仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~   作:コッコリリン

3 / 26
変身回、しかし長い!!


第3話 Crossする運命!

「あっれぇ……ここどこだ?」

 

 再編の魔女一行に見送られる形となって走り出した青年は、店から飛び出してしばらく後、いまだ痛む鼻を抑えながら周りを見回していた。元々土地勘のない場所で、幼い子供たちを探すのは無理がある。後先考えずに行動したツケが回ってきたことに、軽く自己嫌悪に陥った。

 

「まいったなぁ、帰り道もわからないぞ」

 

 頭をガシガシと掻き、途方に暮れる青年。子供たちを探すのに夢中になって、元来た道もわからない。迷路のように入り組んだ道を当てもなく歩き回り、やがて立ち止まった。

 

「はぁ……どこ行っちゃったんだろ」

 

 疲労した体を少しでも休めようと、膝に手を着いて項垂れる。少し休憩したらもう一度探しに行こうと思った時、

 

『なぁ』

 

 ふと、彼の脳裏に声が響く。青年の周りには誰もいない。しかし、青年はそれに慌てることもなく、自身の胸に手を置いた。

 

『いつまでこんなことやってるんだ? 俺たちはこんなことしてる場合じゃないだろ?』

 

「それは……そうだけど」

 

『だったら早く帰る方法も見つけないと。お前のことを待ってる人たちが大勢いる。それがわからないお前じゃないだろ? 永夢』

 

 青年……永夢は立ち上がり、近くの壁に背を預けた。そして、彼に語り掛けて来る存在に言葉を返す。

 

「わかっているさ。けど、目の前で助けを求めている人がいる以上、放っておくこともできない。お前だってわかるだろ? パラド」

 

『そりゃ……わかってるけどさぁ』

 

 永夢は自分の中に宿っている存在、パラドにそう話すと、先ほどまで諭していた側が逆転していることに気付き、小さく笑った。

 

 CRから突然この町に迷い込む直前、パラドは永夢の肩に手を触れた。その瞬間、ウィルスである彼は咄嗟に永夢の体に入り込み、文字通り一体化した。そのお陰で、永夢は右も左もわからない土地で、孤独に苛まれることなく、今こうして笑っていられる。それが永夢にとって、何よりもありがたかった。

 

「それに、お婆さんには助けてもらった恩返しもしないとね」

 

 思い返すのは、助けてもらったばかりか、寝床まで用意してくれた老婆。パン屋を営んでいると知った永夢は、助けてもらった恩返しにと、せめて店の手伝いをさせて欲しいと申し出た。最初は気にすることはないと言って断っていた老婆も、永夢の懇願に折れて店番をやらせてもらうまでに至った。

 

 何故助けてくれたのか一度聞いたら、「何事も助け合いじゃ」と言うだけで、具体的な話は聞けずにいる。しかし、永夢が手伝ってくれているおかげで助かっていると、笑顔で礼を言ったのを覚えている。

 

『……けど、問題は子供たちだよな』

 

「うん……」

 

 しかし、まだ一日しか経っていないのもあるが、子供たちからは避けられている。昨日永夢の顔を見ただけで、妹である少女は恐がり、兄の少年は警戒心を剥き出しにして永夢を睨んでいた。研修期間中、小児科も請け負っていた永夢にとって、子供たちと打ち解けられずにいるのはなかなかに辛い。

 

 だが、それ以上に永夢は二人の、とりわけ少年の瞳を見て、あることに気付いていた。

 

「あの子……何て言うか、すごく悲しそうな目をしていたな」

 

 小児科研修の時に、子供たちの診察をしてきた永夢だからこそわかる。あの少年の目からは警戒心だけではない、何か暗くて深い、泣き出しそうな目をしていた。この町の状況が彼をそんな目にさせているのか、それとも別の何かが原因か、今の永夢にはわからない。

 

『……助けたいのか? あの二人』

 

「ああ。あんな目を見た以上、放ってなんておけない」

 

 だからこそ、あの兄妹を笑顔にしてあげたい。二人だけではない、世話になっている老婆含めて、三人の心をどうにかして助けたい。例え拒絶されようとも、永夢はあんな悲しい子供の目を見たくなどなかった。

 

 それが永夢として、ひいてはドクターとしての信念だった。

 

『全く……どこ行っても変わらないな、永夢は』

 

 かつては敵として相対していたパラドも、永夢のそんな気持ちを知って笑う。その笑い声を聞き、永夢もまた笑う。

 

「付き合わせてごめん、パラド」

 

『前も言ったろ? 俺はお前、お前は俺だ。どこへだって付き合うぜ』

 

 頼もしい相棒の言葉に、永夢は心の中で感謝の意を告げる。改めて、二人を探そうと壁から背を浮かした。

 

「……あれ?」

 

 と、視界の端に何か写った気がし、そちらへ振り向く。そこには、一瞬だけだが小さな影が二つ見えた。

 

「あ、待って!!」

 

 永夢が探していた二人かもしれない。すぐさま走り出し、永夢は影の後を追う。道を縫うように走り、しばらく走った後、狭い道から抜け出せた。

 

「はぁ、はぁ……ここは」

 

 出た場所は、4mほどもある高い塀が聳え立っている道。町の人が歩いているのを見るに、ここは表通りのようだった。

 

 永夢は呼吸を落ち着かせつつ、周りを見回す。そして、目当ての存在はすぐに見つかった。

 

「いた!」

 

 塀を見上げ、じっと見ている二人の子供。永夢が探し続けていた兄妹だった。

 

「二人とも、見つけたよ!」

 

 永夢が叫びながら駆け寄ると、二人も永夢の存在に気付いて振り向く。少女は相変わらず怯えて少年の腕にしがみつき、少年もまた永夢を睨みながら見上げてきた。

 

「ふ、二人とも、足早いね……僕もうヘトヘトだよ……」

 

 腕で額の汗を拭いながら、二人と目線を合わせるように屈み込む永夢。疲労を感じながらも、二人の足の速さを笑顔で称賛した。

 

 しかし、二人は表情を変えることなく、相変わらずな様子で永夢を見る。

 

「……何しにきたんだよ」

 

「何しにって……君たちのお婆ちゃんが心配してたんだよ? 言いつけ通りの時間に帰らないから」

 

 敵意を込めて尋ねる少年に、永夢は二人を探しに来た理由を言う。老婆もそうだが、永夢も二人に何かあったのではと思い、必死に探していた。そんな永夢の気持ちを知らずか、フンと鼻を鳴らす少年。

 

「余計なお世話だよ。俺は別に探してくれって言ったわけじゃない」

 

「そんな言い方よくないよ。僕はともかく、お婆ちゃんに心配はかけちゃダメだよ」

 

「……ホントに心配してるかどうかなんて、わかんないじゃんか」

 

「お兄ちゃん……」

 

 けんもほろろな少年を、少女は気遣うように見る。態度を変えない少年だったが、永夢は変わらない様子で話し続けた。

 

「どうして、そんなこと言うの? 君たちのお婆ちゃん、本当に心配していたんだよ?」

 

「……」

 

 諭す永夢に、少年は黙り込む。顔を覗き込めば、唇をかみしめ、力一杯に握りこぶしを作っていた。その様子に並々ならぬ物を、永夢は感じ取る。

 

「……何か、あったの?」

 

「……」

 

 チラと、高い塀を見やる少年。整然と組み合わされた白い石で作られた塀の向こうは、何があるのか覗き見ることができない。少年の視線は、塀というよりも、その塀の向こうにある何かに向けられているような気がした。

 

「……大人なんて、皆助けてくれない」

 

「え?」

 

 ポツリと呟く少年に、永夢は首を傾げる。

 

「僕たちの父さんと母さんを……皆は、町の人たちは誰一人助けようとしなかった」

 

 泣き出しそうな少年の声。隣の少女も泣くのを堪えているが、目に涙を貯めながら少年の袖を力強く握りしめている。二人から感じる悲壮感と、少年が話す内容に、永夢は戸惑う。

 

「父さんと母さんって……一体何が」

 

「僕らの父さんと母さんは! お城の兵隊に連れて行かれたんだ!!」

 

 永夢を遮るように、少年は大声を張り上げる。道行く人がギョッと少年を見て、足早に去っていく。声に驚いたように見えたが、そういった様子ではない。まるで厄介なことから、自分も巻き込まれまいとしているかのような。

 

「何も悪いことなんてしてないのに! ちょっと生活が苦しいから何とかしたいって言っただけなのに! それだけで、二人はお城に……!!」

 

 とうとう堪え切れず、少年は大粒の涙を流し始める。それが引き金になったのか、少女もまた静かに泣き出した。

 

「そんな……」

 

 泣き出す二人の話を聞いて、永夢は愕然とする。この町のことはまだよくわからないが、それでも想像以上にひどい話であることだけははっきりわかる。二人の様子からして、有無を言わせず両親を連れ去ったのだろう。

 

 何の理由があって、両親を連れ去ったのか。どういう事情があって、子供たちを悲しませるのか。永夢にはわからない。

 

 しかし、湧き上がってくる怒りと、理不尽な仕打ちに対する反発心が、永夢の心に火を点けた。

 

『二人がこんな目をしているのは、そういう理由か……』

 

(ああ。まだわからないことが多いけれど、こんなこと許されていいはずがない……!)

 

 心の内でパラドと話し、互いに兄妹をこんな目に合わせた存在に憤りを覚えた。どうすればいいのか、永夢は考える。

 

「こんなこと……こんなこと、僕の運命の書にだって書いてなかったのに……!」

 

 が、少年が発した言葉に、ふと疑問を覚えた。

 

「……運命の、書?」

 

 聞き慣れない言葉に、思わず聞き返す。その運命の書とは何なのか、少年に問い質そうとした。

 

「そこのお前たち」

 

「へ?」

 

 ふと、背後から尊大な声がかけられ、永夢は振り返る。見れば、各々手に槍を携えた、鈍色に光る甲冑に身を纏った男たちが5人、永夢たちを見下ろしている。

 

「お、お城の兵隊……!」

 

「ひっ」

 

 少年は怯える少女を庇うように立つ。しかし、その少年の顔も恐怖に彩られていた。

 

 それを見た永夢は、少なくとも彼らが兄妹たちにとっていい人間であるとは到底思わず、立ち上がって彼らと相対した。

 

「先ほど、こちらから我々に対する反抗の意思があると思わせる発言が聞こえたが?」

 

「……あなたたちは誰ですか」

 

「質問をしているのは私だ、若造。愚民の分際で」

 

 高圧的な態度を隠そうともしない、5人のうちの一人。他の4人も軽蔑の眼差しを向けているのが永夢にはわかる。

 

「僕たちは、ただこの辺りを通っただけです。反抗なんてしてません」

 

 しかし、永夢はそんな彼らに対し、正面から向き合う。その背に兄妹を庇うように立ち、兵士たちが自身に向くように、彼らを真っ直ぐ見つめた。その目には強い意志があり、これまで数多くの修羅場を潜り抜けてきた貫禄を感じさせる。

 

 一瞬、そんな永夢の目を見てたじろいだ兵士たち。が、永夢のその態度が気に食わないのか、半ばニヤけていた顔を苛立ちで歪ませる。

 

「我々に口答えするとは、相当な愚か者と見える。罰としてそこにいるガキ共々、城に連行してやる」

 

「たったそれだけの理由で連れていくなんて、どんな権利があったとしても許されるものじゃない!!」

 

「黙れ、何度も言わせるな! 我々に盾突く者は、反逆の意思ありと見なす!」

 

(む、無茶苦茶だ……)

 

 横暴なんてレベルじゃない理論を振りかざし、兵士たちがにじり寄ってくる。道行く人々は、関わり合いになりたくない、もとい巻き添えを食らって捕まることを恐れているのか、遠巻きに見ているしかできない。永夢は兄妹と共に、一歩ずつ後退っていった。

 

『どうする、永夢!?』

 

(どうするったって……)

 

 何とかここは穏便に済ませたいと思う永夢は、対話を試みようと言葉を探す。

 

 しかし、この試みはすぐさま捨てさることとなる。

 

「我々に盾突く者は、は、はは、反逆者とみなす……!」

 

「……え?」

 

 兵士の様子が、おかしい。一人だけでなく、後ろに控えている4人も同様、体の動きが壊れたブリキ人形のようにガクガクと震え出す。

 

「は、ははは反逆者、反逆者、反ぎゃくしゃ、はんぎゃくぎゃくぎゃくぎゃく……!」

 

目が虚ろになっていき、繰り返され紡がれる言葉を発す口からは唾液が流れ落ちる。その異様な光景に絶句する永夢は、怯える兄妹と共に後ろへ下がる。

 

「な、なんだ……!?」

 

 突如変貌した兵士たち。やがてその姿を、黒い煙が覆っていく。その光景に驚くより前、一瞬で煙は晴れる。

 

 

 

「「クルルルルゥゥゥゥゥ……!」」

 

 

 

 煙の中から現れたのは、兵士ではなかった。

 

 頭頂部に生えるかのように揺らめく青白い炎を放つ大きな頭と、それに反して小さな体。そして酸化した血を彷彿とさせる赤黒い太い手足と、その先端に生える鋭利な赤い爪。永夢の肩ほどある体躯をした“それ”は、黄色く妖しく光る鋭い目を、永夢たちへ向ける。

 

「こ、これは……!?」

 

 人間が、突然化け物となった。その事実に、周りで事の成り行きを見ていた人々は悲鳴を上げ、我先にと逃げ出した。だが、永夢はこの光景に驚きこそすれ、恐怖を感じることはない。彼にとって、人間に感染するバグスターウィルスという存在があった。その度に彼は、患者を救うために命をかけて戦ってきた。

 

 しかし、これは……目の前で対峙する“それら”は、永夢の知るバグスターウィルスとは似ても似つかない。新種のウィルスかとも思ったが、目の前の連中が発する異様な雰囲気は、バグスターとも違うと感じる。

 

 共通している物と言えば、敵意を、そして悪意を感じる“悪性”の存在であるということだ。

 

「ば、化け物……!」

 

「……っ」

 

 永夢の後ろでは、兄妹が抱き合って化け物を恐怖に怯えた目で見ている。無理もない、脅威の対象が突然人間から化け物へ変わったという出来事は、大人である人間ですら理解することを否定するだろう。

 

 あの兵士たちは、永夢たちを城へ連行しようとしていた。しかし、今目の前にいる元兵士の現化け物である知性の感じられないこの存在が、“連行”という生易しい行為をするだろうか?

 

 否、そうは思えない。

 

「……こうなったら」

 

 四の五の言ってはいられない。今二人を守れるのは自分だけ。永夢は決意し、懐に入っている物を取り出そうとした。

 

『クルルゥゥゥ!』

 

「っ、まずい!」

 

 それより前に、化け物が永夢に迫る。咄嗟に背を向け、兄妹に覆いかぶさる。

 

 せめて二人の盾に……迫る脅威に対してそう覚悟し、永夢は目を固く閉じる。

 

 化け物の赤い爪が、無防備な永夢の背中に突き立てられ

 

 

 

「はぁっ!!」

 

 

 

 ることはなく、化け物は別の誰かの呼気と共に蹴り飛ばされることとなった。横からの衝撃に耐えることはできず、化け物は塀に体をぶつける。

 

「……あれ?」

 

 流血による痛みを覚悟していた永夢は、いつまで経っても衝撃が来ないことに疑問を感じ振り向く。そこに立っていたのは化け物……ではなく、青い服を纏った金髪の少年。どこか見覚えのあるその姿を確認すると共に、サファイアを彷彿とさせる瞳が永夢へ向けられた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「君は、さっきの……」

 

「え? ……あなたは!?」

 

 永夢だけでなく、少年、レヴォルもまた、化け物が出たという場所へ急いで来てみれば、誰かが襲われているのを目撃し、なりふり構わず助けに入った結果、助けた相手が先ほど客と店員として知り合ったばかりの顔だと確認すると驚愕する。

 

「やっぱりヴィランが出やがったか!」

 

「って、あれ? さっきのパン屋さんの店員さん!?」

 

 遅れて、エレナたちも追いつく。そして襲われていたのが永夢だと知って驚くも、化け物ことヴィランが一行の前に立ち塞がり、表情を変える。

 

「これ以上被害が広がる前に、倒すしかない!」

 

 レヴォルたちは永夢たちの前に立ち、ヴィランと対峙する。そして、各々革表紙の本を取り出した。ヴィランたちもまた、敵が増えたと認識したのか、どこからともなく仲間が集まりだし、数を増やして彼らを取り囲んでいく。

 

「ま、待ってください! 危険です!」

 

 敵が何者かはわからないが、自分たちを守るために戦おうとする彼らに、永夢は思わず制止しようとする。そもそも、彼らが手にしている本は一体何なのか、永夢には皆目見当もつかない。

 

 だからこそ、知らない。彼らが、再編の魔女一行の持つ本こそが、彼らの“武器”であることを。

 

「みんな、行くぞ!」

 

 レヴォルが声を張り上げると、懐から何かを取り出した。

 

(なんだ、あれ……?)

 

 それは、まるで弓矢の鏃に似ている形をした、黒くて薄いカードのような物だった。金色の縁取りがされており、上部に開けられた穴に細い紐を通している。全員、持っている物は同じ形をしていたが、真ん中に光る紋章の色と形がそれぞれ違っている。

 

 永夢の疑問を他所に、一斉にカードを各々持っている本に置き、閉じて挟んだ。

 

 次の瞬間、永夢の目の前で変化が起きた。

 

「えぇ……!?」

 

 一瞬、一行が光ったかと思うと、その後には一行の姿は消え、代わりに別の人間が立っていた。否、彼らは一様にして、その姿を“変化”させていた。

 

 レヴォルは、煌めく長い銀髪を後ろで一本に束ねた、細身の長剣を持つ貴公子『ロミオ』に。

 

 エレナは、一冊の本を手にし、黒いシスター服に赤い靴を履いた『赤い靴のカーレン』に。

 

 アリシアは、赤い頭巾を被り、その身丈に見合わない花柄の大筒を抱えた少女『赤ずきん』に。

 

 ティムは、短い金髪と凛々しい顔つきをした、装飾も見事な槍と盾を携えた青年『ヴァルト王子』に。

 

 パーンは、人の外見ではなく、狼のような獣の姿を持ち、水色の斧と丸盾を持つ『野獣ラ・ベット』に。

 

 シェインは、長い白髪と額に生えた二本の角という異様な出で立ちをした、手甲に刃を付けた『酒呑童子』に。

 

 かつての面影を残すことなく姿を変えた彼ら。今の彼らは、かつての英雄や物語の主人公の魂を宿したアイテム『導きの栞』を、自らの運命の書である『空白の書』に挟むことによって一体化する『コネクト』という力を使って変化し、栞に宿った魂の力を引き出すことができる。

 

 つまりは、彼らは戦える。その力を使い、運命を否定しようとする者たちから、己を、人を守るために。

 

 悲恋の主人公、贖罪のシスター……各々の力を手に、彼らはヴィランに立ち向かっていく。

 

「深追いはするな! 今は彼らを逃がすことを考えて戦うんだ!」

 

「はい!」

 

 ラ・ベットに変わったパーンの指示に従い、一行は数を増やしたヴィランへ突撃していく。

 

ロミオことレヴォルは、手にした長剣を振るい手近にいたヴィランを切り裂き、返す刃で二体目を切り飛ばした。

 

「はっ!」

 

 呼気と共に飛び掛かって来たヴィランを蹴り、その先にいたヴィランを巻き添えにして吹き飛ばした。そこに追い打ちをかけるよう、一か所に固まったヴィランの眼前に紫色の魔法陣が浮かび上がる。

 

「えい!」

 

 エレナ扮するカーレンによる魔法が発動、魔法陣から放出された闇色の力がヴィランを消し飛ばした。

 

「行くわよティムくん!」

 

「あいよ、お嬢サマ!」

 

 少し離れた位置で、赤ずきんとなったアリシアとヴァルト王子の力を宿したティムが、それぞれの得物を構える。アリシアの持つ大筒の先端からは膨大な熱量が炎となって蛇の下のように吹き出し、ティムの持つ銀色の槍の先端もまた同様に熱によって赤く染まっていく。

 

「「はぁっ!」」

 

 気合一閃、ヴィランへと照準を定めたアリシアの大筒と、地面に勢いよく突き刺したティムの槍から、得物に充填された熱が爆炎となって放出、炎の波となってヴィランを飲み込んでいった。その後には炭も残さず、ヴィランたちは消滅する。

 

「そっちへ飛ばすよ、シェイン!」

 

「お任せください!」

 

 ラ・ベットとなったパーンが、斧と盾を駆使してヴィランを次々と殴り、切り、吹き飛ばす。そしてその先に立っていた酒呑童子のシェインが、その身を捻り、一回転させて足を振り上げる。豪快な回し蹴りは死神の鎌となり、ヴィランは吹き飛ばされた勢いも合わせてその身を両断、煙となって消えていった。

 

「す、すごい……!」

 

 姿が変わったことも驚きだが、何よりも彼らのその戦いぶりに永夢は驚嘆する。戦術、連携……全てが只者ではない。そして、明らかに戦い慣れた様子から、あの化け物は永夢にとってのバグスターのような物なのかもしれない。仮面ライダーとは似ているようで明らかに違う、しかし次々と敵を消滅させていく彼らの力に、永夢は圧倒された。

 

 が、そんな永夢にシェインから叱責が飛ぶ。

 

「ボーッとしていないで、早く逃げなさい!」

 

「え……あ!」

 

 ヴィランを手甲の刃で切り裂きつつ永夢に促し、それに気付いて永夢は慌てていまだに怯えて固まる兄妹の手を引いた。

 

「ほら、こっちへ!」

 

「う、うん……!」

 

 先ほどまで永夢につっけんどんな態度をとっていた少年も、この異常事態には素直に従わざるをえなかったようで、大人しく永夢に引かれる。道の先へと走って消えていく永夢たちを追おうと、一部のヴィランがレヴォルたちを余所に走り出す……が、それはアリシアの放つ砲弾からの爆炎によって防がれ、挙句煙となって消えていく羽目となった。

 

「おぉっと! 私たちのことを忘れないで欲しいわね!」

 

「彼らには、絶対に手出しをさせない!!」

 

 今レヴォルたちがすることは、一匹でも多く倒し、永夢たちが逃げる時間を稼ぐこと。そのためにも、絶対にヴィランたちを先へ行かせるわけにはいかない。

 

 決死の覚悟で、ヴィランを迎え撃つ。一行たちの戦意は、例え数では圧倒されていたとしても萎えることなく、それぞれの武器を振るい続けた。

 

 

 

 

「ここまで来れば……」

 

 兄妹を連れて戦いの場から離れた永夢は、呼吸を整える。体力の低い子供たちはそれ以上に息が荒く、これ以上走り続けるのは難しそうだった。

 

「あとは……」

 

 永夢は振り返り、いまだ戦っているであろう彼らがいる場所を見る。姿を変えて戦う彼らならば大丈夫だとは思うが、それでも尚不安は募る。

 

 ここでこのまま逃げていいものか……普通の人間ならば、ただ彼らの無事を祈ることしかできない。

 

 そう、普通の人間(・・・・・)ならば。

 

「……二人とも、ここに隠れてて」

 

 言って、永夢は木箱や樽で物陰となっている目立たない場所へ二人を連れ、座らせる。

 

「ま、待ってよ。アンタはどうすんだよ?」

 

 何故このまま逃げないのか。永夢の行動がわからず、少年は永夢の白衣を掴み、引き留める。先ほどまでの恐怖と、大人である永夢が離れるという不安によって瞳が揺れている。妹である少女もまた同様で、永夢を見つめていた。

 

 その姿に、永夢は一瞬判断を迷う。しかし、ここで逃げて再び化け物に出くわすリスクも考えると、ここに隠れさせた方がまだ安全だろうと永夢は考える。

 

 それでも、子供たちにそのことがわかるとも限らない。永夢は、子供たちの前にしゃがみ込み、笑いかける。

 

「僕は、さっきの人たちの所に戻る。だからその間、君たちはここで待っていて欲しいんだ」

 

「な、何言って……アンタ、戦えんのかよ!?」

 

「うん、戦える」

 

 少年の反論に、永夢ははっきりとそう答えた。断言する永夢に、少年は思わず口を閉ざす。

 

「だから……君は、妹のことをしっかり、守ってあげて欲しい」

 

「っ……」

 

 少年の腕にしがみついて震える少女。そんな妹の姿を見つめる少年の頭に、永夢は手を乗せた。

 

 そして、断言する。その場を取り繕うわけでもなく、確かな決意を込めて。

 

「僕が君たちのことを、この町を、絶対に守ってみせるから」

 

「……」

 

 少年の頭を撫でてから、少女の頭も撫でる。その間、永夢はずっと笑顔を浮かべている。

 

 患者の、ひいては守るべき人々の笑顔のために戦う永夢。そんな彼が浮かべる笑みは、恐怖と不安で凝り固まった心を、優しく溶かしていく。少年と少女の心もまた、同じだった。

 

 やがて、永夢は二人の頭から手を離す。そして立ち上がり、視線を戦いの場へと向ける。そこには先ほどの暖かな笑顔はない。

 

 そこにあるのは、悪を許さず、善を助けるドクターの……戦士(ヒーロー)の顔だった。

 

 

 

 

 

「せやぁ!」

 

 ザバシュッ! そう音をたてて切り捨て、煙となって消えていくヴィランを確認することなく、レヴォルは次の相手へと切りかかる。今度のヴィランは、先ほどまで相手にしていた雑魚の中の雑魚、『ブギーヴィラン』ではなく、それよりも一回り大きく、より獣らしい見た目の二足歩行の盾持ちのヴィラン、『ビーストヴィランG』を相手取る。振りかぶった剣は、身の丈ほどある盾によって防がれ、カウンターにと空いた右手の大きな爪がレヴォルに迫る。それを後ろへ跳んで回避したレヴォルは、剣を構え直した。

 

「クッ、敵が多くなってきたな……!」

 

 見回せば、数多くの敵を倒したはずなのに、よりヴィランが増えているような気がしてくる。それも敵が徐々に強力になっていき、こちらの体力が削られる一方だった。

 

「あのお兄さんたち、逃げれたかな……?」

 

「逃げれたのならそれでいいんだけど、今度は俺らが逃げる機会を失くしちまったわけだけど、な!」

 

 永夢たちを案ずるエレナに、皮肉交じりに返すティム。手にしている槍を突き出し、ヴィランのうちの一体を貫く。

 

「とにかく、今は突破口を作りましょう。さすがにこの数は異常です」

 

 ヴィランを蹴りつつ、シェインは逃げ道を探す。確かに倒していっているはずなのに、少しずつ、しかし確実に数が増えていっている。これではいくら倒してもキリがない。

 

 非戦闘員を逃がしたはずなのに、今度はこちらが袋の鼠となる……なんて、冗談ではない。

 

「よし、そうと決まれば……!」

 

 一点に集まっているヴィランを集中攻撃しようと、レヴォルが剣を握り直した。

 

「レヴォル、危ない!」

 

 その時、エレナの叫びがレヴォルに届く。何だ? そう思った瞬間、右に目を向ければ、ヴィランが爪を振り上げ飛び掛かってきていた。

 

「なっ……」

 

 連戦による大量の消耗で油断してしまったのか、レヴォルはその殺気を感じ取ることができなかった。防御しようにも、もはや間に合いそうにない。

 

 やられる……! そうレヴォルは覚悟した。

 

 

 

「はぁ!」

 

 

 

 が、その覚悟は無駄となる。

 

 飛び掛かろうとしたヴィランは、レヴォルに一撃をくらわせることもなく、何かがぶつかってきたことによって無様にも吹き飛ばされた。

 

 何がレヴォルを救ったのか。その正体は、すぐに判明した。

 

「あなたは……」

 

 レヴォルを救ったのは、永夢だった。先ほどはレヴォルが庇ったが、今度は立場が逆転。永夢がレヴォルを救うために体当たりをし、ヴィランからの攻撃を防ぐことに成功した。

 

 しかし、お礼を言うのも忘れ、レヴォルたちは愕然とした。

 

「な、何であなたがここに……危険だから、離れていてくれ!」

 

「そうだよ、危ないよ!」

 

 何故戻って来たのか。言い方は悪くなるが、戦えない人間がここにいてもどうすることもできない。レヴォルたちは、永夢を下がらせようと声を荒げる。

 

 対し、永夢は耳を貸さない。ただ真っ直ぐ、ヴィランたちを前にして、堂々と立つ。

 

 震えもせず、怯えもせず、目に強い意志を宿した永夢は、懐から“それ”を取り出す。それはレヴォルたちには見慣れない物。

 

 一回転させながら取り出した“それ”……永夢にとって、戦うための重要なアイテム。ピンク色にカラーリングされ、キャラクターが描かれたラベルが貼られたカセット状のアイテム……ガシャットのスイッチを親指で押した。

 

 

 

≪MIGHTY ACTION X!!≫

 

 

 

「っ!? な、なんだ!?」

 

「わぁ! なに、なにこれぇ!?」

 

 急に響き渡るハイテンションな声と電子音、その直後に永夢の背後に現れた、巨大なホログラム映像。そこから無数に飛び出す、チョコレートのような板を貼り合わせたかのように作られた大きなブロック。さらに永夢を中心に波のように広がるピンク色の光が通った後、周りの景色が角ばったブロックで構成されたかのように見えたが、それも一瞬で元に戻る。が、明らかに周囲を漂う雰囲気が変わっただけでなく、ホログラムから飛び出したブロックは、地上、空中に幾つも設置されただけに留まらず、飛び出した拍子に数体のヴィランを吹き飛ばした。

 

 何も知らないレヴォルたちにとっては晴天の霹靂。しかし永夢にとっては見慣れた光景。

 

 ガシャットに内蔵されている空間生成装置『エリアスプレッダー』によって発生した『ゲームエリア』の中、永夢は口の端を吊り上げ、獰猛に笑う。

 

「上等だ」

 

「え……」

 

 近くにいたレヴォルは一瞬、我が目と耳を疑った。

 

 目の前に立つ者は、確かに優しい笑顔と穏やかな口調でエレナのためにパンを紙袋に詰め、老婆の願いを聞いて店を飛び出し、そして盛大に躓いた青年だ。背格好からして間違いない。

 

 しかし……明らかに、その身に纏う雰囲気が違う。先ほどまでの青年が、人畜無害の草食動物なのだとしたら、目の前に立って優しさとはかけ離れた獰猛な笑みを浮かべる彼は、さながら肉食獣。それも、狐といった小さい動物ではなく、獅子の如き獣だ。

 

「どんな連中が相手になろうと……」

 

 口調すらも変わった永夢が取り出したるは、派手な色合いの角ばった装置。それを勢いよく腰の前に当てると、装置こと『ゲーマドライバー』の左側から勢いよくベルトが射出、そのまま永夢の腰を一回りし、ゲーマドライバーの右側のバックルへと装着。

 

「この町の人たちの運命は……俺が変える!!」

 

 笑顔を消し、ガシャットを前方へ突き出す。そしてそのまま、白衣を翻しつつ右へ大きく両腕を振るう。

 

 ヴィランたちを見据えつつ、永夢は叫んだ。それは、

 

「変身!!」

 

 戦士へと至るための、トリガーワード。逆さに回したガシャットを左手に持ち替え、そのまま腰のゲーマドライバーのメインスロットへ。

 

≪ガシャット!≫

 

 プログラムやデータが詰め込まれた基板『RGサーキットボード』が音声と同時に挿入され、ドライバーが瞬時に読み込む。

 

 そして、作動。

 

 

 

≪Let’s GAME!≫

 

≪Meccha GAME!≫

 

≪Muccha GAME!≫

 

≪What’s Your NAME!?≫

 

 

 

 ハイテンションな歌と共に永夢の周りを囲むように現れた幾つものパネル。そのうちの正面の一枚を永夢はタッチ、Select! の文字と共にパネルがピンク色の光と共に永夢の体と一つとなる。

 

 やがて、そこに現れたのは、

 

 

 

≪I’m a KamenRider≫

 

 

 

 正義の戦士、仮面ライダーエグゼイド。

 

 

 

~ 第3話 Crossする運命! ~

 

 

 

「姿が、変わった……!?」

 

「おぉぉぉ……!」

 

 驚愕するレヴォルと何故か目を輝かせるエレナ。妙な音楽と光景と共に、その姿を全くの別物へと変えたことに、理解が追い付かない。

 

「……いや、でも……」

 

「あぁ……なんていうか、これは……」

 

 が、別の意味で驚愕している者もいる。アリシアとティムは、口の端を痙攣させ、目の前に立つ存在に奇異の目を向ける。

 

「コネクト……なのか?」

 

「わかりません……ですが」

 

 パーンとシェインもまた、この光景に驚愕している。それはレヴォルたちと同じようでいて、アリシアたちとも同じような感情だった。

 

 だが、6人とも一致している言葉がある。意図せずして、彼らは同時に心の中で叫んだ。

 

((なんだこれ……!?))

 

 マゼンタ色の逆立った髪のような頭部とゴーグルをつけたような鋭く大きな目に、胸に赤と青と黄色と緑の丸いボタンが十字の位置に配置された胸部プロテクターと白い鎧を纏った太い体。そして短い手足。

 

 見た目を言葉で表すならば、『ずんぐりむっくり』という表現がぴったりの、さながら玩具のような外見。音で表すならば、『どーん!』という擬音が出て来る。そんな明らかに鈍重そうにしか見えない、マスコットのような謎の生物が、レヴォルたちの前に立っていた。

 

 そんな彼らを他所に、永夢ことエグゼイド・アクションゲーマーレベル1は、ヴィランたちに右の拳を突き出した。

 

「さぁて! まずはレベル1で小手調べ(チュートリアル)だ!!」

 

 その叫びが、戦いの開始の狼煙となった。そして、

 

「はっ!」

 

 高く跳躍する。

 

「えぇ!? 高っ!?」

 

 見た目に反し、足の中に仕込まれた強化スプリングによって二階建ての家の窓に届く跳躍力を見せたエグゼイドに、アリシアが驚愕する。そのままエグゼイドはヴィランの集団の真ん中へ飛び込んでいった。

 

 傍から見たら自殺行為である。着地と同時に数体のヴィランを踏みつけたが、周りにいたヴィランが彼を袋叩きにしようと動く。が、

 

「おりゃぁ!」

 

 その場で回転、短くも頑強な腕で繰り出すダブルラリアットによって、小さな竜巻が発生。ヴィランは弾き飛ばされるかのように飛んでいく。さらにそのまま大きな拳を繰り出し、ヴィランを殴り飛ばしていく。重く、強い一撃は、それだけでヴィランにとっては致命傷となり、次々と消えていく。

 

 さらに跳躍し、次なるヴィランへ狙いを定める。そして、

 

「だぁ!」

 

 今度はその太い足から繰り出される飛び蹴りが、その衝撃によって蹴られたヴィランだけでなく周囲にいたヴィランをも数体まとめて消し去った。

 

 ヴィランたちも、一方的にやられてたまるかと総攻撃を始める。狙いは当然、突然現れたこの謎の生物エグゼイド。しかし、簡単にやられるはずもなく。

 

「ほら、こっちだこっち!」

 

 縦横無尽に飛び回る、あるいはその図体を丸めて地面を転がる、もしくは体の大きい特異型のヴィランの頭の上に乗って同士討ちを誘い、その隙に飛び上がって逃げる。時々繰り出すパンチやキックを浴びせ、まるで遊んでいるかのようにヴィランたちを翻弄していく。

 

 見た目こそふざけているが、その実、外見に反して身軽、かつ見た目相応の威力の高い肉弾戦を繰り出すエグゼイドに、ヴィランたちは成す術なく次々と屠られていく。

 

 しかし、ただやられてばかりではない。

 

「っと、うおっ!?」

 

 咄嗟に殺気を感じ、その場を飛び退く。エグゼイドがいた場所にいくも飛んでくる、先端が鋭く光る矢。それらが獲物を失い、次々と石畳に当たり、鈍い音をたてていく。

 

 見上げれば、宙を飛ぶ数体のヴィラン。蝶か蛾を彷彿とさせるその容貌を持つ連中の手には、鉄製の弓が握られている。

 

「あいつらか……よし!」

 

 普通の跳躍では届きそうもない。ならばと、エグゼイドは跳躍しつつチョコブロックを高い位置の着地点に召喚、飛び上がってはまた高い場所に召喚……それを繰り返していくことで、宙を舞う。

 

 やがてヴィランたちの眼前まで飛び上がってきたエグゼイドに、当のヴィランたちは言葉はなくとも焦っているのか、矢を番える手がもたついている。圧倒的アドバンテージを得ていたと思っていたら、急に謎の生物が飛び上がってくるものだから、普通の人間でも焦る。

 

「でやぁ!」

 

 そんな彼らの心情などお構いなし。エグゼイドは鈍器の如し重い拳を、手近のヴィランに叩きつけて地上に落とす。そのまま飛び上がってもう一匹を踏んづけて落とし、さらにまた飛んで蹴り飛ばす。その繰り返しで、空中にいたヴィランたちは一掃されていった。

 

「すごい……何なんだ彼は」

 

 地上からその様子を見守っていたレヴォルは、ただただその戦いぶりに圧倒される。距離の離れた相手には、こちらからも遠距離武器で戦うのがセオリーであったが、彼の場合は不思議な力でこちらから強引に近づいて叩き落すという、無謀とも豪快ともつかない戦い方でヴィランを次々と叩きのめしていっている。

 

 一体全体、何者なのか……レヴォルがそう思っていると、彼の背後から打撃音が響いた。

 

「ボサッとしてないで、あなたも戦いなさい。彼一人に任せてはいられません」

 

 振り返れば、酒呑童子のシェインがヴィランを踏みつけ、手甲で切り裂いていた。それを見て、レヴォルも慌てて剣を構え直す。まだヴィランは大勢いる。エグゼイドの戦いぶりに見惚れている場合ではなかった。

 

 が、意識はいまだエグゼイドの方へ向いている。それは恐らく、エレナたちだけではない、注意喚起をしたシェインも同様だろう。過去に類を見ない彼の戦い方に興味を示すのも無理からぬことだ。

 

 華麗に飛び跳ねるかのようにヴィランを蹴散らしていくエグゼイドの戦いも、やがて佳境に入って行く。その場で飛び上がったエグゼイドは、縦に連続回転。そして、

 

「どりゃあああああ!!」

 

 隕石の如く落下。回転エネルギーと落下エネルギーによって発生した衝撃波が、ヴィランを悉く吹き飛ばし、消滅へと追いやった。

 

「へへ、楽勝楽勝っと!」

 

 パンパンと手を叩く。この調子ならレベルアップをしなくとも……そう考えた時だった。

 

「危ない!」

 

「へ?」

 

 エレナの声がエグゼイドに届く。その意味を聞く前に、殺気。転がって回避。

 

「うぉぉっ!?」

 

 エグゼイドがいた地面が砕かれる。土煙を上げて視界が遮られた。

 

「ってぇ……なんだ!?」

 

 立ち上がり、土煙の向こう側へ注意を向ける。すると、土煙の向こう側で赤い光が二つ、ギラリと輝く。土煙が晴れると、その姿が露わになる。

 

「なんだ、あれ……?」

 

 敵ではあるが、明らか他のヴィランとは一線を画す。3m近くある巨大な図体、丸太のような大きな腕、そして全体的に鈍く輝いていることから、鋼鉄で出来ていることが伺える。

 

「あれは、メガ・ヴィラン!?」

 

 その正体を知るレヴォルから驚愕の声が上がる。他のヴィランよりも強力な個体、メガ・ヴィラン。それも目の前に立つのは、防御力がヴィランの中でもとりわけ高いゴーレム型だった。そんな彼に付き従うかのように、さらに雑魚ヴィランも増援に現れる。

 

「メガ……なるほど、要はボスキャラか」

 

 強さで言えば、これまで戦ってきたヴィランと違って圧倒的に上位に位置するヴィラン。しかし、エグゼイドは怯まない。寧ろ、その声色には喜色が浮かんでいる。

 

「ま、待ってくれ! さすがにあれを一人では……!」

 

 レヴォルが援護を買って出る。しかし、エグゼイドは短いその手を振って拒否の意を示した。

 

「大丈夫だ、アンタらは周りの敵を倒してってくれ」

 

「しかし……!」

 

 ヴィランの恐ろしさを知らないエグゼイドに、レヴォルは尚も詰め寄る。が、エグゼイドは軽く振り返り、その大きな顔をレヴォルへ向けた。

 

「なぁに、心配すんな!」

 

 そして、改めてメガ・ヴィランへと体を向ける。

 

小手調べ(チュートリアル)はもう終わりだ……こっから先は」

 

 ずんぐりとした大きな体。見ようによっては滑稽でしかないその姿。

 

 しかし、今のレヴォルにはその姿が、

 

「『天才ゲーマーM』の独壇場(プレイ)だ!!」

 

 異様なまでに、頼もしく見えてしまった。

 

「行くぜ! 大・変身!!」

 

 ビシッと腕を伸ばしてから、エグゼイドはゲーマドライバーのピンク色の『アクチュエーションレバー』に手をかけ、そして、

 

≪ガッチャーン! レベル・アーップ!!≫

 

 勢いよく開き、露わになった派手なグラフィティ調で書かれた『GAMER DRIVER』の文字と、ゲーマドライバーの中心にある発光パネル『ハイフラッシュインジケータ』。そこに映るパネルが立体化し、エグゼイドの眼前に飛び出してきた。

 

「はっ!」

 

 そのパネルが、エグゼイドの体を通過する。その瞬間、エグゼイドは飛び上がり、

 

 

 

≪マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクション・X!!≫

 

 

 

 これもまたハイテンションな歌と共に一際大きく輝き、エグゼイドの体が頭部を残し弾け飛ぶ。そして光が消えた時、()が現れる。

 

「これは……!?」

 

「な、なんと……」

 

 あまりに異様な光景に、レヴォルたちは絶句する。

 

 光と共に飛び上がったかと思えば、その姿を大きく変えて着地した彼。その姿は、ずんぐりとした姿から一転、スマートな人間と同じ頭身へ。頭部は先ほどの生物と同じ逆立った髪と鋭い目つきのゴーグルだったが、普通の人間と同じ大きさに。体を覆うマゼンタ色のボディスーツ、手足と肩を覆うプロテクター。背中にはあの生物の顔が外装の一部として貼りついている。先ほどの生物と共通しているのは、顔の形と胸部のプロテクター、そして腰のゲーマドライバー。

 

 膝を着いたままだったエグゼイドは立ち上がる。そして、メガ・ヴィランたちに向けて、掌を向けつつ指を指した。

 

その姿こそ、仮面ライダー。かつて世界を救ったヒーローにして、究極の救済の名を冠する人類の守り手。

 

 

 

「ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!!」

 

 

 

 仮面ライダーエグゼイド・アクションゲーマーレベル2が、異界の地に降り立った。

 

 

 

≪ガシャコンブレイカー!≫

 

 声と共に現れた、ピンクと緑のボタンが付いた白い片手用ハンマーがエグゼイドの周りを一周する。すかさず手に取り、愛用の武器、ガシャコンブレイカーを構える。

 

「はっ!」

 

 そして、一足飛びでヴィランたちへ飛び掛かる。その跳躍力は、先ほどの姿よりも上がっており、かつ軽やかな物へ。

 

「ふん!」

 

≪HIT!≫

 

 手近なヴィランに一発、ガシャコンブレイカーによる一撃を見舞う。その時、攻撃が当たった時に出るエフェクトが飛び出し、ヴィランは潰れて消える。

 

「でりゃ! はぁ!」

 

 続けざまにハンマーを振るう。全身を硬い鎧で覆っていたナイト・ヴィランでさえ、その見た目から想像できないハンマーの威力に成すすべなく、衝撃で吹き飛ばされる。

 

 一匹、二匹。次々と消えていくヴィラン。負けじと反撃するため、三体のビースト・ヴィランが大きな爪を手にエグゼイドを襲う。

 

「よっと!」

 

 が、その前にエグゼイドが身を低くし、水面蹴りを放つ。風をも切り裂く蹴りはヴィラン三体の足元をまとめて払い、その威力に宙を舞う。

 

 目にも留まらぬ勢いで立ち上がるエグゼイド。そしてハンマーを振りかぶり、

 

「そりゃぁ!」

 

≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫

 

 三体まとめてホームラン。他のヴィランをも巻き添えにぶっ飛ばす。

 

「次は……!」

 

 すかさずガシャコンブレイカーの『アタックラッシュパッド』のピンク色のAボタンを押す。すると、

 

≪ジャ・キーン!≫

 

 ハンマーから収納されていた、ピンク色の波うつような刃が音声と共に飛び出してきた。

 

 ガシャコンブレイカーをハンマーモードからブレードモードに切り替えたエグゼイドは、手の中でくるりと一回転。ヴィランへ飛び掛かる。

 

「はっ!」

 

≪HIT!≫

 

「せい!」

 

≪HIT!≫

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

≪HIT!!≫

 

一撃、二撃、三撃。連続して振るわれる刃は、その刃と同色の軌跡と共に、次々とヴィランを切り裂いていく。反撃しようにも、防がれるか、飛び上がって回避されるかで、ヴィランたちに成す術がない。

 

「そらそらそらそらぁ!!」

 

≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫≪HIT!≫

 

 次々と飛び出してくるHIT! の文字。その度にヴィランは煙となって消えていき、数は減らしていく。

 

 やがて一体のビースト・ヴィランを唐竹割りの要領でぶった切ると、周りにヴィランはいなくなっていた。残すは、一際異彩を放つ、そして凶悪な外見を持つメガ・ヴィランのみ。

 

「さぁて、ボスの攻略といきますか!」

 

 ジャンプし、ガシャコンブレイカーの刃をメガ・ヴィラン目掛けて重力をも乗せて叩きつける。硬質な感触と共にHIT! の文字が飛び出すも、メガ・ヴィランは怯まず、その大きな腕を振り回す。

 

「ほっ!」

 

 それを前方宙返りジャンプして回避、背面に回る際に縦に回転して切りつけるも、HIT! の文字が出るだけでダメージを受けた様子がない。

 

 それでも反撃の剛腕を物ともせずに何度も切りつける。しかし、それでも同じく有効打にかけているのがはっきりとわかった。

 

「かってぇ……!」

 

 何度も切り続けると、さすがに手が衝撃で痺れてくる。埒があかない。どうすればいいのか……エグゼイドが思考していた時、

 

「そいつに剣はあまり効かない! 打撃武器で倒すんだ!」

 

 少し離れた場所で雑魚ヴィランを丸盾で殴り飛ばすパーンが、エグゼイドにそう声をかけた。

 

 それを聞いてふと、エグゼイドの脳裏によぎったのは、先ほど相手をしていた鎧型のナイト・ヴィラン。奴を倒した時、手にしていたのはブレードモードのガシャコンブレイカーではなく、ハンマーモードだった。

 

 となると、この手の相手には……。

 

「なるほど、サンキュー!」

 

 そこまで考えが及んだ時、エグゼイドはパーンに礼を言ってからガシャコンブレイカーのモードトランサーを押した。

 

≪バ・コーン!≫

 

 すると、刃は再びハンマーの中に収納され、ハンマーモードへ戻る。

 

「そんでもって……!」

 

 エグゼイドは、メガ・ヴィランの真上にあるチョコブロック目掛け跳躍した。その際、メガ・ヴィランの頭部を踏みつけ、二段階ジャンプをし、そして、

 

「はっ!」

 

 ガシャコンブレイカーで、ブロックを破壊。四散するブロックの中から、赤く光るメダルのような物が回転しながら現れる。メダルには力こぶのような絵が描かれており、それはエグゼイドの中へ吸収されるように消えていった。

 

「アイテム、ゲットだぜ!」

 

 仮面ライダーを一時的に強化する『エナジーアイテム』のうちの一つを手に入れ、エグゼイドは着地した。

 

≪マッスル化!≫

 

 すると、音声と共にエグゼイドの体が一瞬、盛り上がる。それはすぐに消え、元の姿に戻った。

 

 頭を踏みつけられた怒りからか、メガ・ヴィランが腕を大きく振るい、拳をエグゼイド目掛けて叩きつけようと迫る。岩をも砕くその拳に当たれば、いかなエグゼイドといえどただではすまない。

 

「はぁぁぁぁ……!」

 

 だがエグゼイドは慌てず、そして避けようとしない。手にしたハンマーを振るい、拳を迎え撃つ。人間の体程の大きさのある拳と、片手用ハンマーでは、勝敗は見えている。にも関わらず、エグゼイドは後少しでぶち当たる拳目掛け、

 

「はぁっ!!」

 

 呼気と共にハンマーを叩きつけた。

 

 結果は一目瞭然、拳を叩きつけられたエグゼイドは吹き飛ばされ

 

「――――――っ!?」

 

 ることなく、『マッスル化』のエナジーアイテムによって強化されたエグゼイドの筋力に押し負け、寧ろメガ・ヴィランの拳が大きくへしゃげて弾き飛ばされる羽目となる。力負けするとは思わず、メガ・ヴィランは声にならないうめき声を上げた。

 

 さらにそこで終わらない。エグゼイドは振りかぶったハンマーのBボタンを二回押し、エネルギーを充填、手の中で回転させ、打撃面をメガ・ヴィランの胴体へ向け、そして、

 

「おぉりゃあああああ!!」

 

≪HIT!≫≪GREAT!≫

 

 気合一閃。力強く、ガシャコンブレイカーを叩きつける。ガシャコンブレイカーの『ハンマーエリミネイター』から発せられる超高圧の衝撃波、Bボタン連打によるエネルギー、さらにはエナジーアイテムによる筋力向上のエグゼイドのパワーが、メガ・ヴィランの硬い金属質の体を、凄まじい音と共に襲う!

 

「―――――――っ!!」

 

 大きく、そして数トンもするであろう巨体を持つメガ・ヴィラン。その体が衝撃を殺せずに浮き上がり、放物線を描いて飛んでいく。やがてその体は地響きと共に、数m先の石畳を砕き、倒れ伏した。

 

「おいおい、マジかよ……フッ飛ばしやがったよ、あのでかい図体を……」

 

 さすもの皮肉の一つでも飛ばそうとしたティムも、あまりの光景に絶句せざるを得ない。その間も槍でヴィランを迎え撃っているのを見るに、正気は失ってはいないのは流石というべきか。

 

 しかし、メガ・ヴィランの体力はまだ残っている。左腕はボロボロで、胸部には大きな凹みと亀裂が走るのを見る限り、もはや満身創痍といったところだが、それでも尚立ち上がろうとするその姿は、メガ・ヴィランの持つ生命力の高さを裏付けている。

 

 だが、もはやそれは最後の足掻きにもならない。何故ならば、

 

「フィニッシュは必殺技で決まりだ!」

 

 エグゼイドは決して油断せず、さりとて確実に仕留めるための前段階を進めていたからだ。

 

≪ガッシューン≫

 

 ゲーマドライバーからガシャットを抜き取る。そして、フッと息を吹きかけると、

 

≪ガシャット!≫

 

 腰の左側に装着された『キメワザホルダー』に装填した。そしてすかさず、スロットルのすぐ横のボタンを押す。

 

≪キメワザ!≫

 

 音声が鳴ると共に、エグゼイドの右足から炎のような、稲妻のようなエネルギーが迸り始める。

 

「はぁぁぁぁ……!」

 

 姿勢を低くし、エネルギーを充填していく。やがて十分エネルギーが溜まった感覚を確認し、再びホルダーのボタンに指を押し込んだ

 

「行くぜ!!」

 

 

 

≪MIGHTY CRITICAL STRIKE!!≫

 

 

 

 必殺技発動プロセスが完了。エグゼイドは飛び上がり、そして右足を突き出して飛び蹴りを起き上がりかけていたメガ・ヴィラン目掛けて放つ。

 

≪HIT!≫

 

 強力なエネルギーを放つ右足は、高速で飛ぶ投げ槍の如くメガ・ヴィランに突き刺さった。

 

≪HIT!≫≪HIT!≫

 

 さらに回し蹴り、縦回転蹴りを繰り出し、

 

≪HIT!≫≪GREAT!≫

 

 直蹴り、後方宙返り回転蹴り上げを放ち、

 

 

「おらぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

≪HIT!≫≪PERFECT!!≫

 

 

 超威力の二段蹴りをお見舞いした。

 

 一発一発が岩をも砕く超強力な連続キック。それら全てを一か所、亀裂目掛けて叩き込まれたメガ・ヴィランは後退る。

 

「―――――っ! ―――――っ!! ――――――!!」

 

 怒涛の蹴りと共に放たれた高エネルギーが亀裂を通し、メガ・ヴィランの全身へ行き渡る。それは炎のように亀裂から、さらには関節部から、そして目から吹き上がり、メガ・ヴィランはもがき苦しみ、腕を振り回して抵抗を試みる。

 

 しかし、やがてそれは、

 

 

 

≪会心の一発!!≫

 

 

 

 音声と共に背を向けて着地、残心を決めるエグゼイドの背後で、エネルギーに耐えきれず内側から暴発、大爆発を起こし、鋼鉄の体を散らしていった。

 

 

 




書き溜めが終わりました。これからはのんびり更新へ移ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。