仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~   作:コッコリリン

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はい、第19話です。決戦も佳境です。今回も長いです。そして展開が早いです。監察医風に言うならば、「乗り遅れるなよ!」です。しっかりついてきてください! ヒャッフー!!(この後ガードレール突き破って崖の下に消えて行った)

補足:18話シンデレラが囚われているシーンを都合により少し変更。宙吊りではなく石柱の上に囚われているという形になりました。ご了承ください。

そんでもって注意! オリジナルガシャット出ます。これで変身はしませんが、気になる方はご注意ください。

それじゃ……Let'sブゥゥゥゥゥゥゥン!!!



第19話 集いしRiders!

「き……貴利矢さん!?」

 

「レーザー!? 何で……!?」

 

 目の前に現れた、バイクに跨って颯爽と現れた男。それは、かつての仮面ライダークロニクル解決へ向けて共に戦ってきた戦友であり、永夢にとって背中を預けられる人間の一人であった。唐突に現れた仲間に、思わず永夢とパラドから再会による喜びよりも驚愕の声が飛び出す。

 

「いや何でってそりゃ、お前ら二人を連れ戻しに来たに決まってんでしょ~?」

 

 よっと、と軽い調子でバイクから降りる……つもりが、降りられない。その原因は、彼の腰にある。

 

「……あ~、ちょっと? 女神ちゃん?」

 

「はわわわわわわわ」

 

 貴利矢が苦笑交じりに腰にしがみついている未だプルップルしている女神に向けて声をかけるも、本人から禄な反応が返ってこない。大口開けて、涙目のまま言葉にならない声を上げ続けている。

 

「ちょ、ちょっと? キュベリエ様?」

 

「キュベリエちゃん? どしたの一体?」

 

 あまりにも動揺している、というよりも完全に腰が抜けた様子のキュベリエに、アリシアとエレナがよろめきながらも立ち上がりキュベリエを呼ぶも、相変わらず返答はない。

 

「あ~……さすがに慣れない人にとって段差を駆け下りるのは恐かったかぁ」

 

「貴利矢さん……」

 

 プロのスタントマンみたく観客席をバイクで駆け下りたことにより完全に恐慌状態になったキュベリエに、罰が悪そうに頭を掻く貴利矢。永夢に負けず劣らず無茶をする貴利矢に、永夢は呆れを含んだ呟きが口から漏れ出た。

 

「エ、エム、彼は……?」

 

 レヴォルもどうにか立ち上がり、永夢の腕を取って引き起こしつつ尋ねる。突然鉄の塊ことバイクに跨り、その上レヴォルたちにとって馴染みの深い女神を連れて現れたこの男は何者なのかを。

 

「あぁ、彼は九条貴利矢さん。前に話してた僕の仲間だよ」

 

「つーこと。よろしく~」

 

「は、はぁ……」

 

 ヘラっと笑いながら手を振り、何とも適当感丸出しな挨拶を交わす。レヴォルの口から思わず緊張感の抜ける声が出る程に軽い性格のようだが、嫌らしさというのは全くなく、寧ろどこか親近感を抱けるような雰囲気を彼から感じた。

 

「っと、まぁお互い親交を深めたいところではあるけども……」

 

 言って、貴利矢は笑顔を消し、視線を土煙の方……吹き飛ばしたクロノスへと向ける。

 

「むぅんっ!」

 

 瞬間、爆音。瓦礫を吹き飛ばしたクロノスが、ゆらりと立ち上がる。

 

「まずこの状況を何とかしねぇとなぁ……ってなわけで、ほら、女神ちゃん。いい加減離れなって」

 

「あうわわわわわ……ふぇ?」

 

 コツンと、キュベリエの頭を軽く叩く。それによって愉快な顔になっていたキュベリエは、素っ頓狂な声を上げながら正気に戻った。

 

「え、あ、ちょっとキリヤさん! あんな無茶するなら前もって言ってくれなきゃ困りますよぅ! 怖かったんですから!」

 

「あーめんごめんご。とりあえず離れよっか?」

 

「全然謝ってないじゃないですかぁ!」

 

 ミャーミャー苦言を言うキュベリエを余所に、ようやく彼女による拘束から解除された貴利矢はバイクから降りる。そして永夢たちに背を向け、前へ進み出た。

 

「早速だけど女神ちゃん、永夢たちの傷をご自慢のパワーで治せたりする?」

 

「え? そりゃあ、できますけれど……」

 

「そっか。んじゃ頼むわ」

 

 言って、取り出したるはレヴォルたちにも見慣れた物。永夢たちが持つ物と同型のゲーマドライバーだった。

 

「貴利矢さん!? 一人で戦うつもりなんですか!?」

 

「そんな、無茶だ!」

 

 それを見て何をするつもりか、永夢たちは理解した。思わず制止するために呼びかける永夢とレヴォルだったが、貴利矢は軽く笑いながら振り返る。

 

「なぁに、何も全部自分がやるって言ってるわけじゃねぇよ」

 

 言いながら、ゲーマドライバーを腰に当て、ベルトを自動で装着する。

 

「お前らが回復するまでの間、注意を引く役がいなきゃダメだろ?」

 

 ゲーマドライバーを装備した状態で、再びクロノスと向かい合う。当のクロノスは、ゆっくりと歩きながら剣と盾を持ち直した。

 

「爆走バイク……まさか君まで現れるとはな」

 

 予想外だとばかりに言うクロノス。その口調からはいまだ余裕は失われておらず、しかし僅かばかりの怒気が滲んでいる。

 

「ヘッ! 自分もまさか、倒したと思った奴とこうして再会できるだなんて思ってなかったよ社長さん」

 

 対し、クロノスと相対して苦々しい顔で言う貴利矢。過去に辛酸を舐めさせられてきた相手に対する態度としては相応なものだが、さりとてその立ち振る舞いには油断はない。

 

「フッ、君はどうかは知らないが、私はまた会えて嬉しく思っているがね……これでまた、仮面ライダークロニクルを盛り上げる役が一人増えた」

 

「そりゃどうも。ま、自分はうんざりしてるけどな。アンタにゃ色々世話にはなったけど、正直な話、もう会いたくはなかったよ」

 

 過去、貴利矢は一度消滅している。その彼を復元し、こうしてバグスターとして復活させたのがクロノスだった。そのまま彼に服従していたかに見せかけ、裏で色々探りを入れ、そして彼を出し抜くことには成功したが……。

 

「……そう言えば、その礼をまだしていなかったなぁ……ならばちょうどいい」

 

 チャキリ。そう音を鳴らし、クロノスは剣をかつて己を裏切った貴利矢へと突きつけた。

 

「あの時の礼を、ここで返してやろう」

 

「……そうかい」

 

 言われ、貴利矢は懐を探る。そして、

 

「なら、自分も返してやるとしようか」

 

 取り出した黄色いカラーリングが施されたガシャットのスイッチを押した。

 

 

 

≪BAKUSOU BIKE!!≫

 

 

 

 貴利矢の背後に現れたホログラム映像と共に鳴り響くギター音。飛び散るエナジーアイテムと黄色いゲームエリア。永夢とパラドと同様の光景が闘技場に広がっていく。

 

 身を翻した貴利矢は、戦闘準備開始のワードを口にする。

 

「0速……変身!」

 

≪ガシャット!≫

 

 ガシャットを半回転させ、ゲーマドライバーのスロットへ。そして、

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!!≫

 

 すぐさまアクチュエーションレバーを開く。

 

 

 

≪爆走! 独走! 激走! 暴走!! 爆走バイク!!≫

 

 

 

「ふっ!」

 

 鳴り響くアップテンポで派手なメロディ。貴利矢の周りに現れたパネルとゲーマドライバーから飛び出したパネル。仮面ライダーの顔が映されたパネルをタッチする代わりに上段回し蹴りで蹴り飛ばす。瞬間、SELECT! の文字と共に二枚のパネルが貴利矢と一つになり、光が散ると共に貴利矢の姿を変えた。

 

 身体はエグゼイドの色違いのような体格の黒いスーツと、肩と足を覆う黄色いプロテクター。そしてトサカのように並ぶマゼンタ色のスパイクとマスクのような仮面。背中に自身の顔と同じ外装を背負い、水色の鋭い瞳を持つ彼。

 

 仮面ライダーレーザーターボ・バイクゲーマーレベル0が、クロノスと向かい合った。

 

「さぁて、そんじゃ……」

 

≪ガシャコンスパロー!≫

 

 武器を召喚、上弦と下弦にマゼンタの刃が設けられた独特な弓状の武器、『ガシャコンスパロー』をレーザーは手に取る。そして照準をクロノスへ合わせると、

 

「自分もノリノリでいっちゃうとするか!」

 

 駆け出し、同時に矢の形をしたエネルギーが幾つも飛び出す。それらをクロノスは盾で防ぎながら、接近するレーザーを迎え撃った。

 

「おぉりゃぁぁっ!!」

 

「せぇい!!」

 

 ガシャコンスパローの刃と、クロノスの剣の刃がぶつかり合い、火花が散る。弓と剣による応酬が、始まった。

 

 

 

~ 第19話 集いしRiders! ~

 

 

 

「すーぱー……キュベリエぱわー!」

 

 一方、治癒を頼まれたキュベリエは、祈るように手を組み、念じながら叫ぶ。すると、身体中傷だらけだった筈の永夢たちの傷が、光と共に消えていくのが見て取れた。

 

「すごい……もう痛みが消えた」

 

 傷だけでなく、身体を蝕んでいた痛みも消失し、永夢は右手を閉じたり開いたりして感覚を確かめる。問題なく動くことができ、五体満足の状態に戻っていた。

 

「どうですか? すごいでしょ? えっへん!」

 

「う、うん……ありがとう」

 

 言って、鼻を鳴らし胸を張るキュベリエ。見た目が神々しいが、その挙動と言動全てが年相応の少女のようで、威厳なんて欠片もない。そのギャップに戸惑いながらも、永夢は礼を言った。

 

「いえ、ありがたいことはありがたいんですけど、あなた今の今まで何をしていたんですか? 今回に限って、随分動きが遅かったような気もしますが」

 

 同じように回復したシェインにジト目で言われる。想区の安寧を司る女神である筈のキュベリエは、想区で騒動が起こると、自分の手に負えない場合、事あるごとにレヴォルたちを呼び寄せてきた。が、今回ばかりはいつもの騒動とは勝手が違うのはわかるが、それにしては彼女が行動を起こすのが遅い気がしてならない。

 

「え″!? え、えっと……」

 

 ギクゥッ! という擬音がつきそうな程に肩を飛び上がらせるキュベリエは、言いにくそうにしながら両人差し指をツンツンしだした。

 

「その、私だって女神なので何とかしようと思ったんですよ? けどですね、なんか、どういう意味か祠から出られなくなっちゃって、それで動くのが遅くなっちゃって……」

 

「へぇ、いつも裏でコソコソしてる女神様にしちゃ珍しいなそりゃ」

 

「コソコソは余計ですよぅ!」

 

「さすがのキュベリエちゃんでもできないことはあるんだねー」

 

「エレナさんまでぇ!」

 

 ティムとエレナに言われ、キュベリエはムキーとばかりに反論する。と、話が逸れそうになってコホンと一つ咳払い。

 

「それで、ですね。たまたま祠に現れたキリヤさん……のお力添えのおかげで、こうして皆さんを見つけることに成功したんですけど……本当に、本当にここまで来るのに苦労したんですよ~! 誰か褒めてくれたっていいじゃないですか~!」

 

「いや、キュベリエ……君が大変だったのはわかったから」

 

 めそめそ泣き出した女神をレヴォルがあやす。

 

「キュベリエ様。今はそんなことよりも重大なことがあります」

 

「そんなこと!?」

 

 まさかのパーンに言われてショックを受ける。だが事実、こんなことをしている場合ではなかった。

 

「そうだ、早くエラちゃんを助けないと!」

 

 永夢は時計を見上げる。怪我をして動けなくなっている間に、残すところ後3分。刻一刻と迫る、シンデレラの死の宣告。急いで彼女を救わなければいけない。

 

「女神様、彼女を助けることはできないんですか?」

 

 ポンコツを絵に描いたような彼女だが、彼女が持つ力は絶大であることはレヴォルたちはよく知っている。アリシアがキュベリエに助力を乞うも、キュベリエは頭を振った。

 

「ごめんなさい、やっぱりいつもの力が発揮できないんです。せいぜい皆さんの傷を治すか、相手を吹っ飛ばすことだけで精一杯で……」

 

「おいおい、肝心な時に限ってそりゃねぇぜ女神さんよぉ」

 

「げふぅ」

 

「こら、ティム。そういうこと言うんじゃありません」

 

 精神的ダメージをティムから喰らい、変な声を出すキュベリエ。シェインはティムを窘めつつ、栞を取り出した。

 

「とにかく、彼に加勢しなくては。早い所クロノスさんを倒して、シンデレラさんを救助しましょう」

 

 身体が万全な今、再びクロノスと戦える。そうして一行は栞と、ゲーマドライバーとガシャットを持った。

 

 

 

 

「なかなかやるではないか、爆走バイク。一人でクロノスに立ち向かうだけはあるな」

 

「そりゃどうもっと!」

 

 クロノスとレーザーの戦いは、熾烈を極めていた。クロノスが振るう水晶の剣と、レーザーの持つ弓が幾度となくぶつかり合う。クロノスが空間から氷の矢を放てば、レーザーはそれを目敏く照準を合わせてこちらも矢を放ち相殺するか、または転がって回避した。

 

≪ス・パーン!≫

 

「おりゃぁ!」

 

 ガシャコンスパローのアタックラッシュパッドのAボタンを押すと、ガシャコンスパローの上弦と下弦が分離、弓モードから二本の鎌モードとなってレーザーの手に収まる。そして身を捻りながら飛び上がり、袈裟懸けに重力を乗せて振り下ろされる二本の刃とハンマーのような強力な蹴りをクロノスへ繰り出す。

 

「フッ!」

 

 鎌二本と蹴りによる三段攻撃を軽々と避け、クロノスは剣と盾による猛攻をレーザーへ見舞う。ギリギリのところを回避、または防御し、二人の攻防が続く。

 

 互角に渡り合っているように見える、が、実際はクロノスの方が優勢に傾いていた。レーザーとて、永夢と同じ歴戦の仮面ライダー。そんじゃそこらの敵などあしらう程の強さを持つ。それでもやはり、クロノスのスペックとそれに上乗せされる形で身に宿すカオステラーの力には届かない。仮面ライダーの心臓とも言うべきライダーゲージが、一マス、また一マスと減っていく。

 

「ぐあっ!」

 

 それを示唆するように、クロノスの斬撃がレーザーの身体を切り裂き、火花を散らす。たまらずたたらを踏むレーザーを、追撃する形でクロノスが迫る!

 

「はぁっ!」

 

 盾による横殴りの打撃。横面に走る衝撃により、横っ飛びに吹き飛ばされるレーザー。地面を転がり、それでも受け身を取って膝立ちとなる。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 しかし、ダメージまでは軽減できない。息も荒くなり、時間ばかりが過ぎる。

 

「さぁ、そろそろ終わりにしよう」

 

 トドメを刺さんと、レーザー目掛けて剣を振るおうとするクロノス。

 

 が、それは叶わない。

 

「おりゃあ!!」

 

「ぬぅっ!?」

 

 拳を構えて飛んできた永夢こと、再変身したエグゼイド・マキシマムゲーマーの大きな拳がクロノスを襲う。咄嗟に盾を構えて防御することに成功するも、重さ99tのパンチ力の前に大きく吹き飛ばされて距離を離される。

 

「悪ぃ、レーザー! 今から加勢するぜ!」

 

「おぉ、サンキュー永夢!」

 

 キュベリエによって完全回復を果たしたエグゼイドは、レーザーを庇う位置に立って拳を構える。後に続き、再変身を果たしたパラド、再びヒーローとコネクトしたレヴォルたち再編の魔女一行も、クロノスの前に立ち塞がる。

 

「さぁて、とっとと終わらせて、あのバイクとやらを解析しちゃうわよ!」

 

「いいですねぇ。私も気になりますし、協力させてもらいましょうか」

 

「え、ちょっとお二人さん? あれ自分のバイクなんだけど?」

 

「おいコラ二人共」

 

 本人の承諾なく、バイクに強い関心を示すアリシアとシェインを窘める形でツッコむティム。そんなやり取りをしているが、全員の闘志はいまだ衰えず。先ほどのリベンジを兼ねて、全員武器を構えた。

 

「……全く、煩わしい真似を」

 

 対し、いい加減うんざりしてきたとばかりの口調で、クロノスは僅かながら苛立ちを交えて呟く。そして、剣を高く掲げたかと思うと、

 

「ぬぅん!!」

 

 勢いよく、地面に剣を突き刺した。石畳で硬い筈の床に深々と刺さる剣。やがて剣が青白い光と、黒い靄を放ち始める。

 

 途端、地面が振動を始めた。

 

「なんだ、地震!?」

 

 突然の揺れに、全員が倒れないよう咄嗟に踏ん張る。しばらく揺れが続いたかと思うと、クロノスの左右の背後の地面が罅割れ、だんだん盛り上がっていく。

 

 そして、一際揺れが大きくなり……盛り上がっていた地面が、完全に割れ、揺れの原因が姿を現した。

 

「な、何だありゃ!?」

 

 ティムが思わず叫ぶ。それは誰しもがそう思っていた。

 

 現れたのは、巨大な竜の首。全長約5m、大木の幹程の太さもあるそれは、鱗、牙、全てが青く僅かに透き通った水晶で構成され、唯一違う点が赤く禍々しく光る鋭い目。

 

『――――――――ッッッ!!』

 

『――――――――ッッッ!!』

 

 現れた二体の竜は、巨大な口を開け、咆哮。空間が悲鳴を上げるように震え、地面すらも揺らす。圧倒的存在感、迫力。口から飛び出す咆哮は我こそが全生物の頂点であると示すかのよう。

 

「君たちに見せてあげよう……カオスの力の真髄を!!」

 

 その竜の首を召喚、使役するは、カオステラーの力を意のままに操るクロノス。剣と盾を構え直し、さらには左右の竜をエグゼイドたちへ差し向ける。

 

「かかれ」

 

 一言。それだけで竜は主に従い、大口を開いてエグゼイドたちへ迫る。圧倒されていたエグゼイドたちは、それぞれ別々の方向へ散って回避。鋭い牙は空を切るように閉じられた。

 

「くっ!」

 

 体勢を立て直したレヴォルが剣を持って飛び掛かろうとするも、片方の竜の口から、青白い冷気が漏れ出て炎のように揺らめいたかと思うと、咆哮と共に絶対零度のブレスとなってレヴォルを襲う。咄嗟に横へ転がって避けるも、レヴォルがいた場所は氷結し、地面から針の如く氷柱が無数に生えた。

 

「なんてことだ、これじゃ近づけない!」

 

 レヴォルが叫ぶ。クロノスを守るように蠢く竜。近寄れば牙が、離れればブレスが飛び交う。

 

 まさに鉄壁の守り。反撃しようにも、竜をどうにかしない限りそれすらもままならない。だが、これ以上指を咥えて見ているわけにもいかない。

 

「っ! まずい、もう時間が!」

 

 エグゼイドが時計を見る。カチリと、音がまた進んだ。

 

 残された時間は……一分もない。

 

「どうしよう!? このままじゃシンデレラちゃんが!」

 

「だが、どうにかしようにもこれでは……!」

 

 エレナが慌て、パーンが歯噛みしながら現状を分析する。クロノスの強さ、竜の守り……残り一分でそれらを超えて、宿敵であるクロノスを撃破する。

 

 不可能だ。パーンの冷静な部分がそう叫ぶ。

 

 しかし、それで諦めるのはまた別問題だ。

 

「エム君! 我々が囮となる! 君は彼女を!」

 

「っ!? けど!」

 

 パーンの提案に、反論しようとするエグゼイド。だが、それに畳みかけるようにレーザーが竜の牙を避けながら叫ぶ。

 

「永夢ぅ! 今あの子を助けられんのはお前だけだ! 急げぇ!!」

 

「っ……!」

 

 一瞬、迷う。が、最早猶予は残されていない。

 

「……わかった! 任せた!」

 

 苦渋の決断。獲物を食らわんと猛スピードで迫る竜を前にエグゼイドは飛び上がり、頭を踏みつける。二段階飛び上がり、真っ直ぐ、シンデレラの下へ。

 

 

 

 残り……10秒。

 

 

 

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

 普通に跳んでは間に合わない。そう判断したエグゼイドは、マキシマムゲーマの緊急射出装置『EXペイルアウター』を作動、バネのような勢いと共に、アクションゲーマーレベル2の姿となったエグゼイドがマキシマムゲーマから飛び出した。

 

 

 

 残り……5秒。

 

 

 

「エラーーーーーーー!!」

 

 手を伸ばし、エグゼイドが叫ぶ。あと10センチ、5センチ……エグゼイドの手が、シンデレラの鎖に繋がれた手を掴む。

 

 

 

 残り……1秒。

 

 

 

(ダメだ……!)

 

(もう、時間が……!)

 

 レヴォルが、シェインが……全員が、全てがスローモーに動いているように映る中、心の内で叫ぶ。そして、

 

 

 

「……エム、さん……?」

 

 

 

 掴んだ手の温もり、叫びが、シンデレラの意識に届き、もたげていた彼女を呼び覚ます。

 

 

 

 直後……時計の針が、12時を指し示し、

 

 

 

 鳴り響く重い鐘の音が、処刑開始を告げる音となり、

 

 

 

 悪魔(処刑執行人)の槍が、動き出す。

 

 

 

「――――――ッ!!」

 

(ダメだ……けど、せめてっ!!)

 

 シンデレラを解放する時間はない。槍は目前に迫っている……ならば彼女の身代わりにと、エグゼイドは彼女を抱きしめた。

 

 やがて槍は、寸分違わず死刑囚を……エグゼイドの身体を貫く

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 ことは、無かった。

 

 

 

 

 鐘の音が鳴り響く中、エグゼイドは迫る痛みを覚悟でシンデレラを抱きしめていた……が、いつまでも痛みがないことに気付き、顔を上げる。

 

 槍は、止まっていた。エグゼイドとシンデレラを共に貫かんとしていた死の刃が、エグゼイドの目前で。

 

「止まっ……た?」

 

 誰もが、諦めていた。タイムリミットに間に合わないと。二人が刺し貫かれるのを、黙って見ているしかできないと。

 

 その予想は、大きく外れ……石像だけでなく、誰もが制止していた。

 

「……バカな」

 

 そしてそれは、この場を支配していた筈のクロノスにとっても予想外の出来事であったらしく、ただ一言、そう呟く。

 

 何がどうなっているのか。誤作動か。或いは何か別の……誰もがそう思っていた時、

 

 

 

 

「ブェーアハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 

 

 

 場違いなまでの笑い声が、空間を木霊した。

 

「っ!? だ、誰だ!?」

 

「へぇ!? 誰!? どこ!?」

 

 突然の常人には出し得ない、奇声のような笑い声にレヴォルとエレナが狼狽える。声に出さずとも、再編の魔女一行の誰もが戸惑い、声の主を探す。

 

 しかし、仮面ライダーたちは、キュベリエはこの声を知っている。というよりも、知り過ぎている。うんざりする程に。

 

 

 

 

「宝生永夢ぅ!! 何故君が今生きているのか! 何故九条貴利矢がこの場にいるのか! 何故クロノスの罠が停止したのくわぁ!! その答えはただ一つ……!」

 

 

 

 

「ま、まさか……」

 

 声の主は、エグゼイドの頭上から聞こえる。エグゼイドは、視線を上へ上げた。

 

 

 

 

「ハァー……宝生永夢ぅ!! 私が……君を連れ戻すためにぃ……この世界に降臨したからだぁぁぁぁブァハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 

 

 闘技場の一番高い観客席。そこに立つ黒いジャケットを羽織ったやせ型の男が仁王立ちしながら狂乱の笑い声を声高らかに上げていた。

 

 声から滲み出る狂気と歪んだ顔。彼のことを知らない誰もが、彼を一目見て判断した。

 

 

 

 あいつはやばい奴だ、と。

 

 

 

「ゲンム……!?」

 

 嫌という程耳にした、狂った笑い声。かつて敵として対峙し、その後復活して打倒クロノスという共通の敵を倒すため共闘し、そして今は衛生省の管理下の下、CRで拘束していた筈の男。それが何故ここに……しかし、永夢はすぐに合点がいった。

 

 ゲームのことならば彼。ゲームに関しては抜群の才能を発揮する、誰もが認め、自らもまた神と自称する天才ゲームクリエイター。

 

 そんな彼、仮面ライダーゲンムこと檀黎斗がこの場所にいるというのは、ある意味必然とも言えた。

 

「な、何だあいつは……?」

 

「何なんでしょう……極力関わり合いになりたくない類の人間だというのだけははっきりわかりますが」

 

 ティムとシェインが口の端を痙攣させながら、誰よりも高い場所でいまだ笑い続ける黎斗を初対面なのに完全狂人判定した。無理もないが。

 

「…………」

 

「あ、あれ? キュベリエちゃん? ねぇ、なんか目が死んでるような気がするんだけど。ねぇってば?」

 

 そして、黎斗が登場した時点でキュベリエの目から瞳が失われた。ついでに顔も虚無になった。思わずエレナが肩を揺らしながら声をかけるも、瞳と表情は戻らなかった。

 

「黎斗……お前も来ていたのか」

 

 一人冷徹な声……苛立ち混じりの声で、遥か高い場所から見下ろす黎斗へ向けて、クロノスが仮面越しから睨めつける。

 

「また自分の嘘に乗せられちゃったねぇ社長さん。自分、一人で来たなんて言ってねぇから」

 

 そんなクロノスに向けて、レーザーが挑発気味に笑う。ジロリ、そんな擬音が聞こえてくるような視線をクロノスから感じるが、軽く鎌を振って意に返さない。

 

「一体、彼は何をしたんだ……?」

 

 シンデレラとエグゼイドに向けた即死性の罠が止まったのは、あの男が何かをしたのだろうというのはレヴォルにもわかった。だがどのようにして止めたのか、全くわからない。

 

「ま、色々複雑っちゃ複雑なんだけどよ。簡単に言うと」

 

 それに答えるのはレーザー。レヴォルの肩をポンと叩くと、もう片方の手でピースサインを作り、それをクイクイと曲げた。

 

「ちょっとした、チート(神技)って奴だ」

 

 意味がわからない。そう言いたげなレヴォルだったが、恐らく聞いたところで結局わからないだろう。

 

 その間、話は進んでいく。黎斗はフンと鼻を鳴らし、クロノスを見下ろした。

 

「檀正宗……あなたがただ消滅するとは思ってはいなかったが、まさかこんなところで会えるとは思っていなかった……いや、そればかりか……」

 

 区切り、声を荒げる。

 

「私の開発したゲームを利用し、さらにはまたもや仮面ライダークロニクルを再開させようなどと、そんなことを私が許すと思っているのか!?」

 

 自らが開発した物を利用して復活、そして己の命とも呼べる仮面ライダークロニクルをまたもや私物化しようとしている父に対するその目は、プライドを傷つけられたことによる深い憎悪に塗れていた。

 

「愚息が……仮面ライダークロニクルは幻夢コーポレーションの商品だ。お前の許しなどもらうつもりはないと、何度歯向かえばわかるのだ?」

 

 対するクロノスは平然と言ってのける。嘲りをも含んだ冷たい声。およそ父が息子に向けるとは思えないような、同じく息子が父に向けるとは思えない、そんな対話が為される。

 

 だが黎斗は笑う。余裕も余裕といった風に、ニタリと。

 

「やはり、あなたとは話にならないようだ……ならばいいだろう。その余裕の態度もろとも、今ここで叩き潰してやろう!」

 

 そう言って、懐から取り出したるは一つのガシャット。金色に輝くボディに星の形をしたサーキットボードが特徴のそれを、黎斗は誇らしげに掲げた。

 

「あれは!」

 

 エグゼイドはそれを知っている。何故なら、自身にとって最強のガシャットであると同時、クロノス攻略に最も重要な切り札でもある物だからだ。

 

「永夢ぅ!」

 

 黎斗はエグゼイドの名を呼ぶ。勝利は確実とばかりの笑顔のまま、それを振りかざし、

 

「神の恵みをぉ……受け取れぇぇぇぇぇい!!」

 

 思い切り、エグゼイド目掛けて投げつけた。放物線を描くそれ、『ハイパームテキガシャット』が回転しながら永夢の下へ飛んでいく。

 

「よし!」

 

 シンデレラを抱きかかえたまま、エグゼイドは右手を突き出す。そのまま真っ直ぐ飛べば、エグゼイドの掌に収まるだろう。

 

 やがてハイパームテキガシャットは、寸分違わずその手に握られた。

 

 

 

 

≪RE:START≫

 

「残念だったなぁ?」

 

 

 

 

 クロノスの手に、だが。

 

 

 

 

「なっ……!?」

 

「何っ!?」

 

 突然、エグゼイドの目の前に現れたクロノス。突き出された手は空を切り、後少しというところでクロノスが横から手を突き出したことで、ハイパームテキガシャットはクロノスがエグゼイドに代わって手にした。

 

 現状が理解できず、僅かに硬直するエグゼイドと、観客席の上で動揺する黎斗。そして、

 

「はぁっ!」

 

 クロノスの直蹴りが、僅かな隙を見せたエグゼイドに炸裂した。

 

「うわぁっ!」

 

「エム!!」

 

 不安定な石柱の上で受け身も取れず、レヴォルが叫ぶ中で成す術なく蹴り落とされるエグゼイド。その腕でシンデレラをしっかり抱きしめ、自身が下となって落ちていく。仮面ライダーと言えども10m以上の高さから落ちればノーダメージではすまない。

 

「くそ!」

 

 何も考えず、パラドが走る。エグゼイドの落下地点近くでスライディングをすると、エグゼイドとシンデレラがパラドの上に落ちる。

 

「ぐっ」

 

 くぐもった声がパラドから上がる。しかし、パラドがしっかりと抱き留めたおかげで、エグゼイドとシンデレラは落下による衝撃が和らいだ。

 

「パラド君!」

 

「おい永夢! 無事か!?」

 

「な……何とか」

 

 パーンとレーザーがパラドと永夢を助け起こす。パラドのおかげでエグゼイドとシンデレラが怪我を負うことはなかった。が、それ以上に最悪の展開に陥ってしまっていた。

 

「やはり、お前は甘いな黎斗」

 

 石柱の上で、クロノスが手の中でハイパームテキガシャット……即ち、クロノスを倒す手段を手の中で弄びながら笑う。

 

「お前がここに来た時点でハイパームテキを持っているというのは、すでに予感していた……お前の行動に注意を払っておいて正解だった」

 

「くっ……!」

 

 まさかポーズを利用したクロノスに取られるとは思わず、黎斗は悔し気に呻く。それを見て、クロノスはさらに嘲笑った。

 

「どれだけ君たちに援軍が現れたとしても……」

 

 そして、手にしたハイパームテキガシャットを、

 

「私の勝利は揺るがない」

 

 無造作に、投げ捨てた。

 

 

 

 大きく開いた竜の口の中へ。

 

 

 

「あぁっ!? ガシャットが!」

 

 アリシアが叫ぶ中、無情にもガシャットは竜の口に消えていき……ゴクリと、音を鳴らしてガシャットを飲み込んでしまった。

 

「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア!! ハイパームテキガシャットがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 それに一番強い反応を示したのは黎斗。自らの才能を遺憾なく詰め込んで開発したガシャットを、目の前で竜に食われたのだ。思い入れも強いガシャットがそんなことになれば、黎斗が取り乱すのも必然とも言える。大絶叫が闘技場中に響き渡った。

 

「おい神ぃぃぃぃぃぃぃ!! テメェ何してくれてんだぁぁぁぁぁ!! 何であそこでふっつーに手渡ししなかったぁぁぁぁぁ!?」

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!! 私に意見するな九条貴利矢ぁぁぁぁぁぁぁ!! そもそも永夢がちゃんと受け取らないのが悪い!!」

 

「逆切れ!? あの人自分のこと棚に上げて思いっきり逆切れ!?」

 

「うわぁ……」

 

 レーザーに文句を言われて思い切り顔を歪めて言い返す黎斗。さすがのアリシアとエレナもドン引きだった。

 

「さて……そろそろ幕引きとしようか」

 

≪ガッチャーン≫

 

 言って、右手にバグルドライバーⅡを装備。そして、空いた左手を掲げ、パチンと指を鳴らした。それを合図に、エグゼイドたちの正面の地面から黒い煙が湧き立つように現れる。

 

『―――――――!』

 

 やがて煙は形を作っていく。頭に青白い炎を灯したかのような異形、羽を生やした異形、鎧を纏った異形。さらにはドラゴン、ゴーレム、ハーピーといった大型の異形……レヴォルたちが幾度となく戦ってきたヴィランの群れが、鳴き声にも似た呻き声を上げながらエグゼイドたちの前に立ち塞がる。

 

「ヴィラン……!」

 

 カオスの力を取り込んだクロノスだからこそできる、ヴィランの召喚。物量で圧し潰す気かと、レヴォルたちは得物を構えた。

 

 その時、クロノスからまたも心底おかしいとばかりの笑い声が聞こえる。

 

「せっかくだ、君たちに面白い物を見せてあげよう」

 

 言って、右手のバグルドライバーⅡを振るうと、銃口からビームではなく、オレンジ色の無数の粒子が振りまかれる。

 

 粒子が地表に蔓延るヴィランの群れに降り注ぐ。その瞬間、ヴィランが一斉に苦し気に蠢いた……かと思うと、その頭部がオレンジ色に輝き出す。

 

 そして、変化が訪れた。

 

「な……なんだこりゃぁ!?」

 

 あまりの光景に、ティムが叫んだ。

 

『―――!#%&&!$』

 

『―――$%!¥”$!』

 

 ヴィランの姿が、もとい頭部が大きく変形。いつもの妖しく光る黄色の瞳は消え、オレンジ色の不気味な異形の頭部へ。鳴き声もノイズ混じりの、聞く者に不快感を与える奇異の声と変わる。メガ・ヴィランのドラゴンに関しては、顔の上半分が変化、下半分の強靭な口のみが残り、飛び散る唾液混じりの咆哮の中に他のヴィラン同様のノイズが混じった声へ。

 

 見るも悍ましい、奇形と化したヴィランの姿。その姿を前に、これまで死闘を繰り広げてきた相手として、レヴォルたちは鳥肌が立った。

 

「こ、れは……何ということだ……!!」

 

 頭部には、見覚えがある。ヴィランと共に町を襲った、エグゼイドたちの敵、バグスターウィルスそのものだ。それが意味することは、一つだけ。憤怒とも困惑ともつかぬ呟きが、レヴォルから漏れ出た。

 

「ククク、どうだ? 彼らにも変身(・・)していただいたが、中々壮観だろう?」

 

「ヴィランを……バグスターウィルスに感染させたというのか!!」

 

 レヴォルたちの世界のヴィランを、エグゼイドたちの世界のバグスターと融合させた張本人、クロノスが笑い、パーンが信じられないとばかりに叫ぶ。

 

「その通り。そうだな、さしずめ……『B(バグスター)‐ヴィラン』とでも名付けようか」

 

 新しい玩具に名前を付けるかのように言うクロノス。その異常性は、最早常人とは程遠い物を感じる。

 

「異常、ですね……そんな考えに至るまでの脳の構造がどうなっているのか気になるレベルです」

 

 ヴィランを相手に同情するつもりはない。しかしそれでも、異形と異形を平然と掛け合わせた男の発想に、誰もが目を疑い、シェインの言葉に異を唱える者は誰もいなかった。

 

 慄く一行を無視し、クロノスはおもむろにビームガンを、いい加減目障りだとばかりに黎斗へ向ける。

 

「っちぃ!」

 

 忌々しさを隠そうともせず、黎斗は舌打ちする。直後、その身をバグスター粒子に変え、同時にクロノスのビームガンが黎斗が立っていた場所を襲い、直撃して爆散する。

 

 粒子となった黎斗は地上へ。エグゼイドたちと同じ場所で再び顕現し、クロノス、水晶の竜、B-ヴィランの群れと対峙する。そしてゲーマドライバーを装着し、両手に黒と白のガシャットを持ち、交差して構えた。

 

「奴からハイパームテキを取り戻す! 私に続けぇ!」

 

 

 

≪MIGHTY ACTION X!!≫

 

 

 

≪DANGEROUS ZOMBIE!!≫

 

 

 

 右手の黒いガシャットからは永夢と同じマイティアクションXと同じサウンドが、左手の白いガシャットからはどこか不気味な印象を受けるギターのサウンドが同時に鳴り、黎斗の背後に二つのホログラムが現れる。永夢の物と絵柄は同じで色彩が違う白黒画面のマイティアクションXと、筋肉質の不気味な男性が仁王立ちする画面だ。

 

「ったく! せっかくテメェがコードを入力してる間に自分が注意引いてやったってのに、余計な手間増やしやがって!」

 

 悪態をつきながら、レーザーも黒いガシャットを手に取り、起動させる。

 

 

 

≪JET COMBAT!!≫

 

 

 

 テンションが高いサウンドと共に、これもまた白黒の戦闘機が描かれたホログラムの画面が現れる。そこから現れた翼を生やした黒い飛行物体が、レーザーの頭上を旋回し始める。

 

「グレードX0……」

 

「爆速」

 

 黎斗は両手の指に『プロトマイティアクションXガシャットオリジン』と『デンジャラスゾンビガシャット』を吊り下げる形で持ち、レーザーは『プロトジェットコンバットガシャット』を持ちながらアクチュエーションレバーを戻した。そして、

 

「「変身!」」

 

≪ガシャット!≫

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!!≫

 

 二人同時にゲーマドライバーにガシャットを挿入、レバーを開いてレベルアップした。

 

 まず黎斗。回転しながら現れた白黒のエグゼイドの顔のパネルをタッチ、そして黎斗と重なる。

 

 

 

≪マイティジャンプ! マイティキック! マ~イティアクショ~ン・X!!≫

 

≪アガッチャ!≫

 

≪DANGER! DANGER! デス・ザ・クライシス! デンジャラスゾンビ!!≫

 

 

 

 黎斗が黒い煙に包まれ、そして黎斗の前で重なる二枚のパネル。エグゼイドの物と微妙に違う変身サウンドの後、おどろおどろしいサウンドが鳴り、その直後、

 

「ヴェェェェィ……!」

 

 白いアーマーと黒いスーツ。白と黒が入り混じった、どことなくエグゼイドと似ている頭部をした仮面ライダーゲンム・ゾンビアクションゲーマーレベルX-0が、パネルを勢いよく突き破って青と赤の左右色違いの目を光らせながら出現。唸り声を上げながら構えを取った。

 

 次にレーザー。レバーを開くと同時、変身サウンドが鳴り出す。

 

 

 

≪爆走バイク!!≫

 

≪アガッチャ!≫

 

≪ぶっ飛び! ジェット! トゥ・ザ・スカイ! FLY! HIGH! SKY! ジェットコンバーット!!≫

 

 

 

 飛行物体こと『プロトコンバットゲーマ』がレーザーの頭上で変形、覆いかぶさるようにレーザーと合体。腰の辺りから伸びるガトリング砲と、ミサイルを搭載したウィングを身に付けた、仮面ライダーレーザーターボ・プロトコンバットバイクゲーマーレベル0の変身が完了した。

 

「な、何あれ、ゾンビ?」

 

「キリヤさんはともかく、あれも仮面ライダー……なのか?」

 

「ふぇぇ……なんか不気味……」

 

 困惑するアリシア、レヴォルに続き、エレナがゲンムの人間らしからぬ動作に怯えて気持ちレヴォルの後ろに隠れた。耐性のない人間にとって、ゲンムの動きは確かに不気味にしか映らない故に無理もない。

 

「全く……必要以上に抗われると、私としてはただただ鬱陶しいだけなのだがなぁ?」

 

 石柱の上から、剣と盾を持ち直しつつ、クロノスは一行を見下ろす。何度も何度も立ち向かって来る上、徐々に数を増やしていく一行に、いい加減業を煮やし始めていた。

 

「っ……悪い、彼女を頼む!」

 

「ふぇ!? あ、はい!」

 

 エグゼイドは後ろにいたキュベリエに、いまだ意識が朦朧としているシンデレラを預ける形で渡す。唐突に話しかけられて少し戸惑っていたキュベリエも、すぐさま状況を察して安全な位置までシンデレラを連れて下がった。

 

 そしてゲンムとレーザーの間に立つようにして、エグゼイドも構える。そしてクロノスへ向けて駆け出そうとした。

 

「待て!」

 

「っと……え?」

 

 が、ゲンムがそれを止める。軽くつんのめったエグゼイドが、何故止めるのかという意を込めてゲンムを見た。

 

 対し、ゲンムは振り返ることなくエグゼイドに手を差し出す。その手には、ある物が握られていた。

 

「これを使え」

 

 一言、そう言ってゲンムはある物……一つのガシャットをエグゼイドに渡す。受け取ったエグゼイドは、そのガシャットを見る。

 

 見慣れないガシャットだった。表は白、裏は茶色のカラーリング。RGサーキットボードには、ライダーの姿ではなく何故か一冊の本のような絵柄が描かれている。そして描かれているラベルを見た。

 

「これって……」

 

「今回の一件のためだけに開発したガシャットだ。本来ならば戦闘に使うつもりはなかったのだが、仕方がない。相手が()なら、こちらは()で攻めようではないか」

 

 その言葉の意味を問う前に、ゲンムはブレードモードのガシャコンブレイカーを召喚し、手に取って構えた。

 

「そいつでキメワザを使え! 私たちが時間を稼いでやろう!」

 

「行くぞ、神!」

 

 雄叫びを上げながら突っ込んでいくゲンム、背中のジェットパックから炎を噴射して飛び上がるレーザー。巨大な竜の首とB-ヴィランに対して果敢に挑んでいく二人に続き、パラドも前に進み出る。

 

「永夢、今はゲンムの言う通りにしようぜ。俺も手伝う!」

 

 ガシャコンパラブレイガンを構え、パラドも向かっていく。B-ヴィランへ向けて剣で切り込むゲンムとは別の方から攻め、斧を叩きつけていく。レーザーはガトリング砲を二体の竜へ、自身を狙う牙やブレスを巧みに避けながら、宙を自在に跳び回りつつ撃ち込んでいた。

 

「僕たちも行こう!」

 

「正直、触れたくもねぇ相手だがな……仕方ねえ!」

 

 レヴォルたちもまた、異形となっても基本の行動パターンは変わらずとも、より凶暴性を増したB-ヴィランを相手に駆けて行く。接近した際、大振りの爪を繰り出してきたB-ヴィランの攻撃を掻い潜り、レヴォルは剣を振り抜き、切り裂いた。

 

 一方で、エグゼイドは改めてガシャットを見る。そこに描かれているラベルは、エグゼイドには見慣れない物。だが、ラベルに描かれたゲームタイトルを、エグゼイドは知っている。

 

 ゲンムの意図が読めない。それでも、この状況で彼が何の考えもなしにガシャットを手渡すことはしないことを、エグゼイドは知っていた。

 

「……どんな力があるのか知らねえけど」

 

 どのような効果が現れるのかわからない。が、

 

「使わせてもらうぜ!」

 

 このガシャットに逆転の秘策があるというのならば、エグゼイドは躊躇わない。

 

 

 

≪GRIMMS NOTES!!≫

 

 

 

「え……?」

 

「グリムノーツ……って!?」

 

 起動してタイトルが読み上げられ、軽快な音楽と共にエグゼイドの背後に現れた、ページが捲れていく本が置かれているホログラムとゲームタイトル。しかしてそのタイトルは、レヴォルたちにも聞き覚えがあった。

 

 かつて世界を、想区と想区を渡って旅を続けていた者たち。物語を愛し、物語を綴り、物語の本当の意味を知っていた彼ら。幾千もの想区の生みの親である創造主で構成された旅人たち。

 

 旅人の一団『グリムノーツ』……レヴォルたちとも、そのメンバーの一人と幾度となく関わって来たため、その存在を知っている。

 

 故に戦いながらも驚く。何故、グリムノーツの名がゲームタイトルとして読み上げられたのか。何故彼らを知っているのか。疑問は尽きない。

 

≪ガシャット!≫

 

≪キメワザ!≫

 

 されど、状況はそんな疑問に答える余裕を与えない。エグゼイドはガシャコンキースラッシャーの、本来なら二枚挿しのためのスロットの片側へ挿入。銃口にエネルギーが蓄えられていく。

 

「行くぜ!」

 

 躊躇なく引き金を引き、キメワザを発動!

 

 

 

≪GRIMMS CRITICAL FINISH!!≫

 

 

 

 必殺技発動の音声サウンドと共に、銃口が輝き……炸裂音と共にそこから飛び出してきた物に、エレナは驚愕以前に唖然とする。

 

「こ、これって……!?」

 

 銃口から出てきたのは、マキシマムマイティXの時のような大火力のビームでも、ましてや相手にダメージを与えられるような代物ではなく。

 

 真っ白な霧が、水に入れたドライアイスが気化する時のように辺り一面に、エグゼイドを中心に広がっていった。

 

「な、何だ!? 霧!?」

 

 使用したエグゼイドは、予想と違う物が飛び出してきたことに狼狽える。だが、レヴォルたちはこの霧に似ている物をよく知っていた。

 

「これってまさか……『沈黙の霧』!?」

 

 アリシアが周りを少しずつ覆っていく霧の正体に当たりをつける。想区と想区の間に跨るように広がる、云わば境界とも言うべき真っ白な霧。人がそこへ迷い込むと、己の存在を、言葉を失い、やがて消滅してしまう恐ろしい霧。レヴォルたち空白の書の持ち主は仲間たちがお互いに認識することで、己の存在を維持して想区への移動を可能としている。

 

 そんな霧が、何故……だがパーンが、アリシアの言葉に異を唱えた。

 

「いや……沈黙の霧の中を歩いている時の感覚とは違う。これは全くの別物だ」

 

 互いを認識していながらも、油断すれば己の存在が曖昧になってしまいそうになる、あの感覚。この霧にはそれがない。つまりこれは、沈黙の霧を模した物ということになる。

 

 それはわかったものの、この霧には殺傷能力はない。ただエグゼイドの周りを、白い霧がもうもうと膨れていくように覆っていくだけだ。ただの目くらましか、それ以外の力があるのか、エグゼイドにもさっぱりわからなかった。

 

「ほぅ……煙幕のつもりか?」

 

 高見の見物をしていたクロノスが、霧によって姿を消したエグゼイドに向けて言う。仮面ライダーの瞳である視覚センサー『アイライトスコープ』にかかれば、そんなものに意味などないことを知らない筈がない……つまり、何かしら仕掛けてくるということであるとクロノスは予想した。

 

 何が来ようと無意味……だが、好きにさせるつもりもない。

 

 クロノスの意図を察したかのように、元はウィングヴィランであった一体のB-ヴィランが、槍を手にエグゼイドがいるであろう霧目掛けて突っ込んでいく。

 

「しまった!」

 

 霧に気を取られ、反応が遅れたレヴォルが剣を振るおうとするも、すでにB-ヴィランは霧の中へ吸い込まれるように消える。やがて霧の中で、視界良好ゼロのエグゼイドに槍が突き出される

 

 かと思えば、打撃音がしたかと思うと、霧の中から無様に吹き飛ぶB-ヴィランの姿があった。

 

「うぉっと!?」

 

 その射線上にいたティムが咄嗟にB-ヴィランを盾で殴り飛ばし、事なきを得る。中にいたエグゼイドが退けたのだろうかと、皆がそう思っていた。

 

 実際は……全く別だった。

 

「……え?」

 

 霧が消えていく。視界が元通りになり、そこに立っていたのは、いまだ武器を手に構えた状態で立っていたエグゼイド。

 

 それと、

 

 

 

「全く……お前は相変わらずこういう目に合うんだな、研修医」

 

 

 

 鋭い目つき、整えられた茶髪、凛とした顔つきの凛々しい男性と、

 

 

 

「言ってやるな。こいつは初めて会った時からそんな奴だったんだからな」

 

 

 

 白いメッシュの入った髪が特徴の、迷彩柄のズボンとコンバットシューズを履いた野性味を感じられる男性。

 

 

 

 エグゼイドを庇うかのように並び立つ、二人の男性。先ほどまでは存在していなかった筈の人間が、そこに立っていた。

 

「え……だ、誰?」

 

 またもや見知らぬ人間が現れ、エレナが困惑する。だが、レヴォルは彼らが纏っている服を見て、察しがついた。

 

 一見すると正反対に見える二人。だが共通する点が一つある。

 

「あの人たちは……まさか」

 

 彼らが羽織っている物は、白衣。即ち二人は、エグゼイドと同じドクターであることを示している。

 

 思い出すのは、エグゼイドが以前話してくれた仮面ライダークロニクルを終わらせるために共に戦った仲間たち……CRのメンバー。そのうちのメンバーの名を二人、エグゼイドは教えてくれた。

 

 その二人の名は、

 

「ブレイブ、スナイプ!?」

 

 仮面ライダーブレイブ、鏡飛彩。

 

 仮面ライダースナイプ、花家大我。

 

 かつて共に戦った仲間たちの突然の再会に、困惑するエグゼイドが叫んだ。

 

「何……?」

 

 それはクロノスも同様。かつて相手取った人間がいきなり現れたことに、理解が追い付かない。

 

 そんなクロノスを嘲笑う者が、一人。

 

「ハーッハハハハハハハハハハハ!!」

 

 B-ヴィランを叩き切りながら高笑いを上げるゲンム。そして誇らしげに語り出した。

 

「グリムノーツは、崩壊寸前の物語を救うために、童話から童話へと繋がる霧の中を渡り歩く旅人を主人公にしたアドベンチャーゲーム!! 即ち、世界を繋げる霧を作り出し、この世界と我々の世界を強制的に繋げることができるゲームだぁ!!」

 

「世界と……世界を!?」

 

 レヴォルは驚愕する。世界を繋げる……つまり、飛彩と大我がここにいる理由は、グリムノーツガシャットによる力、ということとなる。

 

 言うだけなら簡単だが、そんなこと普通ならば人類には成し得ない。不可能と呼べるような大きな力だ。それこそ神でなければできない。

 

 だが、それをこの男は、ゲンムは実現してしまった。何故ならば、

 

「大成功だぁ……やはり神の才能を持つ私に……不可能はぬわぁぁぁぁぁぁぁい!! ブァハハハハハハハハハハハ!! ブェェェハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 自らを神と称するだけの頭脳が、この男にはあるのだから。

 

「うっわぁ……すごいんだけど、本当にすごいんだけど……認めたくない……」

 

「同感です……しかし紛れもない事実というのが、また癪ですねぇ……」

 

 気持ち悪い笑い声を上げるゲンムに、激しくドン引きするアリシアとシェイン。才能は認めざるをえないが、彼女たちの中の人としての理性が、彼を受け付けようとしなかった。

 

「……全く……これ以上のキャストは無意味なのだがなぁ」

 

 クロノスが毒づく。いい加減鬱陶しさを隠そうともしない態度だった。

 

「よぅ! 来てくれたか、大先生に白髪先生!」

 

 飛び回っていたレーザーが着地、二人の傍に立って片手を上げる。飛彩と大我は、表情を崩すことなくクロノスを見据える。

 

「お前がもしもの時に備えて待機していろ、と言っていたからな……何もないに越したことはないとは思っていたが」

 

「まぁ、事情は知らねえがな。ただ……状況はわかった」

 

 そう言って、二人は取り出す。仮面ライダーにとって必須なアイテム……ゲーマドライバーを。

 

「クロノスがここにいる。それだけで十分だ」

 

「ああ。とっとと片付けるぞ」

 

 そして、腰にゲーマドライバーをセット。ベルトが自動で巻かれ、固定された。

 

「クロノス……貴様の存在は、どこの世界でもノーサンキューだ」

 

 白い大理石を思わせる意匠が特徴の金色のハンドガードが取り付けられたガシャットを取り出し、飛彩はスイッチを押して起動させる。

 

 

 

≪TADDLE LEGACY!!≫

 

 

 

「今度こそ引導を渡してやる……覚悟しな」

 

 大我が取り出したるは、パラドと同じ形の、しかしボディが赤で描かれたラベルも別の物という幾つか違う点があるガシャットギアデュアルβ。そのダイヤルを片側へ回転させた。

 

 

 

≪BANGBANG SIMULATIONS!!≫

 

≪I ready for Battleship! I ready for Battleship!≫

 

 

 

 飛彩の背後に現れた、人とも魔人ともつかぬ人物が描かれたホログラム。神々しいサウンドと共にそこから現れた、白い鎧が飛彩の周囲を飛び回る。

 

 対し、大我の背後に現れたホログラムには、敬礼をしたキャラクターとレーダーモニターが大きく描かれ、繰り返すサウンドの中、そこから船のような物体がゆっくりと進み出て来るように現れる。

 

「術式レベル100(ハンドレッド)

 

「第五拾(ごじゅう)戦術」

 

 飛彩はガシャットを眼前に、大我はガシャットの端子を銃のように突きつけ、

 

「「変身!!」」

 

 同時に叫び、ゲーマドライバーに挿入、そしてレバーを開く!

 

≪ガシャット!≫

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!!≫

 

≪デュアル・ガシャット!≫

 

≪ガッチャーン! デュアル・アーップ!!≫

 

 

 

≪辿る歴史! 目覚める騎士! タドルレガシー!!≫

 

 

 

 飛彩がゲーマドライバーから飛び出て来たパネルを扉を開くように通り抜けた瞬間、飛彩の姿は水色の光に覆われ、光が散ると共に黄色く鋭い瞳の騎士のような姿に。さらに飛び回っていた鎧が頭上から降りて来て、上半身を覆い、羽を模した兜が現れ、そして純白のマントが伸びる。風でマントが揺れ、右手に燃え盛る炎を模した刃を備えた『ガシャコンソード』を持ち、左手に小さい水色のシールドを装着したその佇まいは、純白の翼を生やした天使の騎士かのよう。

 

 勇者と魔王。二つの力を備えた騎士、仮面ライダーブレイブ・レガシーゲーマーレベル100が、そこに立っていた。

 

 

 

≪スクランブルだぁ! 出撃・発進・バンバンシミュレーショーン!! 発進!!≫

 

 

 

 大我は眼前に飛び出してきた仮面ライダーのパネルを、銃を撃つように指でタッチ。ゲーマドライバーから出てきたパネルと共に重なると、姿を黄色い髪のような防具で赤い目を片方だけ隠した全体的に群青色が目立つ仮面ライダーに変える。そしてその上をゆっくりと移動してきた船が上下逆さまとなり、勢いよく落下、展開し、両肩にそれぞれ四門、左右の手に一門の計10門の大口径砲台が備わったアーマーへ変化。さらに頭に司令官が被るキャップを模した白い装甲が追加された。

 

 戦艦の力をその身に宿した、歩く重火力戦艦こと仮面ライダースナイプ・シミュレーションゲーマーレベル50の変身が完了した。

 

「キャッホー! すごいすごい! 白い騎士と、なんか身体に大砲付けたごっつい仮面ライダーになったぁ!」

 

「ほほぅ……白い騎士か……いいわねいいわねぇ! 神話をイメージしたようなあのデザイン! 私のツボにどんぴしゃよ! 最っ高!」

 

「ふむ、あの大砲の仮面ライダー、見るからに大火力が期待できそうですねぇ……」

 

「……お前ら、こんな状況でもそのテンションは変わらねえのな」

 

 テンションが上がりまくっているエレナ、アリシア、シェインに、ティムが最早何も言うまいと呆れかえった。

 

「これより、仮面ライダークロノス及び敵生命体切除手術を開始する!」

 

「ミッション……開始!」

 

 飛彩ことブレイブは、手術開始前の医師の如く両手を掲げ、大我ことスナイプもまた大砲を構えてそれぞれ宣言し、

 

「「はぁぁぁぁっ!!」」

 

 雄叫びを上げながら、攻撃を仕掛ける。

 

 敵の群れに飛び込んだブレイブの華麗にして鮮やかな剣舞は、ガシャコンソードの『フレイムエリミネーター』によって炎を纏った剣閃となり、並み居るB-ヴィランを次々と切り裂いていき、スナイプはその場に留まりつつ周辺の敵を索敵、補足して両肩の『スクランブルガンユニット』と両腕の『オーバーブラストキャノン』を作動、引き金を引き、空中を飛ぶB-ヴィランも含めて次々と撃ち落としていく。

 

 二人の仮面ライダーによる参戦。それはこの不利な状況を覆す大きな力となる。

 

「よぉし、俺も負けてらんねぇな!」

 

「やろうぜ、永夢!」

 

 一気に攻勢に出るべく、エグゼイドとパラドもまた負けじと武器を手に取り、駆け出す。そしてB-ヴィランを切り、撃ち、蹴り飛ばしていった。

 

「よっしゃぁ! 自分らもノリノリで行くぜぇ!」

 

「コンティニューしてでも……クリアする!!」

 

 レーザーとゲンムもまた、果敢に攻めていく。上空からレーザーが竜の注意を引きつつB-ヴィラン目掛けてガトリング砲の弾をばら撒き、地上ではゲンムがB-ヴィランを駆逐していく。

 

「六人の、仮面ライダー……まさか、これほどとは」

 

 破竹の勢いで突き進む彼ら。かつて起きた大事件を解決に導いた戦士たちが、今ここに集い、そして彼らにとって異世界であるこの世界を守るため、己の経験をフルに活用し、戦い続ける。

 

 その光景は、まさに圧倒的。半ば呆気に取られていたレヴォルだったが、彼の肩を叩いて意識を戻す者がいた。パーンだ。

 

「彼らの力ばかりに頼ってはいられない……我々も戦おう!」

 

 言って、斧を持ち、パーンは駆け出した。

 

 そうだ、仮面ライダーばかりにこの世界のことを任せてはいられない。自分たちの世界は、自分たちで守らなければならない。レヴォルは自らに活を入れた。

 

「……はい!!」

 

 レヴォルもまた走る。その後ろに続く形で、エレナたちも武器を持ち直した。

 

「私たちも続くよー!」

 

「俺たちだってこれまで戦ってきたんだ! あいつらに負けるかよ!」

 

「よーし、皆行くわよー!」

 

「それじゃあ、仕切り直しと行きましょう!」

 

 エレナが、ティムが、アリシアが、シェインが、レヴォルに続く。そして一斉にB-ヴィランへ切り込んでいく。

 

 CRのドクターライダー、再編の魔女一行による共同戦線。歴戦の猛者である彼らそれぞれの力は、バグスターとヴィラン、二つの力を合わせた人ならざる者ですら遠く及ばない。二つの世界の正義を志す者たちの思いが一つとなった瞬間、彼らの命運はすでに決まっている。

 

 負けない。逃げない。ただ突き進むのみ……その決意の前に、B-ヴィランなど無力。

 

 埋め尽くす程いたB-ヴィランの群れ。それが徐々に、徐々に数を減らしていく。最早彼らを止めるのは、B-ヴィランには不可能であった。

 

「……全く、煩わしい……」

 

 が……その勢いを止める者が一人。

 

≪ガッチャーン≫

 

 クロノスが右手にバグルドライバーⅡを装備。チェーンソーモードにし、足に力を込めると、

 

「フンッ!!」

 

 石柱から飛び上がった。

 

 右手のチェーンソーを大きく振りかぶり、手近な者を狙う。真っ直ぐ振り下ろされる先に立っているのは、

 

「ッ!? エレナ、危ない!!」

 

 B-ヴィランを魔法陣で吹き飛ばしているエレナ。

 

「ふぇ?」

 

 自らに影がかかっているのに気付いた時には、もう遅い。クロノスから繰り出されようとしている凶刃は、エレナを切り裂かんと大上段から迫る!

 

「うぉぉぉぉぉっ!!」

 

 それを止めるべく、レヴォルが咄嗟にエレナの前に踊り出る。間一髪、レヴォルの剣がチェーンソーの刃に当たり、エレナは九死に一生を得た。

 

 が、身代わりとしてレヴォルの剣が、衝撃と振動に耐えきれずに真っ二つに折れてしまう。

 

「しまっ……!」

 

 砕け散る刃に気を取られ、クロノスの左手に装備された盾による打撃に気付かない。ノーガードで、レヴォルの顔面に盾の一撃が炸裂した。

 

「ぐがっ……!」

 

「きゃぁっ!?」

 

 レヴォルと、衝撃の巻き添えを食らったエレナが吹き飛ぶ。その際、二人のコネクトが強制解除。二人の姿が元に戻った。

 

「レヴォル! エレナ!」

 

 エグゼイドが二人の危機を視認し、迫るメガ・ヴィランのゴースト種のB-ヴィランを叩き切って排除してから駆け出す。阻止しようとするB-ヴィランを切り伏せつつ走るエグゼイドだったが、

 

「ダメだ永夢! 逃げろ!」

 

「お医者さん、危ねぇ!」

 

「避けなさい!」

 

 上空を飛ぶレーザーが、すぐ近くのティムとシェインが注意喚起をする。が、時すでに遅し、エグゼイドの上空から絶対零度の冷気が、氷の刃を伴いつつ襲う!

 

「ぐあぁぁぁぁっ!!」

 

 竜のブレスがエグゼイドを直撃、次々命中する氷の刃による衝撃でエグゼイドは弾かれたように飛び、地面を転がっていく。あまりにも強力なダメージで、エグゼイドもまた変身を強制解除されて元の永夢の姿へ戻ってしまった。

 

「永夢!」

 

 パラドが叫び、駆け寄る。永夢が痛みに呻く中、クロノスもまた動いていた。

 

「ゲームを盛り上げるのにキャストが多いに越したことはない……が、逆に多すぎるのもまた、盛り下げる要因になりかねない」

 

「う、ぐ……!」

 

「レヴォル……!」

 

 夥しい血が、ふらつきながらも立ち上がるレヴォルの鼻から流れ落ちる。灼熱を伴う痛みがレヴォルを襲い、意識が朦朧とする。クロノスの言葉も、エレナによる呼びかけも、遠く感じた。

 

「故に、間引きをする必要がある……まずは……」

 

≪キメワザ≫

 

 バグルドライバーⅡのAボタンを押し、キメワザ発動待機の音声サウンドが鳴り出す。そして、

 

「君たちから……絶版になるがいい!!」

 

 躊躇なく、Bボタンを押す。

 

 

 

≪CRITICAL SACRIFICE≫

 

 

 

 高速回転するチェーンソーに合わせて纏われていく深緑色のエネルギー。勢いよく振り下ろされたチェーンソーから離れ、エネルギーは凶悪な刃となって、レヴォルたちを食らわんと飛んでいく。当たれば、確実に挽肉になりかねない程の刃。このままでは、レヴォルの命は細切れとなるだろう。

 

「レヴォル君!!」

 

「逃げろぉ!!」

 

 アリシアとパラドが叫ぶ。距離的に見ても、彼らが駆け付けては間に合わないだろう。

 

 だが……ここで逃げれば、レヴォルの後ろで倒れているエレナに当たる。それでなくても、ここにいれば二人まとめてお陀仏なのは確実だ。

 

 それでも、レヴォルは、逃げない。エレナを庇うように、そこに立つ。

 

「く……!」

 

 確実に命を奪う刃は、もうすぐそこまで来ている。このままでは、二人とも死ぬ。

 

(こんなところで……!)

 

 それでも尚、レヴォルの瞳は光を失っていない。死を前にして尚、諦めるという選択肢はない。

 

「死んで……たまるか……!!」

 

 脳裏に浮かぶ、最愛の人の、大切な少女の笑顔。そして……彼女たちを生み出した、紡ぎ手の最後に見た顔。

 

 彼らの思いを守るためにも。

 

「絶対に……負けるものかぁ!!」

 

 

 

 諦めない……絶対に!

 

 

 

「レヴォルぅぅぅぅ!!」

 

 レヴォルを、自身を切り裂かんとする刃を前に、目の前の少年に向けて悲痛な叫びを上げるエレナ。叫びは壁にはなりえない。刃は嘲笑うかのように、二人に近づいていく。

 

 やがて刃は、二人に届こうと……八つ裂きにしようと、目と鼻の先にまで迫り、そして……、

 

 

 

 エレナの持つ箱庭の王国が、輝きを放つ。

 

 

 

 




オマケとして当作品オリジナルガシャット変身音がこちら。



≪グ・グ・グリムのお・は・な・し♪ Click! グ・リ・ム・ノォ~ツ!!≫



なんかもうこれだけで音源が何なのかわかるのって早々無いと思います。他に無いんかと。けどこれが一番しっくり来るから仕方ないねんと長い時間自問自答していました(約8分)。一応明記するとドレミファビートが元です。

それから、本来ならばブレイブとスナイプの他に、ポッピーも出そうと考えてはいました。

が……無理!! 私では今の人数を動かすので精一杯です。これ以上増やすと誰かが完全空気になってしまいます。故にポッピーは出せませんでした! ポッピーファンの皆様、申し訳ありません! 許してくだしゃんせ!!(おふざけは禁止!)

さて、展開が猛スピードで移り変わる最終決戦ですが、次回が終着点です。即ち、決着です。

そしてさらに次がようやく最終回です。予定通りに行けば。

そんなわけで、最後までどうかお付き合いくださいませ。ではでは~。

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