仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~ 作:コッコリリン
長く書けば書くほど、キャラが崩壊するんじゃないかとか不安になったりします。けど書きます。実際楽しいもの。
さて、とりあえず16話の軽いあらすじ。
檀正宗の手により復活を遂げたグラファイト。そしてさらに押し寄せるヴィランとバグスターの大群を前に、人々の間に絶望が広がる。その絶望を前に、再編の魔女一行、そしてレベル99となった二人の仮面ライダーが立ち上がる。
あらすじだけで何が出て来るかもうわかってしまう16話を、そぉい!!(全力投球)
「うぅ、いてぇ……いてぇよぉ……」
「あ、足が……うぅ……」
場所は、かつてシンデレラが住んでいたという屋敷。しばらく手入れのされていない庭と、僅かながら埃が溜まっている室内。それらに目をつぶれば、大勢の人間が敷地内に入れる程の広さがある。
現に今、そこはヴィランとバグスターによる襲撃によって逃れてきた町の人々でごった返し、庭はすし詰め状態だった。
町の人の殆どは、無事に避難が完了できた。屋敷の敷地内に入れない人々は、兵士が臨時で建てたテントでどうにか凌いでいる。しかしその多くは、襲われた際に傷を負った人や、逃げる最中に転んだ、或いは何かに引っ掛けた人が、痛みに苦しみ呻いている。そんな人々の間を縫うように駆け回る、町の診療所で働く医者や医療経験のある女性たち。だが、圧倒的に数が足りておらず、それでも少ない人数で何とか対応しているという状況だった。
「もう、大丈夫ですよ。安静になさっててください」
「あ、ありがとうございます……」
その中には、永夢もいた。頭に傷を負った男性に包帯を巻いて処置を施し、安心させる笑顔を浮かべてから、すぐに別の怪我人の下へ。それをもう何度も繰り返している。唯一幸いなのは、今のところ命に関わる重傷を負った者が出てきていないという点だろう。それはフェアリー・ゴッドマザーが迅速に動き、兵士たちに避難誘導を願い出たという功績によるものが大きい。兵士たちも、時にヴィランをも利用する今の王のやり方に反発していただけに、このような事態を想定していたらしく、彼女の言うことを思いのほかすぐに信じることができたと、永夢と共に町の人を助けていた兵士から聞いた。
全てが悪いことばかりではない……しかしそれ以上に、状況はいまだ好転はしていない。
「ふぅ……」
額の汗を拭い、少し一息つく永夢。まだ痛みで苦しむ人々は大勢いる。休んでなどいられない。
だが、同様に放っておけない人々もいるのも事実だった。
怪我人に身体をぶつけないよう、気を付けながら屋敷の入り口へ向かう。少し重い扉を開き、屋敷の中へと入って行く。
比較的に軽い怪我の人は屋敷の外へ、そして動くことすらままならない人は屋敷内へと運び入れ、処置を施していた。
そして永夢が目指すは、屋敷の中で一番広い食堂。今回の事件の一番の重症患者が集められた場所だった。
「うぅ……苦しい……」
「あぅぅ……」
「た、助けて……誰か……!」
食堂に入ってまず目に入るのは、並べるように敷かれた毛布の上に横たわる人々。苦しみに喘ぎ、荒い呼吸を繰り返す彼らの身体にはノイズが走る。
城に捕らわれ、檀正宗によってウィルスを投与された町の人々。ゲーム病に侵された彼らの傍には、彼らの家族が寄り添うように座っていた。
(……かつてのゲムデウスウィルスに比べると、症状事態は重くない)
それを見て、永夢はゲーム病の症状について考える。過去にゲムデウスが降臨した際、思考ルーチンを檀正宗に書き換えられたゲムデウスは、自らのウィルスをばら撒いて大勢の人々をゲーム病で苦しめた。その時の感染力は想像を遥かに上回り、そしてその症状が進行していけば口を開くことすらままならなくなる程だった。
その進行速度はこれまでのバグスターウィルスとは比較にならない程の凶悪さを誇っていたゲムデウスウィルス。しかし、今目の前で患者が苦しんではいるが、永夢が知っているゲムデウスウィルスに比べればまだ進行は遅い方だと判断した。恐らく、ゲムデウスがまだ完成形に至っていないのが原因だと思われる。
(けど、それも時間の問題だ……!)
檀正宗がゲムデウスの完全復活まで時間の問題だと言っていた……それ即ち、このままではかつてのパンデミックが繰り返されるということになる。
「父さん……母さん……!」
「ふぇぇぇぇ……!」
「大丈夫……大丈夫だからね?」
思考している永夢の視界に、世話になっているパン屋の家族の姿が入る。いまだ苦しむ両親を前に、少年が母親の前に座り込み、少女は老婆に縋りついて泣きじゃくる。その少女を、老婆は優しく背中を撫でて宥めていた。
「……このままじゃ、いずれ犠牲者が出る……」
CRでもゲーム病患者を病室に運び入れても、結局は一時しのぎでしかならない。やはり、根本的な解決……即ち、ゲーム病の元となっているバグスターを倒さない限り、彼らの命は助からない。
だが、今そのバグスターであるゲムデウスは城の中。すぐに倒しに向かおうにも、レヴォルたちが町に迫る危機を乗り越えるために、必死に戦っている。
ならば、今の永夢にできることは……永夢は、兄妹の下へ歩み寄る。
「具合を、診に来ました」
「おぉ、アンタ……」
永夢が傍に来たことに気付き、老婆は顔を上げる。その顔はいまだ不安の色が濃く出ており、孫娘である少女の背中をさすりながらも、その手が震えているのがわかる。
「……せっかく……」
少年が、重い口を開く。足を手の指が食い込む程強く握り、下唇を噛む。そうすることで、目から出てこようとしている熱いものが流れ落ちないよう堪えていた。
「せっかく……兄ちゃんが助けてくれたのに……また家族みんなで暮らせるって、思ってたのに……」
城から帰って来た両親を見て歓喜したのに、その幸福の絶頂から、一気に叩き落とされたような気持ちになった少年の心が、暗闇へ沈んでいく。
一体、自分たちが何をしたというのか。悪いことしていないのに、こんな辛いことがあっていいのか……幼心を容赦なく傷つける現実に、ただただ嘆く。
「何で……何でなんだよぅ……!」
瞳のダムが、限界を超える。しゃくり上げ、少年の目から流れ落ちる涙。泣いたとて何も変わらないとわかっていながらも、自らで止めることはできなかった。
「あ……あの……」
その時、ずっと苦しんでいた少年の母親が掠れた声を上げる。弱々しく、虚ろな目を少年と永夢へと向けていた。
「私は、どうなっても構いません……けど、もしも私たちに何かあった時……子供たちを、どうか……」
「か、母さん……!」
その言葉の意味を、少年は悟る。すでに母は、自分の命を半ば諦めている。恐らく、隣でいまだ苦しむ父親も同様だろう。
母の言葉に、少年は絶望する。最愛の両親が、消えていなくなる……そんな最悪な未来を垣間見てしまったから。
「大丈夫ですよ」
そんな中でも、永夢は変わらない。二人の傍で膝を着き、絶望する少年に、母親に、患者に向ける時に浮かべる笑顔を……誰もが見て安堵するような、柔らかい笑顔を見せた。
「お母さん……あなたとお父さんがいなくなってから、息子さんは娘さんとお婆さんを守るために、あなたたちの代わりに必死になって頑張ってきたんです。どれだけ辛くても、泣きそうになっても、ずっと戦ってきたんですよ?」
「っ……」
最初に会った頃に永夢に噛みつくような態度を取っていた少年。それはひとえに、妹と祖母を、両親に代わって必死になって守ろうとしていた、少年なりの戦い方だった。永夢は、それをわかっていた。
「あなたたちが諦めてしまったら、彼の頑張りが……心細くってもずっと帰りを待っていた娘さんの頑張りも、全部無かったことになってしまいます」
家族を大切にしてきた彼が、両親を信じていた彼女が、報われないことがどれだけ悲しいことか……それは、想像に余りある。
「だから、絶対に諦めないでください。この子たちのためにも、そしてあなたたちのためにも」
故に、永夢は言う。
「あなたたち家族の笑顔を……いや、この町の人たちの笑顔を、きっと取り戻してみせます」
もう誰も悲しませない。そう力強く告げる永夢の顔を、母親は最初驚き、やがて彼の言葉に一筋の希望を見出したかのように、安堵から来る笑みを向けた。
「ごめんなさい……弱気になってしまっていました。この子たちのためにも、頑張ります……」
「いえ、病に苦しい時は誰だって弱気になってしまいます。お気になさらないで」
母親のノイズが、少し穏やかになったように見える。バグスターウィルスは、ウィルスという特性上、患者のストレスによって活性化する。永夢に今できることは、可能な限りストレスを和らげることだった。
「兄ちゃん……」
横で、尚も不安気な顔を見せる少年。永夢は彼の頭に、そっと手を乗せた。
「大丈夫……こんな状況も、今だけだから。だから、もう少しだけ一緒に頑張ろう?」
ずっとこれまで頑張って来た少年の思いを無駄にしないために、永夢もまた少年と共に頑張ることを約束する。ベクトルは違えども、少年は少年の、永夢には永夢の戦いがあるのだと。
穏やかな口調の永夢を、少年は涙を堪えながら見つめる。やがて、腕で目を擦り、もう一度永夢を見る。
その目は泣き腫らして赤くなっていたが、先ほどまでは無かった強い意思が、その目に光を灯していた。
「……うん」
小さく、それでいて力強く頷く少年。そして、少年はいまだ老婆に抱かれて泣きじゃくる妹の下へ行き、自分なりの勇気づけとして、その小さな手を握りしめた。それを見つめる老婆にも、少しだけ不安な表情が和らいだように見えた。
それを見て、永夢は立ち上がる。彼らはこれで大丈夫だろうと、次の患者の下へ行こうと踵を返そうとした。
「失礼します」
が、唐突に永夢に声がかけられる。穏やかな声のその人へと、永夢は顔を向けた。
「あ……あなたは」
声の主は、町のために一番動き回ってくれたフェアリー・ゴッドマザーだった。手に杖を持ち、しっかりとした足取りで永夢へと歩み寄る。
「はい、ご挨拶が遅れました。フェアリー・ゴッドマザーと申します。あなたは確か……エムさん、とおっしゃいましたか?」
「あ、はい。宝生永夢です。僕こそ挨拶が遅れて申し訳ありません」
言って、頭を下げて謝罪する。そんな永夢に対し、フェアリー・ゴッドマザーは頭を振った。
「いえ、いいんです……慌ただしい状況ですから、お互いちゃんとお話もできませんでしたし」
確かに、町人の避難、怪我人の治療、ゲーム病患者のストレス緩和……そして襲撃者との戦い。目まぐるしく動く状況の前に、落ち着いて話すことは難しかった。
しかし、永夢はふと気付いたことがあった。
「あれ? そう言えば、僕まだ名乗っていませんでしたよね? どうして……」
レヴォルたちとの会話を聞いていたためだろうかと、永夢が考える。フェアリー・ゴッドマザーは、口に手を添えてクスリと笑った。
「あの子、シンデレラから聞きました。あなたのことを、前を歩く力をくれた人だと」
シンデレラが、自身のことをそう評してくれていることを嬉しく思う。しかし、それは違うと永夢は思っている。
「いえ……自分の意思で強くなろうとした、エラちゃん自身の力です。僕は何もしていませんよ」
ただ、永夢はシンデレラの笑顔のために頑張ってきただけ……そう謙遜する彼だったが、フェアリー・ゴッドマザーは「いいえ」と彼の言葉を否定した。
「罪の意識に怯えて、ずっと闇の中で泣いていたあの子の手を取ったのは、紛れもなくあなた……罪と向き合うことを恐れていた私には、できないことでした」
自らがシンデレラのためと思ってしたことが、彼女を追い詰めた……そんな自分が、彼女に手を伸ばすことなど、できる筈がないと思い込んでいた。
「あの子は、私と一緒に罪を償っていくと言ってくれました。これから強くあろうと、あの子は戦っています……だから私も、今できることをするために、運命の書に記されていなくとも、戦おうと思ったんです」
本来であれば、シンデレラに魔法をかけて、そして彼女の人生を見守っていく人生を送る……フェアリー・ゴッドマザーの運命の書には、そう書かれている。そこには、シンデレラ以外の者の前には姿を見せたとは全く書かれていない。
それは裏を返せば、余程の事がない限り姿を晒しても問題はないと、フェアリー・ゴッドマザーは考えた。そして、彼女は実行に移した。
「あなたは、あの子に力をくれた。そして、今目の前で苦しむ人々にも分け隔てなく手を差し伸べるような優しい心の持ち主……あなたならば、この世界の運命を変えることができると、私は思っています……だから、お願いがあるんです」
「お願い、ですか?」
聞き返す永夢に、フェアリー・ゴッドマザーは頷いた。
「この町を……あの子が愛したこの町の人たちのためにも、あなたも戦ってください。町を破壊しようとしている、あの者たちと」
「それは……」
フェアリー・ゴッドマザーの言うお願い。それは、レヴォルたちと共に町を襲っているヴィランを追い払ってきて欲しい、というものだった。
「けど……まだ怪我人がいます。皆を放っておくわけには」
それを聞くのは、やぶさかではない。寧ろ、永夢とて町を救いたいという気持ちは勿論ある。しかし、今永夢がいる場所には大勢の苦しむ人々がいる。一ドクターとして、彼らを放置しておくことはできない。
「それなら、ご安心ください。私の魔法で怪我人の傷を、そしてここにいる方々の負担を和らげることができます」
フェアリー・ゴッドマザーは杖を掲げてみせる。確かに、彼女の魔法の実力は本物だった。ここに怪我人が運び込まれた際、彼女の魔法で多くの人々の傷が癒された。
「え、でも……身体は大丈夫なんですか?」
だが、魔法も無制限ではない。あまりに大勢の人々の怪我を治してきた彼女は、体力に限界を感じて倒れそうになっていた。彼女が力を回復させる間、永夢たち医療関係の者たちが走り回って治療を施していた。
こうして立っているのを見るに、体力的には大丈夫なのかもしれない。しかし、まだそう時間は経っていない。それに、フェアリー・ゴッドマザーの顔色もまだよくはない。体調は万全とはとても言い難かった。
「ええ。もう十分、魔法を使えるまでに回復しましたよ」
言って、腕を上げて元気さをアピールする。それが空元気なのだと、永夢は気付いていた。
だが、フェアリー・ゴッドマザーは真剣な眼差しで永夢を見つめる。その目を前に、永夢は何も言えなかった。
「今、私にできることは、この魔法を使って人々を癒すこと……あなたにある力は、人々のために戦うためのものでしょう?」
「……」
「だから……私も、共に戦わせてください。場所は違えど、思いは同じの筈だから」
フェアリー・ゴッドマザーの真摯なまでの願い……そこには、この騒動の引き金を引いた己の罪悪感からもあるだろう。
しかし、彼女の中にはそれ以上に、この町を愛したシンデレラの為にも戦いたいという、強い思いがあった。
フェアリー・ゴッドマザーは心の底からシンデレラのことを思っていた……だからこそ、彼女の言葉の中にある思いを、永夢はくみ取ることができた。
「……約束します」
ドクターとしての戦場はここであるということに違いはない。だが、同時にここは彼女の戦場でもある。
「敵を倒したら、ここに戻ってきます……だから」
だから、今は彼女にここを任せる。そして永夢は、今だけは別の戦場へと赴くことを決意する。
「それまで……絶対無茶はしないでください。あなたに何かあったら僕も嫌ですし……誰よりも、エラちゃんが悲しみますから」
かならず帰って来るということを、約束しながら。
一瞬だけ、フェアリー・ゴッドマザーはぽかんとする。やがて、小さく笑った。
「フフフ、あの子があなたにエラと呼んでもらうようお願いしたんでしょうけれど……何だか、あの子の気持ちがわかったような気がします」
「え?」
「いえ、何でもありません……あなたこそ、お気をつけて。あなたにもしものことがあっても、あの子は悲しみます」
彼女の言っていることがよくわからなかった永夢だが、フェアリー・ゴッドマザーに促され、気持ちを切り替える。一つ頷くと、一歩足を踏み出す。
「ま……待ってくれ」
が、それを呼び止める声。思わず永夢は立ち止まった。
「え……ティム君!?」
永夢を呼び止めたのは、ティムだった。上半身の服は脱がされており、クロノスからもらった一撃の痕を包帯で覆っている。
食堂の出口で壁に手をつきながら、ティムは永夢に足をフラつかせながら歩み寄った。
「俺も、行くぜ……このまま寝てなんかいられねぇよ」
言い出したのは、自らも同行するという宣言。そんな彼のフラつく身体を見て、さすがに永夢はこれは譲れないと思いながら、ティムの肩に手を置いた。
「ダメだよ、君はまだ完全に治っていないんだ!」
フェアリー・ゴッドマザーの魔法によって、一命こそ取り留めた。しかし、クロノスの攻撃を間近で、それもノーガードで食らったせいで思いのほか深い傷による痛みまでは取り除けず、魔法による傷の回復だけでは完全に復帰とまではいかなかった。そのため、安静にするように彼を屋敷の部屋で眠らせていたのだが……。
「んなこと言ってられるかよ! あいつには、一発食らわせてやんねぇと気が済まねえ!!」
永夢の手を振り払い、怒気を含めて言い返す。その際、痛みに顔を顰め、
「ティム君……さすがに、今の君じゃ無理だ。しばらく安静にしていないと」
「だから……んなこと言ってらんねぇって……!」
ティムの正宗に対する怒りは相当なものだった。人を人と思わない所業もそうだが、何よりヘカテーを実験台にしたのが彼の中では何物よりも許しがたいことで、身体はともかく、その目は怒りで燃えている。激痛に耐えながらでも戦おうとする彼は、普段の斜に構えた性格からは想像もできない姿だった。
「ティム君……」
それでも、彼を行かせるわけにはいかない。ここまで無茶をしてまで戦おうとする意気込みは見事なものだと思いはするが、それとこれとは話は別だ。彼の身体は、戦える状態じゃない。それは本人とてわかっている筈だが、怒りで血が昇っている今の彼には、冷静な判断ができないでいるようだった。
永夢は、フェアリー・ゴッドマザーを見る。彼女は申し訳なさそうに目を閉じ、頭を振った。彼女の魔法は素晴らしいものがあるが、決して万能ではない。後の痛みは、自然治癒に任せるしかない。なのに、大人しくしていなければ、治るものも治らない……それを今のティムに説いても、恐らく納得しないだろう。
ふと、永夢は思い出す。ヘカテーがパン屋のベッドで横たわっていた際のことを。
「……ティム君。やっぱり君を戦わせるわけにはいかない」
「だから……!」
尚も反抗しようとするティム。しかし永夢は、その先を言わせまいと話をやめない。
「けど、今の君にしかできないことがある」
「……あぁ?」
どういう意味だ、とティムが目で問う。それに答えるように、永夢は後ろを振り返った。
視線の先には、他のゲーム病患者と共に横たわるヘカテーの姿。いまだ苦しみに顔を歪める彼女が視界に入り、ティムもまた辛そうに目を伏せた。
それでも、永夢はティムに言う。
「……君は、彼女の傍にいてあげて欲しいんだ」
「は?」
何を言い出すんだと、ティムは改めて永夢を見た。永夢は茶化すつもりもなく、ただ真剣に彼の顔を覗き見る。
「ゲーム病は患者のストレスの増大で悪化するんだ。だけどその逆、ストレスを緩和できれば、それだけ症状を和らげることができる」
ゲーム医療の基礎知識を、ティムに説明する。何度も繰り返して取り組んできただけに、その言葉には強い説得力がある。
しかし、ティムは罰が悪そうな顔で目を逸らした。
「……生憎だがよお医者さん。俺があいつの傍にいたって意味ねぇよ……寧ろ逆だ。あいつにいらねぇ負担をかけさせちまう」
ティムは、ヘカテーに恨まれている。それが痛いほど、辛いほどわかるティムが、彼女にしてやれることなど何一つとしてない。そう思っているからこそ、ティムは傍に行くことを拒否した。
だが、永夢は首を振り、微笑みながらティムのその言葉を否定した。
「それは、違うよ。彼女のストレスを和らげることができるのは、君だけだ」
「っ……何を根拠に言って……!」
知ったような口を利くなと、ティムは噛みつこうとした。
「本当に嫌いな相手なら、魘されている時に助けを求めるように名前は呼ばない」
「っ……!?」
力強く、永夢は断言する。パン屋で彼女の容態を見ていた彼の耳に入った、ヘカテーの小さな声。それは助けを求める、切実な思いが込められた声だった。
その呼ばれた名前を、永夢は聞き逃さなかった。
「『お兄ちゃん』って……確かに、彼女はそう言っていた」
「……」
信じられない……永夢を見るティムの顔にはそう書かれているかのようだった。
無理もないと、ティムを知る者たちは言うだろう。彼と彼女の間には、二人にしかわからない大きな確執がある。故に、ヘカテーは彼を憎み、ティムは彼女に負い目を感じている。
だからこそ、ティムは永夢の言葉を心から信じることができない……それでも、永夢はティムに言った。
「君たち兄妹が、どういう経緯があって今の関係になってしまったのか、僕は知らない。けど……」
チラと、永夢はゲーム病で苦しむ両親を思いながら、妹の手を握りしめる少年を、そしてその兄の手を握り返す少女の姿を見やった。
互いに思い合っていることが、はっきりわかる光景……そう思いながら、永夢は続けた。
「どれだけ憎み合っていても……心の底ではお互いが大切なんだって、わかってるんじゃないかな」
「……っ」
アンタに何がわかる……そう言えたら楽なのにと、ティムは思う。だが、永夢の言葉一つ一つが、ティムの心に突き刺さっていくために、何も言葉にすることができなかった。
「患者の怪我を治して、笑顔を取り戻すのが、僕たちドクターの仕事なんだ……けれど」
改めて、ティムの肩に手を置いて正面を向かせる。真っ直ぐ、ティムと目を合わせた。
「彼女の本当の笑顔を取り戻せるのは、君にしかできないことなんだよ」
はっきりと、永夢は確信をもってティムに伝える。ティムは、言い返すことすらできずに、ただ永夢の言葉を飲み込もうとするのに必死だった。
「な……」
「フェアリー・ゴッドマザーさん、彼をお願いします」
「はい……お気をつけて」
ティムをフェアリー・ゴッドマザーに任せ、永夢は踵を返す。駆け出す寸前、もう一度ティムへ振り返った。
「大丈夫。僕を信じて」
笑いながら、永夢は言った。
ヘカテーの事も、町のことも、レヴォルたちのことも……その言葉には、様々な意味合いが込められていた。
そうして、永夢は走り出す。自分が戦う場所へ赴くために、今度こそ振り返ることなく。
ティムは、追うこともせずにただ彼の後ろ姿を見送る。食堂から彼の姿が消えてしばらくしてから、やがて小さく舌打ちをした。
「チッ……知ったようなこと言いやがって、気に食わねえ」
どこまでも真っ直ぐで、人のことばかり考えるあまりに、ずかずかと心の中を土足で入って来られたような気分になる。ティムからすれば、まるでレヴォルが二人に増えたかのような感覚だった。
しかし……それでも、不思議と嫌な気分ではないのに、内心戸惑っているのも確かだった。
「……なぁ」
「はい?」
永夢の言うように、今のこの身体で行ったとしても禄に戦うことはできないだろう。冷静になって改めて自分を省みて、永夢を追うことをやめたティムは、フェアリー・ゴッドマザーに声をかけた。
「わりぃんだけどよ……俺を、あいつの傍に連れてってくんねぇか?」
いまだ痛みでふらつく身体で歩けば、転倒して余計な怪我を負いかねない。その上、横たわっているゲーム病患者の上に倒れ込んでしまうかもしれない。そうならないために、ティムはフェアリー・ゴッドマザーに補助を願い出る。
「ええ、勿論」
断る理由がないと、フェアリー・ゴッドマザーはティムに肩を貸して支えながら、横たわるヘカテーの下へ。歩くたびにクロノスにやられた箇所が刺すような激痛が走るも、歯を食いしばって耐える。そしてようやく、ヘカテーの下へ辿り着いたティムは、フェアリー・ゴッドマザーから離れて、彼女のすぐ横に座り込んだ。
「ルイーサ……」
息も絶え絶えに、汗を流しながら呻くヘカテー。相変わらず身体にはノイズが走り、耳障りな音をたてている。
そんな彼女に、自分ができること……永夢の言葉を真に受けたわけではない。だが、それでも彼の言葉が耳から離れない。
(本当に……俺にしかできないことなのか?)
会う度に憎まれ口を叩き、罵り、本名すらも呼ぶこと否定してくる妹。そんな彼女が、苦しむ中で呼んだのが自分であることが、いまだ信じられない。
しかし、それでも……例え信じられなくとも、今目の前で魘されている彼女を、少しでも楽にさせてやれるのならば、どんなことだってやってみせる。
そう決意したティムは、恐る恐る彼女の手へ自らの手を近づける。払いのけられやしないか、或いは症状が悪化しないかといった不安が、彼の動きに制限をかけようとする。
それらを振り払い、意を決してヘカテーの手をそっと掴む。いきなり強く握ることはせず、包み込むように。
(……あん時と、変わってねぇなぁ……)
ティムよりも小さな手。幼い頃、悲劇から逃げる際に手を繋いでいた筈の手。この手を離し、そして一人だけ逃げてしまったあの頃の自分自身。その後ろ姿を、彼女はどんな思いで見ていたのだろうか。
後悔してもしきれない。強い自責の念が、ティムの胸の内を黒く染め上げようとする。あの頃よりも成長している筈なのに、変わってないように感じる妹の手を、思わず強めに握りしめてしまう。
そんな彼の手から、弱い圧力を感じ取った。
「……あ」
弱々しくも、確かな感触。兄の手を握り返す彼女の顔が、若干和らいだ……かもしれない。
気のせいかもしれなくとも、ティムにはそう見えてならなかった。
~ 第16話 Thank you 友よ! ~
「くっ……!」
町の戦場では、パラドとグラファイトが死闘を繰り広げていた。パラドは銃モードにしたガシャコンパラブレイガンのトリガーを引き、弾丸を連続で射出。グラファイトは槍を振るった勢いで高速回転させて盾とし、それら弾丸を全て弾いていく。
『フンッ!』
高速で接近、パラド目掛けて槍を振るい、パラドは銃身で槍を受け止めたが、衝撃までは殺せずにたじろいだ。
「ぐぁっ!」
呻くパラド。そこを逃すグラファイトではなく、パラドの腹に蹴りを見舞う。仮面ライダーのスーツによってダメージは軽減されているにも関わらず、その威力たるや凄まじく、たまらず後方へ吹き飛ばさされた。
「クソ……やっぱり、強いな……!」
転倒こそしなかったものの、蹴られた箇所を抑えて息を整えるパラド。グラファイトの実力はわかってはいたが、敵となるとここまでの強さをほこっていたのかと、改めて戦友の強さを再認識する。
しかし、グラファイトは容赦しない。休憩する暇すらも与えんと、槍を地面に叩きつけたかと思うと、大きく振り回し始める。
『ドドドドドドドドドドド……!!』
「っ!!」
槍が、炎を纏っていく。パラドにはわかる。あれはグラファイトが必殺技を出す予備動作であることを。
≪ガッチョーン≫
≪ガッチャーン!≫
対抗すべく、ゲーマドライバーに挿入されているダイヤルをノックアウトファイターに合わせると同時にアクチュエーションレバーを戻し、すぐに開く。そうしてキメワザ発動の条件を揃える。
≪ウラワザ!≫
「はぁぁぁぁぁっ……!」
左手に武器を持ち直し、右肩の『ファイライトショルダー』に内蔵された『マテリアバーナー』が作動したことで赤く燃える右手で力強い拳を作った。
「うりゃああああああああああっ!!」
≪KNOCKOUT CRITICAL SMASH!!≫
『紅蓮! 爆竜剣っ!!!』
互いに駆け、パラドの炎の拳とグラファイトの炎の槍が振るわれる。そして、
「うわぁっ!?」
「きゃあっ!」
二人の必殺技がぶつかったと同時に発生した爆炎を伴うエネルギーの衝撃波が、戦っていたレヴォルたちをも巻き込んで周囲を吹き飛ばした。
「くっ……何という、爆発だ……!」
パーンが盾で顔を覆い、爆風に耐える。周りにいたヴィランとバグスターも例外なく、爆炎に包まれ、或いは壁にぶつかって消滅していった。
広場を滅茶苦茶にした二人のぶつかり合い。それに勝利したのは、
「ぐぁぁぁぁっ!!」
槍を振り下ろして残心を決めるグラファイト。対し、力負けしたパラドは吹き飛ばされ、建物の壁を破壊した。
「パラドさん!?」
「そんな……!?」
先ほどまで無類の強さをほこっていたパラドが押し負けている。その事実を前にし、レヴォルたちが愕然とした。
「まずいですね、今援護を……!」
シェインがグラファイトの気を引くため、酒呑童子からタチアナへチェンジしようと栞を手に取ろうとする。が、殺気を感じてすぐさま飛び退く。
シェインが立っていた場所に、火炎弾がぶつかり、地面に焦げ跡を残して四散する。自身を狙った敵が何か、シェインは火炎弾が飛んできた方を見る。
「メガ・ヴィラン……!」
町の建物を掻き分けるようにして破壊しながら現れたのは、メガ・ヴィランの内の一種、メガ・ドラゴン。全身真っ赤な鱗に覆われたドラゴンは、空気を震わせる咆哮を放つ。
レヴォルたちにとってはすっかり見慣れた筈の敵。だがその異様な風貌に、エレナが唖然としながら言った。
「け、けど……なんか、大きくない!?」
城で戦ったメガ・ドラゴンが全長約3mあったとすれば、このヴィランはさらに大きい5m程もあるのではないかと思う程の巨体を誇っている。そんじゃそこらの建物を超える巨体を持つメガ・ドラゴンは、殺意を持ってレヴォルたちを見下ろしている。
「どうなっているんだ……こんなメガ・ヴィランは今まで見たこと無いぞ!?」
「……まさか」
戸惑うレヴォル。その横で、何かに気付いたパーンが呟く。
そんな二人に向けて、シェインが叫んだ。
「危ない!!」
その声に反応し、レヴォルとパーンは左右に避ける。直後、二人が立っていた場所をメガ・ドラゴンがその巨大な足を叩きつけるように踏み下ろしてきた。地面が足の形に砕け、それだけで大きな揺れがその場にいる全員を襲う。
「ダメだ! こいつをどうにかしないと、援護に回れない!」
グラファイトに圧倒されるパラドを助けるためには、この巨大なヴィランを倒さなければならない。しかもそれだけでなく、巨大メガ・ドラゴンに追従する形で、さらにヴィランとバグスターが続々と現れた。
すでに、広場にはレヴォルたち以外は誰もいない。全員避難できたということだろうが、ここでレヴォルたちが退くわけにはいかない。そうすれば、このメガ・ドラゴンだけではなく、グラファイトや他の雑魚敵をも引き連れて行くこととなってしまう。その先に待っているものは惨劇しかない。
「くぅ……まだ、だ!」
壁を背に座り込んでいたパラドは、膝を着きながら左手を振るう。引き寄せる形で、エナジーアイテムがパラドの下へ、そしてパラドに吸い込まれるように消える。
≪回復!≫
パラドの身体が光る。直後、仮面ライダーの命である左胸のゲージ『ライダーゲージ』に残されていた1メモリ分のゲージが点滅し、一気に最大値まで回復した。
「はぁ、はぁ……!」
体力こそ戻ったものの、すでにこの場所にあるエナジーアイテムは全て使い切ってしまった。『回復』のエナジーアイテムも、今の物で最後。進退窮まった状態であると言える。
「俺は……諦めない」
目の前に落ちていたガシャコンパラブレイガンを拾い、立ち上がる。圧倒的なまでの不利。それでも仮面の中、目の闘志は衰えておらず、まっすぐグラファイトへ向けられる。
「永夢も、必死になって戦っているんだ……俺がここで負けたら、あいつに顔向けできない!」
≪ズ・ゴーン!≫
斧モードにし、刃を突きつけるように構えた。そして、覚悟を決めた。
「俺の命を賭してでも、お前を倒す!!」
今のグラファイトを倒すならば、己の全身全霊をかけてでも立ち向かわなければならない。それほどの相手だと、パラドはよくわかっている。
不屈不撓の覚悟。心を燃やし、パラドはグラファイトへ再び挑むために足に力を入れようとした。
瞬間、彼の肩に軽い衝撃が走る。
「え……?」
見れば、パラドの左肩に手が置かれている。その手の主を目で追い、パラドは驚愕によって動きが止まった。
「前にも言ったろ?」
その者は、パラドに向けて笑いかける。人のいい、しかし気を許した相手にだけ見せる笑顔を。
「自分の命も、大事にしないと……って」
「永夢!?」
パラドが、突如現れた永夢を見て叫ぶ。その声を聞いたレヴォルたちも、永夢の存在に気が付いた。
「エム!? どうしてここに!?」
永夢は町の人たちが避難しているシンデレラの屋敷にいる筈。何故故にここにいるのか疑問を抱く彼らに、永夢は答える。
「……フェアリー・ゴッドマザーさんにお願いされたんだ。この町を……エラちゃんが大好きな人たちが住む町を、救って欲しいって」
パラドの横に立つ永夢。視線の先には、槍を持ってこちらの様子を伺うグラファイトと、口から炎を吹いて威嚇するメガ・ヴィラン。そして並み居るヴィランとバグスターの軍団。
状況は、圧倒的に相手の方が量を上回っている。グラファイトやバグスターがここにいる理由は檀正宗の仕業だろうと確信しているため気にはしなかったが、強敵には違いがない。
「今、フェアリー・ゴッドマザーさんが、ティム君が、それに大勢の人が、屋敷で苦しむ人たちのために頑張っている……だから」
永夢は、ゲーマドライバーを手に取り、掲げた。
「早く終わらして、屋敷へ皆で戻ろう!」
ゲーマドライバーを勢いよく装着。共に戦うつもりの永夢を見たパラドは、小さく笑った。
「ヘヘ……やっぱり、こうでないとな」
永夢とパラドは、二人で一人。どちらかが欠けては意味がない。
こうして二人並んで立ち、敵に立ち向かう……それのなんと素晴らしいことか。この胸に湧き上がるかのような高揚感は、パラドにしかわからないだろう。
まさに今、心が躍っている。
パラドの横で、永夢は懐から一つのガシャットを取り出す。そのガシャットは、これまでのガシャットと比べると、特に異彩を放っていた
金の模様が入っている黒い基板と透明の基盤の二枚重ねのガシャット。特に目立っていたのは、銀色に輝く本体の底部から飛び出ているかのような小さなエグゼイドの頭部が見えているところだった。
「なんだ、あのガシャット……?」
「わぁ、小さなエグゼイドが付いてる! 可愛いなぁ」
「え……そう?」
奇妙なガシャットを見て疑問符を浮かべるレヴォル。エレナはガシャットに付いているエグゼイドから愛嬌を感じていた。さすがのアリシアもそれは理解できなかったようだが。
だが彼らは知らない。その奇妙なガシャットは、
≪MAXIMUM MIGHTY X!!≫
今まで見てきたガシャットの中でも、特に強力な物であるということを。
「お前たちは……ここで止める」
サウンドと共に、背後の映し出されるロボットに乗っているかのようなキャラクターとタイトルロゴのホログラム映像からエナジーアイテムを周囲に飛び散らせつつ、ゲーマーMとなった永夢はニヤリと獰猛に笑う。そしてガシャットを左手に持ち、両腕を交差させた。
「マックス大変身!」
勢いよく、ガシャットをゲーマドライバーへ。
≪マキシマム・ガシャット!!≫
≪ガッチャーン! レベル・マーックス!!≫
アクチュエーションレバーを勢いよく開く。すると待機音声が鳴り出す。
≪最大級のパワフルボディ! ダリラ・ガーン! ダゴズ・バーン! 最大級のパワフルボディ!≫
力強い待機音声の中で、いつもの如く現れた選択パネル。真正面のエグゼイドのパネルをタッチ。それに連動するかのように、ゲーマドライバーから見慣れないパネルが飛び出し、エグゼイドのパネルと合わさって永夢と一つとなり、その姿をエグゼイド・アクションゲーマーレベル2へと変えた。
いつものガシャットならここで変身は終わるが、この変身にはまだ続きがあった。
「な……何あれ」
アリシアが見上げた先。エグゼイドの頭上。そこに、奇天烈な物体が空間に穴を空けるようにして唐突に現れた。
「あれって……顔?」
巨大な目が描かれたそれは、まさにエグゼイドの顔そのもの。インパクトの強い光景に、エレナたちが唖然としていると、
「うぉぉぉっ!」
エグゼイドはガシャットから飛び出ている、自身を模したスイッチ『アーマライドスイッチ』を拳で叩きつけるように押し込んだ。
それが、変身の最終段階に入る合図。
≪マキシマム・パワー!
巨大な顔こと『マキシマムゲーマ』目掛けて高く飛び上がるエグゼイド。その身を丸めると、マキシマムゲーマが口を開くようにして展開、エグゼイドを飲み込む。エグゼイドを収容するやいなや、マキシマムゲーマの両端からピンクの巨大な拳が付いた腕が、そして屈強な下半身が伸び、さらに上部の金色の角のようなパーツが左右に割れ、中央からエグゼイドの頭が飛び出した。
変身シークエンスが全て完了。地上を揺らし、地上へと降り立ったそれを前にし、誰もが抱いたその感想。それは、
「「で、でかぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
その一言に尽きる。
「すっごーーーい!!」
驚愕して叫ぶレヴォルとアリシアの横、エレナがこれまで以上に顔を輝かせていた。
全長2mを超える巨体。人の頭以上の拳と広い足、そして太い四肢。胴体に当たる部分はエグゼイドの顔を模しており、その天辺にはいつものエグゼイドの頭部。腰にゲーマドライバーが巻かれていなければ、誰も彼が仮面ライダーだと思わないだろう。
アーマーを“着ている”のではなく、アーマーに“搭乗している”と言った方がしっくりくる程の巨体さを誇るその姿。仮面ライダーエグゼイド・マキシマムゲーマーレベル99が、迫る脅威を前にして大地に立つ!
「行くぞパラド!」
「ああ! 心が躍るな!!」
永夢と共に戦うことで、パラドの心は弾む。今ならば、誰にも負ける気がしないと、パラドは再びグラファイトへと駆け出した。
「うおおおおおおおおおっ!!」
『っ!!』
ガシャコンパラブレイガンの刃を、グラファイトへ叩きつける。それを防ぐグラファイトは、刃を弾いて切り返す。そこから、斧と槍の火花を伴った応酬が再び始まった。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
一方のエグゼイドは、その巨体ゆえに地に足を着けるたびに鈍い音を響かせながら、メガ・ドラゴン率いる集団目がけて走る。そして一定距離まで近づいたかと思うと、
「はぁっ!」
その場から飛び上がり、足の裏から火を噴き出す。それがスラスターとなり、エグゼイドの身体は宙へ浮いた。
「うっそ、あの図体で空も飛べるの!?」
マキシマムゲーマーの予想外の性能に、アリシアは目玉を飛び出さんばかりに驚愕する。その横、シェインが意外にも冷静な様子で言った。
「あなた、今までの戦いで、彼が私たちの知る常識に当て嵌まるような戦い方をしてきましたか?」
「う……」
言われてみればと、アリシアは思い出す。最初はどう見ても弱そうにしか見えないエグゼイドレベル1の予想外の身軽さと強さに驚き、レベルアップしてからの細身の身体でゴーレム種のメガ・ヴィランをハンマーで殴り飛ばし、さらにはレベル3になってからの強力かつ想像もつかないような攻撃でヴィランを圧倒し、カオステラーとの戦いではなんと分裂して二人になった。そして今まさに、レベル1より遥かに鈍重そうな見た目をしていながら、目の前で空を飛んで空中を飛ぶヴィランを次々と叩き落としていっているところだった。
仮面ライダーを、自分たちの常識に当て嵌めてはいけない。今更ながら、アリシアは痛感する。
その間、一通り空中のヴィランを掃討すると、エグゼイドはメガ・ドラゴンへ肉薄する。対するメガ・ドラゴンも、空を飛ぶエグゼイドを狙わんと、口を開けて火炎弾を放とうとした。
「っと、そうはさせないわよっと!」
いつまでも彼の戦いに見惚れている場合ではない。アリシアは気を取り直し、その大口を開けたメガ・ドラゴン目掛けて大砲の引き金を引いた。炸裂音と共に飛び出す砲弾は、真っ直ぐメガ・ドラゴンの口へ。口腔内で爆発した砲弾により、メガ・ドラゴンは火炎弾を吐き出せずによろめいた。
「おりゃあ!」
そこを容赦なくエグゼイドのパンチが迫る。巨大な拳から繰り出される一撃は、メガ・ドラゴンの鼻っ柱に命中。パンチ力99tのその威力は、まさに破城槌を叩きつけられたかのよう。
『―――――ッ!!!』
鼻がひしゃげ、痛みに喚くメガ・ドラゴン。足元にバグスターやヴィランがいるにも関わらず、たまらず足踏みをして味方を踏み潰してしまう。
「ほっ!」
ヒット&アウェイ。エグゼイドは蛇腹状になっている腕部をゴムのように伸ばし、手近の建物を掴んで引っ張り、建物の上に着地。さらに同様に蛇腹状になっている足も伸ばして高くジャンプ。もう一度足を伸ばし、眼下にいるメガ・ドラゴンの頭を踏みつけるようにして蹴りつけた。
『――――ッ!』
「っと、当たるかよ!!」
遊ばれるようなエグゼイドに怒りのボルテージが溜まったメガ・ドラゴンは、伸縮する手足を使って跳び回るエグゼイドを掴み取ろうと腕を振り回す。時に炎を吐き出すも、俊敏に、時にトリッキーに動くエグゼイドには掠りもしない。
だが、メガ・ドラゴンは怒りのあまりに忘れている。相手は、エグゼイドだけではないということを。
「せぇぇぇぇぇぇい……」
声が聞こえ、メガ・ドラゴンは首を回す。見れば、地面に着いている尾を足場にし、酒呑童子のシェインが俊足を活かして駆け上ってきていた。
やがて背中にまで辿り着くと、そこから飛び上がる。空中で身を捻り、身体を独楽の如く回転させていく。その横で、エグゼイドも同様に大きな足を振るう。
「「りゃああああっ!!」」
遠心力を乗せたシェインの鬼の蹴りと、マキシマムゲーマーの脚によるエグゼイドの強力な蹴りが同時に炸裂。メガ・ドラゴンの顔面は面白いようにへしゃげた。
「レヴォル!」
「ああ!」
翼を広げてバランスを取ろうとするメガ・ドラゴン。その後ろ、ロミオとなっているレヴォル、そしてエレナが栞の裏側、アタッカーの役職の一つである大剣持ちのヒーローで、『鏡の国のアリス』の物語に登場する『赤の女王』となり、身の丈程の剣を持ちあげる。
そして、レヴォルと共に飛び上がる。目指すは、メガ・ドラゴンの巨大な翼!
「「やぁぁぁぁっ!!」」
呼気と共に剣を振るい、翼を根元から両断する。崩れたバランスを取り戻そうとしていた翼はメガ・ドラゴンから離れていき、バランスの要を失ったメガ・ドラゴンは成す術なく地面へと倒れ込む。敷き詰められた石畳を砕き、家屋の一部を破壊したメガ・ドラゴンは、痛みに呻きつつ懸命に立ち上がろうとした。
「そうはいくかっ!」
だがそれを許さない者によって阻まれる。斧に雷撃を纏ったパーンが、メガ・ドラゴンの鱗目掛けて斧の刃を叩きつける。硬い鱗は刃を通さないが、斧を伝って電流がメガ・ドラゴン全身を走り、筋肉が硬直。意識とは裏腹に、メガ・ドラゴンの身体は自由を失った。
「おりゃあ!」
その頃、パラドは斧を横へ振るい、グラファイトに叩きつける。槍を縦に持ち、それを防ぐグラファイトだったが、パラドが身を翻して今度は逆方向からの薙ぎ払いに対する防御姿勢が間に合わず、僅かに足がよろめいた。すかさずパラドは斧を振り下ろすも、咄嗟に槍を掲げたグラファイトによって、競り合う形へともつれ込んだ。
先ほどまでは、グラファイトが優勢だった……だがどういうわけか、パラドの力が、勢いが増しているように感じられる。現に今、互いに武器を押し込む際、グラファイトが徐々に押し負けていっている。
一体、どういうことか。グラファイトが言葉にせずに困惑する。
「グラファイト……昔、俺と一緒に戦っていた時のお前ならともかく、今のお前にはわかるか?」
それを察したのか、パラドが至近距離で問う。同時、グラファイトを押す力がより増していく。
「今の俺には、一緒にゲームをする相手が……永夢がいる。それに、この世界で知り合った仲間がいる!」
本当の意味で命を預け合える
「だから……今の俺には、負ける要素が何一つないんだ!!」
今、改めて実感する。背中を任せられることが、ここまで自分を強くすることを。パラドは永夢とこれまで過ごしてきてわかったつもりでいたが、この戦いはより強く、それを意識する切っ掛けとなった。
だから負けない。例えグラファイトのレベルが自分より高くとも。
負けるビジョンが、今のパラドには見えない。
「はっ!」
斧を振り上げ、競り合いから抜け出す。互いに体勢を崩すが、一早く復帰したパラドが左手を掲げた。
永夢がマキシマムマイティXガシャットを起動した際、再び現れたエナジーアイテム。その中の二枚、『マッスル化』と『鋼鉄化』を引き寄せる。
≪マッスル化!≫
≪鋼鉄化!≫
マッスル化はパラド自身。鋼鉄化はガシャコンパラブレイガンに使用。そしてすかさずBボタンを連続で押した。
≪1! 2! 3!≫
三回押すと、エナジーアイテムの効力によってパラドの肩が隆起し、すぐに元に戻る。ガシャコンパラブレイガンも、赤と青の鮮やかな色合いを消し、鈍色に輝いた。
「喰らえっ!!」
大上段から振り下ろされる、パラドの一撃。マッスル化による筋力UP、そして鋼鉄化によって増した斧の重量が、グラファイトを襲う!
『っ!?』
槍を手に、その一撃を防ぐグラファイト。だが、
≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫
≪3・連打!≫
尋常ではない破壊力、重さ、そして防いだにも関わらず身体に三回連続で伝わる衝撃が、グラファイトを伝って地面を陥没させる。防御すら貫いてくる破砕力を持ったパラドの攻撃によって、グラファイトはたまらず膝を着いた。
エグゼイドたちとパラド、それぞれが相手にしている敵が弱った今、トドメをさすチャンスが到来する。
「よし、トドメだ!」
エグゼイドが、ゲーマドライバーのレバーを大きな手で掴み、閉じる。
≪ガッチョーン≫
≪キメワザ!≫
キメワザ発動の待機音が鳴り出す。パラドもまた、エグゼイドの隣に立ち、ガシャコンパラブレイガンを放り投げる。
「行くぞ、グラファイト!」
エグゼイド同様、パラドもレバーを閉じた。
≪ガッチョーン≫
≪ウラワザ!≫
パーフェクトノックアウト特有のキメワザ発動音声が鳴り、パラドの脚にエネルギーが集い出した。
「僕たちも!」
「よぉし、いっくよー!」
レヴォル、エレナも互いの剣に力を集めていく。レヴォルが腰だめに構えた剣には闇を、エレナが頭上に掲げた大剣には炎を。
「私たちだって!」
「仮面ライダーにばかりいいカッコはさせるわけにはいきませんからね」
「ああ。これで決めるぞ!」
アリシアの大砲に灼熱のエネルギーが。シェインの両拳からは凄まじい熱量を放つ闘気が。パーンの斧には雷の力が。
狙うは真正面。槍を杖にして立ち上がろうとしているグラファイト、痺れは取れたもののダメージが大きすぎて禄に動けないメガ・ドラゴン。そして右往左往して迫る危機から逃れようとしているヴィラン、バグスター。
もはや彼らを遮るものは何もない。二人の仮面ライダーと、再編の魔女たちによる必殺技。それが今、
≪ガッチャーン!≫
放たれる。
≪MAXIMUM CRITICAL BREAK!!≫
≪PERFECTKNOCKOUT CRITICAL BOMBER!!≫
「「おりゃああああああっ!!」」
エグゼイドの莫大なエネルギーが宿った巨大な足から繰り出される飛び蹴りが、パラドの赤と青の混ざったエネルギーを纏った両足を揃えての飛び蹴りが、それぞれの敵へと牙となって襲い掛かる。
「くらええええええっ!!」
「とりゃあああああ!!」
レヴォルとエレナの闇と炎が混じった剣閃が交差してXの字となり、二人に追従するかのように敵へ放たれる。
「はぁっ!!」
「喰らいなさい!!」
「せぇいやあああああっ!!」
アリシアの大砲から発射された炎の竜巻、シェインの両拳から放たれた拳型のオーラ、パーンの斧から飛び出した雷の衝撃波。
それらもまた、二人の仮面ライダーと共に敵へと寸分違わず、真っ直ぐに迫る!
『――――――ッ!!!』
エグゼイドの飛び蹴りが、メガ・ドラゴンの頭部に炸裂。エネルギーがメガ・ヴィランの身体全体に行き渡り、至る箇所から爆発が起き……直後、レヴォルたちの必殺の攻撃もその身体に届く。周囲の敵をも巻き込んだその攻撃に、メガ・ドラゴンは耐えきれる筈もなく、その身は木っ端微塵に砕け散っていった。
『グァァァァァァッ!!』
パラドの飛び蹴りもまた、グラファイトへ突き刺さる。最初は槍で防いで堪えていたグラファイトだったが、凄まじいまでのエネルギーを防ぐ程の体力は、最早ない。断末魔の雄叫びを上げ、グラファイトはカラフルな爆発の中へと消えて行った。
「っと」
「ほっ!」
エグゼイドとパラドが、地表へ降りる。メガ・ドラゴンで打ち止めらしく、これ以上敵が現れる気配は無くなった。
「お……終わった」
「ふぃ~……もうヘトヘトだよぅ」
コネクトを解除したレヴォルたちが、疲労の色を滲ませながら一息つく。強力なヴィラン、初めて遭遇したバグスターと、休まる暇さえ与えられなかった連戦が、ようやく終わったことに内心で安堵した。
「さすがに、もう限界ね……」
「これは帰ったら十分な休息が必要ですね……」
「……」
アリシアとシェインがぼやくが、パーンは無言のまま。腕を組み、何か考え込んでいた。
ともあれ、戦いが終わったことによる空気がその場に流れ始めていた。
『グ……ウ……』
「っ!? うそ、まだ!?」
が、その空気は一行の耳に入った呻き声によって霧散する。見れば、爆発した跡の上で、槍を支えにして立ち上がろうとしているグラファイトの姿があった。
「何という体力だ……あの攻撃を受けて尚、まだ立ち上がる気力を失っていないなんて……!」
執念とも呼べる彼の気迫。その姿は、不退転の戦士そのもの。レヴォルは内心で称賛しつつも、かつてない程の敵を前に慄く。
「で、でも……」
しかし、エレナから見ても今のグラファイトは戦えるような状態ではなかった。甲冑の至るところは罅割れ、得物の槍も折れかけている。赤い電流が震える身体を走り、その命は風前の灯なのは明白だった。
「グラファイト……」
エグゼイドとパラドが、庇うようにレヴォルたちの前に立つ。やがてグラファイトは、槍の支えなしに立ち上がる。
『カ……』
パラドの方へ向く。身体の内から暴発しかけているエネルギーも限界の中、
『カンシャ、スル……パラド』
「っ―――!」
はっきりと、そう言って……仁王立ちのまま仰向けに倒れ込んでいき、そして爆発四散した。
「まさか……最後、お礼を言うために……」
呆然と、アリシアが呟く。最後の力を振り絞り、パラドに向けて放った言葉。望まぬ生を与えられ、無理矢理戦わされて戦士の誇りに泥を塗られ……最後は、戦友であるパラドによって引導を渡された。
誇りを取り戻し、ようやく眠りにつける……その礼を言うためだけに立ち上がった、人格を奪われて傀儡と化していた筈のグラファイト。
「……天晴、です」
「見事だ」
シェインとパーンが、言葉少なにグラファイトの生き様を称賛する。彼の事は、詳しくはわからない。永夢とパラドにとって、忘れられない相手だったということだけしかレヴォルたちは知らない。
それでも、この少ない時間だけで、傀儡と化して尚、彼が孤高の戦士であり、己の生き様を貫いて生きた武人であることは、ここにいる全員がはっきりとわかった。
「……パラド」
エグゼイドが、パラドを見やる。爆発し、黒煙が夜空へ昇っていくのを見つめるその仮面の奥で、どのような表情をしているのかは、見ている限りではわからない。けれども、エグゼイドにはわかる。
「……さよなら。俺の、戦友」
今度こそ逝けた戦友を思って出てきたその言葉は、寂しげで、しかしどこか満ち足りているように聞こえた。
誇りある戦士の魂に、安息の眠りを……この場に立つ者全員が、そう祈っていた。
マキシマムゲーマーを初めて見た時の私
「え、何これは……」(困惑)
仮面ライダーエグゼイドにどっぷりはまってからの私
「きゃあああああああああああああマキシマムゲーマぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうおおおおおおおんあおおおおおおおおおおおんウッ、オボロロロロロロロロロ」(歓喜)
ジオウ最終回でちょっとだけどマキシマムゲーマー出て来て私、ニッコリ。ホント好き、あのフォルム。
次回、17話。最終決戦前。