仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~   作:コッコリリン

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今回から番外編でございます。時系列は第14話から第18話ラストまで。どんな内容かは、もうサブタイでお察し。

今回で隠された事実が幾つか明らかに。つって、こんな設定で説得力あんのかと不安になったりならなかったり。けどもういいや、突っ走っちゃえ!

そんな番外編をどうぞです。


番外編1 神と女神と監察医 ~キュベリエの憂鬱~

 仮面ライダーエグゼイドこと宝生永夢が、スマホアプリゲームを起動した際、何が原因か彼は携帯端末へ吸い込まれてしまうという異常事態が発生した。彼を救い出すべく、CRのドクターたちは手を尽くすも、何の成果も得られず途方に暮れてしまう。そこで、ゲームのことならば右に出る者はいないとされている檀黎斗の協力を仰ぐため、彼を管理している衛生省の許可を得て、彼を一時的に釈放する。そして永夢を救うために、ゲームに入り込めるバグスターである黎斗と、彼のお目付け役として貴利矢がアプリゲーム『グリムノーツ』の世界へと潜り込むことに成功する。そこで彼らは、想区の安定を司る女神キュベリエと出会った。

 

 かくして、神の頭脳と監察医、ポンコツ女神による宝生永夢救出作戦が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

「へ~。この世界は想区っていうのに分かれていて、アンタはその想区の安寧を見守る存在ってことなのか」

 

「は、はい……そういうことです」

 

 荘厳な雰囲気漂う泉の祠にて、用意された椅子に座りながら貴利矢が前に座る少女、キュベリエからこの世界について説明を受けていた。キュベリエはまだ貴利矢を警戒しているのか、緊張が貴利矢にも伝わってくる。

 

 無理もない、と貴利矢は思う。唐突に現れて居座っているのだから、普通の感性を持っている人間は強い警戒心を抱くのは当たり前だった。

 

 ……と言っても、キュベリエ的にはそれよりも先ほどまで目の前で罵り合っていた男二人に対して警戒よりも強い恐怖心を抱いているが。おかげで女神なのに大泣きしてしまい、威厳を失ってしまったとキュベリエは後悔している。

 

 彼女を知っている者は皆言うであろう。そんなもん最初っから失っているだろ、と。

 

「その想区というものは物語の世界をベースに形作られ、人々は運命の書とやらに沿って生きている……なるほど、実に興味深い話だ」

 

 そして、貴利矢とキュベリエの間、テーブルの上で持ち込んで来たノートPCを開き、キーボードを叩いている黎斗。その横にはガシャットにプログラムを入力する際に使用する機械が置かれ、何本ものケーブルがPCに繋がれている。そしてその機械には、今回のために用意した特別なガシャットが挿入されていた。

 

「ってことは……大先生の言う通り、永夢はシンデレラの想区とやらにいるってことになるのかな」

 

 翻訳を任せていた飛彩によると、永夢の端末に表示されていた本に書かれていたのは、かの有名なシンデレラの物語。当時は何故シンデレラの話が表示されていたのかわからなかったが、この世界が童話を元にして作られた世界だとすれば、永夢がいるのはシンデレラに纏わる場所である可能性が高いということだ。

 

 永夢の行方はいまだわからないが、手がかりが掴めただけでも御の字だ。貴利矢は前向きにそう考える。そして、思考を別のことに切り替えた。

 

「運命の書、ねぇ……まぁここでは当たり前なのかもしれないけどよぉ」

 

 キュベリエが出してくれた紅茶を一口啜りながら思う。運命の書に沿って生きる生き方……それはまるで、台本通りに動く演劇みたいなものだ。これから起きることも、いつ死ぬかも、その本一つで決まってしまう。医療に携わる者として、そんな生き方は正直いい印象を抱かない。

 

「あ、あなたたちの世界では運命の書が無いんですね?」

 

「ああ。この世界では異端みたいだけど……って、アンタあんまり驚かねえんだな?」

 

「ええ、まぁ、長い時を生きていると、ごく稀にそういう人がこの世界に迷い込んでくることがあるんで……」

 

 言動こそ女神らしからぬ部分はあるが、キュベリエはこの世界のあらましを知っている者の一人。故に長い年月を生きて来たため、イレギュラーにも出くわした経験はあるにはある。最も、今回のような出来事は珍しいパターンではあるため、どう対処すればいいのか途方に暮れていたところだった。

 

「へぇ、そういうもんなのか」

 

 その辺り、貴利矢はあまり深く切り込まない。今はそれ以上に重要な事があるからだ。

 

「……で? どうなんだよ神。最終調整は終わったのか?」

 

「急かすな。もう少しだ」

 

 カタカタと音を鳴らし、黎斗はガシャットにプログラムを打ち込んでいく。最初、キュベリエは見慣れないPCと、それを使って作業している黎斗を興味津々に見ていたが、画面を見て訳わからなさすぎて「ふぇーん」と鳴きながら頭から煙が噴き上がっていた。

 

 あらかじめ貴利矢にも説明しておいたこのガシャットは、世界と世界を強制的に繋げる特殊な物。これと同型の物が元の世界に一つあり、今黎斗が持っているこのガシャットと連動するようになっている。そうすることで、ガシャットからガシャットへ信号が届き、世界と世界が繋がる……そういう理屈となっている。

 

 が、このガシャットはまだ完成には至っていない。最後に必要なのは、この世界に蔓延する素子、つまり酸素などといったありふれた物。そのデータをこのガシャットに組み込むことで、初めて完成形へと至る。

 

(……しかし、まさかこんなところでこのガシャットを作る羽目になるとはな……)

 

 PC画面に次々と打ち込まれているプログラムを見つつ、黎斗は思う。元々このガシャットは、もっと後になって作る予定(・・・・・・・・・・・・)ではあった。が、予想外の事態に予定を早め、こうして作っている訳なのだが。

 

 というのも、

 

(全く、永夢の奴め……目敏くゲームを見つけてしまってからに……!)

 

 

 

 永夢がこの世界へ迷い込むこと事態は黎斗が仕組んでいたからに他ならない。

 

 

 

 事の発端は、黎斗がいつものように電子世界の独房で一人作業をしている時、幻夢コーポーレーションのサーバーにアクセスしていた時だ。普通ならば許されない行為だが、そこは神の才能。衛生省の管理を掻い潜ってのアクセスなど朝飯前だ。最も、それが限界でしかなく、今は脱獄するには時間も準備も足りない。このアクセスも、何度もやっていればいずれバレてしまう。故に程々に留めていた。

 

 アクセスする理由は、あそこにはまだ構想段階だったり、没になったり、作成途中のまま放置されていたゲームが数多く残されていたからだ。まだ世に出ていない数々のゲームを、この独房の中で新たに作り直したりするため、ちょくちょくアクセスしては衛生省にバレる前にデータを回収していた。

 

 閑話休題。

 

 その日、いつものようにサーバーからゲームのデータをインストールしようとしていた……が、ふと気になるファイルを発見した。こんなファイルは知らない。しかもそれは、厳重にロックが掛けられていた。が、そんなものは黎斗の前では赤子の手を捻るように解除するのは簡単なことだった。

 

 そしてPASSを解除して中身に目を通す。それは、かつての戦いで消滅した檀正宗が遺したゲームデータと、それに関する正宗の日誌だった。

 

 嫌な予感がした黎斗は、それを黎斗のPCに転送。日誌を読んでいくと、正宗の恐るべき計画に驚愕し、そして怒りでその身を震わせた。

 

 かつて黎斗が復活するために作成したゲーム……それを正宗は、インターネットを利用したソーシャルゲームとして作り直し、有事の際に自らが復活するためのゲームとして自動的に配信されるようにプログラムしていたことが明らかとなった。しかも、仮面ライダークロニクルのデータとゲムデウスのDNAデータもそこに組み込まれていたのだ。

 

 またもや黎斗の才能を利用した正宗に、黎斗は人知れず吼えた。そして父に対する怨嗟を吐き散らした。

 

 一通り暴れ終えた黎斗は、熱が冷めていった頭に浮かんだ疑問について考える。正宗の計画では、消滅した際にゲームデータはアプリとなってインターネットを通じて世界にばら撒かれるようになっており、起動した人間はこのゲームに取り込まれる仕組みとなっている。そうすることで大勢の人間のエネルギーを集め、やがて正宗はゲムデウスと共に再び蘇る……筈なのだが。

 

 そうなっていたら、世間は今頃未曾有の大混乱に陥ってしまっているだろう。にも関わらず、CRはいつものようにちょくちょく現れるバグスターに対応する程度で、至って平和そのもの。いつもの日常と大して変わらない。つまり、正宗のゲームによる異常事態は起きていない。

 

 何もないならそれに越したことはないが……しかしそれでも、正宗の所業だけは許せない。色々と懸念事項は多いが、黎斗は正宗の計画を完全に打ち砕くため、ある計画を練った。

 

 

 

 それは、天才ゲーマーMを正宗のゲームに送り込み、正宗を削除してもらおうという計画だ。ハイパームテキであればいかな正宗とて対処のしようがない筈。

 

 

 

 ただ正宗の計画について話したところで、信じてくれるかわからない。仮に信じてもらえたとしても、衛生省によってサーバーにアクセスしていたことがバレる。そうなれば、黎斗がここから出る期間はさらに伸びてしまうだろう。それは黎斗とて望んでいない。

 

 ならばどうするか……答えはすぐに出た。

 

 まどろっこしいが、永夢のガシャットを経由してデータを永夢の携帯端末に送信してしまえばいい。念には念を入れて、ダウンロードサイトで永夢の端末にだけ表示されるように細工を施す形にすれば、より黎斗が疑われることはない。

 

 いずれゲームに関しては好奇心旺盛な永夢がアプリを発見し、それを興味本位で起動させ、おのずと正宗のゲーム打倒のために動くだろう。そう考えた黎斗は、永夢にガシャットのメンテナンスという名目でガシャットを預かり、その中の一つに永夢がよく使用するマイティアクションXガシャットにデータ送信装置を組み込ませてもらった。使用するには支障はないため、バレることはない。

 

 後は、永夢が正宗のゲームを見つけ出し、起動すればいい……そして永夢は起動させた。

 

 ハイパームテキガシャットを黎斗が持っている状態のまま、でだ。

 

(迂闊だった……メンテナンスに夢中になっていたせいで、永夢を止めることが出来なかった)

 

 まさかこんなに早くゲームを発見するとは思わず、誤算だったと黎斗は後悔した。ハイパームテキが無ければ、クロノスに勝てる可能性はほぼ0に近い。しかもゲムデウスのウィルスデータもゲーム内に組み込まれているというのも問題だ。

 

 このまま永夢を失う訳にはいかない。そうして黎斗は、今ここにいる。

 

(……しかし、わからない。檀正宗のゲームは何故起動しなかった?)

 

 狡猾な正宗がこんな初歩的なミスをするとは思えない。何らかの想定外の異常が発生したのだろうか。データを見直しても、特に異常は見られなかったが……。

 

(そもそも、このグリムノーツというゲームタイトルも奴が考えたにしてはファンシーな印象を受ける……おまけにこの世界、ゲームというよりも寧ろ、現実に比較的近い……にも関わらず、しっかりとゲームの世界だと認識できる……)

 

 正宗らしくないゲームに、この世界の異様な空気。正宗にとっても対処のしようがないトラブルが発生したのではないかと、黎斗は考えた。

 

(……この世界は、もしや)

 

「―――い、神。おいって!!」

 

 考え事に没頭していた黎斗の思考を、貴利矢の声が呼び戻す。気付けば、もう少しで作業が終わるというところまで来ていた。考え事をしながらここまでこなすのは、さすがというべきか。

 

「どしたよ、急に黙り込んじゃって」

 

「……いや、作業に集中しすぎていただけだ。気にすることは無い」

 

 言って、黎斗は一旦作業の手を止めて横に置いてあった皿を引き寄せる。その上に乗っている綺麗な焼き色のついたホットケーキを一切れ、フォークに刺して口に運び、咀嚼した。香ばしさを伴った甘みが口の中に広がり、そして脳にじんわりと染みわたる。

 

「うん、やはり甘い物は脳にいいな」

 

「って、あぁぁぁぁぁ! それ私のおやつのホットケーキ! 後で食べようと思ってたのにぃ!!」

 

 ちゃっかり好物を食べられたことで悲鳴を上げるキュベリエ。黎斗はそんなこと知ったことではないとばかりにひょいひょいと食べていく。やがて完食した。

 

「さて、再開するか」

 

「ひ~ん! 全部食べられちゃったよ~!」

 

「あぁ……なんか、悪ぃ」

 

 ひんひん泣き喚くキュベリエを慰めながら、貴利矢は思う。

 

 女神ってより駄女神だな、と。

 

 本人に言ったら余計泣くことは確定しているので、心の内で思うに留めておいた。

 

「……しっかし、まさかお前がノリノリで協力してくれとはなぁ。正直、何か企んでるのかと思っちまうぜ」

 

 椅子の背もたれに顎を乗せながら黎斗に言う。監察医としての経験から、人の嘘にはCRの誰よりも敏感な貴利矢。しかも相手は一癖も二癖もある上、貴利矢たちを騙くらかして利用していたかつての敵だ。その上、悪事を悪事と思っていない程に倫理観に欠けている思考回路を持つ。そんな男が今回の件に絡んでいないとは思えないと、貴利矢の中では確定している。

 

 と言っても、恐らく黎斗の中でも想定外の出来事だったのかもしれない。そうでなければ、ここまで必死な様子は見られない。それに、永夢を助けるためには黎斗の協力が必要だ。ならばここは彼の所業には目を瞑っておこうと判断する。

 

 そんな貴利矢に対し、黎斗はフッと小さく笑う。

 

「なに、今回の原因であるゲームについて調べていたら、意外な事実がわかってね。さすがにこれは私も放っておけないと判断したのさ」

 

「意外な事実だぁ?」

 

 疑問符を浮かべる貴利矢に、黎斗は一度キーボードを叩く手を止める。

 

「……今回の一件、檀正宗が絡んでいる」

 

「……何だと?」

 

 貴利矢にとって聞き捨てならない名前が出て来た。思わず顔に緊張が走る。

 

「ゲームのデータを洗ってみたら、正宗が組んだと思われるデータが出て来た。それを見て、私は居ても立ってもいられなくてね」

 

「……本当なんだろうな?」

 

「無論だ。奴は腐っていても私の父だ。奴のことは私がよくわかっている」

 

 嘘だ。貴利矢は黎斗が何かを隠すために嘘をついていることを見抜く。だがそれは半分だけで、半分は本当にようにも思える。少なくとも、檀正宗の話は嘘とは思えない。

 

「……だとしたら、尚更急がねぇとな。檀正宗は自分のためなら何だって犠牲にする奴だ。時間をかけてると何しでかすかわかったもんじゃねぇ」

 

 檀正宗が関わっているのは本当だろう。ならば今は追及しないで、黎斗の嘘に乗ることにした。

 

「……あの、先ほどから言っている言葉がよくわからないのですが……ようは、今この想区に起きている出来事についてお話されているんですよね?」

 

「ああ、こいつ曰く、黒幕は檀正宗って野郎だ。あいつのことは自分たちがよ~く知ってる」

 

 キュベリエがおずおずと聞いて来て、貴利矢は檀正宗が何をしてきたかを、掻い摘んで説明した。そしてその間、黎斗が何故かでかいエンターキーをターンッと勢いよく押した。

 

「出来た……完成だ!!」

 

 立ち上がり、ガシャットを機械から抜く。白と茶のカラーリングのガシャットに、眼鏡をかけたキャラクターが本を広げているラベルが貼られている。そしてそのタイトルは、

 

 

 

「新たな世界へ渡るためのガシャット……『グリムノーツ』ッッ!!」

 

 

 

 ガシャットを掲げ、黎斗が叫ぶ。新たなガシャットを作り上げてしまった己の才能に、黎斗は酔いしれた。

 

「お、ついに出来たか神。そいつがあれば、永夢を助けられるってわけか」

 

 元の世界へ戻るため、そして永夢を救うためのガシャット。これでようやく、出発することができるというわけだ。

 

「フハハハハハハハハッ! 待っていろ永夢ぅ!! 神である私がぁ……君を救済してやろぉっ!! 行くぞ九条貴利矢ぁっっ!!」

 

「行くのはいいけどオメェホンットうるせぇな」

 

 ハイテンションで耳元で騒ぐ黎斗に対して顔を顰める貴利矢。そして早速、祠から出ていこうとした。

 

「あ、ちょっと待ってくださ」

 

 そんな二人をキュベリエが呼び止めようとする束の間、

 

「グベァッ!?」

 

「いっ!?」

 

 ベシン。見えない壁のような物に阻まれて、二人は面白い形で顔が歪んだ。

 

「っつ~! おもっきし鼻打っちまった……!」

 

「おい! 何だこれは!? 何で外へ出られないんだぁぁぁぁっ!?」

 

 鼻を抑えて蹲る貴利矢と、見えない壁を叩く黎斗。当然、壁は壊れずにただ鈍い音を鳴らすだけ。

 

「す、すいません、私が早くに言っておけばよかったんですけど……何故か祠から外へ出られないんですぅ……」

 

 申し訳なさそうに、そしてしょぼくれたようにキュベリエが、何度も外へ出ようとしたがその度にこの見えない壁にぶち当たってしまって外へ出ることは叶わないことを二人に話した。

 

「おいおいマジかよ、これじゃ永夢のところへ行くに行けねえじゃねぇか!」

 

 祠から出られない以上、目的を達成できない。いきなり八方塞がりとなってしまった。貴利矢が八つ当たり気味に壁を叩くが、やはり壁はビクともしない。

 

「……もしやこれは……」

 

 が、その横で落ち着いた黎斗が顎に手を添えて考え込む。しばらくそうしていたが、やがてPCを立ち上げ、その場で屈んでキーボードを打ち込んでいく。

 

 数分間、祠の中にタイピング音のみが聞こえる。そして音が止み、黎斗がPCを手に立ち上がった。

 

「やはりそうか……」

 

「何だ? 原因がわかったのか?」

 

 合点がいったとばかりの黎斗に問う貴利矢。

 

「この壁はゲームエリアによるものだ。普段私たちが使っているゲームエリアと違う、いわば以前クロノスが使ったラスボス用の物と似ている。そのせいでこの空間が隔絶されてしまっているようだ」

 

 以前というのは、クロノスこと檀正宗がゲムデウスをその身に吸収し、そして仮面ライダークロニクルのラスボスに一番近いプレイヤーであった西馬ニコを抹殺するために拉致し、閉じ込めたゲームエリアのことだろう。

 

「んじゃあ、そん時に使ったチートコードを使えばいいんじゃねぇか?」

 

 あの時も永夢たちは、黎斗の手で作成されたコードを使ってゲームエリアに辿り着くことができた。同じゲームエリアならば、それが可能な筈。

 

 が、黎斗は腹正しさを隠そうともせず、顔を顰めて頭を掻き毟る。

 

「それが出来れば私だってしている! だがこのゲームエリアは以前のゲームエリアとは違う! 恐らくこの世界の特性も合わさったせいで、全く別物となってしまっているんだ! これでは私のチートコードを持ってしてもゲームエリアの壁を突破できない!」

 

 つまりお手上げ。黎斗ですらもどうすることもできなかった。

 

「……想区に流れている空気がおかしいのは、そのゲームエリアっていうのが原因なんですね……ここが特別な場所というのが、こんな形で仇になるなんて……」

 

 キュベリエの泉の祠は、想区の概念とは若干異なる空間となっている。結果としてゲームエリアから隔離されてしまったここは、絶海の孤島状態となってしまっているというのが現状だった。

 

「……多分自分らがこのゲームに入れたのは、ここだけがゲームエリアに含まれていないからってことか」

 

 永夢と違い、正規の方法でゲームに入ったわけではない二人もまた、この祠の中に閉じ込められることとなっていることに気付いた貴利矢は頭を抱えた。

 

「……このガシャットを使えば、ゲームエリアに穴を空けることは可能だが……」

 

 言って、黎斗は完成したばかりのグリムノーツガシャットを見る。世界と世界を繋げる力を持つこのガシャットを応用すれば、確かに理論上は可能ではある。が、これを使うにはまだ問題があった。

 

「穴を空けたとしても一瞬だけ、すぐに閉じてしまう。その間に私たちが潜り抜けることは不可能に近い……」

 

 一瞬……最高速度で走る新幹線の窓にボールを入れるくらいに至難の技であるということ。バグスター粒子となって潜ることすら難しいことだった。

 

 しかし、少ない可能性でもやる価値はあるかもしれない……貴利矢と黎斗が、破れかぶれとばかりに決断を下そうとした。

 

「……あの、すみません」

 

 しかし、そこをキュベリエが手を挙げて制し、口を開く。

 

「一瞬、何ですよね? 穴が開くのは」

 

「ああ、そうだ」

 

 キュベリエの質問に黎斗が投げやりに答える。苛立ちはまだ収まっていないようだ。

 

 が、次に出て来るキュベリエの提案によって、その顔が変わる。

 

「でしたら、私も一緒に行きます!」

 

「……何?」

 

 突然の同行宣言。さすがの黎斗も、予想外に目を白黒させる。貴利矢も同様だった。

 

「え、何でそうなるんだよ?」

 

「フフーン! 私だって、伊達に女神って呼ばれてませんよ!」

 

「っ……」

 

 ピクリ。黎斗が反応する。

 

「私の使うすーぱー女神ぱわーがあれば、一瞬で好きなところへ行けちゃうんです! そのゲームエリアっていうもののせいでここから動けなかったんですが、一瞬だけでも穴が空けられるのならば、私の力が役に立つ筈です!」

 

「っ……!」

 

「おぉ、マジか! それが本当ならこっちとしてもありがたいぜ!」

 

 諸手を挙げて貴利矢は喜ぶ。キュベリエの話が本当ならば、彼女の力で永夢の下へ行くことができる。

 

「それに、私だって想区の安寧を司る女神なんです。こんなところでじっとなんてしていられません!」

 

「っ……!!」

 

 フンスと鼻を鳴らすキュベリエ。女神としての役割を果たせずして、安寧の女神など名乗れる筈もない。彼らが永夢という人間を探しに行くというのならば、渡りに船だ。

 

 それに、この想区の混乱によって彼女の友人でもあるエレナたち再編の魔女一行に危険が迫っているかもしれない。そう思うと、キュベリエは居ても立ってもいられない。

 

「っしゃぁ! そういうことなら、頼りにしてるぜぇ女神ちゃん!」

 

「め、女神ちゃ……は、はい!」

 

 さすがにそんな風に呼ばれたことはなかったためか、キュベリエは少し困惑するも、何とか受け入れた。

 

 ともあれ、これで出発の目処が立った。後は、キュベリエの力でここから出るのみ。

 

「じゃあ、早速出発しましょう! 私の傍から離れないでくださいね?」

 

 キュベリエは祈るように両手を組む。そして瞳を閉じて、意識を集中させた。

 

「行きますよ~? す~ぱ~……」

 

 キュベリエが淡く発光する。祈るポーズと彼女の出で立ち、そしてその光によって、キュベリエが神々しい姿に映る。それはさながら、人々の平和を願う慈愛を司る女神。

 

「女神ぱ」

 

「待て」

 

「……ふぇ?」

 

 ……が、黎斗から待ったがかかり、キュベリエの光は収縮して消えて行った。

 

「……神? どした?」

 

 まさか黎斗から制止されるとは思わず、貴利矢もキュベリエのようにきょとんとする。対し、黎斗はキュベリエへと向き直る。

 

 ゆらりと、幽鬼のように。顔を伏せたまま、ギロリとキュベリエを睨みつけ、そして、

 

「私の前でぇぇぇ……」

 

「え? え? え?」

 

 戸惑うキュベリエを無視して、

 

 

 

「……神を名乗るなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「きゃあああああああ!?」

 

 

 

 顔を歪めての大絶叫。祠がビリビリと震えた。

 

「おいおい神ぃ!! お前そんなくだらないことで止めたのかよ!? 今どうでもいいだろそれぇ!?」

 

「どうでもいいとは何だぁぁぁぁぁぁっ!! 神の前で神を名乗るなど、そんな狼藉が許されるとでも思っているのかぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「で、でも私、事実上の女神」

 

「黙れぇぇぇぇぇぇ!! この世に神は私一人で十分だぁっ!!」

 

「そんなの横暴ですよぉ! 助けてキリヤさ~ん!」

 

「……わりぃ、女神ちゃん。こうなったらこいつ止まんねえんだわ」

 

「そ、そんな~!」

 

「あ~……女神ちゃん、今だけの間だけ、こいつの癇癪に付き合ってやってくんない? ホント、ごめんな?」

 

「ひ~ん! あんまりですぅ……!」

 

 あまりの理不尽にさめざめと泣くしかないキュベリエ。哀れ、女神キュベリエは神の前で女神を名乗ることを禁じられてしまうのであった。

 

 

 

「くすん……じ、じゃあ改めて行きますね?」

 

「あぁ……頼むわ」

 

「早くしたまえ。時間は有限なんだからな」

 

「むぅ……誰のせいだと思って……」

 

 気を取り直し、キュベリエの後ろに立つ貴利矢と黎斗。申し訳なさそうな貴利矢に対し、不遜な態度を隠そうともせずに命ずる黎斗。涙目になりながら小声で文句を言うキュベリエだったが、改めて手を組んで祈り始める。

 

「それじゃあ……す~ぱ~めが……」

 

 コホン、一つ咳払い。

 

「……キュベリエぱわ~!」

 

 キュベリエの身体が、淡い光から強い光となって祠の中を照らす。

 

「今だ!」

 

 光の中で、黎斗がガシャットのスイッチを押し、起動させた。

 

 やがて光は収まっていく。光が完全に消えると、祠の中は元の静寂へと戻り、噴水の水が流れる音だけが空間を支配する。

 

 そして、光と共にキュベリエ、貴利矢、黎斗の姿も祠から消えていた。

 

 

 

 




疑問に思われるかもしれないので先に答えときます。

Q.永夢がグリムノーツの世界に迷い込んだ原因、ちょっと無理があるんじゃない?

A.神の才能に不可能はない

もう大体黎斗神のせいってことで。え、神の才能過信しすぎ? んなわけないでしょーもー!

ところで黎斗神を崇める会についてのパンフレットがここにありま≪爆走クリティカルストライク≫

わたしは しょうきに もどった!

はい、というわけで予定通りにいけば3話で終わります番外編。ホントなら2話構成だったんですが予想以上に長くなりました。

そんな行き当たりばったり作者が描く三人の珍道中、次回もお楽しみに~。

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