仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~   作:コッコリリン

20 / 26
遂に始まりました最終決戦。しかしこの出だし、さながらグリムノーツ The animationのラストを彷彿とさせる……つまるところ、ご都合主義っぽい……。

んなもん牛さんに食わせてステーキにして食っちまえばいい!(残酷)

ここまで来たんだし、最後まで突っ切ります。皆さま、何卒お付き合いくださいませ。

それから、私の文章で可能であれば仮面ライダーエグゼイド主題歌である三浦大知さんの『EXCITE』を再生しながら、最終決戦を読んでみてくださいませ。上がります(人によって個人差あり)。

では運命を決めるラストバトル……ファイッ!!


第20話 希望のEpilogue!

「……あ、れ?」

 

 気が付けば、レヴォルは周りが一面真っ白な空間に立っていた。見回して見ても、視界は変わらない。そして傍にいた筈のエレナも、クロノスも、そのクロノスが飛ばしてきた斬撃すらも消えていた。

 

 何もない、音もない、何もかもが存在していない空間。それはまるで、沈黙の霧の中に立っているかのような……。

 

「こ、ここは……僕は、一体……?」

 

 夢なのか? それとも自分はもう攻撃を食らって死んでしまったのだろうか? だとしたらここはあの世なのか? 様々な憶測がレヴォルの脳裏を飛び交う。しかしいずれも憶測の域を出ない。意識ははっきりしていて、地面にもしっかり立っている。なのに、ここに立っているだけで浮いているような、ちぐはぐな感覚に陥る。

 

 頭が、混乱する。狼狽えているレヴォルに、声をかける者はいない。そもそもここには、レヴォル以外誰もいない。

 

 

 

「レヴォル」

 

 

 

 筈だったのに、レヴォルの名を呼ぶ声がする。聞き間違いではない、確実にレヴォルは呼ばれた。静寂の世界故に、声がはっきりと耳に残る。

 

 誰だ……一瞬、レヴォルはそう言いかけた。が、口を噤む。

 

 誰の声なのか、すぐにわかったからだ。

 

「あ……あなた、は」

 

 背後から聞こえた声。躊躇わず、後ろへ振り返る。そして声の主をすぐに見つけた。

 

 そして……激しく動揺する。

 

 そこに立っていたのは、影だった。白一色の空間にぽっかりと穴が開いたかのようで、嫌が応にも目立つ存在。顔は見えず、口が開いている様子も見えない。見た目でわかるのは、体格が細い人間であるということだけだ。

 

 それでも、レヴォルは()の声を、影の輪郭を知っている。つい先日出会ったばかりの、そしてレヴォルにとって己の運命の転機とも言えるべき人間。

 

 大切な人たちに、悲しき運命を授けた張本人。

 

 

 

 そして……レヴォルにとっての、負い目。

 

 

 

「久しぶり……とも言えないか。そう時間も経っていないようだからな」

 

 二コリともせずにただそう言う()。何てことないような態度の彼だったが、レヴォルはただただ戸惑うばかり。

 

「な、何で……あなたはあの時……!」

 

 以前、彼が綴った物語が一つまとめられた想区において、レヴォルたちにとっての宿敵の男と対峙し、そしてレヴォルたちを逃がすために己の身を呈して対峙し……最終的に、己の存在を混沌の種とし、想区から存在を消した。

 

 その彼がどうしてここに。もしかして、自分は本当に死んでしまったのか? レヴォルは混乱するが、彼は態度を変えない。

 

「どうやら、僕の魂はヒーローという存在として認められたようでね……今の今まで、僕は箱庭の王国に眠りについていたんだ。今君が立っている場所は、まぁ、箱庭の王国の一部といったところかな。君は実際は死んでいないから安心してくれたまえ」

 

「それは……」

 

 古の英雄こと『ヒーロー』の魂……レヴォルたちが戦う時、栞にその魂を宿し、そしてその栞を空白の書に挟んでコネクトをする。云わば戦うために必要な……永夢たちで言うところの仮面ライダーに変身するためのガシャットのような物だ。普段は箱庭の王国に宿り、そして多くの魂は眠りについている。その眠りを覚まし、己の力にするためには、箱庭の王国に保存されている『魔法の鑑』を使わなければならない。

 

 だが、レヴォルは魔法の鑑をここ最近利用した記憶はない。エレナが使ったとも考えられたが、彼女は魔法の鑑を使う際はこちらにも声をかける。そして新たなヒーローが箱庭の王国の一員になったら、嬉々として報告するだろう。

 

 なら、どうして彼はここにいるのか。そもそも、目の前に立っている彼はあの時(・・・)の彼なのか。というよりも、何故自分はそんなところに来てしまったのか……疑問は尽きず、聞きたいことが頭の中でぐるぐる回ってばかり。

 

「あぁ、一つ言っておくと、僕は確かに君たちが出会った()とは別の存在……の、筈なんだが、どうも君たちと面識のある僕の記憶も共有しているようだ。何とも不思議なことがあるものだと思わないかい?」

 

 呆気らかんと言う彼。つまり、目の前にいる彼はレヴォルの知る彼ではないが、彼の中にある記憶はレヴォルたちが出会った彼と同じものという……何とも複雑なこととなっている。

 

「は、はぁ……」

 

 すごく重要なことな筈なのだが……当の本人がそんなこと微塵も思っていないようにしか見えないため、そんな曖昧な返事を返すしかできないレヴォル。

 

(あぁ、やはり彼なんだな……話し方が全く変わっていない)

 

 同時にどこか安堵する。飄々として掴みどころがない話し方、自分のことなのに他人事のように振る舞う……レヴォルが知っている彼そのものだった。

 

 理由はわからない。わからないなれど、もう会うことすら叶わないと思っていた人間と、こうして再び相見えることができた。

 

「まぁ、そんな訳だから僕と話す時は君たちと出会った僕と同じ感覚で話してくれていい。その方が君としてもやりやすいだろう?」

 

「それは……そう、だけど」

 

 だからこそ、彼に対してどう話せばいいのかわからない。何せレヴォルは、かつての彼にひどいことを言った。

 

 彼のことを人でなしだと、自己満足のために悲劇を綴ったのだと。何も知らなかったとはいえ、彼をそう罵った。

 

 謝らなければいけない。しかし謝る機会どころか、彼と向き合う時間すらなかった。

 

 何を、どう話せばいいのか。謝罪が先か、それとも再会を喜ぶのが先か……レヴォルは悩む。

 

「……何か、僕のことで思い悩むことでもあるのかい?」

 

 が、レヴォルの悩みを見透かしたように、彼は言う。一瞬、言い当てられて肩を震わせるレヴォル。だが、はっきり言うには今この瞬間しかない……レヴォルは意を決した。

 

「……僕は、あの時あなたに対してひどいことを言った。それこそ、あなたという人格を否定するようなことを……だから……」

 

 あの時、想区から去る時、気にしないように心の内で懸命に言い聞かせていた。だがその罪悪感は、無意識に心の重石となり、レヴォルを苦しめる。

 

 その苦しみを吐露するように、レヴォルは彼に向けて謝罪の言葉を口にする。

 

「……すまなかった……」

 

 一秒。それか一分程か。レヴォルからすれば長い沈黙だった。やがて、彼から出てきたのは、

 

「全く……何を悩んでいるかと思えば、そんなことか」

 

 呆れを含んだ、ため息一つだった。

 

「そ、そんなこと!?」

 

 想区から出て以来、ずっと悩んで来たのに。まさかため息一つ返されるとは思わなかったレヴォルは愕然とする。

 

 そんなレヴォルに、彼は続けた。

 

「あの時も言った筈だ。僕は、僕の物語を読んで憤りを感じ、登場人物たちの境遇を嘆き悲しみ、そして作者である僕に殴りかかろうとした……だからこそ、僕は嬉しかったんだ」

 

 物語を綴る者は、その物語に“意味”を込める。物語を読み、共感し、そして様々な感情が揺れ動く。

 

 怒り、悲しみ、嘆き、喜び、楽しさ……人はその感情が揺れ動くことを、“感動”と呼んだ。

 

 それこそが、読者の感情を揺さぶり、感動させることこそが、作者にとっての喜びであり、誇りだった。

 

 レヴォルは、彼の綴った物語の想区の出身だった。そして、レヴォルは彼が課した運命を背負った人間と近しい人間だった。

 

 だからこそ、その悲劇をレヴォルは目の当りにし……怒り、嘆いた。

 

 故に彼はもう一度言う。

 

「君は、僕の『理想の読者』なんだ……何も謝る必要はどこにもない」

 

 そして、そんな感情を抱いてくれたレヴォルに、彼は別れ際に言えなかった、己の心にある思いを口にした。

 

 

 

「ありがとう。本当に君は、優しい人間だ」

 

 

 

 優しい人間だからこそ、憤った。見過ごせなかった。悲しんだ。レヴォルのような人間がいることこそ、作者である彼にとって至上の喜びでもあった。

 

 だから、礼を言う。レヴォルがいたからこそ、彼は己の運命を全うできた……そう考えれた。

 

「そんな……僕は……」

 

 レヴォルは、真正面からそう礼を言われると、何ともむず痒い……しかし、どこか暖かい気持ちが湧き上がる。

 

 ずっと後悔していた。ずっと謝りたかった……だが、その謝罪は彼にとっては必要がなかったのだ。

 

 それでも、レヴォルの心は軽くなった。あの時の後悔を、ようやく消し去ることができた。そればかりか、彼自身から認められた……それでレヴォルは十分だった。

 

 だが……彼から漂う雰囲気が、一変した。

 

「……そんな君だからこそ……お願いがある」

 

「お願い?」

 

 何のことだとレヴォルが思っていると、

 

 

 

「君の身体を、使わせて欲しい」

 

 

 

 そう、突如切り出された。

 

「……え?」

 

 いきなりのことで、理解が追い付かないレヴォル。だが彼は続ける。

 

「君たちの会話を、僕は箱庭の王国から聞いていた。君たちがどんな敵と戦っているのかも、僕は知っている……だけど!」

 

 拳を、力強く握る。そして心のままに叫んだ。

 

「何なんだ……何なんだあの男は!! 僕の作品を、哀れで、無残で、無意味で……価値がないだと!? ふざけるのも大概にしろ!!」

 

 影の身体を、震わせる。彼の言う男……それは、作者である彼の物語を罵り、商品価値がないと断言したクロノスに他ならない。怒りのまま、彼はクロノスに対する怒りを口にする。

 

「確かに、物語の受け取り方は読者それぞれが違う。感動する者もいれば、何も感じない者もいる。けど僕たち作者は、それを押し付けることはしない。全て読者の感情に任せるだけだ……けど! あの男は、そんな読者が抱く感情をも否定した! 共感すらせず、ただただ商品価値だとかそんなくだらない物差し一つで、僕の物語を侮辱したんだ!! 仮面ライダークロニクル? そんなこと知るものか!! 僕の物語は僕の物語だ!! そんなよくわからないものの一部にされてたまるものか!!」

 

 叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ……彼のこんな姿を、レヴォルは知らない。

 

 だが、レヴォルは理解できる。彼は物語の意味を追い求め、そして物語を、悲しき運命を綴る己の信念に従って生きて来た男だ。その彼の物語を、彼の『おほしさま』を、クロノスはくだらないと一笑に付した……それは彼にとって、耐えがたい屈辱だった。

 

「僕にもプライドがある! 運命を全うした少女たちに対する僕の思いすらも、奴は踏みにじった……僕は、それが我慢ならない!!」

 

 やがて、一しきり怒りの咆哮を叫び終えた彼は、荒い息を落ち着かせていく。そして改めて、レヴォルへと向き直った。

 

「だからこそ、お願いだ。君を……いや」

 

 首を振り、言い直す。

 

「君の力を……僕に、貸して欲しい」

 

 頼む。そう付け足し、彼はレヴォルに頭を下げた。

 

 物語を侮辱し、悲劇の運命を否定したクロノス……そんな奴に、彼は一発お見舞いしなければ気が済まなかった。

 

それが彼の作者としての、『人魚姫』や『マッチ売りの少女』を生み出した人間としての矜持だった。

 

 魂でしかない自分では何もできない。故に頼む。

 

 誇りを、守らせて欲しいと。彼にとっての理想の読者であるレヴォルに。

 

「……わかりました」

 

 ぽつり、レヴォルは小さく言って彼の肩を、暗い影の身体の肩を掴む。

 

「だけど、僕はあなたに身体を貸すわけじゃない」

 

 彼の頭を上げさせ、そしてレヴォルは言った。

 

 

 

「僕とあなたが、共に戦うんです。奴から……クロノスから、物語を守るために」

 

 

 

 人魚姫を愛し、マッチ売りの少女を慈しんだレヴォルだからこそ、彼の怒りを最も理解でき、最も共感できる。

 

 だからこそ、彼に身体を貸すわけではない。彼の力をレヴォルが使うわけでもない。

 

「ああ……その通りだ、な」

 

 レヴォルと彼が、共に力を合わせ(コネクトし)て戦う……それこそが、彼の物語と共に生きて来たレヴォルだからこそ、できることだ。

 

「では、行こう……物語を守るために!」

 

 彼が言う。影でしかなく、顔が見えなくとも、レヴォルにはわかる。

 

 

 

「ああ……アンデルセン!」

 

 

 

 その目には、強い決意が宿っているということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

「レヴォルぅぅぅぅ!!」

 

 時は、戻る。意識を取り戻したレヴォルは、現在進行形で自身とエレナに危機が迫っていることを把握する。

 

 目の前にまで迫る、死の刃……それが届くよりも前、叫ぶエレナの持つ箱庭の王国が強い光を放つ。

 

 光は、一つの玉となる。虹色に輝く、掌サイズの小さな玉。それは真っ直ぐ、レヴォルへと飛んでいく。レヴォルはその玉を、迷うことなく掴み、そして、

 

 

 

 丸鋸状のエネルギー刃は、爆発した。

 

 

 

「そん、な……!」

 

 助けられなかった……爆発した先を、無念さと絶望が入り混じった顔で、パラドに助け起こされた永夢は膝を着く。

 

「嘘、だろオイ……!」

 

「レヴォル君……エレナちゃん……!」

 

 ティムが、アリシアが、呆然と呟く。信じられないとばかりに。

 

 パーンとシェインは、沈黙のまま。しかし心はティムたちと同様、絶望に打ちひしがれている。パラドも、二人と面識のなかった仮面ライダーたちすらも、その光景を呆然と見ることしかできなかった。

 

「フッ」

 

 この光景を作り出したクロノスのみ、鼻を鳴らす。虫の駆除が終了したとばかりの態度だった。

 

 誰も彼も、煙を見つめる。やがて煙が晴れれば、二人の死体が転がっているだろうことが想像できた。

 

 やがて煙が晴れていく。一面に散らばる瓦礫。そしてその中には夥しい血痕……否。

 

「……え」

 

 どこからか、素っ頓狂な声を上がる。仮面ライダーではなく、ましてやティムたちの誰でもない。

 

 声の主は、晴れた煙の中で蹲っていたエレナだった。身体中傷だらけではあるが、五体満足でそこにいる。

 

 彼女が見上げた先、そこにはレヴォルが立っている筈だったが……。

 

「あなたは……!」

 

 そこにいたのは、レヴォルにあらず。されどその姿を見たエレナの目には、驚きと歓喜が入り混じる。

 

「……その人にとって、運命に抗うということがどれだけ難しいかなんて、わからない」

 

 砂利を踏み鳴らし、一歩、一歩と前へ歩く。

 

「その運命の先には、幸せはないかもしれない……不幸な出来事しかないかもしれない」

 

 完全に消えた煙。その中から進み出て来た、一人の男。

 

「それでも人は、自らの運命に救いを見出すことはできる……!」

 

 逆立った髪と水色のメッシュの入った逆立った髪をした、黒を基調とした髪と同色のファーが裾に装飾された独特な服を身に纏った細身の男。首に巻かれた二色のマフラーを靡かせた彼は、真っ直ぐ、氷のような青い瞳を、熱い魂が宿っているかの如く強い思いを持って、クロノスへと向ける。

 

「価値があるか否かじゃない……それを踏みにじる権利なんて、誰にもない!!」

 

 左手に持った、氷の結晶を模した盾。右手に持った、両端に鋭く光る刃を施した槍。離れた場所にいるエレナからも感じられる冷気を放つ槍をバトンの如く華麗に回し、そして、

 

「人の人生は……ゲームなんかじゃない!!」

 

 矛先をクロノスへ向ける。

 

「物語を……運命を、侮るな!!」

 

 その男は、少年を救うために旅に出る少女の物語『氷の女王』や、己の幸せに気付かず薪となって生涯を終える『モミの木』……そして『人魚姫』『マッチ売りの少女』を生み出した者。

 

 悲しき物語に、希望を、『おほしさま』を見出す者。

 

 

 

「ハンス……!」

 

 

 

 名をハンス・クリスチャン・アンデルセン。かの有名な『アンデルセン童話』の筆者にして、運命を綴りし者『創造主』である男。

 

 

 

 レヴォルの身体を通し、クロノスの前へと……己の誇りと物語のために、立つ。

 

 

 

「バカな……アンデルセンだと!?」

 

「一体、どういう……魔法の鏡を使っていないのに!?」

 

 ヒーローの魂を召喚する魔法の鏡を介さず、レヴォルとコネクトを果たした創造主を前にし、パーンとシェインは前代未聞の光景に思わず叫んだ。

 

 だが、そんなことよりも何よりも。たった一つの確かなことがある。

 

「レヴォル君……よかった……!」

 

 レヴォルが、生きている。それだけで、永夢の心には安堵が広がった。

 

「チッ……いい加減に……」

 

 アンデルセンの前に立つクロノス。右手に持ったバグルドライバーⅡのチェーンソーを掲げ、

 

「私を煩わせるなぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 何度も何度も立ち上がるレヴォルたちに怒りをぶつけるかの如く、刃を振り下ろす!

 

「はぁっ!」

 

 アンデルセンとなったレヴォルは、その刃を盾で受け止める。火花が散り、衝撃と振動が盾を襲う。

 

 だが、盾は切れない。それは、物語を、そしてその物語を愛す者たちを守るためにあると言っても過言ではない強度を誇っている。いかに鉄をも切断するクロノスのチェーンソーと言えど、簡単に切れるような代物ではない。

 

「小癪なぁぁぁぁぁ……!」

 

「止めてみせる……お前を! 絶対に!!」

 

 火花を挟むかのように、ゼロ距離でせめぎ合うレヴォルとクロノス。クロノスの仮面を睨むレヴォルは、身体中に張り巡らされる力を使い、クロノスを押し返す。

 

 アンデルセンという、創造主の力。これまでコネクトしてきたヒーローよりも頭一つ抜きんでているその力は、クロノスへ迫るものを感じ取れた。

 

 だが、

 

「ほざくな!」

 

 盾を振り払い、レヴォルを交わす。接敵する対象が消え、押し込んでいた力を制することができずに、レヴォルは前へつんのめる形となる。

 

「はぁっ!」

 

「ぐぁっ……!」

 

 そこを、がら空きとなった背中目掛けてクロノスは回し蹴りを叩き込む。強い衝撃だったが、地面を転がって受け身を取って立ち上がったレヴォル。

 

 大したダメージではない。が、レヴォルの頭上を影が覆う。

 

「上だ!」

 

 B-ヴィランを切り伏せながら、ブレイブが叫ぶ。レヴォルが頭上を見上げれば、そこには牙が生え揃った大口を開けている竜の顔。獰猛な竜は、殺意の如く口の中に氷のエネルギーを溜め込め、狙いをまっすぐレヴォルへ定めている。

 

 間もなく吐き出されようとしている、氷のブレス。今すぐ避ければ、刃混じりの吐息をその身に受けることはないだろう。

 

「はぁっ!」

 

 レヴォルは迷うことなく、跳ぶ。

 

「んなぁ!? レヴォル君!?」

 

 真上に。即ち、竜の口目掛けて。予想外すぎて思わず叫ぶアリシア。

 

 竜の口の中へ飛び込んだレヴォルにより、口の中のエネルギーが霧散する。そして口が閉じられ、さすがの竜も驚いたせいで、牙でかみ砕くことなくゴクリと音を鳴らしてレヴォルを飲み込んでしまう。

 

「ちょ、おいおいおいおい!? 何自分から飲み込まれちゃってんの!?」

 

「バカかあいつは!?」

 

「レヴォル君!?」

 

 空を飛ぶレーザーとティム、永夢が、レヴォルの血迷ったとしか思えない行動に驚愕、狼狽える。他の面々も同様、何をしているんだと全員の気持ちが一致した。

 

 さすがの創造主とコネクトしているとは言えど、巨大生物に飲み込まれてしまえば無事ではすまない。レヴォルだってそれくらいわかる筈だ。

 

 しかし現実は呆気なく、レヴォルは竜に飲み込まれてしまった。小さくげっぷを鳴らした竜は、次の獲物に狙いを定めんと口を開く。

 

 

 

「おぉぉぉぉぉぉ……!!」

 

 

 

 が……響き渡る声。その声がどこから出ているのか、竜は首を捻る。探せど探せど、声の主は見つからない。

 

 それもその筈。声の主は、

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 己の身体の中に入っているのだから。

 

 

 

『――――――――ッ!?』

 

 首元から感じる熱。やがて熱は口まで昇り、そして口から、鼻から、目から、あらゆる穴から灼熱の炎となって迸る。防ぎようがない炎により、竜の身体が罅割れていき、その罅からも尋常ならざる炎が噴き出し、そして、

 

「うぉぉ!?」

 

 爆砕、崩壊していった。

 

 傍を飛んでいたレーザーが、衝撃でバランスを崩す。不時着を防ぐべく、あっぶねと小声で呟いてフラつきながらも着地した。

 

「ぬぅぅぅ……!」

 

 己が従えていた竜が一体倒され、クロノスは呻く。やがて竜の身体を構成していたガラス片にも似た水晶が降り注ぐ中、レヴォルが得物を携えつつクロノスへと歩いていく。

 

「あ? 何だありゃ?」

 

 その両隣に、先ほどまで存在していなかったぬいぐるみのような小人を従えながら。

 

 右隣を浮くのは、青い髪と水のようなドレスを纏った少女の小人。

 

 左隣を浮くのは、朱色の髪と赤いドレスを纏った少女の小人。

 

 いずれも青い光を纏って、踊るようにレヴォルの周りを飛び回っている。その姿は愛らしくも映るが、しかしその小人からは見た目からは想像つかない程の力を感じられる。

 

 レーザーが妙な物を見る目で小人を指さす。その近くで戦っていたアリシアが「待ってました」とばかりに目を輝かせた。

 

「あれは『イマジン』! その物語を作った創造主が召喚することができる、云わば創造主だけが使える力よ! 創造主が生み出したイマジンの力は計り知れないと言われていて、事実私たちが出会った人たちの中にもイマジンがですね」

 

「お、おぅ……」

 

「アリシア、状況をよく見よう。今戦闘中だよ」

 

 久々の解説によって妙に生き生きとするアリシアに面食らうレーザー。それを窘めるパーン。

 

「……先ほどと同じように、行くと思うな」

 

 クロノスへ歩み寄りながら、レヴォルは言う。小人ことイマジンが追従し、クロノスを小さな瞳で睨む。

 

「物語の力を……思い知れ!」

 

 創造主は物語を生み出す者。そしてその物語の登場人物を呼び出し、使役し、共に戦うことができる存在。

 

 その力をもって、クロノスへ対峙する。

 

「チィ……!」

 

≪ガッチャーン≫

 

 クロノスはバグルドライバーⅡをベルトへ戻し、剣を召喚する。剣と盾を持ち、レヴォルへ一気に接近した。

 

「らぁぁぁぁっ!!」

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 そこから始まる、武器と武器による応酬。剣の薙ぎを槍で受け、槍の突きを盾で受ける。少しでも触れれば致命傷になりかねない凶悪な互いの刃が、レヴォルとクロノスの間で舞い、そして火花を散らす。

 

「せぇい!!」

 

 やがてレヴォルが、槍をクロノスの顔目掛けて突き出し、それをクロノスが剣で受け流す。そして二人は、再び膠着状態へと入った。

 

「ぬぅぅ……やるではないか」

 

「……」

 

 クロノスから出て来る称賛。レヴォルは何も答えないが、その余裕の声色には相変わらずの嘲りが含まれていることに気付いていた。

 

「だが所詮、君の力ですらクロノスには届かない……いずれ君は私に倒される運命にあるっ!」

 

「……」

 

 断言するクロノス。だがそれは、レヴォルにだってわかっていた。

 

 実力は互角のように見える。しかし実際のところ、クロノスにやや圧倒されている点は否めない。創造主であるアンデルセンの力が弱いのではない、レヴォルがまだ使いこなせていないのだ。このまま長引けば、やがて倒されてしまうのはレヴォルの方だ。

 

「……そうかな?」

 

 が、レヴォルは笑う。その笑みは自棄になったものではなく、狂ったわけでもない。

 

 単純に、余裕がある時に浮かべる笑みだ。

 

「……何のつもりだ?」

 

 その意図が読めない。クロノスは努めて平静を保ちながら問う。尚も笑うレヴォルだったが、やがて懐を漁り出した。

 

「僕が何の意味もなく、竜の口に飛び込んだと思ったか」

 

「何……?」

 

 どういう意味か……一瞬考え、そしてすぐにその言葉の意味を理解した。

 

 そして、クロノスの中で焦燥感が警鐘を鳴らす。

 

「……まさか!?」

 

 正解だ、とばかりにレヴォルが取り出した物を見せつける。

 

 

 

 それは紛れもなく、金色に輝く星型の端子を備えたハイパームテキガシャットだった。

 

 

 

「あ、なるほどぉ! だから自分から飛び込んでったって訳かぁ!」

 

「やるではないか少年んんん!! 褒めて遣わしてやろぉ!!」

 

 レヴォルが何故、あの時竜の口へ飛び込んだのか……全ては、勝利の切り札を取り戻すため。その意図を察したレーザーとゲンムが、レヴォルを称賛する。

 

「その場にある物を、うまく活用していくのも攻略の鍵……」

 

 青い瞳がクロノスを射抜く。竜の前まで行けるように立ち回り、クロノスにあえて蹴られたレヴォル。ハイパームテキを飲み込んだ竜の体内に入り、ハイパームテキを回収するついでに厄介な敵を倒す。

 

「それが……ゲームの基本だ!」

 

 かつて永夢が実践してみせた、レヴォルなりの攻略法。うまく行けるか正直不安もあったが、こうして目的の物を手に入れることができた。

 

 それだけで、十分実践した価値はあった。

 

「おのれぇぇぇぇっ!!」

 

 ハイパームテキを奪い返そうと、ポーズを使うためにクロノスはせめぎ合いから抜け出そうとした。

 

 が、それすらもレヴォルはお見通しだった。距離を離そうとしたクロノスを追い、再びせめぎ合いへ持ち込む。

 

「こうしている限り、お前はポーズを使えない!」

 

「クッ! だが、君もまたハイパームテキをエグゼイドへ渡すのは不可能だ!」

 

 忌々し気に言うクロノス。事実、このままではレヴォルは永夢へムテキガシャットを届けに行くことは叶わない。投げようにも、永夢からは距離が離れすぎている。レヴォル一人では無理だ。

 

 そう、一人なら。

 

「生憎だが、渡す手段ならある!!」

 

 言って、レヴォルは後ろ手でムテキガシャットを投げる。その先には、誰もいない。

 

 が、それを受け取る者が飛んで現れた。

 

「何ぃ!?」

 

「行けぇ!」

 

 ムテキガシャットを手に取ったのは、赤いドレスの少女こと、マッチ売りの少女のイマジン。合点承知、とばかりに敬礼しつつ、マッチ売りの少女は永夢目掛けて、ムテキガシャットを抱えながら飛んでいく。

 

「離れろぉ!!」

 

「断る!!」

 

 それを止めるためにクロノスがレヴォルを蹴り飛ばそうとする。が、盾によってそれを防御。クロノスをその場に縫い付ける。

 

 マッチ売りの少女は、B-ヴィランの間を縫うように飛ぶ。一部のB-ヴィランがクロノスの意思を察し、爪や武器を振るってマッチ売りの少女を叩き落そうと迫った。

 

「はぁっ!」

 

「せぇい!」

 

 が、それは叶わない。

 

「早く行け!」

 

「頼んだよ!」

 

 ブレイブとパーンが、B-ヴィランを切り伏せていく。マッチ売りの少女は言葉こそ話さなくとも、礼の念を込めて二人に頷き、飛んでいく。

 

「くっ……!」

 

 永夢もまた、先ほどまで痛みで動くことすらままならなかった身体を、持ち前の意地と根性を総動員し、苦痛を押してでもマッチ売りの少女へと駆ける。少しでも距離を近づけるため、B-ヴィランを蹴り飛ばし、時に突き飛ばしながら走る。

 

「永夢はやらせないぜ!」

 

 永夢を狙う弓矢を持ったB-ヴィランには、パラドが銃で撃ち抜く。それでも尚、永夢を狙って動くB-ヴィラン。だが、それでも永夢の下へは辿り着けない。何故ならば、

 

「ヴェハハハハハハハハハ! 神である私の前を素通りできるとでも思ったかぁ!!」

 

「素通りしたい気持ちの点だけは同感ではありますが、ね!」

 

「こんのぉ!!」

 

 ゲンムがガシャコンブレイカーで殴り飛ばし、シェインが強靭な足技で蹴り飛ばし、アリシアが大砲で吹き飛ばす。全ては、永夢が進む道を切り開くため。

 

 B-ヴィランでは相手にならない。残された竜の首が、永夢を、マッチ売りの少女もろとも吹き飛ばそうと口を開く……が、その口の中が爆発し、痛みで仰け反った。

 

「ヘイヘーイ! テメェは自分と相乗りしてもらおうじゃねぇの!」

 

 地上からミサイルと腰だめに構えたガトリング砲を携え、竜を狙うのはレーザー。地上から押し寄せるミサイルとガトリングの嵐を前に、竜はただただ鬱陶しそうに首をうねらせるしかできない。ダメージこそ少ないが、レーザーにとってはそれだけで十分だ。

 

仲間たちの協力の下、後数メートル、後少し……そうしてマッチ売りの少女と永夢の距離が徐々に縮まっていく。

 

『――――$%$&?!』

 

 が、それを邪魔する者が立ちふさがる。メガ・ドラゴンのB-ヴィランが、マッチ売りの少女の前に立ち塞がる。その大きさは、マッチ売りの少女ごとムテキガシャットを飲み込める程だ。

 

 マッチ売りの少女は、あまりの巨体のB-ヴィランの前にして止まる。右か、左か、どちらへ回るか……一瞬、思考を巡らせる。

 

 そして何を思ったか、ムテキガシャットを上へ目掛けて投げ飛ばした。

 

『――――!?』

 

 B-ヴィランは突然の行動に戸惑い、動きを止める。視線の先には、ムテキガシャット。くるくると回転しながら宙を舞う。

 

 やがて……B-ヴィランよりも高い位置、重力に従い落下を始める地点。

 

 そこにはもう一人、青い髪のイマジン、足を尾ひれへと変化させた、人魚姫の姿。

 

『―――ッ!』

 

 その場でクルンと一回転。勢いをつけた尾ひれは、ムテキガシャットに命中。オーバーヘッドキックの如く蹴り飛ばされたガシャットは、真っ直ぐ、勢いよく、

 

「来た……!」

 

 永夢の下へ。

 

「よっと!」

 

 軽くジャンプし、ムテキガシャットを手に取る。慣れ親しんだ感触が、永夢の手から伝わる。

 

「ありがとう!」

 

 永夢は、ムテキガシャットを運んでくれた二人のイマジンに礼を言う。マッチ売りの少女と人魚姫は、ナイスチームワーク! とばかりに宙でハイタッチを決めていた。

 

 そして……反撃の準備を、開始する。

 

「パラド!!」

 

 永夢がパラドを呼ぶ。パラドは頷き、レバーを戻して変身を解除。

 

「ああ! やろうぜ、永夢!!」

 

 飛び上がったかと思うと、その身を赤と青の粒子へ変える。真っ直ぐ永夢へと飛んでいくと、永夢の身体に侵入。永夢の目が赤く光ると共に、永夢とパラドは一つとなった。

 

「させるかぁ!」

 

「ぐぁっ!」

 

 それを見たクロノスが、渾身の力でレヴォルを押し出す。たまらず距離が離れてしまったレヴォルを余所に、クロノスは剣の腹を使ってポーズを使おうと

 

≪HIT!≫

 

≪HIT!≫

 

「んぐぅ!?」

 

 した瞬間、エネルギー弾がクロノスに命中。ポーズは中断される。

 

「そりゃこっちの台詞だ!」

 

 スナイプがクロノスへ、両腕の主砲の照準を合わせる。過去に何度も相対してきたからこそ、クロノスの動きが手に取るようにわかる。

 

 そして、

 

「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 怯んだクロノス目掛け、ティムが槍を振るって飛び掛かる。咄嗟にクロノスが剣で受け止めるも、構わず連続で槍の矛先を突き出す!

 

「ヘヘ、やっとテメェの余裕が崩れたのを拝むことができたぜ! あん時の仕返しだ!!」

 

「邪魔だぁっ!!」

 

「邪魔してんだぁっ!!」

 

 ティムに妨害され、ポーズができない。我武者羅に、時に盾をも使い、ティムがクロノスを押して押して押しまくる!

 

 仲間たちが、永夢を援護している。全ては勝利のために……この世界のために。

 

 永夢は、左手にマキシマムマイティXを、右手にイマジンが届けてくれたハイパームテキを持ち、同時に起動スイッチを押した。

 

≪MAXIMUM MIGHTY X!!≫

 

 

 

≪HYPER MUTEKI!!≫

 

 

 

 左にマキシマムマイティXのホログラム映像が、右にハイパームテキの虹色に光るゲームスタート画面に髪を靡かせた金色のマイティが描かれたホログラム映像が、サウンドと共に現れる。

 

≪マキシマム・ガシャット!≫

 

≪ガッチャーン! レベル・マーックス!!≫

 

 勢いよくマキシマムマイティXガシャットをゲーマドライバーに挿す。そしてすぐさま、左手でアクチュエーションレバーを開いた。

 

「皆が繋げたこの思い……絶対無駄にしない!!」

 

 このチャンスを、かならず物にする。強い覚悟を持ち、永夢はハイパームテキを持った右手と左手で、独特の構えを取る。それはさながら、ムテキの“ム”を模したかのよう。

 

「ハイパー……!」

 

 そして叫ぶ。皆の思いを背負い、絶対に勝利を掴むため。

 

「大・変・身ッ!!」

 

 絶対無敵の希望となるために、変身する!

 

≪ドッキーング!≫

 

 ムテキガシャットの側面にある『ハイパードッキングジョイント』が、音声と共にマキシマムマイティXに接続される。そして両拳で、マキシマムマイティXガシャットのアーマライドスイッチと、ムテキガシャットの『ハイパームテキスイッチ』を叩きつけるように押す。そして、

 

≪パッカーン!≫

 

 ムテキガシャットのラベルが描かれた『ガシャットエングレイブ』が倒れるように開かれ、下面にマキシマムマイティXの姿が、そして上面に光り輝く『ハイフラッシュジェネレータ』に描かれた究極のエグゼイドの姿が露わとなる。

 

 

 

≪ムゥゥゥテェェェキィッ!!≫

 

 

 

 それが……変身開始の合図だ。

 

 

 

≪輝けぇ! 流星の如く!≫

 

 

 

 マキシマムマイティXのパネルと、ムテキガシャットから飛び出した金色のパネルが右拳を掲げた永夢と重なり、その姿がエグゼイドに。そしてマキシマムゲーマに飲み込まれ、

 

 

 

≪黄金の最強ゲーマー!≫

 

 

 

 すぐさまエグゼイドが射出してゲーマが金色の粒子と共に消失、宙高く舞い上がったエグゼイドを、幾つもの星のような光が追い、エグゼイドと一つとなる。

 

 黄金の星の輝きを放つエグゼイド。それこそが、

 

 

 

≪ハイパームテキ! エグゼーイド!!≫

 

 

 

 究極の戦士、仮面ライダーエグゼイド・ムテキゲーマーの姿である。

 

 

 

「あれが……ハイパームテキ……!」

 

 地表に降り立った新たな姿となったエグゼイドの姿を見て、エレナが息を飲む。

 

 全体を黄金色に変え、両肩のアーマー、頭部とゴーグルが星の形を模した物へ。瞳は虹色に煌めき、そして一番の特徴が後ろへ流れるように靡く金色の長いドレッドヘアー。目の錯覚で無ければ、エグゼイドの周りを煌めく金色の粒子が舞い散っているように見える。

 

 顔は星、髪は尾。その姿はまるで、暗い夜空を切り裂く流星。

 

「何なの、あのエグゼイド……明らかに他の姿と、根本が違う……」

 

「こいつが、最強の姿だってのかよ……」

 

 アリシアとティムもまた、煌びやかを絵に描いたようなエグゼイドの姿に見惚れ、そしてその姿から感じる圧倒的な力を前に慄く。

 

「この、感覚……これがムテキ、か」

 

「……」

 

 実力者であるパーンとシェインもまた、エグゼイドが持つ力を前にして言葉少なとなる。それほどまでの力が、今のエグゼイドにはある。

 

 何者も壊すことすらできない、希望の象徴……それがエグゼイド・ムテキゲーマーである。

 

「くぅ……! よもや、変身を許すとは……!」

 

 ハイパームテキは、クロノスの天敵。ティムを突き飛ばしつつ歯噛みし、憎々し気な視線が仮面の奥からエグゼイドを射す。

 

 エグゼイドの周りに、B-ヴィランは近寄れない。近寄ろうとすら思っていない。光を恐れる悪魔のように、エグゼイドの放つ光がB-ヴィランの闘争本能を奪っているのか、中には震えてすらいる個体も見られる。

 

「行くぞクロノス……ここからが本番だ!」

 

 クロノスへ向けて歩くエグゼイド。黄金の輝きを纏ったエグゼイドの姿を前にした者は、あらゆる悪の戦意を削ぐだろう。

 

 レヴォルもまた、エグゼイドの横に並ぶ形で立つ。真っ直ぐ、その冷たい瞳をクロノスへ向け、槍を回転させて持ち直した。

 

 ハイパームテキと、創造主。クロノスは、二人の最強を前にしていた。

 

「……あまり調子に乗らないことだ」

 

 それでも尚、クロノスは自らの勝ちを諦めたつもりはない。クロノスは竜と竜が出現した間の空間に立ち、バグルドライバーⅡに手をかける。

 

「完全に力を取り戻してからが理想だったのだが……仕方がない」

 

≪ガッチョーン≫

 

≪ガッチャーン≫

 

 バグルドライバーⅡを手に取り、右手のグリップに装着。そしてそのまま、銃口を天へ向けて掲げた。

 

「いでよ……我が手駒たち!!」

 

 銃口から、オレンジ色の粒子が飛び出す。ヴィランをバグスターに感染させた時のような光景だが、粒子は飛び散ることなくクロノスの前に二つ、並ぶようにして形を成していく。

 

 やがて、その姿が露わとなる。

 

『グゥゥゥゥ……!』

 

 一体は、ゲムデウス。巨大な一角と翼のような装飾を背中に付けた、全バグスターを超越したバグスター。右手には片刃の巨大な剣、左手には有機物を思わせる盾を手にし、唸り声を上げる。

 

 そしてもう一体。こちらは、予想外の者だった。

 

『ア、アアアアア、ア……!』

 

 漆黒のドレス。6枚の黒い翼。二本の右腕。顔半分を仮面で覆った、シンデレラに似た顔。虚無を形にしたような無表情の口から出るのは、ノイズ混じりの無機質な唸り声。

 

「カオステラー!?」

 

 その姿はまさしく、レヴォルたちと戦い、そして敗北の果てにクロノスに吸収された、この想区のカオステラー。だがかつて見せた凶悪で残忍な本性とは打って変わり、どこか様子がおかしい。

 

「彼女の力は私が吸収した。故に、そのデータを元にバグスターとして蘇らせたのが、今の彼女だ……最も、彼女の人格データは写していないせいか、理性なんて残ってはいないがね」

 

「お前は……どこまで外道なんだ!」

 

 かつて命があった者に対する所業ではない。己の力になるならば、命など躊躇いなく弄ぶ。

 

 それがクロノス。それが檀正宗。ゲームという狂気に取り付かれた男。

 

 知っていた筈が、ここまで倫理から逸脱した人間だったのかと、エグゼイドは戦慄した。

 

「何とでも、言うがいい……!」

 

 新たな強敵を二体召喚したクロノスは、仮面の黒い瞳の向こうから、憎悪を込めてエグゼイドを、そしてハイパームテキに変身する機会を与えたレヴォルを射抜く。

 

「私の計画を狂わせたのは君たちだ……最早、君たちにかける慈悲は欠片もない……!」

 

 再び起こる、足元を揺らす大きな地震。それも先ほど竜の首が現れた時よりも遥かに、でかい。

 

「何だ!?」

 

 今度は何が来るのかと、エグゼイドとレヴォルが揺れに耐えつつ身構える。やがて揺れが一際大きくなったかと思うと、クロノスが立っている地面を中心に罅が入り、徐々に大きく割れていく。

 

 地割れとも言える程の割れ目が、闘技場の半分を崩壊させていく。壁が、観客席が、柱が……それら全てが、瓦礫と化し、落ちていく。

 

「君たちの存在は、仮面ライダークロニクルの大きなバグッッッ!! 故に!!」

 

 その中で、クロノスは立っていた。

 

 彼の足場だった筈の地面は消え、代わりに水晶の床……否、それは大きな背中だった。

 

 せり上がってくるのは、要塞と見間違える程の巨大な身体。ジャンボジェット機よりも遥かに広い、透き通った巨大な翼。巨木並に太い尻尾。その身体に繋がれているのは、竜の頭。破壊された片方の竜の首が、半ばまでが無くなった断面から水晶が再生するかのように生えていき、やがて元の姿に復元された。

 

 現れたのは、竜の身体。全長10mをも超える巨体、そこから伸びる二本の首を持つ竜が、闘技場を半壊させながら、クロノスを乗せて現れる。

 

 竜の主、クロノスは眼下にいるエグゼイドたちへ向け、

 

 

 

「今ここで……絶ぇッッッッッ版にしてくれる!!」

 

 

 

 殺意を込めて、高らかに告げる。負の感情が、クロノスの中のカオスの力が増幅させていく。今のクロノスは、世界を崩壊させる力を秘めているのは間違いない。

 

「ウオオオオオオオオッ!!」

 

『アアアアアアアアッ!!』

 

 カオスの力に当てられたのか、ゲムデウスとカオステラーが絶叫を上げてからエグゼイドとレヴォルに突撃を開始する。それを迎え撃とうとした二人だったが、

 

「おらぁっ!!」

 

「あらよっと!」

 

 ティムとレーザーが二人の前に飛び出し、ゲムデウスとカオステラーの突進を遮った。

 

「こっちは俺らに任せとけ!」

 

「お前らは……ラスボスをやれぇ!」

 

 雄叫びを上げながら、ゲムデウスを盾で抑え込みつつ押し出していき、カオステラーに鎌による乱舞を繰り出してエグゼイドとレヴォルから離していくティムとレーザー。

 

「ッ……わかった!」

 

 二体とも、これまでのB-ヴィランとは比較にならない強さだろう。しかし、仲間たちは強い。ならば彼らの強さを、エグゼイドとレヴォルは信じる。

 

 そして見上げる。巨大な足が現れ、さらに闘技場を破壊していく竜。その背中にはクロノスが、倒すべき敵がいる。

 

 カオスとクロノスの力は、強大だ。本気を出したクロノスは、これまでの戦いよりも遥かに厳しいものになることは間違いがない。

 

「エム……!」

 

 それでも……レヴォルは諦めない。

 

「ああ……レヴォル!」

 

 エグゼイドもまた、クロノスの暴虐をこれ以上野放しにするつもりはない。

 

「この世界を……想区の人たちの運命のために!!」

 

 物語を守るため、その手に武器を。

 

「この世界の……全ての人たちの笑顔のために!!」

 

 人々の運命を守るため、その手に思いを。

 

 横に並び、背中を合わせる。そして、手を竜へ、クロノスへ向けつつ、二人は声を合わせた。

 

 それは、

 

 

 

 

「「超友情プレイで、クリアしてやるぜ!!」」

 

 

 

 

 世界を超えた絆で結ばれた、二人の協力プレイ開始の合図だった。

 

 

 

~ 第20話 希望のEpilogue! ~

 

 

 

「アァァァアアアアァァァアッッ!!」

 

 かつて想区を混沌に陥れ、シンデレラの幸せを自らの物としようとした継母の成れの果て……の、成れの果て。

 

 知性は無く、ただただ甲高い絶叫を上げるだけしかない『カオステラーの力を行使できるバグスター』となった存在……それが今ここにいる彼女だ。

 

 しかし、そんな存在とはいえど、繰り出す攻撃は相変わらず苛烈なものであることに変わりなく、広げた翼を羽ばたかせ、無数の羽根を矢の如く飛ばす。

 

「うぉぉあっぶねっ!!」

 

「ほっ!」

 

 それらを危なげなく避けるレーザーとシェイン。その横、羽根の猛威を避けたスナイプとアリシアが、遠距離から攻撃を行う。

 

「おらおらおらぁ!」

 

「そらそらそらぁ!」

 

 肩と腕から連続して発射される強力なエネルギー弾、炎を伴った砲弾。翼から繰り出される羽根に負けず劣らず、怒涛の弾幕となってカオステラーを襲う。間で弾と羽根とぶつかり合い、小規模な爆発が何度も起きる。

 

弾幕によるせめぎ合いを制したのは、スナイプとアリシア。何発か命中し、翼を貫通したことが原因で高度を維持できず、空を飛んでいたカオステラーが痛みに呻きつつ降下し、足を地に着けた。

 

「うっし! こいつにはこれで攻めてみっかぁ!」

 

 言って、レーザーは再び黒いガシャットを手に取り、スイッチを押した。

 

≪SHAKARIKI SPORTS!!≫

 

 読み上げられたゲームタイトルとサウンドは、エグゼイドが持っているシャカリキスポーツと同様の物。しかし現れたホログラムは白黒であり、そこから飛び出してきたスポーツゲーマもまた白黒だった。

 

≪ガッシューン≫

 

≪ガシャット!≫

 

 挿入されていたプロトジェットコンバットガシャットを抜き取り、『プロトシャカリキスポーツガシャット』を代わりに装填、レバーを戻す。

 

≪ガッチョーン≫

 

「行くぜ! 爆速!」

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!!≫

 

 そして、再び開く。

 

≪爆走バイク!≫

 

≪アガッチャ!≫

 

≪シャカリキ! メチャコギ! ホット・ホット! シャカシャカ・コギコギ・シャカリキスポーツ!!≫

 

 二枚のパネルと重なったレーザーの上で、プロトスポーツゲーマが展開。元々装着していたプロトコンバットゲーマはピクセル状に霧散し、その代わりにプロトスポーツゲーマがレーザーの鎧となって装着、仮面ライダーレーザーターボ・プロトスポーツバイクゲーマーレベル0へ変身を遂げた。

 

 エグゼイドとの違いは、変身サウンドが微妙に変わっていたこととゲーマの色、そしてエグゼイドにはあった頭部のヘルメット状の装甲が、レーザーには無いという点か。

 

「はぁぁぁぁっ……!」

 

 姿勢を低く、クラウチングスタートにも似た体勢を取るレーザー。そして足に力を入れると、

 

「はぁっ!」

 

 それをバネにし、地面を蹴る。爆発的な瞬発力によるスピードに乗ったレーザーは、弾丸みたく真っ直ぐカオステラーへ。

 

『ギッ……!』

 

「まだだまぁ!」

 

 すれ違い様の攻撃で、カオステラーが仰け反る。それに終わらず、レーザーは繰り返し、さらに繰り返し、カオステラーへ縦横無尽の連続攻撃を繰り出していく。肩に装着されていたトリックフライホイールを投げつけ、複雑な二重攻撃が目にも留まらぬ速さで次々とカオステラーへ殺到していった。

 

「そりゃあ!!」

 

 最後、手に取ったホイールで切り抜けを行い、カオステラーを真一文字に切り裂く。速度を乗せた斬撃は、カオステラーに絶大なダメージを与えた。

 

「ついでにこれも!」

 

 フラつくカオステラー。そこを容赦なく、シェインが懐に潜り込み。

 

「喰らって! おきなさい!!」

 

 酒呑童子の鬼の力を込めた渾身のアッパーカット、からの身を捻っての回し蹴りが炸裂。回し蹴りは炎を纏い、命中した瞬間爆炎となってカオステラーを襲い、吹き飛ばす。

 

『――――――ッ!!』

 

 耳を抑えたくなるほどの金切声にも似た絶叫。地面に倒れ込んでのたうち回るカオステラーの身体を高熱の炎が蝕んでいく様は、地獄に焼かれる罪人が如し。もはや罪人としての罪すらも、彼女の頭の中からは消失しているだろう。

 

「んじゃ、トドメと行きますかぁ?」

 

≪ガッシューン≫

 

 レーザーは彼女のことを全く知らない。元は人間だったのかすらも、詳しくは聞いていない。

 

 わかることは、苦しんでいるということ。その身を包む炎によってだけではない、知性も与えられないバグスターとして生き永らえていることによる苦痛だ。レーザーも同じ、かつて消滅してバグスターとして復活した身だ。自身は何とも思っていないが、同じような境遇に合っていながら、苦しみ悶えているカオステラーを見ているのは、我慢ならない。

 

 すぐ楽にしてやる……その一心で、レーザーは爆走バイクのガシャットをゲーマドライバーから抜き、

 

≪ガシャット!≫

 

≪キメワザ!≫

 

 キメワザホルダーにセット、キメワザ発動準備に入る。

 

 すると、レーザーの目の前に自身の姿を模したバイクが出現。レーザーはライディングシートに飛び乗った。

 

「よっと」

 

 ハンドルを回してエンジンを吹かし、いざ突撃……しようとしたが、背後からの視線を感じて振り向く。

 

 ジェインがじーっと、無表情ながら真剣な目でこちらを……というよりも、レーザーが跨るバイクを見ている。その姿は、どこか鬼気迫るものを感じた。

 

 何となく、レーザーは察す。「あー……」と言い淀みつつ、聞いてみた。

 

「……相乗り、してみる?」

 

「お願いします」

 

 即答だった。すぐさまレーザーの後ろ側に飛び乗った。

 

「ヘッ、いいねぇそのハッキリした性格! 嫌いじゃないぜ!」

 

「お褒めにあずかり光栄ですね」

 

 溢れんばかりの好奇心と物怖じしない度胸に、レーザーは好感を持って笑う。シェインもまた笑って返した。

 

「んじゃまぁ……自分の運転は荒っぽいからなぁ」

 

 今度こそ、エンジンを始動させる。独特なリズムを刻むような振動が二人の身体を走る中、

 

「振り落とされんじゃねーぜ!!」

 

「なぁに、女は度胸です!!」

 

 爆音を響かせ、バイクが発進。タイヤ痕を付けながら、バイクが疾走する。

 

 狙うは、カオステラー。炎が消え、全身から煙を上げながら起き上がろうとしているところ。

 

「そりゃあ!!」

 

 レーザーはハンドルを切る。直進コースだったバイクが弧を描き出し、やがてそれはカオステラーの周りをぐるぐると回る形となる。

 

 上から見れば、黄色い円がカオステラーを囲っているようにも見える速度でバイクは走り続ける。

 

「行きますよぉ……!」

 

 そのまま、シェインはシートの上に足を着け、

 

「はぁっ!!」

 

 バイクを蹴り、カオステラーへ右足を突き出す。足は炎を纏った槍となり、カオステラーへと突き刺さる。

 

『ッ!?』

 

 凄まじい衝撃が、カオステラーを襲う。そしてシェインはそのまま突き抜け……高速で走るレーザーのバイクが壁となり、それを足場として鏡による反射の如く再びカオステラーへ飛び蹴りを見舞う。

 

 突き抜け、バイクを足場にして再び蹴る。また蹴る。さらに蹴る。蹴る。蹴る、蹴る蹴る蹴る! 凄まじい速度で繰り出される飛び蹴りを、カオステラーを中心に蜘蛛の巣を描くように無数に繰り出していく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 シェインは止めない。足に痛みが走ろうが、己の限界を超えようが、蹴ることを止めることはしない。確実に、カオステラーを倒すべく、鬼の力を全て引き出し、蹴り続ける!

 

 無限に続くかと思われた連続飛び蹴り。やがてそれは終焉を迎える。

 

「こいつでぇ!」

 

 バイクを走らせるレーザーが、キメワザホルダーのスイッチを押し込み、

 

 

 

≪BAKUSOU CRITICAL STRIKE!!≫

 

 

 

 急ブレーキ、クイックターン、向きをカオステラーへ向けてすかさず発進。一連の動作をコンマ二秒で行い、タイヤに莫大なエネルギーを纏ったままカオステラーへ。

 

「これでぇ!」

 

 レーザーと向かい合う位置に着地したシェインは、今度は地面を足場にして蹴る。地面は足の形に大きく凹み、その力の強さを物語る。その力を持ったまま、シェインは最後の飛び蹴りをカオステラーへ。

 

 そして、

 

「フィニッシュだ!!」

 

「おさらばです!!」

 

 度重なるダメージを受けて動けないカオステラーを挟み込む形で、バイクが、蹴りが音速でカオステラーへ叩きつけられる!

 

≪GREAT!!≫

 

『―――――――ッ!!』

 

 突き抜けたレーザーとシェインの連携技を食らい、凄まじい衝撃を喰らったカオステラーはきりもみ回転しながら宙を飛び上がった。悲鳴にも似た絶叫は、もはや断末魔か。

 

「悪いが休ませる気はねぇぜ!」

 

≪ガッチョーン≫

 

 それでも尚、確実にトドメを刺すべくスナイプが動く。アクチュエーションレバーを戻し、すぐに開く。

 

≪ガッチャーン!≫

 

≪キメワザ!≫

 

 キメワザ発動の準備を開始。両手の主砲が半回転、突き出す形で主砲を揃えると、左右二つの主砲ユニットがドッキング。戦艦の船首の形となり、主砲と肩の砲台ユニットのエネルギーが充填されていく。

 

 後はチャージを待つだけ……の間、スナイプの腕に上から衝撃と重力がかかる。

 

「よっと」

 

「と、おい!」

 

 その上に飛び乗ったのは、大砲を抱えたアリシア。思わず抗議の声をスナイプが上げた。

 

「ままま、細かいことは言いっこ無しってことで!」

 

 何とも楽しそうな声のアリシア。そんな彼女に声を荒げようとした……が、スナイプは小さく舌打ちするに留める。

 

「……落ちても知らねえからな」

 

 脳裏によぎった、彼の患者の姿が重なったのか。何をするにもこちらに頭痛の種を植え付ける彼女に向けるような声色でそう毒づいたスナイプは、アリシアを腕に乗せたまま照準(ピパー)を合わせる。

 

 狙うは……カオステラー落下予測地点。いまだ蔓延るB-ヴィランが密集する地点へ照準セットの電子音が鳴り、

 

「「これでッ!!」」

 

 

 

≪BANGBANG CRITICAL FIRE!!≫

 

 

 

「終わりよ!」

 

「くたばれ!」

 

 スナイプとアリシアの声が重なる中、スナイプの左右の肩八門と両手の二門、アリシアの大砲による、計11門が炎と高圧エネルギーを纏った砲弾を発射、真っ直ぐ正面へ飛ぶ!

 

『―――――――ッ!!』

 

 大火力の砲撃は寸分違わず照準の先へ……カオステラーが頭から落ちて来る地点へ。

 

 命中、そして多くのB-ヴィランを巻き添えにして爆発。

 

 爆発による光の中、カオステラーの身体が崩れていく。己の身が、バグスター粒子消失と共に消え失せていく。

 

 その中で、

 

『し……でれ、らぁぁぁぁ……!!』

 

 最後の最後……残された本能が叫びを上げる中で。

 

 

 

≪PERFECT!!≫

 

 

 

 カオステラーは、爆炎を巻き上げて消滅した。

 

 爆炎を正面にし、カオステラーの名残のように舞い落ちる無数の黒い羽根の中、アリシアがスナイプから飛び降りる。そうして二人は並び、

 

「これにて!」

 

「ミッション・コンプリートだ」

 

 戦いの勝利を、ここに宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 ゲムデウス。それは全バグスターの頂点に立つ存在にして、仮面ライダークロニクルのラスボスでもある者。本来であればその絶大な力を前に、誰も彼もがひれ伏すことは必須。だがここにいるゲムデウスはいまだ完全復活にまでは至っておらず、言語すらもまともに喋れない、獣同然の知性しか持ち合わせていない。

 

 それでも、

 

「ウゥゥオオオオオオオオオオオ!!」

 

 強敵であることに、変わりはない。

 

「うぉぉぉっ!!」

 

 降り注ぐ炎の雨を掻い潜り、ティムが槍を突き出す。それをゲムデウスは盾で防ぎ、剣で切り返した。

 

「ぐっ!」

 

 咄嗟にこちらも盾で防ぐも、人外の力は予想以上であり、たまらず後ろへ飛ばされる。

 

「クソッ! こいつさえ、こいつさえ倒せば……!」

 

 ゲムデウスは、ティムの妹が、想区の人々が感染しているウィルスそのもの。この化け物を倒すことさえできれば、彼らは元に戻る。

 

 その一心で、ティムは槍を構え直す。己の中にある焦燥感に突き動かされるまま、ティムは再び突撃を開始しようとする。だが、

 

「ガァァァァァァァッ!!」

 

 獣の咆哮を上げながら、ゲムデウスの盾に付けられた爪が触手となって伸びる。そしてその先端の爪は、真っ直ぐティムへ。

 

「って、そんなんありかよ!?」

 

 予想外の攻撃に、ティムの足が止まる。防ぐか、避けるか……一瞬の判断の迷いが、致命的な隙となる。爪は容赦なく、ティムの身体を引き裂かんと迫る。

 

「はぁっ!」

 

 が、それを防ぐ者が一人。ブレイブがティムの前に躍り出て、炎を纏った剣を振るい爪を弾き飛ばす。火花を散らし、爪は元のゲムデウスの盾へ戻って行った。

 

 唖然とするティム。そんな彼に、ブレイブが振り返り顔だけ向けた。

 

「あまり調子に乗るな。お前一人に何ができる」

 

「なっ……んだと!」

 

 いきなりの容赦のない悪態に、カチンときたティムが声を荒げようとした。しかし、再び前を向いたブレイブが剣を構え直す中、

 

「即席とは言え、これはチーム医療だ。一人が先走っては意味はない……どれだけ大事な人間の命がかかっていたとしてもだ」

 

「っ……!」

 

 穏やかで、言い聞かせるようにそう言った。

 

 ブレイブは確かに見た。ティムの中にある焦りの意味を……ゲムデウスによって、彼の大事な人の命が脅かされていることを。

 

 手術(オペ)を行うにあたって何が大切か。何を意識すべきか……それを知っているからこそ、ブレイブが天才外科医と称される所以なのである。

 

「本当に大切な人を救いたいと思うのならば、冷静になれ」

 

 故に諭す。名も禄に知らない青年相手に、自らが教えを示す。チームを必要としなかったかつてのブレイブにはできなかったことだ。

 

「アンタ……」

 

 いつものティムならば「うるせぇ」の一言で一蹴していた。が、ブレイブの実感の込められた教えは、ティムの心にスッと入り込んでいく。それが彼の頭を冷静に戻していく。

 

 そのティムの横に、残っていたB-ヴィランを片付けたパーンが駆け付ける。

 

「僕の教え子がすまない。本来ならば僕が窘めなければいけなかったのだが……」

 

 一教師として、ティムを諭す役割を担うのは自分だと思っていたパーンだったが、ブレイブが代わりを務めてくれたことに礼を述べる。対し、ブレイブは鼻を鳴らした。

 

「フン、熱くなって周りが見えなくなる奴を俺は知っているからな」

 

「ハハ、誰のことなのか想像がついてしまうね」

 

 浮かぶのは、患者のためならば自らを省みずに突っ走る研修医の彼の姿。誰のことなのかわかってしまったパーンは苦笑してそう返した。

 

「ウォオオオオオオオオッ!!」

 

 そんな和気藹々としかけた空気を壊すように、ゲムデウスが再び盾から触手を三本生やし、三人へ向けて伸ばす。鋭い爪が獲物を切り裂かんと襲い掛かるが、

 

「はぁっ!」

 

「ふんっ!」

 

「おらぁっ!」

 

 三人はそれらを巧みに捌き、防ぎ、弾く。変幻自在の攻撃が届かず、ゲムデウスが呻き声を上げた。

 

「……例え貴様がゲムデウスだとしても」

 

 弱体化しているとはいえ、相手は最強のバグスター。故に油断もせず、慢心もせず、さりとて、

 

「俺に切れない物は、ない!!」

 

 絶対に勝つという覚悟をもって、ブレイブたちは立つ!

 

 それを挑発と受け取ったのか、ゲムデウスは咆哮を上げる。その咆哮は威嚇か、はたまた怒りか。どちらにせよ、ゲムデウスは飛び掛かるために剣を振り上げる。

 

 が、それに待ったをかけるようにゲムデウスの前に飛び出す白い影が一人。

 

「ブァハハハハハ!! 神である私が援護してやろう!!」

 

 ガシャコンブレイカーで切りつけ、ゲムデウスを怯ませる。大きなダメージにはならなくとも、それで十分大きな隙となる。

 

「私だって……!」

 

 エレナもまた、ゲンムに並び立つようにして栞を書に挟み、カーレンとコネクトする。魔導書を開き、目の前に魔法陣を展開した。

 

「私に合わせろぉ、ちんちくりん!!」

 

≪ガッシューン≫

 

 エレナに向けて言いながら、デンジャラスゾンビガシャットを抜くゲンム。まさかの暴言に、エレナが抗議した。

 

「ち、ちんちく……! 初対面なのにひどいよぉ! 私にはエレナって名前があるの! おじさんだって私に合わせてよ!」

 

「おじさんではぬわぁぁぁぁぁい!! 私は……!!」

 

≪ガシャット!≫

 

≪キメワザ!≫

 

 そう返しながら、ゲンムはキメワザホルダーにガシャットを挿入、スイッチを押し、

 

「檀! 黎斗神だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

≪DANGEROUS CRITICAL STRIKE!!≫

 

 

 

 奇声を上げながら必殺技が発動。ゲンムは高くジャンプし、

 

「ブゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」

 

 縦に高速回転し、禍々しい黒いエネルギーを発しながらゲムデウスへ迫る。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 エレナも負けじと、魔法陣から闇のパワーを引き出し、ゲンムを追うようにして闇を弾丸のようにして放つ。

 

 回転を伴ったゲンムの蹴りが、ゲムデウスの胴体に炸裂。衝撃と共に黒いエネルギーを撒き散らし、弾かれたようにゲンムが飛び上がると、その直後にエレナの魔法がゲンムの蹴りが当たった箇所に命中、爆発を起こす。

 

「ウグォォォォォォッ!?」

 

 ゲムデウスはいまだ健在。だがデンジャラスゾンビの力とカーレンの呪いが、呻くゲムデウスの身体を縛る。

 

 つまり、今のゲムデウスは棒立ちもいいところだった。

 

「トドメを刺すぞ!」

 

≪コ・チーン!≫

 

 ブレイブはガシャコンソードのAボタンを押し、炎剣モードから氷剣モードへ切り替え、

 

「ティム、行くぞ!」

 

 パーンは斧に雷と薔薇の力を宿し、

 

「ああ、先生!」

 

 ティムは槍の矛先に炎を纏わせていく。

 

≪ガッシューン≫

 

≪ガシャット!≫

 

≪キメワザ!≫

 

 ブレイブはタドルレガシーガシャットを抜き、氷剣モードのガシャコンソードのスロットへ挿入、武器の必殺技発動音声と共に必殺技発動待機状態へ移行。流れるような一連の動作の後、刃が青いエネルギーを纏っていく。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」」」

 

 全員、腰だめに武器を構える。見据える先はゲムデウス。いまだ藻掻き、闇の力による拘束を解こうと躍起になっている。

 

 だが、それは最早無意味。何故ならば、

 

 

 

≪TADDLE CRITICAL FINISH!!≫

 

 

 

 今更避けようとしたところで、間に合う筈もないからだ。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

「でやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ブレイブの氷の力を宿した刃による一撃、パーンの薔薇と雷の力を宿した斧による一撃。切り抜ける形で振るわれた二人の斬撃は、Xの字を描くように青と黄の剣閃となって閃く。

 

 そこを、ティムの灼熱の炎の力を宿した槍が迫る。狙うは、

 

「これで……終ぇだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 Xの、中心……即ち胸部!

 

「ゴガァッ!?」

 

 真っ直ぐ突き出された槍は、ゲムデウスの胸部を貫通。流し込まれる炎が、ゲムデウスの身の内側から焼き尽くしていく。

 

 ティムが槍を抜き、跳び退る。残されたのは、氷の、雷の、炎のエネルギー。それらがゲムデウスの中で化学反応を起こしていく。やがてゲムデウスの身体は一際大きく輝き出し、そして、

 

「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 爆発によって、その身を散らして行った。

 

 

 

≪GAME CLEAR!!≫

 

 

 

 余韻の残心を決める三人の目の前で、爆炎から飛び出すエフェクトロゴと、空間に鳴り響くサウンド。それこそが、ゲムデウス切除手術が完了したことを告げるアラーム合図に他ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「「うおおおおおおおおおっ!!」」

 

 エグゼイドとレヴォルが飛び上がり、竜の身体を駆け上がる。そして竜の背中まで登ると再び飛び上がり、中心で待ち構えていたかのように立っているクロノス目掛け、

 

「「はぁっ!!」」

 

 エグゼイドは拳を、レヴォルは槍を突き出した。

 

「フンッ!」

 

 クロノスはそれを剣と盾で防ぐ。それによってぶつかり合った中心から衝撃が走り、空気を振動させ……それを合図にしたかのように、竜が咆哮を上げた。

 

『――――――ッ!!』

 

『――――――ッ!!』

 

 水晶の翼をゆっくり上下に動かし、それによって竜の周りで突風が吹き荒ぶ。やがて竜の身体は、その巨体をゆっくりと上昇させ始めた。

 

 やがて竜の身体は、闘技場の遥か上空。眼下には先ほどまで戦いの場であった、竜が現れたことで半壊した闘技場。その周りを囲うように広がる大海原。どうやらここは絶海の孤島に建てられた闘技場という設定のゲームエリアだったことがわかる。大きく翼を動かした竜は、猛スピードで頭から灰色に淀んだ曇天の中へと突っ込んでいく。

 

≪ガシャコンキースラッシャー!≫

 

「はぁっ!!」

 

「せぇい!!」

 

 そんな中で、竜の背中の上で戦いを繰り広げていく三人。最強の複合武器を召喚したエグゼイドが、剣を振るいクロノスへと切りかかり、その後ろからレヴォルがワンテンポ遅れる形で槍を突き出す。

 

「舐めるなぁ!」

 

 剣を弾き、槍を防ぐ。二人へ向けて身を捻った回転斬りを繰り出すが、エグゼイドとレヴォルはそれを一歩下がって回避。竜の背を蹴り、剣を構え、槍を高速回転させながら再び猛攻を開始する。

 

 やがて辺り一面が雲に覆われ、視界が0となる。輝くエグゼイドの光が目立つ空間の中、三人の剣戟が響き渡る。

 

 突風が吹き荒び、徐々に晴れていく視界。しばらくすると、竜は雲を完全に突き抜けた。

 

 遥か向こうで輝きを放つ黄金の太陽。その太陽に照らされる見渡す限りどこまでも続く雲海。神々の世界を思わせる神秘の光景が広がる絶景。

 

「「おりゃぁぁっ!!」」

 

 それに見惚れることなく、三人は戦う。

 

「ハァッ!!」

 

「ぐあぁっ!?」

 

 突き出された剣と槍。それをクロノスは蹴りで弾く。その強烈さにエグゼイドは軽く後ろへ下がるに留まるが、踏みしめが甘かったレヴォルが吹っ飛んでいく。

 

 吹っ飛ぶ先は、竜の背の端。そこから先は、黄金色の雲海。海とは違い、そこへ落ちれば真っ逆さま、地面へ激突する未来しかない。

 

「レヴォル!」

 

 すかさずエグゼイドが伸縮自在の髪の毛状攻撃装置『ハイパーライドヘアー』を伸ばす。その髪は攻撃用の刃が連なっているため、触れれば傷つくのは必須。しかしそこは把握しているエグゼイド、その髪をレヴォルが持つ槍を狙い、柄の部分に巻き付けた。

 

「おりゃああああ!!」

 

 頭をぶん回すと、髪と繋がっている槍を手にしたレヴォルも連動して振り回される形となる。槍を手放さないよう、モーニングスターのように回っていくレヴォルは力の限り槍を握った。

 

「おおおおおおおおっ!!」

 

 雄叫びを上げるレヴォル。エグゼイドによって竜からの落下は阻止され、さらに振り回された先には、

 

「むぅぅ……!」

 

 剣を構えたクロノス。

 

「喰らえぇっ!」

 

 エグゼイドの髪が離れる。それに伴い、自由となったレヴォルは遠心力の勢いに乗ったまま、槍をクロノスへ突き出したまま突っ込んでいく。

 

「ガッ……!」

 

 それを盾で防御したクロノスは、あまりの衝撃に今度は自身が吹き飛ばされる羽目となる。倒れることはどうにか防ぎ、仮面の奥から二人を睨みつけた。

 

「おいで、僕のイマジンたち……」

 

 体勢を立て直したレヴォルは、そう言って両隣に光の玉を召喚。玉は弾けると、その姿をマッチ売りの少女と人魚姫のイマジンへと変えた。

 

「行くぞ!」

 

 二人のイマジンが、その身を青く輝かせる。すると、槍に氷の力と炎の力が纏われていく。そのままレヴォルは頭上でヘリの如く高速回転。そして身を捻り、槍を横へ振るい、薙ぎ払った。

 

 矛先に集っていた氷と炎の力は扇状に飛び散り、氷弾と炎弾となる。一つ一つは小さくとも、その威力は強烈の一言。

 

「調子に乗るなッ!!」

 

 だがクロノスは大人しく当たるつもりはない。叫び、剣の腹でバグルドライバーⅡのAとBボタンを同時に押す。

 

≪PAUSE≫

 

 そして時が止まる。レヴォルだけでなく、レヴォルが発射した攻撃も、翼を動かしていた竜も、風も、全て。

 

 その中で動けるのは、ポーズを行ったクロノスと、

 

「せいっ!」

 

 ハイパームテキの効力によってポーズを無効化したエグゼイドのみ。

 

 再び切りかかるエグゼイド。防がれようが弾かれようが、果敢に攻めていく。剣と盾を巧みに操るクロノスだったが、猛攻を前にして防ぎきれず、隙を晒してしまう。

 

「おらぁっ!」

 

「ぐぉっ……!」

 

 そこをすかさず狙う。強力な足刀蹴りがクロノスの腹部……もとい、バグルドライバーⅡに当たる。

 

 その衝撃により、クロノスのポーズが、

 

≪RE:START≫

 

 解除される。

 

 そしてポーズが解除された時点でクロノスが立っていた場所は、

 

「ぐぅぁぁぁぁっ!?」

 

 レヴォルの氷と炎の弾幕の前。最終的に、レヴォルの攻撃はポーズを使用したにも関わらずに命中した。

 

「お、おのれぇ……!」

 

 フラつき、身体から煙を上げるも、まだまだ健在。剣を構え直し、クロノスは再び二人へ駆ける。

 

「まだまだぁっ!」

 

≪ズキュ・キュ・キューン!≫

 

「せいっ!」

 

 エグゼイドはガシャコンキースラッシャーの『アタックラッシュキーパッド』の黄色いGUNのボタンを押し、銃モードへ変更させる。その横を駆け抜けるレヴォルは、飛び上がり舞うように槍を振るう。その槍の軌跡を辿るよう、イマジンたちもその身を輝かせながらクロノスへ体当たりしていく。

 

「う、ぐ、おぉっ!」

 

 ただの体当たりと侮るなかれ、イマジンはいわば生み出した創造主の武器の一部と言っても過言ではない。その身に物語の力を宿らせた彼女たちの攻撃は、一撃一撃がレヴォルの力となる。

 

 それだけでなく、二人のイマジンのつぶらな瞳は、一見愛らしく映るものの、実際はその身の内は烈火の怒りで燃えている。己の運命を嘲り、否定した目の前のクロノスに全てを叩きつけるが如く、猛攻を止めない。

 

 しかもそこに、エグゼイドの銃撃も加われば、クロノスに逃げ道はない。

 

「っらぁぁぁっ!!」

 

 それでもやられてばかりのクロノスではない。その場で一回転、風のように鋭い回し蹴りが、レヴォルもろとも二人のイマジンを吹き飛ばした。

 

「エム!」

 

「任せろ!」

 

 吹き飛ばされた二人のうち、エグゼイドは自らの方へ向かって飛んでくるマッチ売りの少女をジャンプしてキャッチ、ぬいぐるみの如く手に取った。人魚姫は膝をついて転倒を免れたレヴォルのすぐ傍を浮いてブレーキをかけて難を逃れた。

 

「よっと。危ね~……」

 

 危うく遠くまで吹き飛ぶところだった。安堵するエグゼイドと、エグゼイドの手の中でホッと一息つくマッチ売りの少女。

 

 だが状況はエグゼイドたちを待ってくれない。

 

「これで……!!」

 

 剣を薙ぎ、背後の空間に氷柱を無数に生み出すクロノス。数で圧倒する腹積もりらしいが、

 

「エム、その子で!」

 

「わかった!」

 

 そうそう簡単にはやらせない。

 

 エグゼイドの手から離れたマッチ売りの少女のイマジンは、エグゼイドの横へ。その身に青い光を纏わせると、ガシャコンキースラッシャーも同様の光を放ち始めた。

 

「失せろぉ!!」

 

 クロノスが剣を突き出し、それを合図に氷柱が飛ぶ。弾丸の如く音速の勢いで飛ぶ氷柱。エグゼイドは己とレヴォルに命中する氷柱のみを、その持ち前の動体視力と額に埋め込まれた索敵装置『リアクトクリスタル』を利用して補足、そして、

 

「オラオラオラオラァァッ!!」

 

 引き金を連続で引いていく。一時的に己の主をレヴォルからエグゼイドへ移したマッチ売りの少女の能力により、飛び出す弾丸は全て炎の弾丸へと変化し、寸分違わず氷柱に命中、溶かすを通り越して蒸発させていく。粗方撃ち終わると、エグゼイドとレヴォルを狙った氷柱は全て消え、彼らの周りにだけ無数に突き刺さるに留まるだけだった。

 

「まだまだぁ!」

 

 だがまだ終わらない。そのままエグゼイドは、肩の特殊フィールド発生装置『スパーキングショルダー』を作動させ、時空を歪ませることで姿を消す。瞬きの間に、エグゼイドはクロノスの背後に出現し、引き金を引いた。

 

「ぐあっ!」

 

 炎の弾丸がクロノスを襲う。振り返るより先にまたも姿を消したエグゼイドは、別方向に出現、また引き金を引く。

 

 消え、現れ、引き金を引く。それを数十回繰り返し、ありとあらゆる方向からクロノスへ炎の弾丸を撃ち込み続ける。エグゼイド一人による十字砲火の牙は、クロノスに喰らいついて離さない。

 

「フィニッシュ!」

 

 最後、クロノスの目の前に出現。キーパッドの黄色いキーを三回押し、零距離から銃口を突きつけて発砲。より強力な弾丸となり、クロノスを炎で包み込んだ。

 

「ぐぉぁぁぁ……!」

 

 さすがのクロノスも、この攻撃には溜まったではない。たまらず後退り、炎を払うように藻掻く。

 

「次はこの子で!」

 

「オッケー!」

 

 今度は人魚姫が離れていくマッチ売りの少女とすれ違うように飛んできて、エグゼイドの横で浮遊する。同じように舞いながら青い光を放ち、エグゼイドに力を分け与えていく。

 

「今度はこいつで!」

 

≪ス・パ・パ・パーン!≫

 

 オレンジ色のAXEと書かれたボタンを押す。柄の横に付けられたオレンジ色の半円状の刃が光りを放ち、ガシャコンキースラッシャーは斧へと変わった。

 

「おらぁぁぁぁぁっ!!」

 

「そりゃああああっ!!」

 

 斧による豪快な振り、槍による繊細な突きが、炎を消したばかりのクロノスを襲う。斧には人魚姫の力が宿った氷の力が、槍にはマッチ売りの少女の力が宿り、クロノスに着実にダメージを与えていく。

 

「小、賢しいぃぃぃぃぃっ!!」

 

 苛烈なまでの二人のコンビネーションが、クロノスの怒りのボルテージを上げる。盾を振るい、レヴォルへ殴りかかろうとした。が、

 

「喰らってろ!!」

 

 エグゼイドの極寒の冷気を纏った刃が豪快にぶん回され、クロノスの盾に命中。激しい音を鳴らし、衝撃波が走る。さらに、その強さは今まで喰らってきた攻撃の比ではなく、

 

「な、何ぃ!?」

 

 頑丈な盾に、大きな罅を入れるレベルだった。

 

「そこだ!」

 

 一瞬、狼狽えたクロノスを逃さず、レヴォルが盾目掛けて槍を突き出す。炎の槍が盾の罅に命中、さすがに耐えきれずに盾は粉々に砕け散った。

 

「がはぁっ!?」

 

 たまらずクロノスはたたらを踏んだ。しかしまだエグゼイドたちの攻撃は終わっていない!

 

「次!」

 

≪ジャ・ジャ・ジャッキーン!≫

 

 ガシャコンキースラッシャーの青いボタン、BLADEと書かれたボタンを押せば、直剣の青い刃が光り出す。再び剣へと戻したエグゼイドは、剣を高く掲げた。

 

「行くぞ!」

 

「ああ、頼んだぜ!」

 

 何も言わずとも互いに理解できる。レヴォルはマッチ売りの少女のイマジンをエグゼイドの傍へ飛ばした。

 

 マッチ売りの少女と、人魚姫。エグゼイドの両隣に浮きながら共に青く輝くと、二人の力がエグゼイドの刃へ注ぎ込まれていく。

 

 青い直剣から立ち昇る、氷の青と炎の赤が混じったオーラ。冷気と熱、相反する二つの力が宿った剣を、エグゼイドは振るってクロノスへ駆ける!

 

「どりゃりゃりゃりゃあああああああ!!」

 

「う、お、おおおっ!?」

 

 エグゼイドの剣、二人のイマジンによる三位一体の疾風怒濤の連撃がクロノスを攻める。剣一本でそれらを防ぐクロノスもさすがの一言だったが、クロノスはよくても、彼の得物が限界を超える。

 

―――パキィィィン

 

「しまった……!」

 

 とうとう、カオステラーが持っていた剣をも砕け散る。素手となったクロノスへ、エグゼイドは身を捻っての回転斬りを繰り出す!

 

「はぁっ!!」

 

「ぐあああああああああ!!」

 

 炎と氷の刃が巨大な剣閃となり、クロノスを大きく吹き飛ばす。錐もみ回転しながら飛ばされたクロノスは、竜の背中を転がっていく。

 

「へへ、ナイスアシスト!」

 

 エグゼイドが左手を掲げると、マッチ売りの少女と人魚姫はその手に向けてハイタッチをした。心なしかスッキリしたようにも見える顔は、クロノスに一矢報いることができたと思っているのか。

 

「ぐぅ……こんな、ことが……!」

 

 フラつきながら立ち上がり、呻きながら右手を掲げる。それに応えたのは、クロノスを挟む位置にある竜の首。飛ぶことに集中していた二本の竜の頭は、ぐるりとその首を180°ターン。四つの赤い瞳が二人を見下ろす。

 

「あってはならない……こんなことなどぉぉぉ……!!」

 

 クロノスの計画が、大きく狂っていく。己の目論見が、野望が、崩れかけていっている。それを実感しているからこそ、クロノスは焦る。だがそれ以上に、

 

「あってはならないのだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 目の前の二人に対する殺意が、竜の咆哮となる。そして口から吐き出される氷柱混じりの強烈なブレスが二人を襲う。

 

「その攻撃はもう見切った!」

 

≪ズキュ・キュ・キューン!≫

 

≪ガッシューン≫

 

≪マキシマム・ガシャット!≫

 

 エグゼイドは銃モードに切り替えてからマキシマムマイティXガシャットを抜き、それをガシャコンキースラッシャーのスロットへ。

 

「僕たちを……甘く見るな!」

 

 レヴォルは槍を天へ向けて掲げる。レヴォルのイマジンが、槍の周りをぐるぐると周りだし、炎と氷の螺旋の渦を作っていく。

 

≪キメワザ!≫

 

「「はぁぁぁぁぁ……っ」」

 

 降り注ぐ氷柱の雨の中、エグゼイドとレヴォルは怯まずに、エネルギーを溜め込んだ銃身と矛先をそれぞれの竜の頭へ向ける。時折二人に向かって来る氷柱は、エグゼイドの『EXムテキアーマー』の前では石礫にすらなりはしない。レヴォルの方も、二人のイマジンがレヴォルから身を守るために飛び回り、氷柱を叩き落としていく。

 

 そして、

 

「発射っ!」

 

「貫けぇ!!」

 

 

 

≪MAXIMUM MIGHTY CRITICAL FINISH!!≫

 

 

 

エグゼイドの光線が、レヴォルの炎と氷を纏ったことでビーム状となった一撃が、左右の竜の頭へと飛んでいく。氷柱もブレスも、意味はなさない。風の壁を突き抜け、二人のビームが竜の頭へ吸い込まれ、そして、

 

『―――――――ッ!? ……』

 

『―――――――ッ!? ……』

 

 爆砕。二頭の頭は粉々に砕け散り、水晶の欠片が宙に散らばっていく。

 

 それに伴い、戦場となっている足場を動かしていた竜が、頭部を失ったことでコントロールを失う。それが意味することは、ただ一つ。

 

「うぉっと……!?」

 

 三人が乗る竜は傾き始め、やがてその巨体を動かす翼が動きを止める。浮遊するための原動力を失った巨体は、重力に逆らうことができずに落下を始めた。

 

「おぉぉぉぉのぉぉぉぉぉれぇぇぇぇぇぇ……ッ!!」

 

 落下していく中、クロノスが怨嗟の声を上げる。先ほどと逆再生を辿るように、竜の身体はエグゼイドたちを乗せたまま雲海へと沈んでいく。

 

 このままでは地面に激突するのも時間の問題だった。

 

「何故だぁ……何故そこまでして、私が与えようとしている運命を否定する……!!」

 

 クロノスにはわからない。悲劇しかない運命を何故受け入れるのか。意味のない運命に価値などないことが何故わからないのか。

 

 わからない。わからない。エグゼイドの運命を切り開こうとする強い意思が。レヴォルの物語を思う意思が。クロノスには、全くわからない。わかろうともしない。

 

「お前にはわからないだろう! 人の命を、運命をゲームに組み込もうとするお前には!」

 

 故に、これは必然。

 

「僕たちの運命は、僕たちだけの物だ! お前のためにあるんじゃない!」

 

 運命を掴み取ろうと手を伸ばすエグゼイドと、人が持つ運命に意味があることを知るレヴォルの前では。

 

 

 

「「お前にこの世界の運命は……渡さない!!」」

 

 

 

 勝利の女神がどちらに微笑むかなど、わかりきっていることだった。

 

 

 

「エム! フィニッシュは!」

 

「ああ……必殺技で決まりだ!」

 

 レヴォルがエグゼイドに、エグゼイドがレヴォルに。究極の一発を放つべく、互いに合図を送る。

 

≪キメワザ!≫

 

 ハイパームテキのスイッチを拳で叩く。必殺技発動音声の後、エグゼイドの右足に強力なエネルギーが集い始め、待機状態に。

 

「はぁぁぁぁぁ……!」

 

 レヴォルは身を低くし、槍ではなく自身の左足の周りでイマジンの力を注ぎこませていく。青く光る二人のイマジンの力により、左足に氷と炎のエネルギーが纏い始める。

 

「この……バグどもがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

≪キメワザ≫

 

 クロノスは絶叫。バグルドライバーⅡのBボタンを拳で叩きつけるように押し、己もまた必殺技発動状態へ移行した。

 

 三人が必殺技のエネルギーを集めていく中、遂に竜は雲を突き抜け、海の上へ。遥か眼下には再び闘技場が、点から大きくなっていくように近づいていく。もはや地面に激突するのに時間がない。だがそれは、

 

「クロノス! お前の運命もここまでだ!!」

 

「行くぞ! クロノス!!」

 

「ほざけぇ!!」

 

 同時にこの戦いが終わる瞬間でもある。

 

 

 

≪HYPER CRITICAL SPARKING!!≫

 

 

 

 再びスイッチが押され、エグゼイドの必殺技発動準備が完了した。エグゼイドの右足を黄金色の力が暴発寸前まで溜め込まれ、レヴォルもまた同様、最早左足が見えない程に赤と青の光に包まれている。

 

 

 

≪CRITICAL CREWS-AID≫

 

 

 

 クロノスもまた、Bボタンを押していつでも必殺技を発動できる段階に入った。

 

 莫大なエネルギーを纏った三人の足。その足は、

 

「「ふっ!!」」

 

 

 

 この世界の運命を決める槍となる!

 

 

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

 飛び上がったエグゼイドとレヴォルの飛び蹴りが、真っ直ぐクロノスへ。凄まじい威力を秘めたキックを前にし、クロノスもまた迎え撃つ。

 

「せぃやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ホログラムの時計の針に沿って繰り出したクロノスの回し蹴り。エグゼイドとレヴォルの飛び蹴り。それら三つが、今、ぶつかる!

 

「「あああああああああああああっ!!」」

 

「ぬぅああああああああああああ!!」

 

 竜の背中の上で起きる爆発。迸るエネルギーは竜の身体を破壊していく。黄金の光と、炎と氷の力が、禍々しい混沌の緑の光とせめぎ合う。

 

 時間にして数秒にも満たない。その間で勝敗は、決まっていく。

 

「ぐ、お、ああああああああああああっ!!」

 

 押されているのは……クロノス。カオスの力、クロノスの力、全てを持ってしても二人の力を超えることは叶わず。

 

 押し返そうにも、押し返せない。すぐそこにある運命を掴み取らんとしている二人が、最後の力を振り絞ったことによって放たれた必殺の蹴りを前にして、クロノスは悟る。認めたくなくとも、悟ってしまう。

 

 己の、敗北を。

 

「バカな……またしても、この、私が……!!」

 

 元の世界の、データとなる前の己の意識が入り込む。最後まで諦めなかったCRの仮面ライダーたち。彼らの連携を前にし、クロノスは押されていた。

 

 最後、引導を渡される瞬間の光景が映し出される。運命を切り開くため、全てを終わらせるため……その者は、全ての力を集めた一撃をクロノスへ放った。

 

 その者こそ、究極の救済の名乗り手。そして今再び、その者に敗れ去る……堪らずクロノスは、断末魔の如く叫ぶ。

 

 

 

「エ……エグゼイドおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 宿敵の、その名を。

 

 

 

「「はぁぁぁっ!!」」

 

 突き抜ける。クロノスを、竜を……全てを終わらせる一撃は、彼らが通った空間をも切り裂き、歪めていく。

 

 二人は、膝を曲げながら闘技場へ降り立つ。強い衝撃によって周りの小さなゴミ、小さな瓦礫を吹き飛ばしながら着地した二人の頭上で、力無く落下してくる竜の身体。

 

 その竜の身体が、

 

 

 

≪HIT!≫

 

≪HIT!≫≪HIT!≫

 

≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫

 

≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫

 

 

 

 無数のHIT! のエフェクトに覆われていく。一瞬のうちに多大な蹴りを叩き込むエグゼイドの必殺技、レヴォルの全力を込めた必殺技が炸裂していき、

 

 

 

≪究極のぉ、一発ぅ!!≫

 

 

 

≪GREAT!≫

 

≪PERFECT!!≫

 

 

 

 最後に大きなエフェクトと共に、大爆発の中にその身を消す。

 

 降り注ぐ、水晶の欠片。その中をゆっくりと立ち上がった二人。どちらともなく、健闘を称えて互いの拳を突き合わせた。

 

 拳から確かに感じる、小さな衝撃。それこそが、

 

 

 

≪完・全・勝・利ィッ!!≫

 

 

 

 運命を掴み取った、証だった。

 




尚、実際にアンデルセンでプレイしてもこんなアクションできませんのでご注意ください。え? 今更?

魔法の鏡のシステムについては、ほぼ予想です。多分こんな感じです。多分。

各ライダーと、グリムノーツの主人公たちとの連携は構想当初からやりたかったシーンです。だからより力入れました。力入れすぎて何のこっちゃわからんくなったら申し訳ありません。けど悔いは、ない……! まぁ、カオステラーとゲムデウスがあっさり退場したのはさすがに可哀想っていうか何と言うか。ちゃうねん、これ以上長引かせるわけにはいかんかってん。堪忍しておくれやす。


さて、決戦は終わりました。そして次回。

最 終 回 です。

最後までどうぞ、皆さま、よろしくお願いいたします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。