢は正宗の言葉に嘘がないことを知る。

 

 嘘がない……しかしそれは、最も性質の悪いものでもあった。

 

「…………ふざけるなあああああああああああああああああ!!」

 

「よせ、ティム!」

 

「ティム! 落ち着きなさい!!」

 

「ティム君!」

 

 正宗を掴み上げるため、走り出そうとするティムをパーンが羽交い締めにして抑え、シェインとアリシアも彼を抑えるのに加わる。それでも尚、ティムは正宗目掛けて駆けだそうと暴れた。

 

「離せ! 野郎だけは、野郎だけは許さねえ!!」

 

「よしなさい! 相手がどんな力を持っているか、まだ未知数なのですよ!?」

 

 カオステラーを手玉に取り、己の野望のために人を犠牲にするのを厭わないような男が、何の力を持っていないわけがない。これまでの経験上、シェインは怒れるティムを窘めた。

 

「……ふむ、未知数か」

 

 そんな光景を、高い位置から眺める正宗は、おもむろに口を開いた。

 

 

 

 ―――カチリ。12時になるまで、残り2分。

 

 

 

「ならば、教えて差し上げよう」

 

 今の今まで浮かべていた笑顔を消し、その顔に浮かぶは無表情。

 

「この世界の、真の支配者の力を」

 

 そして、正宗の雰囲気が変わる。

 

「シンデレラの魔法の時間は、12時をもって終わりを告げる」

 

 

 

 ―――カチリ。残り一分

 

 

 

「これより先は、永遠に続くゲームの時間……即ち」

 

 おもむろに、バグヴァイザーⅡを持ち上げ、そして、

 

 

 

「私の時間だ」

 

 

 

 ―――カチリ―――残り……0分。

 

 

 

時計塔の針が、正宗の背後の時計が、12時を指し示した。

 

 

 

 ―――ゴォーン……ゴォーン……ゴォーン

 

 

 

 腹に響くような重い音が、二重に聞こえる。一つは、王城の中でも一際高い塔の上に設けられた時計が12時を報せる鐘の音。もう一つ、それは正宗の背後に置かれた、巨大な時計から鳴る音。

 

 

 

 その鐘の音は、奇跡の魔法の物語の終焉を、そして悪夢(ゲーム)の開始を告げる。

 

 

 

≪ガッチャーン≫

 

 鐘の音が鳴り響く中、正宗はバグヴァイザーⅡを腰のベルトの前に持って行く。すると、ベルトのバックルとバグヴァイザーⅡが、重低音のサウンドボイスと共に合体した。

 

「ベルト……!?」

 

 デバイスがベルトとなったのを見て、レヴォルの顔が凍りつく。形こそ違えど、それはまるで永夢が身に付けるゲーマドライバーのよう。そして、永夢と同じ世界から来たということは……レヴォルは嫌な予感がした。

 

 次に、正宗が右手で懐から取り出したるは黄緑と黒でカラーリングされた、今のレヴォルたちにとって見慣れた物。正宗は右に傾けていたそれを、音を鳴らしながら縦にし、水戸黄門の印籠の如く、そこに描かれたラベルをレヴォルたちに見せつける。

 

「あれって、ガシャット!? じゃああのおじさんも、まさか……!?」

 

 ガシャット。それとベルトが持つ意味を知るエレナが動揺の声を上げる中、

 

 

 

≪KAMEN RIDER CHRONICLE≫

 

 

 

 正宗が起動スイッチを押し、RGサーキットボードが緑に発光すると同時、ラベルに書かれたゲームタイトルが低い声で読み上げられた。

 

「今こそ、審判の時……」

 

 正宗が告げる。これより行うことを、何も知らないレヴォルたちに教えるために。

 

 手から、ガシャットを放す。重力に従い、ガシャットはそのまま地面へと落下……するかと思うと、一人でに浮き上がっていく。その間、正宗は腰のバグヴァイザーⅡ改め『バグルドライバーⅡ』のAボタンを流れるような手つきで押す。すると、バグルドライバーⅡから軽快な電子メロディが流れ始めた。

 

 メロディに乗るかのように、ガシャットが円を描くように宙を舞う。そしてゆっくりと、バグルドライバーⅡの上部に、斜め挿し型のスロットの中へと吸い込まれるように挿入された。

 

≪ガシャット≫

 

「変―――身」

 

 ガシャットが装填され、メロディは途切れる。準備は整い、正宗はゆっくり、重々しくもはっきりとそれを……トリガーワードを口にする。そして、スロット横の赤い突起物『バグルアップトリガー』を左手親指で、

 

≪バグル・アーップ≫

 

 押し込んだ。

 

 

 

≪天を掴めライダー!≫

 

 

 

 ドライバーがガシャットのデータを読み込んだ瞬間、ドライバーから力強いサウンドが鳴り出す。モニターからパネルが回転しながら正宗の頭上へ、そして背後の時計が左右に割れ、中央を緑のエネルギーが稲妻状になって迸る。

 

 

 

≪刻めクロニクル!≫

 

 

 

 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ……分かれた時計の時字が王に忠誠を違う兵士の如く次々と正宗の前へ円を描くように集っていく。

 

 やがてⅫまでの全ての英数字が集まり、そして、

 

 

 

≪今こそ時は、極まれりィィィィィッ!!≫

 

 

 

 時計が閉じ、エネルギーを放出しながらパネルが正宗へ落下し……正宗の姿は、変貌する。

 

 

 

「あ……あれは……」

 

 レヴォルが、その場にいる者全てが、唖然としながらその姿を目に焼き付ける。

 

 緑のラインで縁取りされた黒く鋭い目つきと髪型はエグゼイドとどこか似ている頭部。そこから冠の如く伸びる五本の角。肩にも同様に鋭い角が設けられた屈強なアーマーを備え、黒を基調とし、鈍く輝く緑のラインで彩られたスーツ。風に揺れている腰を覆う布の裏地は、鮮血を思わせる赤。

 

 そこに立っているだけで放たれる、目にする者全てがひれ伏す威圧感。神々しさと禍々しさを兼ね添えた、異様な風貌。

 

 その者は、究極の戦士。全てのバグスターウィルスに対する抗体を持つ者のみが変身する資格を手にすることができる、ゲーム内においての最強のお助けキャラにして、永夢たちドクターライダーたちにとって最強の敵。

 

 

 

「仮面ライダー……クロノス……!!」

 

 

 

 幾度となく辛酸を舐めさせられてきた、永夢にとって忌まわしき存在。世界を超え、異界の地において、今この時に再び相まみえることとなった者の名が、永夢の口から零れ落ちた。

 

 月明かりが照らす中、正宗ことクロノスはくぐもった笑いを上げながら、一段一段、階段を下りていく。

 

「我が名は仮面ライダークロノス」

 

 最後の一段を降り切り、永夢たちを見据え、

 

「この世界のルールにして……」

 

 ゆっくり、言い放つ。

 

 

 

「究極のゲーム、仮面ライダークロニクルの、真の……ラスボス」

 

 

 

 その異様な空気は、カオステラーを凌駕する。そこにいるだけで圧倒される強者としての貫禄。それを前にし、レヴォルたちの脳裏には勝利のビジョンすら過らない。

 

「……関係ねぇよ……」

 

 そんな中、最初に口を開いたのはティム。パーンに羽交い締めにされて尚、自身の空白の書を手に取る。

 

「相手が仮面ライダーだろうがラスボスだろうが……」

 

 キッと、クロノスを真っ直ぐ睨みつけた。

 

「俺がぶっ倒してやる!!」

 

「しまっ!?」

 

 油断したパーンの腕を振りほどき、ティムが書に栞を挟んでヴァルト王子とコネクトする。

 

「やめなさい! ティム!」

 

「ティム君!」

 

「うるせぇっ!!」

 

 仲間たちからの制止を振り切り、最愛の妹を害した仇敵に槍を構えるティム。そんな彼に対し、クロノスはというと、

 

 

 

「Shi―――……」

 

 

 

 人差し指を仮面の口に当たる部分に当て、騒ぎ立てる子供を窘める親のような仕草を取った。

 

 意図がわからず、ティムだけでなくレヴォルたちも戸惑う。そして、クロノスは言う。

 

 

 

「審判の時は厳粛でなくてはならない」

 

 

 

 穏やかに、まるで敵意は無いとばかりに言うクロノス。しかしそれが、ティムの癪に障った。

 

「……ふざけたこと抜かすなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

怒りに叫び、クロノス目掛け走り出し、跳躍。宙高く飛び上がって、槍を振り上げる。

 

「……フッ」

 

 落下を伴う刺突が繰り出されようとしている中、クロノスは避けようともしない。ゆっくりとした動作で、ドライバーへと両手を持って行く。

 

「っ!? ダメだ! ティム君!!」

 

 それを目にした永夢が、ティムを止めるために駆け出

 

 

 

≪PAUSE≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪RE:START≫

 

 

 

「ぐあああああああああああああっ!?」

 

 そうとした瞬間、悲鳴を上げながらティムがレヴォルたちの上を通り過ぎ、石畳の上をもんどり打って転がっていく。その瞬間、ティムの身体が光り、ヴァルト王子とのコネクトが強制解除された。

 

「え……な……」

 

 意味がわからず、しばし呆然とするレヴォルたち。だが、仲間のティムが吹き飛んだことを遅れて理解した瞬間、我に返った。

 

「ティム!!」

 

「ティム君!?」

 

 レヴォルとアリシアが、ティムの下へ駆け寄る。永夢たちも、ティムの下へ走った。

 

「ティム! しっかりしろ、ティム!!」

 

「う……ぐぁ……」

 

 レヴォルが倒れ込んだティムを抱き起す。苦し気に呻く彼の腹部は焼け爛れ、見るからに重傷を負っているのがわかった。

 

「何で……今、何が起こったの!?」

 

「わからない……私ですら、何をされたのかすら見えなかった」

 

 エレナが困惑し、パーンがそれに答える。仲間内でも特に実力が高いとされるパーンですらわからなかった。

 

 確かに、ティムの攻撃は真っ直ぐクロノスへ向いていた。激昂していたとはいえ、攻撃のタイミング、速度共に誰もが命中すると確信していた。対し、クロノスは無防備。ただ黙ってティムへと顔を向けていただけの筈だった。

 

 にも関わらず、音声が聞こえたかと思えば、次に吹き飛ばされたのはティムの方であった。まるで見えない力がティムを攻撃したかのような光景。

 

 クロノスは、その場から動いていない。何もせず、ティムを介抱するレヴォルたちを見ているだけだ。

 

「フッ、威勢がいいだけではどうにもならんぞ?」

 

 小さく笑いながら、クロノスが一歩足を踏み出す。瞬間、永夢とシェインが動く。

 

≪MIGHTY ACTION X!!≫

 

「大・変身!」

 

≪マイティマイティアクション・X!!≫

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 永夢はエグゼイドへと変身し、ガシャコンブレイカーをクロノスへ目掛け振り下ろす。その横で、タチアナへコネクトしたシェインもクロノスへ矢を連続で放つ。

 

「フッ!」

 

 甲高い音を鳴らし、クロノスは右腕でガシャコンブレイカーのブレードを、左手を動かして飛んでくる矢を全て弾き、二人の攻撃をガードする。続けざまにエグゼイドが攻撃しようと、ガシャコンブレイカーを横へ振るう。

 

「フンっ!」

 

「ぐぁっ!?」

 

 が、クロノスがそれより先にエグゼイドの腹部に蹴りを叩き込み、エグゼイドを吹き飛ばす。あまりの強烈さに、エグゼイドの身体は中庭の壁を破壊し、瓦礫の中に埋もれていった。

 

「ふっ!!」

 

 エグゼイドを案ずるよりも、クロノスへ攻撃することを選んだシェインは、尚も矢を連続で撃ち続ける。しかし、それも全て苦も無く叩き落とされていった。

 

「ならばっ!」

 

矢は効果がないと悟ると、栞を裏返して表へと戻す。光を放ち、姿を酒呑童子へ変えたシェインは、疾風迅雷を絵にしたような速度でクロノスへ接近、懐に潜り込んで怒涛の連続攻撃を繰り出す。手甲が炎を纏い、一発一発が灼熱にして凶悪な拳と刃による連打の嵐がクロノスを襲う。

 

「ほほぉ?」

 

 並のカオステラーですら、この攻撃を受けてはひとたまりもない……が、クロノスはそれら全てを悉く受け流していく。残像を残す程のスピードで繰り出される拳の炎も何のそのとばかりに、仮面を付けていながら涼しい顔をしているのが目に見える。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 最後、渾身の一発をクロノスの顔目掛けて叩き込もうとする。それすらもクロノスは鋭い音をたてながら掌で受け止め、拳に纏っていた炎も鎮火して消失した。

 

「ふむ……なるほど。人間を遥かに上回る力、頭の角……君の姿は、どうやら人とは違うらしい。生身で仮面ライダーに迫る力を持っているとは、いやはや、見事なものだ」

 

 心から称賛するクロノス。それをシェインは、怒りに瞳を燃やしながら笑う。

 

「お褒めくださりどうも。しかしながら、あなたのような輩に称賛されたとて、私は全く、全然、これっぽっちも嬉しくはありませんがね……!」

 

 大切な弟分を傷つけた目の前の男に対して皮肉を込めて返す。しかし、その内心は焦燥感で満たされていた。

 

(何という、力……鬼の髄力を持ってしても、押し込むどころか逆に抑え込まれていくなんて……!?)

 

 鬼の力は人外の力。普通の人間ですら片手でなぎ倒せる程の腕力を持つ鬼の総大将であるはずの酒呑童子の拳。その掴まれた拳を、万力を込めて押し込もうと、より力を入れていくシェイン。なのに、クロノスの腕はそこから一ミリも下がることはなく、逆にシェインの拳が押し返されていくのを感じる。拳を握る手も徐々に力が強くなっていき、このままでは握りつぶされかねない。

 

 鬼の力を、クロノスの力が上回っている。その事実を前にし、シェインは背筋が寒くなる感覚に襲われた。

 

(これが……仮面ライダーの力、ですか……!!)

 

 シェインは戦慄する。これまで味方である永夢の戦いぶりを間近で見てきたが、仮面ライダーの力は凄まじいの一言だった。これが敵に回ったらと想定したら、太刀打ちできるかどうかわからないとも考えたこともあった。

 

 それがこうして、別の形で現実となるなど、シェインは思いもしなかった。

 

「くっ……!」

 

 正面からではどうにもならない。搦め手を使ってでも、一矢報いてやろうと拳を引こうとした。

 

「甘いっ!」

 

「っ!?」

 

 だが、クロノスはそれを許しはしなかった。左手でシェインの顔面を引っ掴むと、一瞬で持ち上げ、

 

「ぬぅんッ!!」

 

 石畳へ、後頭部から思い切り叩きつけた。

 

「がっ……!?」

 

 砕ける石畳。頭から全身を襲う衝撃。鬼の身体を持ってしても、ダメージを抑えきれない。意識を失いかけ、朦朧とする。

 

「らぁっ!!」

 

 さらにクロノスはシェインを、そのままアンダースローで豪快に投げ飛ばす。中庭に植えられていた木の幹にぶつかり、中ほどで木がへし折れた。

 

「くぁぁっ……!?」

 

 折れた木から転がり落ちるように、地に伏すシェイン。ティム同様、彼女のコネクトも強制解除された。

 

「シェインちゃん!?」

 

 エレナが叫ぶも、返事をする余裕がない。激痛の中、それでも意識を保っていられるのは鬼の耐久力によるものか。しかし、最早戦闘を続行する程の余力は残されていなかった。

 

「そんな……シェインさんまで……」

 

「……よくも!!」

 

 エグゼイドが吹き飛ばされ、シェインも倒されたことに、アリシアが恐怖に慄く。その横で、レヴォルも栞を手に取り、クロノスを睨む。

 

 それを受けたクロノスは、尚も笑う。

 

「クックック……次は君が来るのかな?」

 

 まるで遊んでやっているとでも言わんばかりの口ぶり、態度。歯を食いしばりながら、レヴォルは書を取り出した。

 

「舐めるな!!」

 

「うぉぉぉぉっ!」

 

 その隣、パーンも栞と書を手に取り、レヴォルと共に駆け出す。その途中、それぞれ栞を挟んでコネクトを完了させ、クロノスへ飛び掛かる頃にはそれぞれロミオとラ・ベットとなっていた。

 

「はぁっ!」

 

「せぇい!」

 

 剣と斧が、クロノスへ迫る。それをクロノスは紙一重で避けていく。

 

「面白い」

 

≪ガッチョーン≫

 

 繰り出される攻撃を避けながら、腰のバグルドライバーⅡをバックルから外す。そしてそれを、右手に持つグリップへ。

 

≪ガッチャーン≫

 

「さぁ、楽しませてもらおうか」

 

 音声と共に右手に装着されたバグルドライバーⅡの『チェーンソーエリミネーターⅡ』の刃をレヴォルたちへ向けて、クロノスは振るう。

 

「くっ……!」

 

 迫る刃を防ぐべく、レヴォルは剣を横に構える。そして刃がぶつかった瞬間、

 

「ぐ、ぁぁぁぁぁ……っ!?」

 

 剣が、剣を持つ手が、けたたましい音を鳴らしながら凄まじい振動で揺れる。チェーンソーの刃による高速回転の振動により、剣から火花が飛び散った。

 

 競り合うのは不利と悟ったレヴォルは、剣を振るって抜け出す。しかし、クロノスは情け容赦なくチェーンソーを振るう。その度に腕に激痛が走り、やがて痺れが強くなる。

 

「くっ、うぉ!?」

 

 それはパーンもまた同じ。左手の丸盾が切りつけられ、火花と共に表面を傷だらけにしていく。武器である斧も同様、取り落とさないようにするだけで精一杯だ。

 

「くそ! 何なんだあの武器は……!?」

 

 チェーンソーなど知る由もないレヴォルが距離を取りながら叫ぶ。それをクロノスは笑って返す。

 

「どうしたぁ? そんな程度で私を倒せると思っていたのか?」

 

 余裕綽々なクロノス。それに対して反撃をしてやりたい気持ちが強くなる……だが、それをするのは、とてつもなく難しかった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

「くぅ……近づくことすら、ままならないとは」

 

 レヴォルとパーンの得物はボロボロに等しく、息を荒くする二人の体力も限界が近い。何度打ち合っても、チェーンソーの前では傷一つ付けられない。

 

「どうやらここまでのようだ……まぁ、よくやったと褒めてあげよう」

 

 どこまでも小ばかにしているようなクロノスの口調に、レヴォルが歯噛みする。言い返したいが、それだけ相手との力に差がありすぎた。

 

「では……」

 

 一言、そう呟くと、左足に力を入れ、

 

「フンッ!!」

 

「がッ!?」

 

 地面を踏み砕き、瞬時にパーンへ接近。回し蹴りを横面に叩きつけ、あまりの勢いでパーンの身体が回転しながら浮き上がる。そこを、

 

「せぃっ!!」

 

≪HIT!≫

 

「うわぁっ!?」

 

 腰を深く落とし、気合一閃と共にレヴォルを掌底で殴り飛ばし、パーンへぶつける。二人ともども吹き飛ばされ、ティムとシェイン同様、地面を転がっていく。

 

「ぐ、あ……!」

 

「くぅ……!」

 

 二人同時にコネクトが強制解除され、元の姿へ戻る。たった一撃を食らっただけで身体が痛み、立ち上がることすら許されない。

 

「レヴォル! パーンさん!」

 

「こんの……!」

 

 前線メンバーが倒され、エレナとアリシアもコネクトする。カーレンとなったエレナが魔法陣から闇の力を放ち、赤ずきんとなったアリシアが手にする大砲から強力な砲撃をクロノス目掛けて発射した。

 

 だが、

 

「はっはっはっはっは!」

 

 高笑いをあげるクロノスによって、それら全ては片手で弾かれるか、或いは身体を少し逸らすだけで難なく避けられていった。

 

「う、嘘でしょ!? 砲弾すら効かないなんて!?」

 

 音速の勢いで飛んでいく大砲の弾をも軽く避けてみせるクロノスに愕然とするアリシア。エレナもまた、自身の攻撃が効かないと悟り、狼狽える。

 

「ふむ、君たちにはこれがいいか」

 

≪ガッチョーン≫

 

 グリップからバグルドライバーⅡを取り外し、半時計回しに付け直す。

 

≪ガッチャーン≫

 

 音声と共に装着されたバグルドライバーⅡのチェーンソーの反対側の銃口『ビームガンエリミネーターⅡ』を、アリシアとエレナへ向けるクロノス。

 

「さぁ、踊るがいい!」

 

 言って、ビームガンを連射する。マシンガンの如く繰り出される光線が、エレナとアリシアを襲う!

 

「きゃああああああああ!!」

 

「う、あぁぁぁっ……!?」

 

「エレナ! アリシアぁ!!」

 

 無数に繰り出される光の弾丸の嵐の前に、二人が避け切れることもなく。直撃こそしなかったものの、ビームガンによって地面が爆砕され、その衝撃と飛んでくる石礫(いしつぶて)が二人の身体を吹き飛ばし、レヴォルがたまらず二人の名を叫んだ。

 

 悲鳴を上げながら、エレナとアリシアもまた地面に倒れ込む。その際、コネクトを強制解除された。

 

「うぅ、痛いよぅ……」

 

「なんて、強さ……これが、仮面ライダー……!」

 

 痛みに呻くエレナ。ボロボロになり、横たわるしかできないアリシアは、初めて敵として相手取る仮面ライダーの力に……悠然と立つクロノスの底知れない実力に、戦慄する。

 

「もう終わりか? 呆気ない……もっと私に君たちの価値を示してくれなければ、困るんだがなぁ?」

 

≪ガッチャーン≫

 

「く……まだだ……!」

 

 バグルドライバーⅡをベルトに戻し、倒れ伏す再編の魔女一行へ、一歩一歩、歩み寄るクロノス。いまだ闘志を失っていないレヴォルが、痛みに抗いながら膝を着き、再びコネクトしようと栞を手に取った。

 

 

 

≪マイティ! MIGHTY! ブラザーズ! HEY! XX!!≫

 

 

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」

 

「ムッ!」

 

 その直前、変身音と同時にエグゼイドが埋もれていた瓦礫が飛び散り、二つの影がクロノスへ迫る。咄嗟にクロノスが腕を上げると、二つの影ことマイティブラザーズXXガシャットを用い、ダブルアクションゲーマーとなった永夢とパラドの同時攻撃が腕に命中した。

 

「フン!」

 

 それを振り払い、二人から距離を取るクロノス。永夢とパラドは不意打ちに失敗したことを悟ると、同時に拳を構えた。

 

「クロノス! お前の好きにはさせない!!」

 

「もう一度ゲームオーバーになってもらうぜ!!」

 

 言って、二人同時に再びクロノスへ挑む。拳を繰り出せば受け流され、蹴りを放てば避けられるか、或いはガードされる。拳と蹴りの応酬が続き、互いに一歩も引かない戦いが繰り広げられる。ただ、永夢とパラドが二人で攻めるのに対し、クロノスは二人による猛襲をも苦も無く防いでいく。

 

「フッ!」

 

「ハァッ!」

 

 永夢がストレートパンチ、パラドが左フックで、クロノスを狙う。避けることが困難なはずの同時攻撃を、クロノスは難なく受け止めた。

 

「ほぉ……そう言えば、パーフェクトノックアウト。君にも借りがあったなぁ?」

 

「っ……!」

 

 パラドに睨め付く視線を送るクロノス。かつて、永夢の変身能力を奪うためという理由で、クロノスに幾度も命を狙われたパラド。その時の恐怖を思い出し、パラドはたじろぐ。

 

「くっ……!」

 

 恐怖を振り払うように、クロノスを蹴りつける。それを回避したクロノスは後ろへ下がり、距離を取った。

 

「永夢! 一気に決めよう!」

 

「ああ!」

 

 言って、パラドは武器を召喚する。

 

≪ガシャコンキースラッシャー!≫

 

 現れたるは一つの武器。ダブルアクションゲーマーの右胸と同様のボタン類が付けられた柄から伸びるように、オレンジ色の丸みのある斧状の刃と、青に輝く直剣型に伸びる刃、そしてその切っ先にある黄色の銃身という複合武器。エグゼイドにとっての最強武器である『ガシャコンキースラッシャー』を、パラドは手に取った。

 

≪ガッシューン≫

 

 そして、ゲーマドライバーからガシャットを抜く。そのガシャットを、ガシャコンキースラッシャーの『D-ガシャットスロット』へ。

 

≪ダブル・ガシャット!≫

 

≪キメワザ!≫

 

 すると、ガシャコンキースラッシャーが光を放ち、その光が永夢の手元に移る。光が消えると、パラドの持つガシャコンキースラッシャーがもう一本現れ、永夢の手に収まった。

 

「「行くぞ!」」

 

 違いに合図を送ることなく、二人同時にガシャコンキースラッシャーの柄にある『ガシャコントリガー』を引いた。

 

 

 

≪MIGHTY BROTHERS CRITICAL FINISH!!≫

 

 

 

 武器を用いた必殺技の発動準備が整った。二人が持つ剣がエネルギーによって光を放ち始める。

 

「「はぁぁっ!!」」

 

 パラドが左へ、永夢が右へ、それぞれ逆袈裟に切り上げ、巨大なXの文字となった剣閃がクロノス目掛けて飛び出す。全てを切り裂くエネルギーを目の当たりにし、クロノスはため息を一つついた。

 

「……無駄なことを」

 

 呆れたように言って、バグルドライバーⅡのAボタン、Bボタンのそれぞれを、両手で同時に

 

 

 

≪PAUSE≫

 

 

 

 押した。

 

 

 

 時計の重い鐘の音。時を刻む時計の針が動く音が鈍くなっていく音がし、やがて完全に音が止んだ。

 

 そして……全てが、止まる。

 

 剣を振るったまま動かなくなった永夢とパラド。クロノスへ飛んでいく筈だった剣撃も、その場から動かなくなる。それを見守っているレヴォルたちもまた例外ではない。

 

 人の息遣いも、噴水から流れ落ちる水も、草花の揺れも、風も、鳥も、そして音も……生き物、無機物、全て関係なく、テレビの一時停止ボタンを押したように動きを止め、一切の音が消えた無音の空間となった。

 

 静寂と停滞の世界。そこに命の息吹は存在しない。

 

「君たちに、いい知らせを教えてあげよう……私の記憶は、現実世界の私とリンクしていてね。君たちの過去の所業は、私もよぉく知っている」

 

 その中を、唯一動く者がいる。クロノスのみ、この制止した世界の中を、悠々と歩いている。永夢とパラドによるキメワザを、高い柵のように軽々と潜り抜け、足音を響かせながら二人へと歩み寄っていく。

 

「君たちには以前の世界で色々と世話になったが、この世界においての君たちには商品価値がある……よって、今すぐに絶版というようなことは勘弁してあげよう」

 

 返ってくる答えがないことを知りながらも、クロノスは語りかける。そして、パラドの前で立ち止まる。

 

「……だが」

 

 声が一段、低くなった。

 

「フンッ!」

 

≪HIT!≫

 

 裏拳を振るい、パラドを永夢の方へ殴り飛ばす。一瞬だけ制止の世界から抜け出したパラドが永夢へぶつかった状態となり、そして再び制止した。

 

 

 

「君たちに対する恨みを忘れたわけでは、ない」

 

 

 

 僅かな怒気を滲ませ、恨みがましく二人に向けて言うクロノス。そしておもむろに、バグルドライバーⅡのBボタンを二回押した。

 

≪キメワザ≫

 

 重々しいサウンドボイスと共に、モニターがRGサーキットボードに描かれているクロノスの姿を映しながら光り出す。そして、

 

 

 

≪CRITICAL CREWS-AID≫

 

 

 

 クロノスの足元を中心に、時計の幻影が現れる。その幻影の長針が動き出すと同時、その動きに合わせて身を翻すクロノス。時計の針が時字のⅫの位置にいる永夢とパラドを指した瞬間、クロノスの強力な、私怨を交えた回し蹴りが炸裂する!

 

「ぬぅんっ!!」

 

 Ⅻと長針を残し、時計の幻影は消える。永夢とパラドは必殺の回し蹴りが命中した瞬間のまま、動きを止めた。

 

≪終焉の一撃!≫

 

「せいぜい、苦しむといい……」

 

 一撃が決まった音声と共に、一言そう呟く。二人に背を向けたまま、クロノスは再びAボタンとBボタンを押した。

 

 

 

≪RE:START≫

 

 

 

 止まっていた世界が、動き出す。

 

「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」」

 

≪ガッシューン≫

 

 それと同時、永夢とパラドが爆発する。二人が放った必殺技は、クロノスに当たることなく城の壁を破壊した。

 

「エムゥゥゥ!!」

 

レヴォルが叫ぶ中、爆炎を上げて吹き飛ぶ永夢。クロノスの必殺技が決まったと同時、変身が強制解除され、パラドも永夢の中へと戻っていた。

 

「ぐは……っ!」

 

 レヴォルたちの傍で身体を叩きつけられるように落下した永夢は、全身に走る痛みから息も絶え絶えとなり、起き上がる体力を失っていた。

 

「エムさんっ!? しっかりして!!」

 

「まただ……また、何も見えなかった……!?」

 

 エレナがエムの傍に膝を着き、助け起こす。横では、パーンがティムの時と同じ光景を見せつけられたことで、戸惑いの声を上げた。

 

「どうなってるのよ……一体、あいつは何をしたっていうの!?」

 

 正体不明のクロノスの攻撃に、アリシアが混乱して思わず叫ぶように言った。ボロボロになりながら、ティムの傍に膝を着いたシェインが、クロノスを睨みつつ歯ぎしりする。

 

「……奴が先ほどまでいた位置から、大分離れています。まるで瞬時に移動したかのような……」

 

「……ポーズ、だ」

 

 エレナに支えられながら、永夢が何とか口にする。聞き慣れない言葉に、レヴォルが眉を上げた。

 

「ポー、ズ?」

 

「クロノスが持つ、特殊能力……ゲームエリア内の全ての時間を止めて、クロノスのみが自由に動くことができる……最強の、力」

 

「ちょ、ちょっと待って!? それって、時間停止魔法!? それを自在に操るなんて滅茶苦茶じゃない!!」

 

 永夢の説明に、アリシアが狼狽える。時間を止め、その間に攻撃し、誰にも気付かれることなく相手を葬ることができる、まさに反則級の能力。

 

「そんなのって……ないよ……!」

 

 勝ち目がない。実力、そして特殊能力、共に圧倒的なまでの差を見せつけられたエレナから、絶望の声が漏れ出た。

 

「……過去に、そういった力を使う人もいましたが……彼の場合は、それをいつでも使えるということですか……まったく、出鱈目ですねぇ」

 

 過去に戦ったカオステラーに、それと似たような力を使った者がいたことをシェインは思い出す。だが、今回の場合はそれとは格が違う。

 

 時間停止を自由自在に行使する存在……それこそが、仮面ライダークロノスの最強たる所以であった。

 

「……時の神クロノスの名を冠するだけはある、か……これは、さすがにまずいな」

 

 見えない攻撃のカラクリがわかったところで、対処のしようがない。パーンは傷だらけの身体でどうにか立ち上がるも、すでにコネクトする程の力は残されていない。それは永夢たちも同様で、この中で戦える者は誰もいない。

 

「フッフッフ……」

 

 笑いながら、ゆったりとした動作で永夢たちへ歩み寄ろうとするクロノス。と、突然左腕を上げたかと思うと、その手に水晶の矢が握られた。

 

「……ほほぉ?」

 

 自らを射抜かんと飛んできた矢を瞬時に掴み取り、それをへし折る。そして、矢を放った者を見やった。

 

「皆さんから、離れてください!」

 

 矢を撃ったのは、シンデレラだった。弓を手にし、二本目の矢を番えてクロノスに鏃を向ける。弦を引き絞り、いつでも撃てるのだとクロノスを威嚇した。

 

「だ……ダメだ、エラちゃん! 君が敵う相手じゃない!!」

 

 永夢が叫び、相手取ろうとする彼女を止める。それでも、シンデレラは弓を手放すことをしなかった。

 

「……例え敵わくとも、エムさんたちから気を逸らすことさえできれば……!」

 

 永夢たちを逃すため、自身が囮になることを決めたシンデレラ。クロノスの圧倒的な力を目の当たりにし、内心は恐怖で震えている筈だが、継母を奪われた怒り、永夢たちを傷つけられた怒りから、彼女の中で“逃げ”の二文字は存在していなかった。

 

「……ふむ」

 

 シンデレラの威嚇を前にし、クロノスはしばし考え込む。やがて何かを思いつき、顔をシンデレラへと向けた。

 

「ゲームには王道展開が付き物だったな」

 

「……え?」

 

 言っている意味がわからず、思わず声を上げるシンデレラ。そんな彼女に向けて、クロノスは右手を上げた。

 

「……ふん!」

 

 そして、クロノスの前に現れた巨大なホログラム映像。中央に『仮面ライダークロニクル』のタイトルロゴが書かれたそれは、真っ直ぐシンデレラへ飛んでいく。

 

「え……な、何!?」

 

 迫り来るホログラムに狼狽え、逃げることすらできないシンデレラ。左右に逃げようにも、映像そのものが大きくて間に合わない。やがて、ホログラムはシンデレラと接触し、

 

「い、いや……っ!!」

 

 シンデレラが悲鳴を上げる直前……彼女を飲み込み、ホログラムはテレビの電源が落ちるように消失した。

 

「エラちゃん!?」

 

「シンデレラちゃん!!」

 

 消えたシンデレラの名を呼ぶ永夢たち。だが、シンデレラの声は聞こえず、そして永夢たちの声も届かない。

 

「貴様……彼女をどこへ連れ去ったんだ!?」

 

 レヴォルがクロノスへ向けて叫ぶ。対し、クロノスは相も変わらずくぐもった笑い声を上げた。

 

「フフフフ……慌てることはない。彼女はゲストだ」

 

「ゲスト……?」

 

 疑問符を浮かべるレヴォルに、クロノスは続ける。

 

「攫われたプリンセスを助けるために、勇敢な戦士たちが巨悪に挑み、立ち向かう……このような展開は昔から使い古され、今ではチープなものと捉えられがちではある。だが、裏を返せば、それだけ人の印象に残りやすい、所謂王道的展開であるとも言える」

 

「……一体、お前の目的はなんなんだ!?」

 

 ゲムデウスを復活させ、カオステラーを手中に収め、その上シンデレラをも浚った……クロノスの目的がわからないあまり、永夢が傷だらけのまま叫んだ。

 

 クロノスは答える。両手を上げ、さも当然とばかりに。

 

「先ほど言った筈だ。これより先は、永遠に続くゲームの時間だと。この世界の命運をかけて行われる、最強のゲーム……つまり」

 

 言って……真っ直ぐ、永夢を、そしてレヴォルたちを、鋭い仮面の目が射抜いた。

 

 

 

「新たなる仮面ライダークロニクルの、開幕だ」

 

 

 

 悪意を持って、クロノスは語る。かつての死のゲームを、何の関係もないこの世界で執り行おうとしている目の前の男に、永夢は激昂する。

 

「そんなこと……許されるわけがない……!」

 

 仮面ライダークロニクルの悪夢を繰り返すわけにはいかない。永夢の思いを、しかしクロノスは一笑に付す。

 

「許すか、許さないかを決めるのは君ではない……この私だ」

 

「っ……!」

 

「エムさん、無茶しちゃダメだよ!?」

 

 フラつきながらでも立ち、一歩足を進める永夢をエレナが止めようとする。懐に手を入れ、ガシャットを取り出そうとする永夢を、クロノスは「ほぅ……」と感心しながら呟いた。

 

「その体で尚も挑もうとするか……流石、と言ったところか」

 

 かつて互いに熾烈を極めた戦いを繰り広げた敵同士。それゆえにクロノスも、永夢の執念にも似た諦めの悪さをよく知っていた。

 

「ならば、もう少し痛めつけてやるとしよう」

 

 言って、右手の指を動かし、手招くような仕草で挑発する。動けない程度にしてやろうと、クロノスはそう思っていた。

 

 

 

「優しき者たちに、私の魔法を……!」

 

 

 

 が……それは結局、行われることはなかった。

 

「何っ?」

 

 突然、クロノスと永夢たちの間に巨大なカボチャが落下する。思わず後ろへ飛び退いたクロノスの身の丈以上のカボチャは一瞬膨らんだかと思うと、風船のように破裂。虹のような光を放ち、クロノスの視界を遮った。

 

「これは……」

 

 意味がわからず、クロノスはその場から動かない。やがて光が消え、視界が元に戻った。

 

 そして、永夢たちの姿も消えていた。

 

「……逃したか」

 

 あのカボチャを出した者の仕業なのだろうと、クロノスは当たりをつける。しかし、驚くことも、怒り狂うこともなく、ただ少々残念だと言わんばかりにため息を一つついた。

 

「まぁ、いい。あの怪我のまま攻略しようとしても、どうせすぐにゲームオーバーになるだろう。それでは、さすがに面白くない」

 

 そう一人ごち、クロノスは戦いの影響で凄惨な状況となり、かつての壮麗な景観は失われた中庭に背を向ける。そして、月を見上げ、両腕を掲げた。

 

「さぁ……お伽噺の世界よ……この世界に住まう者たちよ」

 

 大仰に、クロノスは語り掛ける。その相手は……この世界そのもの。

 

 

 

「私のゲームを……存分に楽しむがいい! フフフ……ハァッハッハッハッハッハッハッハ!!」

 

 

 

 世界そのものをゲームの舞台と認識する狂乱のエンターテイナーの笑い声。それは国中に、さらには月にすら届かんばかりに轟き続ける。

 

 

 

 それはまるで、悪夢の始まりを告げる鐘の音のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、某所にて。

 

「……どうしましょう」

 

 聖堂のような厳かな雰囲気漂う室内。中央には大理石で作られた、一輪の満開の花を模した泉。水が噴水のように流れ出ている神秘的な造りの泉の前で、一人の女性が呟く。

 

 花の冠を被った、泉の水のような清らかな長い髪をした少女。純白の白いドレスを着た、白磁のような肌を持つ美しい少女だった。その美しさは神秘を纏い、そして慈愛に満ちた立ち振る舞いは、人々が崇める女神のよう。

 

 否、ようではなく、実質の女神である彼女は、想区の平和を願い、そして見守る役目を負った女神キュベリエその人であった。

 

 彼女が守る聖域“泉の祠”に立つ、神秘的な美しき女神。その彼女が、

 

「どうしましょう……いや、ホント、どうしましょったらどうしましょう……」

 

 頭を抱え、うんうん唸っていた。その姿は神秘の欠片もない、年相応の少女の仕草そのものだった。

 

「うぅ、想区に漂うこの空気……どう考えても何かが起こってるとしか思えないのに……」

 

 想区を見守る者として、はっきりと感じ取れる異様な雰囲気。いつもの想区から感じられる空気と、これまで感じたことのない異様な空気。二つの空気が混じり合い、それは違和感となってキュベリエを襲う。

 

 この状況を調べようと、女神としての力を使って移動しようとした……その矢先、力が発揮できている筈なのに、何故か分厚い壁のようなものがキュベリエを阻害し、泉の祠から外へ出すのを許さない。その際、顔面から見えない壁にぶつかったような衝撃を受けて「きゃん!」という悲鳴が上がった。普通に祠から出ようとしても同様で、何度叩いても壁はビクともせず、キュベリエは祠に閉じ込めれらる形となってしまった。

 

「頼みの綱である筈のエレナさんたちにテレパシーを送ろうにも、何故か届く気配がないし……」

 

 過去に、幾度となくカオステラーの脅威に晒されてきた際、キュベリエは再編の魔女一行に向けて想区の救済(そしてたまに尻拭い)を依頼してきた。今回もまた、彼女たちに託すしかないと思い、女神の力を使ってエレナたちをここへ招こうとした……が、そのテレパシーすらも遮断されてしまい、呼ぶことすらもできない。

 

 つまり、手詰まり状態。出れない、呼べない、どうしようもない。

 

「もう、本当にどうなってるんですかぁ……」

 

 涙声になるキュベリエ。エレナたちから見ても女神としての威厳がなく、ティムから言わせれば『ポンコツ女神』と称されるに相応しい姿。暇つぶしにゴロゴロしたり流した涙で花を描いたり(無駄に上手い)と過ごしてきたが、それももう限界に近い。

 

「うぅぅぅぅ、エレナさ~ん! レヴォルさん、シェインさ~ん! 誰でもいいから助けてくださ~い!!」

 

 届かぬとわかっていても叫んでしまう、救いを求める声が祠の中を反響する。救いの手を差し伸べる筈の女神の嘆きに応える者は、誰もいない。

 

「……あれ?」

 

 と、キュベリエの耳が聞き慣れない音を拾う。ザワザワという、何かが蠢くような音。今の今まで聞こえなかった音に、キュベリエが疑問符を浮かべた時。

 

「きゃあ!?」

 

 彼女の頭上を、何かが通り過ぎて行った。

 

「な、何!? 何なんですか一体!?」

 

 キュベリエの上を通り過ぎて行った何かは、オレンジ色に光る無数の粒子だった。それがキュベリエの前、少し離れた場所に集まっていき、やがてそれは人の形を成していく。

 

 粒子が全て集まると、それは色を付けていく。そこに立っていたのは、黒い髪に黒いジャケットと黒いズボンといった、全身黒の纏ったやせ型の男。キュベリエに背を向けて立つ男は、ゆっくりと祠を見回した。

 

「……ここは……」

 

 しばらく今いる状況を確認するように、男は考え込む。やがて完全に理解したと言わんばかりに、小さな声で笑いだす。

 

「フフフ……やはり、私の考えに間違いはなかったか。私の神の才能をもってすれば、未知なるゲームに潜り込むことすら容易いことだぁ!! ブハハハハハハハッ!!」

 

 バッと両手を広げ、自らの才能を神と称し、妙な声で男は笑いだす。しばらく祠の中に男の声が響く中、キュベリエはおっかなびっくりと言った風に声をかける。

 

「あ……あなたは?」

 

 怯えながらも、キュベリエは男に対して強い警戒心を向ける。今のこの祠は、実質の密室状態だ。中から出ることは叶わず、恐らく外からも入ることはできない状況にある。しかも、この祠にはカオステラーやヴィランは勿論、キュベリエ自身が招いた者しか入ることを許されない聖域なのだ。

 

 にも関わらず、目の前の男は何事もなく侵入し、こうしてキュベリエの前にいる。キュベリエはこの男のことなど知らない。しかし、こうして祠に入ってきたことを思うと、カオステラーやヴィランの類でもないということになる。

 

 何者なのか、キュベリエが見定めようとする。そんな彼女の声に反応し、男は高笑いをやめた。

 

「フッ……私か?」

 

 ゆっくりと、男は振り返る。二枚目な顔立ちの男は、その顔を台無しにするかのようにニタリと歪んだ笑顔をキュベリエに向けた。

 

「私の名は……」

 

 言って、歌舞伎役者のように両手を上げて構え、

 

「檀!」

 

 同じように、歌舞伎役者のように首を回し、

 

「黎斗!」

 

 キッとキュベリエを見据え……この時、彼の頭上にオレンジの粒子が集まり出し、

 

「神!!」

 

 最後、大きな口を開け、

 

 

 

「神だ」

 

「……ぁぁぁぁあああああああああああああああああ!?」

 

「ぶぇぁぁぁ!?」

 

 

 

 途中で彼の頭上からもう一人の男が落下してきた。

 

 

 

「ふぇえええええええええええ!?」

 

 男の妙なテンションに唖然としていたかと思うと、また別の侵入者の登場に驚いて妙な悲鳴がキュベリエの口から飛び出てきた。

 

「いっててててぇ……」

 

 奇声を上げながら潰れた男……黎斗の頭上から同様の現れ方で落ちてきた、アロハシャツの上に白衣を羽織った男は、頭を擦りながら起き上がり、周りを見回した。

 

「……え!? 行けた!? 行けたのこれ!?」

 

 状況を理解できていないためか、慌てている様子の男。いまだ尻もちを着いていた男は、

 

「ぬぁあああああああああああああ!!」

 

「だぁぁぁぁっ!?」

 

 下敷きにしていた黎斗が跳ね起きたせいで、頭から床に落ちた。

 

「ってぇぇぇ!! 何すんだ神ぃ!!」

 

「それはこちらの台詞だ九条貴利矢ぁぁぁぁぁぁっ!! 神の頭を足蹴にするとは何事だぁぁぁぁっ!?」

 

 男こと貴利矢に向けて、凄まじい形相で唾を飛ばす勢いで詰め寄る黎斗。対し、貴利矢も負けじと額を突き合わせて黎斗を睨みながら怒鳴り返す。

 

「うっせぇ!! テメェがんなとこでボーッと突っ立ってるのが悪ぃんだろうが!!」

 

「あ、あの……」

 

「黙れぇぇぇぇ!! 君が落下位置をズラせばこうなることは無かった筈だろう!!」

 

「無茶抜かすんじゃねぇよ!! いきなり身体が浮いたかと思ったら急に落下するような感覚になりゃどうしようもねぇだろうが!!」

 

「ちょっと……」

 

「えぇい、ごちゃごちゃ言うなぁ!! 大体君は神であるこの私に対し反抗しすぎだ!! 身の程を弁えろ、身の程を!!」

 

「誰が弁えるかこのバカ神ぃ!! そもそも自分、テメェのことを敬ったことなんてこれまでの人生で一回たりともねぇからなぁ!!」

 

「あの、話を……」

 

「言うじゃないか……ならば今ここで君を削除してやっても構わんぞ!?」

 

「上等だオラァ! クリスマスのあの日の仕返し、ここでしてやろうか!?」

 

「お願いですから…」

 

「それを言うならゲムデウスウィルスの時に私を何度も苦しめたばかりか、ワクチンを作り上げたこの私をあっさり衛生省に売り渡した罪を償えぇぇぇぇ!!」

 

「元はと言えば全部テメェの身から出た錆だろうが! お前こそ今ここで償わせてやる!!」

 

「ねぇ……」

 

「お前如きがこの私に勝てるわけないだろクズが! このクズ!!」

 

「うるせぇクズ!!」

 

「ブェアアアアアアアアアアア!!」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!?」

 

「どなたか存じませんけどお願いですから私の話を聞いてくださいよぉぉぉぉぉぉ! うえええええええええん!!」

 

 怒り狂う神の奇声と監察医の雄叫び、そして男たちの罵り合いに怯える女神の慟哭が木霊する。いつもは想区の住民の憩いの場である泉の祠は今、阿鼻叫喚のしっちゃかめっちゃかな空間へ早変わり。外界と遮断された祠からは、罵声と泣き声がいつまでも響き渡っていた。

 

 




祝・神・降・臨☆

なお活躍はまだの模様。
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