仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~   作:コッコリリン

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番外編二話目です。お馴染み三人娘のお話……ですが、すみません後半超駆け足です。期待してくださった皆さん、申し訳ありません。何せ一つ一つを長くすると、それこそ一作品並になりますので……いや、ホント、マジで。

いや、ホント、すいません。白雪姫のお話はどうするか、ホンットに悩んだんです。どうにか捻りだしたのが今回のお話だったんです。許してください、何でもするかどうか考えますから!

番外編は基本、真面目2のおふざけ8の割合で書いています。神ってこんなんだったか? 的な事も考えましたが、もういい、走り続けるだけだ!

で、番外編3ですが……次回は軽くダイジェスト風に。そこで



「推しの子の想区が入ってないやん! どうしてくれんのこれ?」

私「いや、すいません……」

「推しの子の想区を見たかったからプラウザ開いたの! 何で無いの?」

私「僕の中のネタが……尽きちゃいました」

「尽きた!? ネタが尽きたのこの中の中で!?」

私「はい……」

「……誹謗中傷書かせてもらうね(無慈悲)」

私「いや、それだけは……(懇願)」


みたいなことは勘弁してください! お願いします許してください! 何でも許してください!(我儘)


それで、前回のお話について、医者なのにドイツ語学んでないってどうよ? というご指摘受けました。調べる際、最近のお医者さんってドイツ語必要じゃないとかそんな話だったような気がしたんですが、でも無学ってのもおかしいし、嗜むというのも違和感あるんで、序盤の貴利矢さんの台詞辺りを訂正させていただきました。ご指摘してくれた方、ありがとうございました。誹謗中傷以外、こういうの大歓迎。コッコリのメンタルはガラスのハート。簡単に砕けちゃうので優しくしてね(はぁと)

では番外編2、キャラ崩壊だけは気を付けたいと思いつつも、もうしっちゃかめっちゃかにとっちらかったお話をどうぞです。


番外編2 神と女神と監察医 ~キュベリエの悲鳴~

――――――

――――

―――

 

 

 

 

 黄金に輝く昼さがり、僕らはゆるりと川くだり、小鳥のような三人娘、次から次へとお話をせがむ。

 

 最初の娘は尊大に、「さぁ、はじめて!」

 

 次の娘は優しく、「もっとおかしなのを」

 

 末の娘は茶々入れて、「ナンセンス!」

 

 やがて語り手はくたびれて、「続きは今度」

 

 すると三人娘は大合唱、「今度がいまよ!」

 

 ついでに神が、「ブハハハハハハハハハハハハっ!!」

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 不思議の国のアリスの主人公であるアリスは、今日も今日とていつもの水色の動きやすいドレスにうさ耳のようなリボンという出で立ちで、ある日偶然見つけて以来、すっかりお馴染みとなった不思議の国へ遊びに来ていた。愛猫である白猫ダイナも、この世界では猫耳と尻尾を生やした銀髪の少女の姿となり、大好きなアリスと一緒に不思議の国を冒険、そして遊ぶのが何よりも楽しみとなっていた。

 

 そんな彼女たちが出会う人々は、皆が皆おかしな人ばかり。いつも騒動を起こす三人組マッドティークラブ、尊大なハートの女王、几帳面な時計ウサギに、のらりくらりと謎めいた言葉を遺すチェシャ猫。

 

 今日はどんな人と出会うのだろう。そんな期待に胸膨らませ、いざ不思議の国に来てみたら、

 

 

 

「ここがシンデレラの想区かぁぁ……童話の世界に、神である私が降臨したぞぉぉぉぉっ!!」

 

「落ち着けって神。誰もいない方に向かって叫んだところで頭おかしい人間にしか見えねえぞ……あ、わり、元からおかしかったか……」

 

「……あ、あれ?」

 

「あん? どしたの女神ちゃん」

 

「あ、あの……ここ、シンデレラの想区じゃないかもしれません、はい……」

 

「何ぃっ!? どういう意味だキュベリエぇぇぇっ!!」

 

「ひぃぃっ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 私にもわかんないです!!」

 

「おい神、あんまがなんなさんな。女神ちゃん思いのほかメンタル弱いみたいだし」

 

「それフォローになってませんよキリヤさぁん!」

 

 

 

 さすがにあれは予想外だった。

 

「……何かしら、あれ」

 

「わ、わかんないニャ……」

 

 風吹く草原のど真ん中で仰け反りながら叫ぶ黒い服の男、呆れと鬱陶しさがごっちゃになったような顔をしている白い服の男、そして黒い男に向かって必死こいて頭を下げまくる女性。元から変な人が多い不思議の国の中でも、特に奇妙なナリの三人組。この不思議の国でも、同じく騒がしい三人組を知ってはいるが、あれとはまた違うベクトルの騒々しさ(もっとも騒いでいるのは一人だけのようだが)があり、アリスとダイナはただただ呆然と見ているしかできなかった。

 

 というよりも、アリスたちは何度もこの国に足を踏み入れているが、あんな人たちを見たことがない。それもあって、何となく気になった好奇心旺盛なアリスはおっかなびっくりという風にいまだ騒ぐ三人に歩み寄ってみた。

 

「あ、あの~」

 

「あん?」

 

 とりあえず、ギャーギャー騒いでいる黒い男と涙目で謝り倒す女性よりも、傍観している立場にいるであろう白衣の男に声をかける。男はアリスの声に反応して振り返った。

 

「あなたたち、誰? 不思議の国の人……にしては見慣れない姿をしているわね?」

 

「不思議の国?」

 

 アリスの言葉に男こと貴利矢は首を傾げる。一瞬、何の事かわからなかったが、貴利矢は瞬時に結論に行き付いた。

 

 ここは童話の世界。その中でも不思議の国と言えば、最有力候補として童話の中で特に有名な『不思議の国のアリス』が思い浮かんだ。

 

 そして目の前にいる少女が主人公アリスだとしたら……監察医としての観察眼を持つ貴利矢は、たった一つのキーワードから答えるべき言葉を導き出した。

 

「あ~、実はお兄さんたち、最近ここに来たばっかりなんだよね。だから君とも面識はないのは当然かな」

 

 相手に警戒心を抱かせないようににこやかに、無害であることを主張するように言う。

 

 無論、これは嘘だ。別の世界出身であるということを伝えたところで信じてもらえないだろう。アリスと同じように迷い込んだと言っても、もし不思議の国の出入り口が一つだけしかないと仮定した場合、すぐにバレてしまいかねない。

 

「へぇ、新入りさんかぁ。そういうこともあるのね」

 

「……」

 

 貴利矢は必要とあらば平気で嘘をつける人間だ。それが故に、初見でその嘘を見抜ける者は少ない。アリスは彼の言葉を信じ、納得とばかりに頷く。が、隣にいる猫耳少女のダイナはというと、胡散臭そうな目で貴利矢を見つめていた。

 

(……こりゃ、猫耳ちゃんは信じてねぇなぁ)

 

 見た目は人間のようだが、ここは貴利矢たちがいた世界の摂理とは異なる世界。頭につけた耳がピクピク動いているのを見るに、どうやら本物らしい。中身は人間とは違うようだと貴利矢は当たりをつける。獣の直感、というものなのかもしれないが、中々に侮れない。

 

「キリヤさん、誰と話して……あ、あれ?」

 

「……? 女神ちゃん?」

 

 黒伏の男こと黎斗に謝り倒していた女性、キュベリエは、貴利矢と会話している人物を見て固まった。訝しんだ貴利矢がキュベリエに声をかける。

 

 硬直が解けたキュベリエは、クイクイと貴利矢の白衣を引っ張り、アリスとダイナから距離を離す。

 

「キ、キリヤさん、ごめんなさい。やっぱりここシンデレラの想区じゃないです。不思議の国のアリスの想区です!」

 

「あ、やっぱり? あの子も不思議の国って言ってたからもしかしたらって思ってたんだよ。で、ひょっとしなくてもあの子って?」

 

「は、はい。『不思議の国のアリス』の主人公のアリスです。隣にいるのは飼い猫のダイナですね」

 

 案の定、彼女はこの世界にとっての主人公。よりにもよって物語の中心人物といきなり遭遇してしまったということになる。

 

「あ~、よりにもよって主人公と出くわしちゃったかぁ……なんかあれだな。童話の世界っつっても、話して見ると普通の人だったりするから実感湧かねぇなぁ、自分」

 

「そんな呑気なこと言ってる場合ですか!? 私の力だとすぐに目的地へ着ける筈だったのに……」

 

「ん~……女神ちゃんのうっかりってのじゃない?」

 

「ちょ……いくら私がポンコツだからって、こういう時はミスしたりしません! クロトさんのガシャットとかいうのが悪いんじゃないんですか!?」

 

「バカなこと抜かすぬぁぁぁっ! この私がそんなミスを犯すわけがないだろぉ!!」

 

「ひゃぁ!? 耳元で叫ばないでくださいよぉ!」

 

「んなこと言ってっけど、お前結構うっかりミスするじゃん。それで何回も痛い目見てっし」

 

「黙れ九条貴利矢ぁっ!!」

 

「こ、鼓膜がぁぁぁ……!」

 

「……何なのかしら、この人たち」

 

「なんか、ある意味マッドティークラブの連中以上に騒がしいニャ」

 

 コソコソ話していたかと思えば、途中からギャーギャー騒ぎ出した三人を少し離れた場所から見ていたアリスとダイナは、あまり関わり合いにならない方がいい人種と関わってしまったのではないかと不安を覚え始めていた。

 

 今はこちらを余所に言い争っている様子。彼らのことは気にはなるが、何となく面倒なことが起こりそうな気がしてきたアリスは、この場を去ることにする。

 

「え~っと……ごめんなさい、私たちもう行くね?」

 

 一声そうかけたが、騒ぎに夢中で返事はない。アリスもまた、返事がないことを気にせずに踵を返した。

 

 まぁ、不思議の国なのだからああいう人たちも受け入れられるのだろう……そう思いながらダイナと一緒に歩き出そうとした。

 

 

 

『クルルルゥ……!』

 

 

 

「……? ダイナ、何か言った?」

 

「へ? 何にも言ってないニャ」

 

 鳴き声みたいな声がしたと思ってダイナの方へ振り向いてみれば、ダイナはきょとんとしている。

 

「……気のせいかな?」

 

 考えてみれば、今の声はダイナの物じゃなかったと気付く。首を傾げて、再び前を向いた。

 

 

 

『クルルルゥ!!』

 

 

 

「って、きゃーーーーっ!?」

 

 その瞬間、先ほどまでいなかった黒い化け物がアリスの目の前に立ち、黄色い目を見た瞬間思わずアリスは悲鳴を上げた。

 

「うぉっ!? どしたぁお嬢ちゃん!?」

 

 悲鳴にいち早く反応したのは貴利矢。振り返れば、アリスの前にどこからか現れた黒いい化け物が立っていた。しかも一体だけでなく、黒い煙が地面から吹き上がったかと思うと、その煙が次々と形を成し、同じ化け物へとなっていく。やがて視界一杯になるほどの数へ増え続け、黄色くギラついた敵意に満ちた目を一斉に貴利矢たちへと向けた。

 

「ニャーーー!? 何なのニャこいつらぁ!?」

 

 たまらずダイナも叫ぶ。咄嗟にアリスを庇うように前に出てくるのは、飼い猫の性と言うべきか。

 

「え、えぇぇ!? ま、まさかヴィラン!? 何で今ここで!?」

 

「ヴィラン? ……それってあの化け物のことか?」

 

 化け物を見たキュベリエが驚愕する。キュベリエが化け物に向けてヴィランと叫んでいたのを見るに、あの化け物の総称だろうと貴利矢は気付く。

 

「は、はい……でも何で急に? ここにはカオステラーの気配もないのに……」

 

 キュベリエはおろおろしながらも考える。ヴィランはカオステラーが歪めた運命を守護するために現れ、人々を襲う。しかしこの想区は、カオステラーに歪められている気配がない。ならどうして現れたのか。

 

 そして……気付いた。

 

「あ」

 

「なるほど……つまりは敵というわけかぁ」

 

「おーい嬢ちゃんたち。一旦お兄さんたちの後ろに下がってな? 怪我するぜ」

 

 何かに気付いた様子のキュベリエの前に、ニヤリと笑った黎斗が進み出る。貴利矢も黎斗の横に並び、アリスとダイナに呼びかける。一も二もなく、二人は貴利矢の言う通りにキュベリエの傍まで走り寄る。

 

「ね、ねぇ!? あれ何なの!? あなたたち知ってる!?」

 

「いいや、知らねぇな。けど、あちらさんが自分らに手ぇ上げようってんなら、やることは一つだ」

 

 アリスの質問に貴利矢は振り返ることなく答える。やがて、我に返ったキュベリエが慌て、二人を止めようとした。

 

「ま、待ってください! お二人じゃ無茶ですよ!」

 

 空白の書ならば、導きの栞を挟むことで童話の登場人物へ姿を変える『コネクト』が可能で、ヴィランと太刀打ちできる力を手にすることができる。しかし、運命の書の概念のない世界から来た貴利矢と黎斗は空白の書を、ましてや栞すら持っていない。どう戦おうというのか、キュベリエには皆目見当もつかない。

 

「無茶だとぉ……思い上がるなよキュベリエェっ!」

 

 そんなキュベリエに対し、不敵な笑みを浮かべながら叫ぶ黎斗は、彼らにとっての力であるゲーマドライバーを取り出す。貴利矢もまた同じく。

 

「ま、女神ちゃんはその子らを頼むぜ?」

 

 二人同時、ゲーマドライバーを腰に当てる。すると、ゲーマドライバーが装着者を認識、ベルトを射出して腰に自動で巻かれた。

 

「見せてやろう……神の力を……!」

 

 歪んだ笑みをそのままに、黎斗は右手にプロトマイティアクションXガシャットオリジンを、左手にデンジャラスゾンビガシャットを持つ。

 

「やれやれ、ここに来てまで戦う羽目になるなんてな……」

 

 うんざりした口調で、貴利矢も懐から爆走バイクガシャットを右手に持つ。

 

 そして二人同時、ガシャットのスイッチを押した。

 

 

 

≪MIGHTY ACTION X!!≫

 

 

 

≪DANGEROUS ZONBIE!!≫

 

 

 

≪BAKUSOU BIKE!!≫

 

 

 

 ゲームタイトルコールのサウンドボイスの後、電子メロディと共に二人の背後に現れる三枚のゲーム画面のホログラム。そして二人を中心に広がるゲームエリア。見慣れぬ光景を前にして、キュベリエたちは戸惑う。

 

「グレードX0……」

 

 黎斗は両手に持ったガシャットを指にぶら下げるように構え、

 

「0速」

 

 貴利矢は身を翻してその場でターン、ガシャットを構え、

 

「「変身ッ!」」

 

≪ガシャット!≫

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!!≫

 

 二人同時に挿入、アクチュエーションレバーを開いた。

 

 

 

≪マイティジャンプ! マイティキック! マ~イティアクショ~ン・X!≫

 

≪アガッチャ!≫

 

≪DANGER! DANGER! デス・ザ・クライシス! デンジャラスゾンビ!≫

 

「ヴアァァァァァッ……」

 

 

 

≪爆走! 独走! 激走! 暴走!! 爆走バイク!!≫

 

「ふっ!」

 

 

 

 黎斗を包む黒い霧。頭上から回転しつつ現れてタッチしたパネルと、ゲーマドライバーから飛び出て来た二枚のパネルが重なり明滅し、やがて黎斗はその身を白と黒の死者の戦士、仮面ライダーゲンム・ゾンビアクションゲーマーレベルX-0へと変え、唸り声と共にパネルを突き破りながら現れる。

 

 対し、貴利矢も目の前に現れたパネルをキック。同じくゲーマドライバーから現れたパネルの二枚が同時に貴利矢と一つとなり、黄色い光を纏い、そして弾ける。そこには、バイクの力を宿した仮面ライダーレーザーターボ・バイクゲーマーレベル0へと変身を遂げた貴利矢が立っていた。

 

「え、えぇ!? 見た目が変わっちゃったわ!?」

 

「な、なんなのニャ、この人たち……!?」

 

 アリスは勿論、ダイナもまた派手なサウンドと共に姿を変えた二人の男を前に驚愕し、狼狽える。

 

「あなたたちは……一体……?」

 

 キュベリエも二人と同じように驚くも、二人とは違うベクトルのもの。確かに姿形が変わったことも驚愕に値するが、長い間生きて来たキュベリエですら見たことのない、コネクトとも違う変身技術を前にしてただただ戸惑うしかない。

 

「私たちは、仮面ライダー……そしてこれこそが、神の力ぁっ!!」

 

 キュベリエの疑問に答えるのは、黎斗ことゲンム。そしてヴィランたちを見据えつつ、アーマーの左側のライダーゲージを親指で擦り、

 

「コンティニューしてでも、クリアするっ!!」

 

 突撃を始める。

 

「んじゃま、ノリノリで行くぜ~?」

 

 貴利矢ことレーザーもまた、ゲンム程のテンションではないにしても、戦意は十分。腕を軽く振るって、ゲンムに続く。

 

「フォウッ!」

 

 奇声を上げながら、ヴィラン一体を蹴り飛ばす。迫り来るヴィランを前に一歩も引かず、不規則な動きで、さながら獲物を狙うゾンビの如くヴィランへ四肢を振るい、次々と倒していく。ヴィランに知性といった物はない。しかしそれでも、ゲンムの奇怪な動きを前にして攻めあぐねているのは、まるで恐怖に慄いているようにも見える。

 

「あらよっと!」

 

 レーザーもまた負けていない。健脚から繰り出される得意の足技は、ヴィランを一切寄せ付けない程の猛威。ブレイクダンスのようにその場で回転、ヴィランを弾きながら飛び上がっての回し蹴りという身軽な攻撃。ただ爪や得物を振るうことしか考えていないヴィランなど恐れるに足らず、レーザーの足が鎌となって風ごと切り裂く。

 

 戦闘能力のない人間ならばいざ知らず、ヴィランが相手取っている二人は百戦錬磨の仮面ライダー。いくらヴィランが束になってかかろうが、仮面ライダーの方が一段、二段とさらに上を行く。

 

 そして、二人の猛進は止まらない。

 

≪ガシャコンブレイカー!≫

 

≪ガシャコンスパロー!≫

 

 ゲンムはハンマーと剣が一体化したガシャコンブレイカーを、レーザーは弓と鎌の複合武器ガシャコンスパローを召喚、それぞれを手に持つ。

 

「フッ!」

 

「オラァッ!」

 

 ゲンムは剣でヴィランを切り飛ばし、レーザーはエネルギーの矢を連射して次々とヴィランを射抜いていく。素手ですら十分な強さを持つ二人が武器を持てば、もはや鬼に金棒である。

 

 残すところ、後数体といったところまでヴィランを減らしていった二人。最後は一気に決めるべく、準備を始める。

 

「これで終わりにしてやろう!!」

 

≪ガッシューン≫

 

≪ガシャット!≫

 

≪キメワザ!≫

 

 ゲンムはゲーマドライバーからデンジャラスゾンビガシャットを抜き、それをガシャコンブレイカーのスロットに挿入、キメワザ発動準備が開始される。

 

「決めてやるぜ!」

 

 レーザーは手にガシャットを持ち、起動させる。

 

 

 

≪GIRIGIRI CHAMBARA!!≫

 

 

 

≪ガシャット!≫

 

≪キメワザ!≫

 

 レーザーは『ギリギリチャンバラガシャット』を起動、ガシャコンスパローに挿入、キメワザの準備態勢へ。

 

 そして、

 

 

 

≪DANGEROUS CRITICAL FINISH!!≫

 

 

 

≪GIRIGIRI CRITICAL FINISH!!≫

 

 

 

 ゲンムはその場で回転、同時に振るわれたガシャコンブレイカーの刃から黒い高圧エネルギーが放たれ、衝撃となってヴィランを襲う。

 

 レーザーのガシャコンスパローからも、光の矢が空中へ放たれ、それが宙で破裂、無数の小さな矢となり、一本一本が凶悪なエネルギーを纏いながらヴィランに向かって雨の如く降り注ぐ。

 

 各々、強力にして無慈悲な一撃。半数のヴィランはエネルギー刃の衝撃で吹き飛び消滅し、もう半数のヴィランは矢の雨を防ぐ術を持たずに貫かれ消えて行った。

 

 これで、締めだ。

 

 数十体はいたヴィランは、二人の仮面ライダーの手によって全て駆逐され、草原は一部地面が抉れていたりと景観が変わってしまったが、再び静寂が戻った。

 

「ヴェハハハハハハハハ! お前たち如きが、神である私に敵うとでも思ったかぁぁぁぁっ!! ヴァーハハハハハハハハハハ!!」

 

「何お前一人で倒した風に言ってんだ神」

 

≪ガッチョーン≫

 

 仰け反りながら高笑いをするゲンムをレーザーは軽く小突く。そしてゲーマドライバーのレバーを戻して変身を解くと、光が散ると共に元の貴利矢の姿へと戻った。ゲンムもまた高笑いしつつ変身を解き、黎斗へと戻る。

 

「あ、戻った」

 

 二人が変身を解く光景を見てアリスがポツリと呟くと、圧倒的な戦いっぷりを見ていて呆然としていたキュベリエがハッとし、そして二人に駆け寄った。

 

「キリヤさん、クロトさん! 早くこの想区から出ますよ!」

 

「え? どしたの女神ちゃん?」

 

「説明は後! いいから行きますよ、ほら!」

 

「わ、わかったわかったって! おい行くぞ神!」

 

「ヴァハハハハハハあだだだだだ耳を引っ張るな九条貴利矢ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 キュベリエが貴利矢の腕を引っ張り、慌てて貴利矢が高笑いしていた黎斗の耳を引っ張り、そしてその後には黎斗の絶叫が草原に木霊する。遠ざかっていく三人を見送るのは、ただただ唖然としているアリスとダイナのみ。

 

 やがて三人は遠く離れた場所まで行き……そして「す~ぱ~め……キュベリエぱわ~!」の声と後に一瞬光ったかと思うと、その姿を完全に消した。

 

 それを見つめること数秒。二人は何も言えず、ただ沈黙する。

 

「…………本当に、何だったのかしら、あれ」

 

「……知らないニャ」

 

 やっと口を開いたアリスから出て来たのは、誰が聞いても何と答えていいのかわからない質問。当然、ダイナもその一人。

 

 不思議の国に吹く風は、二人の間を通り過ぎて行く。短い間に色々なことがあったアリスとダイナは、もうすでに不思議の国を冒険した気分になっていたのであった。

 

 

 

 

――――――

――――

―――

 

 

 

 少女は逃げていた。迫り来る殺意を持った獣の群れから。

 

最初こそ、運命の書の通りに動いていた。出会った獣により、少女は道草をし、祖母のおつかいそっちのけで花畑へ寄るつもりでいた。

 

 なのだが……何が起きたか、獣が一匹、また一匹と増え……全員が少女を、極上の餌としか認識していないような目で睨みつけていた。

 

 運命の書の筋書きと違う……そう思いながら、少女は獣から逃れるために走り続け、

 

 そして、前方が光ったのを見た。

 

 

 

 

 

「で? 何で急にあそこから離れなきゃいけなかったのよ?」

 

 三人が立っていたのは、鬱蒼と生い茂った森の中に敷かれるように遥か向こうまで伸びている砂利道の上。澄んだ空気、天からは木漏れ日が降り注ぎ、枝葉に留まる小鳥の心地よい囀りが耳に入る空間にて、貴利矢がキュベリエに質問すると、荒い息を整えつつキュベリエが答える。

 

「ぜぇ、ぜぇ……あのですね、ヴィランが発生する原因は二つありまして」

 

 言って、右の指を二本立てる。

 

「一つは、想区の運命を歪める存在、カオステラーが生み出すことで発生するヴィラン。そしてもう一つは、想区を作り出した存在、ストーリーテラーが生み出すヴィランです」

 

「ふんふん」

 

「……」

 

 二人は予め、ストーリーテラーやカオステラーといった存在がどういうものか、キュベリエから触り程度には聞いている。貴利矢が相槌を打つ横、黎斗が顎に手を添えながらキュベリエの話を聞いていた。

 

「で、ですね? さっき私たちの前に現れてキリヤさんたちが倒したのは、前者のヴィランではなく、後者のヴィランだと思うんです」

 

「へ? 何でよ」

 

「あの想区には運命が歪められている気配がありませんでした。つまり、カオステラーは生まれていないんです。それで後者が生まれる原因は、ストーリーテラーが想区の運命を歪める原因を排除するためにヴィランを発生させるんです」

 

「……えーっと……それって……」

 

 キュベリエが言わんとしていることがわかった貴利矢は、口の端を引きつらせる。そしてキュベリエは、気まずいと思いつつも事実を口にした。

 

「……ストーリーテラーは……その、キリヤさんとクロトさんを運命を歪める存在と認識したんでしょうね……それでヴィランを放ったと見るしか……」

 

「……あ~……」

 

 反論する余地もないと、貴利矢は思った。考えてみても、不思議の国のアリスの世界に仮面ライダーなど登場のしようがない。何の脈略もなく、童話と関係ないキャラクターが出てきたら、貴利矢だって戸惑う。

 

「……気に入らんな。神である私を運命を歪める存在などと……何様のつもりだ……!」

 

「いやそう見なすのも無理ねぇと思うぞ?」

 

 一人静かに憤慨する黎斗は、人の運命を狂わせる危険人物筆頭だろう。何せ、過去に大勢の人々を巻き込んだ大事件を起こした挙句にその罪を父に擦り付けるわ、仮面ライダークロニクルを作るためにバグスターを利用するわ、そして何よりも永夢をパラドに感染させた諸悪の根源が黎斗なのだから、ストーリーテラーが黎斗を一番排除したがるのは至極当然の判断だと貴利矢は思った。多分、この場にCRの面子が揃っていたら同意していたと思う。

 

 

「だから、長居はできないので想区から飛び出したんですけど……おかしいんですよね。私はアリスの想区を目指していたわけじゃないのに……」

 

 力のコントロールがうまくいかない……今までそんなこと無かった筈なのに、一体何故。キュベリエが疑問に思っていると、黎斗が口を開く。

 

「……これは飽く迄も仮説にすぎないが、恐らくゲームエリアが関係しているかもしれないな。私たちが転移する際、何らかが作用しているんだろう」

 

「まぁたゲームエリアか……」

 

 黎斗が建てたのは仮説ではあるが、正直それ以外の要因が考えられない。貴利矢は厄介なゲームエリアの存在に頭を抱えた。

 

「むぅ……これじゃいつまで経ってもエレナさんたちのところへ行けないです……」

 

「そりゃこっちも同じだって……いつんなったら永夢のところへ辿り着けるのやら」

 

「……それで? ここは何という想区なんだ? 今度こそ目的地なのか?」

 

 思い通りにいかないことに不満げなキュベリエと貴利矢。黎斗はというと、周りを見回してここがどこなのか、キュベリエに問う。森の中にいるというだけで、ここがどういった想区なのかがさっぱりわからない。

 

「えっと、ここは……」

 

 キュベリエが黎斗の質問に答えようとしたが、それは中断される。理由は、三人の耳に何者かが草を踏みしめながら走ってくる音が聞こえて来た故だった。

 

 

 

「あ、あの!」

 

 

 

 足音の主が草むらから現れたかと思うと、唐突に声をかけられる。そこに立っていたのは、一人の少女だった。

 

 まだ幼いと言える年齢の少女で、頭に被った赤い頭巾と手に持った花の入った籠が印象的の少女。くりっとした瞳は、何故か焦りが含まれている。少女自身、全力で走ってきたからか、

 

「あ、あなたは……!」

 

「あん? 今度は誰よ?」

 

 驚くキュベリエに貴利矢が問うた。が、

 

「は、早く逃げて! じゃないとあなたたちまで……!」

 

 少女が三人に叫ぶように忠告する。何の事だと誰かが聞く前に、少女が息せき切って走っていた原因が明らかとなった。

 

 

 

『グルルルルッ!』

 

『グァァッ!』

 

 

 

「ちょ、おいまた化け物かよ!?」

 

 少女と同じ草むらから飛び出してきたのは、顔は狼、しかし身体は筋肉質の男という二足歩行の化け物。さながら人狼と呼ぶべき存在が五体、威嚇するように唸る。

 

「ひっ……!」

 

 少女が人狼を前にして怯え、後退る。そして少女の姿を知るキュベリエはというと、

 

「ご、ごめんなさい! また違う想区に来ちゃいました! ここ『赤ずきんの想区』です!」

 

 勢いよく頭を下げて謝罪した。

 

「なぁにぃ!? また間違えたのかぁぁぁっ!!」

 

「いやだって! さっきクロトさん言ってたじゃないですか! そのゲームエリアが原因だって!!」

 

「それとこれとは話が違ぁう! もういいからさっさとここから出るぞ!」

 

「う……ごめんなさい、十分だけ待ってください。さすがに連続使用は、その、疲れちゃって」

 

「ふざけるなぁぁぁっ!! もういい! その力を私に寄越せぇ! 私が代わりに使ってやる!!」

 

「ちょ、そんなのダメに決まってるじゃないですかぁ!! そもそも私の力は譲渡できるような力じゃありません!」

 

「つべこべ言うなぁ! この駄目駄目ポンコツがぁっ!!」

 

「ひどい! 二回駄目呼ばわりした上にポンコツまで付けるなんて! この鬼! 悪魔ぁ!」

 

「檀黎斗神だぁっ!!」

 

「あぁもうお前らうっせぇよ!! 目の前の状況理解しろい!!」

 

 レベルの低い喧嘩をし出した神と女神に貴利矢がたまらず怒鳴った。人狼は相変わらず唸っているが、この状況で口喧嘩し出した三人を見て戸惑っているのか、襲う気配はまだない。少女こと赤ずきんもまた、三人というより顔を歪ませて怒鳴る黎斗に対して人狼以上に怯えているように見えた。

 

「えぇい、こうなったら追い払うまでだぁ!」

 

≪MIGHTY ACTION X!!≫

 

≪DANGEROUS ZONBIE!!≫

 

「ったく、キリがねぇぜ」

 

≪BAKUSOU BIKE!!≫

 

「こ、こっちに下がっててください!」

 

「ふぇ? あ、はい!」

 

 再びガシャットを起動させる黎斗と貴利矢。キュベリエはおろおろしている赤ずきんを連れて後ろへ下がる。

 

「グレードX0……!」

 

「2速!」

 

「「変身ッ!!」」

 

 二人同時にガシャットをゲーマドライバーに挿入、レバーを開く。

 

≪ガシャット!≫

 

≪ガッチャーン! レベルアーップ!≫

 

≪マ~イティアクショ~ン・X!!≫

 

≪アガッチャ!≫

 

≪デンジャラスゾンビ!!≫

 

 黎斗はアリスの想区同様、ゾンビアクションゲーマーレベルX-0へと変身。そして貴利矢はというと、

 

≪爆走バイク!!≫

 

 再びレーザーターボへ……ではなく、何故か人型ではなく、その姿を大型二輪のバイク、仮面ライダーレーザー・バイクゲーマーレベル2へと変えた。

 

「ふぇ!? き、キリヤさん、ですか!?」

 

「な、何これ何これ!?」

 

 先ほどと違う上に見慣れない乗り物へと変わったレーザーに驚愕するキュベリエと、そもそも仮面ライダーを知らない赤ずきんがその光景に狼狽える中、レーザーはタイヤを回転させてその場でターン、キュベリエと赤ずきんの前に停まった。そしてライディングシートの上が光ったかと思うと、そこにはヘルメットが二つ乗っていた。

 

「二人とも、これ被って乗れ!」

 

「の、乗れって言われましても……」

 

 レーザーはバイクのヘッド部分を動かし、二人を急かす。バイクを初めて見たキュベリエたちにとって、さすがに躊躇いの方が大きいが、

 

「いいから乗れって! 女神ちゃんが前に乗って、そこの子は女神ちゃんの腰にしがみつくように乗るんだ! 動かすのは自分がする!」

 

 レーザーとてバイクに乗ったことのない二人に無茶振りをしていることくらいわかっているが、それを承知で言っている。そうでもしなければ、この窮地を脱することはできない。

 

 キュベリエは悩む。乗ったことのない乗り物に乗るか、乗らないか……やがてキュベリエは決意する。

 

レーザーを信じる。それしかない。キュベリエは頷いた。そして被ったことのないヘルメットに軽く苦戦しながらも、何とか被る。

 

「後ろに!」

 

「は、はい」

 

 見た感じ、跨って乗るものだと判断したキュベリエがレーザーのライディングシートに跨るように座り、赤ずきんを促す。おっかなびっくりという風に赤ずきんがキュベリエに倣って自身もヘルメットを被り、彼女の腰にしがみ付くように跨ったのを確認したレーザーは、エンジンを始動させる。

 

「飛ばすぞ、しっかり掴まってろよ!!」

 

 返事を聞く前に、レーザーはエンジンと直結している後部タイヤを高速回転、砂利飛ばし、地面を削りながら走り出した。

 

「ひゃあああああああ!?」

 

「じゃあ頼んだぜ、神!!」

 

 

 

 ゲンムを置いて。

 

 

 

「……ヴァ?」

 

 ゲンムが振り返れば、猛スピードで遠ざかっていく二人の少女を乗せたレーザー。その後に残されるのはキュベリエのドップラー効果による悲鳴と、廃棄ガスの煙の独特な臭い。

 

 何が起きたかわからなかったゲンムは、しばし呆然と構えを取った状態のまま固まる。そして首を前へ向ければ、同じく固まっている人狼たち。

 

「……」

 

『……』

 

『……』

 

 取り残されたゲンムと、知性のない筈の獣でもわかる何とも言えない風な人狼たちの間を吹く風。そしてようやく思考停止から復帰したゲンムは理解した。

 

 

 

 囮にされた、と。

 

 

 

「うっし、ここまで来れば……」

 

 十分の距離を走ったレーザーは、その場で車体を傾けて急ブレーキをかける。そして上の少女二人に声をかけた。

 

「おーい、大丈夫かぁお二人さん?」

 

「あわわわ……は、早すぎですよぉ……!」

 

「うぅぅ……怖かった……」

 

「う……わりぃ、飛ばしすぎた」

 

 軽く恐慌状態に陥っている二人に、レーザーは素直に謝罪する。やはりバイクに乗り慣れてないばかりの二人にこのスピードは無理があったかと反省した。

 

「け、けど大丈夫なんですか? クロトさん、置いてっちゃいましたけど……」

 

 少し気を持ち直したキュベリエが、道の向こう側を見やりながら言う。咄嗟にゲンムを放置してきたレーザーだったが、何も彼に悪意を持って置いて行ったわけではない。決して。

 

「なぁに、大丈夫だろ。腐っても神名乗ってるだけある程の実力はあるしな」

 

 ゲンムを囮にするような形で置いて行ってしまったが、レーザーは再びゲンムの下へ戻るつもりだった。彼とは確執こそあるが、レーザーとてそこまで鬼ではない。さすがにゲンム一人に全てを負わせるつもりはなかった。

 

戦わない二人を巻き添えにしないようにするため、レーザーは二人に下りるようにと告げようとした。

 

 

 

「九条貴利矢ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 が、それを中断。大絶叫を上げながら道の向こうから土煙を上げつつ全力疾走をする白黒の仮面ライダーの姿を視認したからだ。

 

「げ、神」

 

 やっべ、と思いつつゲンムが迫ってくるのを見ていると、

 

 

 

『ウガアアアアアアアアア!!』

 

『クルルルルルゥゥゥゥ!!』

 

 

 

「って何か増えてんだけどおおおおおおお!?」

 

 ゲンムを追ってきた、というよりまるでゲンムが引き連れてきたようにしか見えない人狼の群れといつ間にか現れた運命の守護者たるヴィランの群れを前にし、レーザーは二人を乗せたままエンジン始動で急発進。逃走再開。

 

「きゃあああああああああ!? キキキキキリヤさん急に走り出さないでぇぇぇぇぇ!?」

 

「やめてええええええ!! 止めてええええええ!!」

 

「九条貴利矢ぁぁぁぁぁぁぁ!! 神を囮に使うとは何事だああああああああ!!」

 

「うっせぇバカ神ぃ!! お前何数増やしてこっち来てんだよふざけんな!!」

 

「私をコケにした罰だぁっ! お前にも味合わせてやるよぉヴェハハハハハハハハハ!!」

 

「もうそういうの間に合ってんだよ責任もってテメェが全部片づけろぉ!!」

 

「助けてぇぇぇぇぇぇエレナさぁぁぁぁぁんレヴォルさぁぁぁぁぁん!!」

 

「パパぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 そこにいるだけで想区の筋書きを軽く歪めてしまうとされている男の高笑いと女神と少女の悲鳴が森の中に響き渡る。そんな四人の逃走劇は、それから三十分程続いた。

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

―――

 

 

 

 

 とある森の中、質素な外見の小屋の前にて。

 

「可愛いお嬢さん、林檎はいかが?」

 

 そう言って、目深にフードを被った女性が真っ赤で艶のある林檎を差し出してくるのを、白雪姫は黙って見つめていた。

 

 白雪姫はわかっていた。この林檎を食べれば、自分はどうなるのか……そして、今目の前でその林檎を差し出している女性が何者なのかを。

 

 白雪姫は悲しかった。運命の書の通り、白雪姫は目の前の女性と相容れないのかと思うと。

 

(お義母さん……)

 

 この世でたった一人の家族。ただ家族として愛されたかったと願った唯一の人。口は悪くても、本当は心の優しい人間であることを、白雪姫は知っている。

 

 それでも、やはり運命の書からは逃れられない。白雪姫は林檎を食べて昏睡し、王子様のキスで目覚め……そして義母は、毒林檎の王妃は、処刑される。

 

 

 

 それが……白雪姫としての宿命。

 

 

 

 悲しき運命を背負った義母を思い、いずれ己も背負うことを覚悟の上で、白雪姫は林檎を手に取った。

 

「……ありがとう」

 

 一言、そう礼を告げる。そして、その林檎を一口齧るため……己の運命を確定付けるために、ゆっくりと口に近づけていく。

 

 

 

 その瞬間、二人の傍で衝撃が走った。

 

 

 

「きゃあ!?」

 

 いきなり爆発したことで驚いた白雪姫は、思わず林檎を落とした。

 

「な……何事!?」

 

 毒林檎の王妃すらも、いきなりのことで驚く。そして煙が立ち込める空間を警戒し、臨戦態勢を取った。

 

 やがて煙が晴れていく。そこにいたのは、

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……神ぃ……テメェ、ホント碌なことしやがらねぇなぁ……!」

 

「はぁ……はぁ……黙れぇぇぇ……元はと言えば君のせいだろうがぁぁぁぁ……!」

 

「も、もう……どっちでもいいです……うぅ、まだ目が回りますぅぅぅ……」

 

 

 

 白衣の男、貴利矢。黒い服の男、黎斗。そして女神キュベリエ。三人揃ってボロボロで、地面を這いつくばっていた。

 

 あの後、何とか逃げ切れた三人。赤ずきん(顔色は真っ青だった)を村へ帰し、キュベリエの力でヴィランから逃れることに成功した……成功はした。

 

 そこに至るまで、時にはヴィランと戦ったり人狼と戦ったり、その後逃げ回ったりキュベリエが慣れないバイクの揺れで目を回したり、黎斗と貴利矢が喧嘩したり……完全にとばっちりを受けている気がしてならないとキュベリエは思った。

 

(うぅ、なんで、なんでこんな目に……私何も悪いことしてないのに~!)

 

 キュベリエはこの世の理不尽を嘆いた。自分が何をしたというのか。ただ泉の祠で想区の安寧を願い、浄化の女神としての役割を果たし、ホットケーキに舌鼓を打つ毎日を送っていただけだというのに。ゲームエリアだの何だのよくわからない事象のせいでこんな想区巡りをする羽目になってしまった挙句、自称神のやばい男のせいでひどい目にしか合っていない。こんなのあまりにもひどい、あんまりだと、ただただキュベリエは己の不運を呪った。

 

 そして、そんな彼女の不幸はまだ終わらない。

 

「お……お腹すいた……」

 

 キュルルルと鳴り出すキュベリエのお腹。考えてみれば、キュベリエはここに来る前から何も食べていなかった。というのも、食べようと思っていたホットケーキは黎斗が全て胃に入れてしまったせいで、空腹を満たせていない。

 

 胃が何か寄越せと訴えて、キュベリエを急かす。先ほどの逃走劇による興奮からすっかり忘れていたが、それが落ち着くとなると一気に意識してしまう。

 

だからこそ……彼女は気付かない。

 

「あ、林檎」

 

 目の前に転がっている林檎がどういったものか。

 

「……もうこれでいいかなぁ」

 

 意識が林檎に向いてしまったせいで、彼女の近くにいる人物たちが何者なのかを知っている筈なのに気付かなかったことで。

 

「いただきまーす……」

 

 空腹と疲労で思考能力をほぼ失ってしまったキュベリエは、地面に転がっていた林檎を手に取り、

 

「あ……それ!?」

 

「あなた、よしなさい!!」

 

 

 

 齧った。

 

 

 

「……あぁ、甘くて仄かに酸味があっておいしい……それでいて食感もよくって、後味がほんのり苦くて、うーん」

 

 パタリ。直立不動の姿勢でキュベリエは倒れた。

 

「え、女神ちゃん? 女神ちゃん!? おいちょっと!?」

 

「だからよしなさいって言ったのに!? それ毒林檎よ!? 何あなたが食べちゃってんの!?」

 

「はぁぁぁ!? 毒林檎ってアンタ何持ってんだよ!?」

 

「あわわわ、どうしようどうしよう!? 私の代わりに食べちゃったよぉ!」

 

「キュベリエェェェェェェッ! ここでゲームオーバーは許さんぞぉ!! 君がいなくなったらどうやってこの先進めばいいというのだぁっ!?」

 

「今それどころじゃねぇだろ神ぃ!! おいしっかりしろ女神ちゃん!! おーい!?」

 

 意識を失うキュベリエ、何度も揺り動かす貴利矢、叫ぶ黎斗、自分が食べる筈だった毒林檎を別の人が食べたことでパニックになる白雪姫、筋書きと違う展開に混乱する毒林檎の王妃。まさに阿鼻叫喚のてんやわんや。誰も諫める者がこの場にいないのが不幸であった。

 

 そしてさらにさらに不幸は重なるもので。

 

 

 

『クォルルルァァァァァ!!』

 

 

 

 どこからともなくヴィランが現れ、貴利矢たちを囲んだ。心なしか前の想区よりも数が多いばかりか、全てのヴィランが怒り心頭のようにも見えなくもない。

 

「だぁぁぁぁっ!? こんな時に出やがったぁぁぁぁぁ!!」

 

「ひぃ! お、お化けぇ!?」

 

「あぁもう! おいアンタ! 元はと言えばアンタのせいでもあるんだろうが! 解毒剤みたいなもん持ってねぇのかよ!?」

 

「私のせいじゃないわよ! ……って一概に言えないのが何か腹立つけど、こんなこともあろうかとあるわよ解毒剤! ちょっと待ってなさい!」

 

「あんのかよ!? じゃあまぁとりあえず自分は救命措置をするとして……おい神ぃ! 連中は任せた!」

 

「私に指図するなぁ! 神を何度も扱き使って、ただでは済まんぞ九条貴利矢ぁっ!!」

 

≪MIGHTY ACTION X!!≫

 

≪DANGEROUS ZOMBIE!!≫

 

 毒林檎の王妃が薬を探すために懐を漁ってる間、貴利矢はキュベリエに救命措置を、黎斗は両手のガシャットを構えた。

 

「グレードX0、変身!」

 

≪ガシャット!≫

 

≪ガッチャーン! レベルアーップ!≫

 

≪マ~ティアクショ~ン・X!!≫

 

≪アガッチャ!≫

 

≪デンジャラスゾンビ!!≫

 

黒い煙を纏ってパネルを突き破ってゲンムへ変身、ヴィラン目掛けて突撃をかましていった。

 

「ヴェアアアアアアアアアアアアアア!! ストーリーテラーなど、神である私の敵ではぬぅわぁぁぁぁぁぁい!!」

 

「えぇっと解毒剤、解毒剤……あ、あれ? どこやったのかしら?」

 

「おいちょっとアンタ何やってんだよ! まさか失くしたとかじゃないだろうな!?」

 

「失くしてないわよ! ちょっと黙ってて! あ、あれ、ホントにどこやったっけ? 確かに持ってきた筈なのに……」

 

「お、お義母さん、私も探すよ!」

 

「いや、私はあなたのお義母さんじゃ……って、あぁもう!この際それは置いとくわよ!!」

 

「女神ちゃーーーん! 死ぬなぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 ヴィラン相手に高笑いと奇声を上げながら無双するゲンムの後ろ、大騒ぎで解毒剤を探す親子と、瀕死の女神を救うために頑張る貴利矢。

 

 結局、解毒剤は見つかったが……また微妙に運命が歪みかけたせいで、ヴィラン掃討に尽力する一行であった。

 

 

 

 

 

――――――

――――

―――

 




番外編3話へ続く(キートン山田)


ストーリーテラー「いい加減にしろよお前ら」

ヴィラン「何回想区の筋書き歪めたら気がすむんだよ」




ではまた次回、最後の番外編。アディオース。

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